広報に関連する基礎知識【第12回】報道対応のいま

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


前号で、マス・メディアの経営環境が厳しくなっていること、この影響で記事(コンテンツ)の差別化が進んでいることをご紹介しました。具体的には、動向解説を含めた物理的に大きな記事が増えている、あるいは社説以外の記事でも論調が入るようになってきたとお伝えしました。今号は、この変化に対応する広報活動のポイントをご紹介します。

まとめ記事を狙う

新聞は、紙面の大半が大きな記事で埋まるので、記事の本数が減っています。記者から見れば、1本のプレスリリースや1回の記者会見等に対して1本の記事を書くだけではなく、複数社のプレスリリースや記者会見を踏まえて、1本の記事を書く(まとめ記事と言われます)ことが必要になっています。従来はスクープをとる記者が評価されていましたが、分かりやすく情報価値がある大きな記事を書ける「紙面を埋められる記者」も重宝されるようになっているのです。これを企業側から見ると、プレスリリースを出しても記事が載る確率は低下していると言えます。

TVに関しては、報道番組をじっとみると、そもそも「ストレートニュース」と言われる事実情報のみを報じるニュースが極めて少ないことに気が付くことでしょう。ぜひ報道番組を見ながら、特集や企画コーナーなどを除き、アナウンサーが原稿を読みながら伝えているニュースの本数を数えてみてください。多い日でも、新聞の1面・総合面・政治面・国際面・経済面・社会面のそれぞれから1~2本ずつでしょう。報道番組は、放送時間の大半を特集や企画などが占めています。もともと新聞で言う「大きな記事」が多いのです。

 このように報道対応では、記者が複数箇所を取材して大きな記事を書くという前提でアプローチすることが必要になっています。自社の情報だけをプレスリリースで発信するのではなく、他社の動向を含めて「企画」として記者に提案をすることが大切です。

イメージが沸きにくいと思いますので、例示します。近年は「AI」や「働き方改革」が話題でした。たとえば、自社でAIを使って業務効率化を実現できるサービスを開発した、それをマスコミで取り上げて欲しいと考えているとします。この場合、一般的には「AIを使って働き方改革を実現するサービスの提供開始~社内実証では業務効率が●%アップ」などとしてプレスリリースをします。時流(AI、働き方改革)や実績(業務効率●%アップ)といった要素をフックにして記事化を狙います。ところが、記事やニュースの本数は少ないので、取り上げてもらうハードルは高いです。

そこで、「企画」を提案します。自社の情報だけでなく、同業他社の似たサービスをまとめて「AIを使った業務効率化のサービスが続々と上市~●年には●億円規模の市場に」という企画、あるいは「業務効率化」を核にしながら、AI(自社の情報)、新しい研修(他社の情報)、新しい人事制度(他社の情報)などをパッケージにして提案します。自社が単体で乗る記事を目指すのではなく、自社が報道の一部になる前提でアプローチをします。 こうした企画提案のアプローチは、広報専門会社(PR会社)の一部が得意としていますが、企業の広報活動でもぜひ実践しましょう。記者は短期間で担当が変わることが多いので基本は「素人」。複数の取材候補先を例示してあげながら、最終的にどのような記事に仕上がるのかイメージを沸かせてあげることが大切です。なによりも、記者からすれば、一方的に情報提供してくる押し売り型の広報よりも、記者と同じ目線で考えて情報提供してくれる提案型の広報のことを信頼します。信頼の積み重ねがあってはじめて、報道の機会を増やしていくことができます。

基本を徹底する

企画提案のアプローチをするためには、「新聞をよく読む、TVをよく見る」ことがもっとも大切です。報道対応の仕事の質の良否は、この作業の積み重ねに左右されます。仕事柄、多くの企業・大学・自治体の広報担当者と会いますが、新聞をまったく読まない、TVニュースを見ない人が増えています。野球選手がプロになっても毎日「素振り」を繰り返すように、新聞を読む・TVを見るという行為は広報担当者にとって徹底すべき基本です。

 もちろん、何も考えずに新聞をめくり、TVのニュースを眺めるだけでは意味がありません。新聞で言えば、その日の新聞に載っている情報がそもそも何か(新聞にはどのような記事が載っているのか)、記事の扱い(なぜこの記事がこれだけ大きい・小さい扱いなのか、各面のアタマ記事なのか)、記者の署名の有無、新聞の読み比べ(なぜA新聞には載っている記事がB新聞では出ていないのか)などはもちろん、最近よく名前が出ている企業があれば、その会社のHPを見てどのようなプレスリリースを出しているのかを確認したり、ニュース検索をして報道内容を確認したりしながら、広報がどのようなアプローチをしているのかを考えてみましょう。動向をまとめた記事があれば、企画提案のアプローチを考えるヒントとして活用しましょう。自社のビジネスに関わる官公庁の調査報告書や、市場調査会社のレポートなどがあれば、ストックをしておきましょう。

 TVで言えば、報道番組の大半を占める特集や企画の内容・構成を読み解きましょう。多くはテーマを設定し、複数の企業を取材したりしています。テーマ自体の切り口を読み解いたり、記者がなぜその企業に取材にいったのかを考えたりしましょう。  こうした「素振り」があってはじめて、報道の変化に対応できる広報活動を実現できます。報道が変わっているからこそ、プレスリリースを出すだけの押し売りスタイルで満足せず、記者と同じ目線で企画を考えましょう。

広報に関連する基礎知識【第11回】マス・メディアの変化

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


今号と次号では、総務の引き出しのひとつとして、報道対応について取り上げます。今号でマス・メディアの変化、次号でその変化に対応する広報活動のポイントをご紹介します。

マス・メディアってなに?

そもそもマス・メディアとは、なんでしょうか。「マス」は大衆や集団という意味です。メディアは「媒体」ですね。この2つをくっつけた「マス・メディア」とは、マスを対象にコミュニケーションする媒体のことです。端的に言えば広告や広報の世界で「4マス」と言われるTV・ラジオ・新聞・雑誌の4つ。最近はこれに「ネット」が加わり、4マス+ネットをマス・メディアと言うことが多いです。 似たような言葉で「マスコミ」があります。これは「マス・コミュニケーション」を略したものです。「マス・コミュニケーション」はマス・メディアを用いた情報伝達のこと。実際には、「マスコミ」は、「マス・メディアの報道活動」を指すニュアンスで使われることが多いです。

マス・メディアの影響力低下

近年、皆さんは「マス・メディア」の影響力が低下していると見聞きしませんか。これは、①4マスのリーチが減っていること、②受信側がマス・メディアの情報に接しても動かなくなったことーの2つの変化から影響力が落ちたと言われているものです。

リーチの減少に関しては、たとえば新聞の総発行部数(日本新聞協会加盟社)は2000年に約5370万部ありましたが、2017年には約4212万部。1000万部以上減少しています。 受信側が動かなくなったことについては、広報の実務担当者だったときの経験談を例にします。2000年代後半までは新聞でイベント情報等が取り上げられると、午前中は電話が殺到していました。ところが、2010年代に入った頃からこうした反響はなくなりました。広報の効果測定として、年に数回、媒体読者に対してインターネット調査で「記事を読んだか」「記事を読んでHPにアクセスしたか」等を聞いていました。記事を読んだという人の割合に大きな変化はなかったのですが、「HPにアクセスした」等の動きは徐々に減っていました。情報は届いているものの動かなくなったということは、私の経験則で言えば間違いがないことです。

マスコミの変化

部数の減少と受信側が動かなくなるという2つの課題に直面し、マス・メディアを持つ各社は収支が悪化しています。販売収入はもちろんのこと、広告収入が減るためです。

この変化は「マスコミ」(報道)にも影響しています。新聞を題材にして考えてみましょう。

購読が減り続ける新聞各社は、読者の「囲い込み」に必死になっています。これは販売競争だけではなく、記事等のコンテンツや紙面づくりなど報道活動にも派生しています。ジャーナリズムとしての公平性・客観性の担保は必要ですが、営利企業として生き抜くために、新聞の商品である「コンテンツ」の差別化が進んでいます。

新聞各社は、継続して購読してもらえるように、解説記事を増やしたり、記事そのものに主張を入れて読者ターゲットに響きやすくしたり、記事そのものに特色を出すようになっています。元々、新聞は「社説」の論調で保守系などの色はありました。論調の持たせ方が社説にとどまらなくなっています。 皆さんは、昔の新聞は小さな文字でたくさんの記事が載っていたように記憶していませんか。事実だけを端的に伝える報道を「ストレートニュース」と言いますが、こうした記事が減っています。一方で、ひとつのテーマを詳しく解説した記事や、数社に取材して動向をまとめた「まとめ記事」など、物理的に大きな記事が増えています。文字サイズの拡大に伴って載せられる記事の本数が減っているうえ、コンテンツの差別化のために記事そのものが大きくなっている。こうした変化が起きています。

マスコミの質が低下?

最近は「マスコミ」の質の低下が言われます。ただし、数十年前の新聞を読むと、社説は一般論しか書いていないような浅い内容、記事も企業の発表文をそのまま載せたようなものばかりです。落ち着いて今昔を比較すると、コンテンツの「質」が落ちているとは思えません。ぜひ皆さんも図書館に行く機会があったら、数十年前の新聞の縮刷版をめくってみてください。

既述のとおり、新聞に掲載される記事の量が減ったことは確かです。ただし、各紙のWeb版を含めて考えると記事やニュースなどコンテンツの「量」は増えています。

「取材」に関しても、確かに一部芸能報道で一般常識からズレた盗み撮りのような報道はありますが、2000年代初頭と比較して集団で過熱してエスカレートする取材は少なくなりました。業界内でのルールが制定され、過熱した取材が発生した場合は報道各社が自発的に節度ある取材をするようになっています。

つまり、質が低下しているとは言い切れません。昔は、記事は事実の伝達が中心だったので読者が良し悪しを評価する要素がなかった。記事に特色が加わるようになって、読者が評価する要素が生まれた。さらにポータルサイトのニュースのコメント欄で、記事そのものを評価するコメントを目にするようになった。こうした変化で、質が低下しているような印象を持つことが増えたと言えるでしょう。 マス・メディアが生き抜くためにコンテンツに特色を出すようになったいま、どのようにマスコミと付き合っていけば良いのか、実務的なポイントは次回ご紹介します。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-9 プレスリリースの基本

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第9回プレスリリースの基本

今回から、実務に近いお話をご紹介していきます。今回は、対外広報活動の基本中の基本である「プレスリリース」です。


プレスリリースの原理原則

プレスリリースで一番意識しなければいけない「原理原則」はなんでしょうか。

文字にすると当たり前のことのように見えてしまいますが、「記者が取材・報道を検討するための資料」だということです。
もう少し企業側の目線で表現すると「記者に取材・報道を検討してもらうための提案書」です。この原理原則を意識できれば、プレスリリースの成功確率は格段に良くなります。

プレスリリースは、得てして会社が言いたいこと・取り上げて欲しいことを発信するものになりがちです。
業務・活動の定義としては間違っていませんが、記者が取材・報道する価値があると思わない限りは、何の意味も持ち得ないものです。

最近では、企業サイトで、プレスリリースをそのまま発信することができます。実はここに思わぬ落とし穴があります。


プレスリリースとニュースリリースは違う

ホームページは制約なく情報発信できるので、多くの企業はプレスリリースとニュースリリースを同じものとして扱い、これを掲載しています。
一見すると作業効率が良いようですが、かえって成果が出にくく生産性を悪化させている場合もあります。

ホームページに載せるリリースは、自社のニュースをお知らせするものです。
文字通り「ニュースリリース」として社会やお客様に何でも発信できます。

一方、「プレスリリース」は記者のための提案書。必ずしも「ニュースリリース」と同じにする必要はありませんし、ホームページに載せる必要もありません。
記者に対する提案書ですので、営業活動の提案書と同じように、外部に広く一律的に公開する情報とは性質が異なるのです。

もちろん、最近では記者もホームページから情報を集めますので、必ずプレスリリースとニュースリリースを分けて、プレスリリースはホームページに載せるべきではないという主張ではありません。
ここでは、原理原則を再確認できるよう、2つの違いを際立たせてご説明しています。


段ボール3箱分の提案書

記者が取材・報道したいことは、会社が言いたい・取り上げて欲しいことと異なります。
ある全国紙の経済部長曰く、経済部には毎日「段ボール3箱分」のプレスリリースが届くそうです。見ないで捨てる記者もいるようですが、届いたものはすべて「目だけは通す」記者がほとんど。
段ボール3箱の中からあなたの会社の情報を目に留めてもらうためには、自分たちが発信したいことを自分たち目線でまとめている状態では難しいですね。

幸い、プレスリリースが記者の目にとまり、記者が取材してくれたとしましょう。
記者は取材しても記事すら書かないこともありますし、記事を書いたとしても、たくさんの記者が毎日記事を書いていますので、記事がそのまま載るとは限りません。
記者が書いた記事を全部そのまま載せようとすると、新聞は毎日3倍のページ数になると言います。
記者が書いた記事も、情報価値判断の競争を勝ち抜いて、できるだけ多くの記事を載せるために優先順位が下がる説明や文章が削られて、情報価値が極限まで高められた状態になっているのです。テレビの報道も同じで、テレビの場合は報道番組自体が少なく、さらに「ストレートニュース」と言われる「ニュース」はもっと少ないです。


とにかく新聞・テレビを研究する

プレスリリースの書き方自体は、色々な広報講座がありますし、本もたくさん出ています。
A4一枚にまとめて、タイトルがキャッチーで、概要説明があって、問い合わせ先を明記し、写真を使うべき、というテンプレートの重要性は否定しません。
記者にとって必要な情報・項目はちゃんと載せるべき。それらの学習は別に譲り、ここではより基本的な考え方と作業をご紹介します。

これらの標準フォーマットは、一律に広く発信する際に拠り所にすべきものです。
記者にとっては、必ずしも「標準的プレスリリース」でなくても構いません。
私が広報実務をしていた時、記者の反応が一番良かったのは、リリースした情報をどういう切り口で扱えば情報価値が高まるのかを助言したメモ。
そのネタの業界内での新しさ・珍しさは具体的にどのようなところにあるのか、業界内外での他社動向、記事化するなら単発記事が良いのか他社動向も取材したまとめ記事にした方が良いのか、読者目線ではどのようなまとめ記事だと価値があるのか等々、記者のためにメモ書きを作成していました。

たとえば、あなたが営業される時、営業担当者が自社の良いところばかりを主張して、こちらのニーズも悩みも確認せずに一方的に押し売りをされたら、その会社自体の印象が悪くなりますよね?
記者にとって意味のないプレスリリースは、押し売り営業と一緒。
プレスリリースは、記者が取材・報道を検討するための資料ですので、最低限、どの媒体・番組のどの欄・コーナーでどのような切り口なら取材・報道される可能性があるのかを、ちゃんと研究したうえで、作成に取りかかるべきです。

プレスリリースは、出したい情報を標準的なテンプレートに沿って幅広に発信するという押し売り営業ではなく、媒体を研究し、取材・報道してくれそうな「切り口」を見出したうえで、記者に取材・報道を提案するものです。
兼任広報だからこそ、1回のプレスリリースの成功確率を上げたい。変にラクをしようとして中途半端なニュースリリース兼プレスリリースを出しても、時間も労力もムダになってしまいます。

毎日の新聞・テレビの見方を変えて、なぜこのネタが取り上げられているのかを考える媒体研究をすれば、提案の「切り口」はたくさん見えてきます。単なる情報開示や情報発信とプレスリリースは同義ではありません。原理原則としてこの考え方を起点にできれば、仮に同じ作業をしていてもプレスリリースの掲載確率は必ず上がります。

 

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●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

特徴(他とどう違うの?)

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