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広報スキルアップ講座 文章力③

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報で必要な文章力~翻訳段階

広報業務で必要な文章力は、単に文章の表現技法を磨けばよいものではありません。大前提として情報を受信する「インプット」の段階があります。前回、この段階で必要となる受信スキル向上のために、新聞の1面アタマ記事を使ったトレーニング方法をご紹介しました。今号では、「スループット」の段階を確認していきましょう。

翻訳作業の必要性(伝わるとは?)

広報の世界では、オウンドメディアという言葉が使われ出した十年ほど前に、「伝える」と「伝わる」という2つの言葉の使い分けが流行りました。

「伝える」は、自社が発信したいことをまるで一方通行のように発信すること。読み手に伝わったのかどうかを考慮できていない状態を指しています。

人間に例えてみましょう。大声で「自分は気遣いができることが魅力です!」と叫んでいるような人がいたとします。そもそも必死すぎて余裕がなく魅力的ではないですが、内容面で言えば「どのような気遣いを指しているのか」が読み手にとっては分かりません。気遣いができるという評価自体も主観なので読み手は到底、納得できませんね。

一方の「伝わる」。読み手に情報がしっかりと伝わった状態を指します。書き手と読み手に共通認識ができた状態です。

先ほどの必死なアピール例でいえば、まず、「気遣いができる」が何を指しているのか分かりませんでした。気遣いと言った場合に、悩んでいる人に対して相手がアドバイスを受け止めやすいように自分の経験談を通じて助言をすることが得意だと言いたいのか、逆に相手が聞かれたくないようなミスをした場合にはあえて声をかけないようにしてあげたりすることをできることを言いたいのか。「気遣い」の要素を明示しなければ、読み手と共通認識はできません。結果的に、読み手に気遣いがあるとは思ってもらえないのです。こうした翻訳作業が必要です。

口頭での会話と文章の違いはこの翻訳作業にあると言っても過言ではありません。会話の場面であれば、「私は気遣いができます!」とアピールしたとしても、相手が「どういうこと?」「たとえば?」などと聞いて会話のキャッチボールができます。情報の要素が徐々に集まるので、次第に共通認識ができあがります。

ところが、文章ではこうしたキャッチボールはできません。読み手に伝わるようにするためには、情報の要素を的確に捉えて言葉にしなければいけないのです。このような「アタマの中にある情報を、他人に伝えるために書き言葉に翻訳する作業」が大切なのです。これが文章作成のスループットです。

翻訳力の向上方法

では、翻訳力の向上方法をご紹介しましょう。翻訳力を上げるためには、大きく2つのアプローチが有効です。

まずは「①分析的に表現する」です。先ほどの「気遣い」の例がちょうど良いでしょう。気遣いという言葉には多様な要素が含まれています。気遣いの要素を分解したうえで、書き手が読み手に伝えたい「気遣い」が何なのかを明確にしましょう。ここでは、気遣いの要素を色々と考えたうえで、最終的に「悩んでいる人に対して相手がアドバイスを受け止めやすいように自分の経験談を通じて助言をすることが得意」だと伝えたい、ことにしましょう。

つぎに「②客観的に表現する」です。先ほどの「悩んでいる人に対して相手がアドバイスを受け止めやすいように自分の経験談を通じて助言をすることが得意」は、単に自分が得意だと思っているだけかもしれませんよね。周りからは気遣いがない人だと評価されているかもしれません(必死な自己アピールをしてしまう人だけにその可能性もあります)。客観性を担保するためには、たとえば他人から気遣いがあると言われた経験がある、それが複数人である、などの情報を付加します。たとえば、「仲の良い同僚や友人から過去に3~4回、気遣いができる、アドバイスが押しつけがましくなくて良いと言われたことがあります。他人に相談されたときに、自分なりに意識していることは、自分自身の似たような経験談をしながら、自分の教訓を伝えることです」という文章になっていれば、気遣いができる魅力的な人だと伝わりますね。書き手と読み手の間で共通認識をつくるためには、1つの要素で完結させるのではなく、客観性を担保しながら情報を付加して「パッケージ」を創りあげるのです。

繰り返しになりますが、広報における文章力とは、文章作成上のテクニックだけでは足りません。アタマの中のことは、言葉にしない限り誰にも伝わりません。会社や商品の魅力を伝えるためには、広報担当者が考え抜いて書き言葉に翻訳しなければいけません。受信段階で捉えた情報価値を、相手に伝わるように加工することが広報担当者の大事な役割です。

経験則で言えば、広報のうまい・へたは、広報担当者がこの翻訳作業に向き合っているかどうかに集約されます。広報がうまくない会社は、広報担当者がこの翻訳作業を避けているか、外部に丸投げしている場合が多いです。あなたの会社の魅力(アタマの中のこと)は、自分たちで書き言葉にするしかありません。ぜひチャレンジしてみてください。

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