広報に関連する基礎知識【第7回】CI(コーポレート・アイデンティティ)

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


総務では、社用車、看板、ユニフォームなど施設や備品を管理していることでしょう。その際に、「ロゴ」を適切に使用するように気を遣っているはずです。一般的にロゴは「CI」と言われますが、総務の引き出しのひとつとして、このCIについて知っておきましょう。


CI=ロゴは間違い?

CIとは「コーポレート・アイデンティティ」の略語です。読んで字のごとく、企業のアイデンティティです。

アイデンティティとは、端的にいえば「自分は何者か」「他との違い」という自己認識です。個人単位でのアイデンティティもあれば、国民としてのアイデンティティもあります。企業(コーポレート)という組織に対してアイデンティティの概念を当てはめたものが「コーポレート・アイデンティティ」です。

一般的に、CIはロゴのことを指します。ところが、ロゴはCIの一部でしかありません。まず、CIの概念を正しく理解しましょう。

CIは、図表1のとおり、「MI」「VI」「BI」の3つで構成されます。それぞれ見ていきましょう。

図表1 CIの構成

MIは、マインド・アイデンティティの略です。企業としての信念と言えるでしょう。経営理念や経営ビジョン、ブランドコンセプトなどがこれに相当します。

VIは、ビジュアル・アイデンティティ。これが一般的にCIと言われているものです。企業の信念をビジュアル化したものです。ロゴやロゴタイプ(文字のデザイン)、社用車やユニフォームなどのデザインルールなど、馴染みがあることでしょう。 BIは、ビヘイビア・アイデンティティと言います。社員の言動、接遇、行動規範など。ビジュアルデザイン以外の対面コミュニケーションの要素です。


ロゴは、会社として大切にしていること(MI)を一瞬で伝えるために、シンボル化したものです。おそらく皆さまの会社のロゴには「このロゴでは、先進性を表しています」など説明があるはずです。会社としての大切な想いをシンボルにしているからこそ、一般的にロゴは厳しい使用ルールがあります。こうした「CIルール」(正しくはVIルール)は厳格なので、社員にとっては面倒くさいと感じがち。MIを感じるもののはずが、単なるルールとして受け止められている場合があります。読者の皆さんの会社ではいかがですか?

いまでは誰もがワープロソフトやプレゼンテーションソフトにロゴのデータをはることができます。社員がロゴの大きさを適当に変えてしまったり、形を変えてしまったりすることがよくあります。正しくないことですが、これが現実でしょう。社員にとって、MIとVIが結びついていないのです。

CIは本来、社員に対してロゴの使用ルールの徹底を求めるだけのものではありません。ロゴの背景にある「MI」の再確認や「BI」の実践を求める必要があります。この意味では、大半の会社はCIのうちのごく一部しか意識できていません。残念ながら、これではコーポレート・アイデンティティの確立につながりにくいです。


CIの再考

CIは1990年代初頭にブームになりました。ブームの当初は、組織文化の革新やコミュニケーション戦略全体の見直しなど、「CI」の本来的な意味に沿って重要性が指摘されCI概念が拡がっていきました。民間企業だけでなく、自治体、大学など幅広くCIの考え方が普及・浸透しました。

ところが、CIの受託は広告会社やデザイン会社を中心に進みました。このことも含めて、発注側にとってアウトプットが目に見えやすい「ロゴ」に、CI概念が矮小化されていったという経緯があります。 近年、経営理念の重要性がたびたび指摘されています。これはまさしく「MI」です。また、経営理念の一環としての行動規範(バリュー)にも注目が集まっています。あるいは、お客さまに対するブランド体験のひとつとして、接客・接遇の重要性が増しています。これはまさしく「BI」です。この意味では、実はCIブームから30年あまりを経て、ようやくCIの3要素が三位一体となってきていると言えるでしょう。


ブランディングの出発点はCI

CIは「アイデンティティ」ですので、「他社との違い」を明確にするものです。前号までに「ブランド」について解説しましたが、ブランドと同じように「差別化」を意味します。そこで、ブランドとCIの概念を簡単に整理しておきましょう(図表2)。 ブランドはお客さまの頭の中にあるものです。この意味で、ブランドの主体は「お客さま」です。一方、CIの主体は「企業」です。ブランドとCIは、主体は異なりますが、「自社を差別化するもの」という意味では共通しています。ところが、自分たちで他社との違いを自己認識できていない場合、お客さまに他社との違いをどう感じていただくかを明確にできません。「ブランディング」の出発点は常にCIなのです。

図表2 ブランドとCIの関係

広報に関連する基礎知識【第6回】ブランディングのポイント

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


前回、「ブランド」について解説しました。ブランドはお客さまの頭の中にある脳内シェアのようなもの。このシェアが高ければ、差別化や競争優位につながります。ところが、お客さまが何を頭の中で思い浮かべるかはお客さま次第。お客さまによって、自社やサービスについて思い浮かべる内容がバラバラだと、差別化や競争優位につながりにくくなってしまいます。そこで、たくさんのお客さまに、自社、事業、サービスのことを同じように連想していただくための取り組みが「ブランディング」です。


ブランディングは広告宣伝だけ?

ブランディングという言葉を聞いたとき、その方法として何が浮かびますか。おそらく、「広告・宣伝」が浮かぶ人が多いことでしょう。確かに、広告・宣伝はお客さまとの接点になりやすいです。広告枠を買って自分たちがお客さまに発信したいことを自由に表現できる(もちろん制約はあります)。お客さまとの接点を作りやすい、お客さまの頭の中に入っていきやすいことは確かです。

 ところが、マスメディアの影響力が徐々に落ちています。新聞の購読数は下落傾向が続いており、閲読時間も年代層によっては減るなど「読まれ方」が変化しています。テレビについても、「テレビの情報だけを鵜呑みにして人が動く」という現象は昔ほど目立たなくなりました。お客さまは、マスメディアで触れた情報について詳しく知りたいとインターネットで調べたり、自分の興味・関心に応じた検索から情報を得たり、友人・知人の口コミから新たな情報を得たりしています。インターネット上の広告も、閲覧者が多いサイトへのバナー掲出から、ユーザーごとの興味関心に応じた広告を表示させる技術革新が進んでいます。「マス」ではなく「パーソナル」な媒体の存在感が増しています。

広告・宣伝はブランディングの基本施策ではありつつも、あくまでも接点のひとつです。リーチできる量は依然として他メディアより圧倒的に多いので「知ってもらう」という部分では有効ですが、従来ほど「動かす」「脳内シェアを上げる」力は総じて弱まっています。広告・宣伝だけでブランディングを完結できる時代ではないのです。


社員への浸透が大事

ブランドを大切にしている企業は、店舗の空間デザインなどハードを強く意識するだけでなく、接客・接遇などソフトもブランディング施策と捉えます。例えば入店時の声かけまで落とし込みます。「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」や「ようこそ」の方が良いのではないか。一つ一つの接点を大切にして、お客さまの脳内シェアを上げていこうとしています。このように、メディアの変化を受けて、お客さまとのあらゆる接点で共通のブランド体験ができるようにする考え方やアプローチが拡がっています。

生産財取引などBtoB企業でも、形は違うとしても同じこと。HPでの情報発信、非財務情報の開示、お客さまに対する提供資料の品質、営業アプローチやフォローの仕方、お取引先さまへの対応姿勢など、あらゆる接点で「〇〇な会社だ」という認識ができていきます。消費財取引よりも生産財取引の方が人的販売の比重が高い(図表)ので、消費財よりも社員の言動など「ソフト」が大切と言えます。

認知や購買などい影響を与える活動の比重

ひとつ興味深い調査結果をご紹介しましょう。エデルマン・ジャパンが毎年発表している「トラストバロメーター」という調査では、「学者」、企業の「CEO」、「ジャーナリスト」など各スポークスパーソンの信頼度を尋ねています。近年、信頼度がもっとも高いのは「企業内技術者」。「学者」や「CEO」よりも信頼されているのです。2017年は、「CEO」よりも「一般社員」の信頼度が高いという結果が出ていました。経営トップが自分たちのブランドに信念を持ち、メッセージを発信することは大切です。ところが世間は、時にはCEOや学者よりも、技術者や一般社員の言葉を信じることがあるのです。もちろん、すべての情報の発信主体を企業内技術者や一般社員に置き換えるべきだという話ではありません。お伝えしたいことは、消費財・生産財を問わず(むしろ生産財の方が)お客さまが頭の中でブランドを形作っていくとき、社員の言動が重要な接点になっているという事実です。 その意味で、社員を対象にしたブランディングが不可欠です。この10年ほど、「企業理念」「Way」「バリュー(行動規範)」の重要性が色々な学者・専門家や経営者から発せられていますが、社員に対するブランド浸透とほぼ同じ考え方だと捉えて良いでしょう。


社員に対するブランドサーベイ

前回ご紹介したようにブランドというのはお客さまの頭の中にあるものです。このため、ブランドに関する調査をする時、一般的にはお客さまを対象にします。自社について自由発想で答えていただいたり、「技術力がある」などイメージ項目を列記して、自分が持っているイメージと合致するかお尋ねしたりします。こうしたお客さまのイメージとあわせて、社員に意識調査を実施しましょう。社員の働きはすべてお客さまとの接点につながります。社員が「うちの会社は外面ばかり良い」と感じるようなブランディングは、ブランディングとは言えないのです。

広報に関連する基礎知識【第5回】ブランドってなに?

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


ブランドは非常に分かりにくい概念です。ところが「ブランド」という便利な言葉はビジネスの現場でよく使われており、広報を兼任する、あるいは株主関係管理や危機管理を担当する総務担当者にとっては、しばしば耳にすることでしょう。そこで総務の引き出しのひとつとして、「ブランド」を解説します。


ブランドがある・ないって?

御社では、「ウチの会社にはブランド力がない」といった会話をする・聞くことはありませんか。情報発信がうまくないという問題意識から、社内でこのような声が出ることがあります。「ブランド」とは非常に便利な言葉ですが、いったい何なのでしょうか。

ブランドは、家畜に押した焼き印(生産元を識別するためのもの)が語源です。では、識別する人は誰でしょうか?

識別する人は、ブランディングのターゲットによって異なりますが、多くの場合は「お客さま」です。お客さまが「どのような特徴をもった会社・製品・サービスなのか」を頭の中に想い描くことができるか(識別できるか)が、ブランドのあり・なしを意味します。

たとえば、私は、企業・自治体・研究機関等を訪問して広報活動のアドバイスをしています。複数社でお付き合いをいただいていますので、一日に予定が何件か入ります。どうしても数時間単位で予定が空いてしまうことがあります。このようなときに、私は「充電しながらパソコンを使いたい」「長居したい」「ご訪問先に近い場所にいたい」など、状況に応じて空き時間を過ごすお店を決めます(もちろん、フラッとお店に入ることもあります)。私が「長居したい」状況だったとき、私の頭の中で「長居できるお店」が具体的に浮かぶ場合は、そのお店にブランドがあると言えます。

ところが、私が「長居ができる」と思っていたお店を利用しているとき、店員さんに「お客さま。ご注文から1時間を過ぎており、お待ちのお客さまがいらっしゃいますので・・・」と言われてしまったらどうでしょうか。私が勝手に「長居ができる」と思っていただけなのに、私の中で勝手にお店に対するブランドが失われてしまいます。

このように、ブランドはお客さまの頭の中にあり、目に見えないものです。お客さまが頭の中に創りあげていくものなので、なんともあいまい。概念自体も理解が進みにくいものなのです。


ブランド力って?

お客さまが頭に想い描くことができるすべてのことを「ブランド連想」と言います。このブランド連想と、おしゃれ、かっこいい、かわいい、歴史・伝統がある、などの「ブランドイメージ」を区別できると、ブランドの概念理解が進むはずです。

たとえばディズニーランド。形容詞と結びつけると「楽しい」と表現する方が多いのではないでしょうか。これはブランドイメージです。

ところが、ディズニーランドと聞いたときに、みなさんは「楽しい」という「文字」が頭の中に浮かんでいるわけではないはずです。まるで自分がディズニーランドにいるかのように想像したり、自分が体験したアトラクションを思い出したりしているはずです。あるいはミッキーが手を振っている姿や夜のパレードのきらびやかな様子が浮かぶ人もいるでしょう。こうした頭の中で想い描いているものすべてがブランド連想です。お客さまが多くのことを連想できるほどブランド「力」があると言えます(いわば脳内シェアです)。


ブランドがあると何がよい?

では、ブランドやブランド力があると何が良いのでしょうか。端的にいえば「競争力」が上がります。

お客さまの脳内シェアが高ければ高いほど、お客さまが商品や発注先を選ぶときに優位になります。他の製品・サービスとの違いをお客さま自身がはっきりと認識できるからです。いわゆる「差別化」です。また、お客さまは、頭の中で思い描いていたことを実際に享受できたときに「信頼」をします。信頼があれば、繰り返し消費いただけるようになります。こうした「差別化」と「信頼」が競争力を強固なものにしていきます。

生産財取引や企業間取引でも同じことです。短納期に対応できる、とにかく相談しやすい、客観的な助言をしてくれる、など、お客さまが連想できることがどれほどあるのか。それがブランド力です。多様な連想に加えて、お客さまが「どうせどこかにお願いするなら秋山さんにやって欲しい」と感情移入をしていただけるまでになると、圧倒的に勝つ競争力を得ることができるのです。


「ブランド力がない・・・」

では、最初の「ウチの会社にはブランド力がない」という感覚は何なのでしょうか。

一般論で言えば、たいていの会社は、社会的知名度は高くない。マスコミ報道も決して多くない。それでも良い人財を採用するために積極的にアピールしなければいけない、業界の垣根を越えた競争が始まっており自社のことをもっと市場にアピールしないといけない、といった課題があります。ブランド力がない・・・という議論になったとき、単に見せ方がうまくないことを指しているのか、ターゲットの脳内シェアが足りていないことを指しているのか(ブランドやブランド力がない)、明確にする必要があります。

あるいは、私が「長居ができる」魅力があると感じているお店は、他の人は「十分程度の隙間時間を過ごす時に魅力的なお店」と捉えている場合があります。こうした「揺らぎ」をできるだけ少なくして、多くのお客さまに同じ連想をしていただこうという取り組みが「ブランディング」です。こうしたブランディングが足りていないのでしょうか。

ぜひ概念理解を進めながら、自社の課題を明確にしてみてください。

広報に関連する基礎知識【第4回】危機管理広報の基礎知識

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 前号までに、総務と広報で連携が不可欠なリスク管理の「落とし穴」と、その落とし穴の埋め方を解説しました。今号は、総務担当者が知っておくべき危機管理広報(マスコミ対応)の基本的知識をご紹介します。


危機管理広報の一般論にご注意を

リスク管理を徹底しても、残念ながらリスクの発生可能性をゼロにはできません。実際に問題事象が起きた場合、ステークホルダーに対する影響が大きい場合はマスコミ発表が必要になります。

会社に広報部門がある場合は、マスコミ対応は広報が窓口になることでしょう。ただし、一般的にリスク管理の扇の要となるのは総務。リスク事案の第一報は総務に情報が集まるはずです。

そこで、危機管理広報の一般論では、「リスク管理部署が迅速に広報へ情報を共有すべきだ」とよく言います。ところが、大小様々なリスクに直面している総務にとって、本当にすべてのリスク事案を広報と共有すべきなのか、疑問が生じるはずです。

また、「何か問題が起きたら、包み隠さずすべての情報を出せ」「とにかく迅速に情報公開せよ」と言う危機管理広報の一般論もあります。しかし、こうした対処は、社会的影響が甚大で極めて深刻な場合に限られます。 実は、危機管理広報の一般論は、多数のマスコミ報道があった事例を後から分析し、「問題が起きたら情報をすべて出すべき」「とにかく迅速に公開すべき」と必要な対応を一般化したものです。言い換えると、「極論ケースが一般化されたもの」であり、事案の公表判断全般に適用できるものではありません。


開示・公表の選択肢

もちろん、「極論ケースの一般化」ですので、極論ケースの場合は迅速開示、隠さない等の一般論に沿って対応すべきです。では、極論ケースとはどのようなものなのか、あるいは極論以外のケースではどのような選択肢があるのか。総務担当者がこうした知識を得ておくと、広報への情報共有のセンスがぐっと良くなります。

危機が発生した場合、大きく開示する・開示しないという2つの判断があります(図表1)。ここで言う開示とは、公表(広く世間に発表する)の意味ではありません。お客さまへの口頭開示を含め、そもそも対外的に情報を開示するかという判断があります。

図表1 危機の開示判断の枠組み

この開示判断は、残念ながら一律に基準をお示しできません。法令違反でありながら開示しないケースもあれば、法令違反ではなくても開示するケースもあります。時代や社会の変化に応じて必要な判断も変わります。例えば、一昔前は、ハラスメントは開示しないことが一般的でしたが、いまは迷うぐらいなら開示・公表した方がよいでしょう。開示判断は、ステークホルダーに対する影響の軽重はもちろん、時代・社会背景、法令・ルールでの開示義務の有無、監督官庁や警察等の「助言」、非開示としたものの発覚した場合のレピュテーション低下リスクなど、様々なことを勘案して行います。

開示する場合の選択肢を見ていきましょう。図表1のとおり、まずは開示「姿勢」があります。大きく、能動と受動に分けることができます。受動開示とは、記者やお客さまから問いあわせがあった場合に開示(回答)することを言います。

次に、開示対象があります。広く一般に開示する(これが公表)か、関係者のみに開示するかの2つに大別できます。

開示姿勢と開示対象は、多様な組み合わせがあります。たとえば、何らかの理由で自社が訴えられている場合(非開示判断をしていた)。記者から訴訟に関するコメントを求められ、それが報道されたとします。この場合、必ずしも、自社が訴訟について公表すべきとは限りません。記者に聞かれたら答えるとしても、それを広く一般に公表しないという選択肢もあるわけです。

広く一般に公表する場合は、主にホームページ、お詫び広告、マスコミ発表の3つの方法があります。マスコミ発表の要否の判断は、開示判断と同様に一律に基準を設けにくいものですが、時代・社会背景は強く意識しておきましょう。

マスコミ発表をする場合は、プレスリリースのみ、(担当記者クラブがある場合は)記者クラブでのレク付き資料配布、記者会見を開く、の3つの選択肢があります。

記者会見が必要になるめやす

マスコミ発表をすると決めた場合、一番迷うのは記者会見の要否です。記者会見に関しては、過去に事例が蓄積しており、暗黙的な「めやす」はあります。

図表2のとおり、記者会見も能動・受動に分けることができますが、たとえば自社が起こした事案によって外部ステークホルダーに死者が出ている場合や、悪用の恐れがあるセンシティブ情報を含む個人情報の漏えいなど、注意喚起が必要なケースでは能動的に記者会見を開くべきです。また、行政や監督官庁、マスコミから記者会見を開くように要請があった場合は、開催すべきです。会見を開く場合は、(聞かれたら答える消極的な開示事項を含めて)「すべての情報を出す」覚悟で臨むべきです。

図表2 緊急記者会見開催のめやす

本稿の前半で、「迅速開示が必要」との一般論をご紹介しました。迅速開示が必要なのは、主に、一般の社会・経済活動に影響を与える恐れがある(インフラ企業のみ)場合や、注意喚起が必要な場合(安全・生死に関わる、二次被害の恐れがある)。迅速公表は必要としないまでも、調査に時間がかかる場合(不正等)は「キックオフ」をして複数回(段階)に分けて公表することもあります。

広報に関連する基礎知識【第3回】リスク管理の落とし穴を埋める

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 前回は、総務と広報がリスク管理で連携できないと、思わぬ「落とし穴」ができてしまうとお伝えしました。「落とし穴」とは、不祥事や事故が発生した場合に、マスコミや社会から批判の対象になる「初動の失敗」「隠ぺい体質の疑い」「不誠実な意思決定」の3つです。今回は、この「落とし穴」を埋める方法をご紹介します。


初動対応の失敗を防ぐ

米国同時多発テロなど危機的状況での人間行動を綿密に取材したアマンダ・リプリーさんは、著書『生き残る判断 生き残れない行動』の中で、人は危機に直面すると驚くほど「否認」するとしています。「否認」の次に「思考」「行動」と移行することは、災害時の「逃げ遅れ」など災害心理学の研究でもよく指摘されます。人は、想定外の事態を前にすると、「たいしたことはない」と考えてしまったり、思考自体が停止してしまったりします。いわゆる「真っ白」な状態です。

企業は、緊急時にこうした事態が発生しないよう、危機管理マニュアルに必要な初動対応を書き込むことがあります。さらなる備えとして、シミュレーション訓練を実施する企業もあります。残念ながら、こうした対処をしていても、本当に危機が起きると、行動できない社員は多いのです。

初動対応の失敗は、人為的ミスばかりではなく、「動けなかった」場合があります。この落とし穴を埋めるためには、緊急時の行動心理を、社員全員が学んでおくことが大切です。否認・思考・行動の心理状態が生じやすいことを知っているだけで、緊急時に自分の状態を客観視しやすくなり、この移行スピードを格段に上げることができます。


結果的に隠ぺいが疑われる事態を防ぐ

事故などの緊急事態は現場の第一線で発生することが多いです。このため、現場から情報が上がってこなければ、本社や本部は必要な対策を検討できません。この情報ルートにも思わぬ落とし穴があります。

たとえば、危機管理マニュアルの報告フローが、平時と同じピラミッド型となっている場合があります。第一発見者はまず現場リーダーに報告し、現場リーダーが管理職や役員、リスク担当部署に報告し、必要に応じて対策本部をつくる、といった流れが一般的です。ところが、現場には常に現場リーダーがいるとは限りませんし、管理職・役員がすぐに捕まるとも限りません。忠実な正しい社員ほどマニュアルに沿って報告しようとし、上司がいないときは一生懸命上司に連絡しようとして他への報告が遅くなり、結果として対応が遅れてしまうことがあります。

これに対処するためには、現場と本部の双方で「断片的情報でもよいから早く報告する」、「ライン報告のルールは遵守する必要がない」ことを「バイパスルール」として共通認識にしておくことが必要です。

また、人は「悪い情報を伝えたがらない」ものです。どんなに小さなミスでも、上司に報告するのは気が重いですよね。心理学ではMUM効果(「静かにする」の意味)と言われているもので、緊急時には「そもそも正しい情報が流通するとは限らない」のです。

このため、報告を受ける側の管理職や役員は、正しい情報が伝わってきていない前提で、現場の報告を「健全に疑う」ことが大切です。 平時から、緊急時には「バイパス報告OK」や「現場の報告はちゃんと疑う」といった価値観をつくっておかなければ、対処に遅れたり誤ったりして、結果的に隠ぺい体質を疑われてしまう事態になってしまうことがあります。


不誠実な意思決定を防ぐ

倫理学の研究で、ひとは「倫理的な意識をもっていたとしても、実際にそのとおりに行動できるとは限らない」という研究分野(行動倫理)があります。倫理的で誠実な人ほど、危機に直面すると、社会の常識とはかけ離れた社内にとって「誠実な」意思決定をしてしまうことがあります。

たとえば、様々な失敗から学ぼうとする失敗学の畑村洋太郎さんは、判断者を取り囲む「気」(社会的雰囲気)の影響は無視できないと言います。スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故は、不具合が起きており事故は予測できたものでした。ところが、この事故は、米大統領演説の直前でリビア攻撃が準備されていた時期に起きており、畑村さんは誤った判断の背景に、国威発揚という「気」があったと言います。当然、社会的雰囲気だけでなく、「組織的雰囲気」の影響も考慮が必要です。過去の企業不祥事で、有名企業の経営者が「なんでそんな判断をしたのか」と信じられない思いを抱いたことはないでしょうか。どれほど誠実で倫理的な人でも、そのとおりに行動できるとは限らないのです。

この対処には、自分たちの企業文化を自覚することが不可欠です。たとえば、顧客第一主義を謳っている組織でも、実際には売上至上主義で自社都合の判断基準が浸透していることもあります。平常時は、この価値観が会社の業績アップに貢献しているとこともありえるでしょう。ただし、この企業文化に無自覚な状態だと、緊急時に自分たちは顧客第一で判断していると考えがち。無自覚が一番怖いのです。

また、平時から、他社の不祥事事例を「活用」し、ケース討議を積み上げておくと良いでしょう。他社事例を題材にして自社で起きた場合はどのような判断をすべきかを考え、かつ、その判断理由は何かを一件ずつ積み上げておきます。緊急時に、ケース討議で、落ち着いた状態の時に自分たちが判断した結果と理由を参照できるので、「他社はこうだったけどウチは違う」という逃げ道を無くすことができます。

このように、危機発生時の初動、情報流通、意思決定・判断そのものが、実は危機発生時のリスクです。このリスクを顕在化しないように、総務と広報で連携して、こうしたリスクの芽を摘んでおきましょう。

広報に関連する基礎知識【第2回】総務のリスク管理と危機管理広報の違い

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 企業のリスク対応力強化には、総務と広報で密な連携が必要です。ところが、総務と広報では「リスクの捉え方」が異なり、うまく連携が進まないことがあります。総務の引き出しとして、危機管理広報の知識を得ておくと、連携が進みやすくなることでしょう。今号から数回に分けて、総務担当者の目線を意識しながら、危機管理広報について解説します。

広報部門のリスクの捉え方

 総務担当者にとって、「リスク管理」は常に重要なテーマです。総務では、施設などハードのリスク対応が中心になります。総務が全社大のリスク管理委員会等の事務局を主管している場合は、より包括的かつ長期的な視野でリスクを棚卸し、優先順位を決めて、発生を防止する施策を実行します。総務にとって、リスクは「発生させないもの」「管理するもの」です。

 一方、会社に独立した広報部門がある場合は、緊急時のメディア対応判断は広報部門が担います。緊急時に迅速かつ適切な情報開示を行うため、広報部門では平時から記者会見のトレーニングをしたり、他社の危機事例から発表用資料の素案を事前に作成しておいたりします。広報は、マスコミの情報から、他社の不祥事や不正、事故などの情報を毎日のように目にしています。このため、広報はリスクを「発生するもの」と捉えます。

 経営者は、会社や自分の身を守るために、総務と広報で密に連携してリスク対応の強化を図ってほしいと期待していています。ところが、総務と広報は、リスクの捉え方の違いから「すれ違い」が生じがちです。総務からすると、広報はリスクが発生するスタンスで訓練・評価をするので、総務のリスク管理の抜け道を探す「散らかす存在」に見えてしまいがちです。一方、広報から見て総務は、リスク発生後のことを考えていないように見えてしまうので、総務の取り組みを「実効性がない」と評価しがちです。

 経験則では、こうした認識のすれ違いは、大企業よりも中堅規模の企業の方が発生しやすいです。大企業は、そのネームバリューから、リスク発生後の対処(危機管理広報)の重要性を強く認識しています。また、日常的に社内の至るところで大小のリスクが発生しているため、リスクは発生するものという思考回路ができあがっています。一方、中堅規模になると、社内でリスク対応の経験が少ないため、どうしても観念的になりがち。観念的になると、リスク管理を総務が見て、クライシス対応を広報が見るというように、役割分担をハッキリさせる方向で整理をしがちになります。(リスクとクライシスの違いは図表を参照ください。)

時間軸で見た危機の4段階

総務と広報の溝を無くすべき

 総務と広報の取り組みが分断されていると、思わぬ「落とし穴」ができてしまいます。この「落とし穴」とは、不祥事や事故が発生した場合に、しばしばマスコミや社会から批判の対象になる「初動の失敗」「隠ぺい体質の疑い」「不誠実な意思決定」の3つです。

 広報の関心事は「緊急時のメディア対応や情報開示を、いかに迅速かつ適切に行うか」です。このため、広報部門では、緊急記者会見の開催基準や、会見での謝罪の仕方、会見場で悪意のある写真を撮られないようにするレイアウトの工夫、広報担当者の電話取材の対応方法など、テクニックに意識が向きがちです。こうしたテクニックは確かに重要ですが、広報が見ているのはクライシス対応のごく一部でしかない場合が多いのです。極論を言うと、広報の訓練は、事態発生後に初動の対処が適切で、隠ぺい体質が疑われるような情報の流通の不具合がなく、社内で社会目線を考慮した誠実な意思決定が行われる前提で、最後の出口部分を訓練しています。初動で情報が集まっていない段階での「ぶら下がり」の取材対応を訓練することもありますが、一般的にこうした訓練は広報担当者だけに行われることが多いです。

 一方、総務はリスクを発生させない取り組みが中心になります。リスクが発生時の備えとして、連絡ルートを構築したり、マニュアルを策定したりしますが、実態としてはそれで一安心する場合がほとんど。発生させないことを前提にする総務からすると、初動はマニュアルに沿って適切に人が動くだろう、情報流通は連絡網に沿って行われるだろう、そして、集まった情報をもとに経営者が誠実に意思決定するだろう、という希望的観測に立脚せざるを得ない側面があります。

 このように、総務と広報が密に連携できていないと、初動の失敗、社内で情報が流通せずに隠ぺい体質が疑われる、経営層が不誠実な意思決定をする、といった「肝」の部分の対処が行われないままになってしまうのです。これではリスクが発生した後、どれほど会見場のレイアウトもお詫びも適切にできたとしても、説得力がなく、かえってマスコミや世論を敵にまわすような対応になってしまいます。これは、広報の責任でも、総務の責任でもなく、広報と総務の責任なのです。リスク管理の中核をなす総務担当者が、危機管理広報のスコープを知っておくと、リスク対応力強化の落とし穴を埋めていくことができます。

広報に関連する基礎知識【第1回】広報の仕事とは

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 2017年4月号から2018年3月号までの1年間、総務で広報を兼任する方を対象に、効率的に広報業務を進める戦略の策定方法から、広報実務のポイントをご紹介してきました。今年度は、広報の兼務状況を問わず、まさに総務担当者が知っておくと「引き出し」のひとつになる広報分野の知識やトレンドを、ご紹介していきます。


広報って結局、なにしてるの?

 広報に係る部署は、経営企画部門に含まれることも、管理部門にぶら下がることもあります。総務が広報を兼務することも、経営直轄のこともあります。

 広報は、企業・組織のひとつの「業務」でありながら、学術分野で会社の仕事(いわば事業活動)として研究されてきました。たとえば、広報活動は、学術的には「企業とステークホルダーとの間に、良好な関係を構築・維持する活動」などの定義付けがされています。ただ、ステークホルダーとの関係構築は、営業、人事、総務など、ほとんどの経営活動はこれに帰結してしまいます。現に、多くの会社で広報部門は、マスコミや一般社会との関係構築に係る業務は担っていても、顧客は営業、監督官庁は総務、というように関係構築業務は全社で分掌されています。その意味では、「ステークホルダーとの関係構築」は、会社の仕事として「広報」を捉えてはいるものの、広報部門の業務をうまく説明するものにはなっていません。

 こうした曖昧さがあるためか、経営活動をモデル化したフレームワークで、広報活動が含まれることはほとんどありません。たとえば、経営管理活動の種類やプロセスを整理したファヨールや、ポーターの「バリューチェーン」は有名です。総務に関しては、ファヨールは「保全活動」、ポーターは「全般管理(インフラ)」に位置づけていますが、広報活動は一切言及されていません。ファヨールの時代は広報が確立していなかったと見ることもできますが、ポーターにとっては「眼中」にも入っていなかったか、あるいは、経営企画業務と同じように、事業活動というより経営と一体のものだと認識されたのかもしれません。

 広報が大事だというのは肌感覚で誰もが実感します。企業・組織の規模が一定になれば必ず何らかの広報業務が経営活動に組み込まれたり、部署ができたりします。総務が広報と連携したり、総務が広報を兼務したりすることもあるのに、どうにも業務の位置づけが掴みにくい状態では、連携や実務を進めにくいですね。まずは広報の位置づけを、総務の「引き出し」として知っておきましょう。


広報業務の位置づけ

企業不祥事研究を行う井上泉氏は、近著『企業不祥事の研究』で、経営活動のプロセスを大きく「意思決定」「情報伝達」「事業活動」「情報公開」の4つに分解しています。これは、総務、研究開発、営業といった活動の種類を整理するのではなく、経営の実行プロセスを時系列で整理したものと言えるでしょう。経営そのものの流れがとてもシンプルに整理されており、積極的な情報開示が求められる現代にフィットします。広報業務が経営にどう関連付いているのかも、理解しやすい枠組みです(図)。

経営の4つのプロセスで見た広報業務

 経営における意思決定は、株主総会や取締役会、各種委員会などで行われます。広報は、外部情報の収集など広聴も行っています。広聴業務とはまさに「広く聴く」こと。アンケートだったりヒアリングだったりソーシャルメディアの書き込みだったり、一般社会の代弁者としてマスコミの声を聴いたりします。外部から情報を受信し、経営にフィードバックする業務を行っています。

 また、経営が意思決定したことは、組織内部に情報伝達しない限り、実行されません。社内広報業務はここに位置づけることができます。方策としては社内報やイントラ、対面でのワークショップなどが挙げられます。

 事業活動の断面では、成果が最大化するように、いわゆるPR活動やHPでの情報発信など社外広報業務を実施しています。ここでは知名度の向上や信頼獲得などが成果として期待され、各事業活動の実行を側面支援しています。

 情報公開では、(主管部が広報ではなく総務やIRのこともありますが)財務・非財務の報告業務やステークホルダーとのダイアログ、渉外、何か不祥事が起きたときは誠実で適切な情報開示を行っています。


 この枠組みでみると、広報業務は経営活動の全プロセスに密接に関わっていることがイメージできます。広報業務は、経営が企画したことの実行力・実現可能性を上げる仕事をしていると言えます。組織規模が小さければ事業活動の一部として対外的なPRをしているだけで十分かもしれませんが、組織が大きくなるほど意思決定のために収集すべき情報は多くなり、組織内部への密な情報伝達が必要になり、社会的責任を果たすための情報公開も必要になります。

 広報は、目的や目指す活動といったん切り離して、経営の実行プロセスに沿って位置づけていかないと、何をしているのか理解が進みにくいのです。もし総務が広報を兼務している場合は、経営からは、事務業務でなく企画業務に近い期待値があるはずですので、業務遂行で留意しましょう。総務で広報と連携が必要な場面があったら、どのプロセスでの連携が期待されているのかを適切にとらえていきましょう。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-8 広報活動の実践にあたり

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第8回広報活動の実践にあたり

これまで、兼任広報の方に向けて、広報業務を効率化するための計画づくりや広報ネタの発掘法をご紹介してきました。あとは「実践あるのみ」。パブリシティ活動(プレスリリース等)やホームページ、社内広報など広報活動の実践にかかわるポイントを今後ご紹介していきますが、今号では、個別の活動をご紹介する前に少し俯瞰して、近年の広報活動の変化をお伝えします。


従来の広報はマスコミ対応中心

経済広報センターが行っている『企業の広報活動に関する意識実態調査』では、広報部門の担当業務を尋ねています。調査対象・回答企業は大手かつ専任部署がほとんどですので、兼任広報の方にとっては少し縁遠く感じるかもしれませんが、近年の変化を読み解く材料としてご紹介します。

この調査の結果では、広報部門の担当業務は、報道対応や社内広報がほとんど。これに危機管理、広告・宣伝活動、社外情報の収集が続いています。


目的が高度化し手段も複雑化

08年と14年の結果を比較してみましょう。報道対応はあまり変動していません。一方、社内広報、危機管理、ブランド戦略の推進、CSR対応は増えています。

同調査で自社ホームページの目的を尋ねた結果では、「自社製品・商品の販売、取引の拡大に役立つ」といった販促支援は減少し、「企業理念やスタンスを伝えること」が増加を続けています。

広報部門の業務が、従来の報道対応(マスメディアとの関係構築)から「企業ブランディング」に高度化していることが分かります。


情報への接触スタイルの変化

広報業務が企業ブランディングに高度化する背景には、ホームページやSNSなどデジタル領域で、自社が独自に情報発信できるツールが登場したことと、この数年でマスメディアの影響力低下が顕著になってきていることの2点があります。後者を補足します。

NHK放送文化研究所の「2015年国民生活時間調査」では、テレビ、新聞に接する人が急激に減り始めていることが確認できます。新聞はとくに顕著で、全回答者のうち、1日のうち新聞に15分以上接する人の割合は、95年には約半数の52%でしたが、2015年には33%に減少。テレビも、新聞より割合が高いものの、92%から85%に低下しています。これは、言わずもがな、スマートフォンの利用者増などインターネット環境の変化によるものです。

この影響で、実は人間の「注意力」も低下しています。米国のナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジカル・インフォメーションの調査によると、人間の注意力の平均持続時間は00年には12秒でしたが、13年には8秒に短くなっています。


環境変化にあわせた活動を

広報担当者は、こうした環境変化を意識していく必要があります。

社外広報に関しては、報道対応中心の頃、広報活動の評価者は、実務上は「記者」だけでした。良い記事が出ればそれだけインパクトが大きかったので、良い記事を出すために記者との関係構築に必死でした。時として社内事情より記者対応が優先されることもありました。

一方、いまではブランド訴求のために自社メディアの重要性が増しています。自社メディアでの情報発信の評価者は、記者ではなく「社員」や「お客さま」です。社外に発信するニュースバリューがあるかという判断基準だけでなく、社員のモチベーションアップやお客さまの評価獲得なども判断軸に加えていくべきです。

また、「注意力の平均持続時間の低下」は、社内外のすべての広報活動の変化を求めています。たとえば会社案内やホームページの「ご挨拶」も長文では読みません。インパクトのある写真と、お伝えしたいことをぎゅっと凝縮したコピーにまとめ上げていく必要があります。

プレスリリースでも、説明の要素は極力省き、取材して欲しいのか、告知して欲しいのか、新製品・サービス等の情報なのか、視覚的に数秒で記者に伝わるようにしなければいけません。

社内報も同様。テキスト中心ではなく、図解など目で見て分かるように工夫するビジュアル・コミュニケーションの重要性が増し続けています。

ところが、ビジュアル中心になると、どうしても「表面的」になりがち。だからこそ、社内広報で言えば「対話」などリアルなコミュニケーションの重要性が増し、社外広報でも具体的なストーリーが一方で必要になっています。

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●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-7 広報ネタの発想法②

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第7回PRネタの発想法②

PRネタを見付ける考え方や発掘方法をは、以下の3つがあります。

  1. 発想法を活用する
  2. 埋もれているネタを見つける
  3. ネタをひねり出す

このうち、「1.発想法を活用する」は先月号でご紹介しました。今月は、2と3をご案内します。


埋もれているネタを見つける

埋もれているネタを探す最重要ツールはイントラネットです。

多くの会社で、イントラネットを導入していることでしょう。
イントラネットは、社員が社内の人に知って欲しいと思って多くの情報が掲載されています。
ネタの原石がたくさん。
閲覧権限を有する範囲の情報は、必ず「すべて」に目を通すべきです。
日々の仕事に追われて「時間があるときに見よう」ではなく、毎日、時間を決めてすべてに目を通しましょう。

部門ごとに閲覧権限が限定されていて情報にアクセスしにくい場合は、閲覧権限の付与を該当部門と交渉しましょう。

該当部門には、「社内外のPRネタになるのかを確認したい。勝手に社内外に発信するようなことはしないし、必ず事前に相談する」などと言えば、意外とすんなりとOKをもらえるものです。

情報のアクセス制限は、情報管理を徹底するために行われます。
多くの社員が、必ずしも業務上必要でない情報に接触できる状態は、情報漏えいの可能性が増してしまいます。
逆に言えば、広報の仕事は、多くの情報にアクセスできないと、何も始まりません。
業務上必要なのですから、正々堂々とアクセス権限を要求しましょう(もちろん社内ルールに則って手続きをしたり、理由書のようなものを作成してマネジャーに調整してもらったりする等の工夫は必要です)。

イントラ自体が情報共有ツールとして活用されていない、あるいはイントラを導入していない場合は、稟議や各種会議での審議・決裁事項を確認しましょう。


社内ぶらり歩き

イントラや稟議等の情報から、発信できそうなネタがいくつか見つかったとしましょう。

イントラであれば投稿者、稟議や会議情報であれば起案者や報告者が「情報源」になります。
ところが、実際には「よさそうなネタだな」と思っても、全部のネタを社内取材することは時間・労力を要して困難です。
また、社内取材に「及び腰」になってしまうこともあるでしょう。

そこでおすすめしたいのは、「社内をぶらつく」ことです。

情報源を頭の中に入れておき、食堂や廊下などオフィス内の至る所をぶらぶらします。

担当者とすれ違うたびに、「あの話、ネタになりそうですね。珍しいんですか?」などと話しかけていきます。

反応を見極めながら、相手が社外発信に対して乗り気であれば「詳しく聞かせてください。あとで日程調整のご連絡をします」と、ヒアリングに持ち込みましょう。

社内広報・社外広報問わず確実にネタを拾っていくことができます。
立ち話の際に、相手の反応や話の内容から、ネタになりえるのか取捨選択をしていくこともできます。

いわゆる「足を使う」ことが大切です。


社内アンケートも有効

兼任広報で時間がなく、こうしたネタ掘り活動をできない場合は、社内アンケートをして、「PRネタの有無」を聞いてしまいましょう。

社内広報であれば取り上げてほしいこと、社外広報であれば発信してほしいことをアンケートで尋ねます。
プロの新聞社や専門雑誌でも、企業向けにアンケートを実施して、その回答内容から取材先を固めていくこともあります。
大手企業であれば、働き方改革、ダイバーシティの取り組み等について、媒体からアンケートが来ることも多いことでしょう。
それと同じです。

社内アンケートをすると、数人でも提案してくれる人はいます。

提案してくれた人には、仮に「これはネタにならない・・」という提案内容だったとしても、必ずヒアリングをしましょう。
接点を持っておけば、その人の所属部署や知人などのネットワークを活用しやすくなるからです。

こうした「とりあえず社内アンケート」は、広報兼務者にとって、手っ取り早く情報が集まり社内人脈も拡がるので有効です。


PRネタをひねり出す

社内アンケートを一工夫することで、PRネタを「ひねり出す」こともできます。

とくに、広報に力を入れてこなかった会社の場合、「何かネタありませんか?」と尋ねても、社員の側はいったい何がネタになるのかイメージがわきにくいこともあります。

そこで、競合他社のプレスリリースや露出状況、ホームページコンテンツなどを見てもらいながら、「似たようなネタはありませんか」「もっと進んでいる取り組みはありませんか」という尋ね方をします

すると、より具体的で焦点が絞られたPRネタがたくさん出てきます。

カンの良い人は、競合と自社との違いを踏まえて、ネタの切り口をどうすべきかまで提案してくれます。

経験則では、企画系の部署の人が、切り口も含めた提案をしてくれる傾向があるように感じます。

企画系の人は、企画が実践されて成果が出て評価されますので、広報のためにネタを提供するのではなく、自分の成果創出につなげるために「広報を使う」という発想に結び付きやすいのだろうと思います。

こうしたネタのひねり出しは、丁寧な競合調査が必須。

この競合調査だけでも広報のヒントも多く得られます。

ぜひ実践していただきたいアプローチです。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-6 広報ネタの発想法①

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第6回広報ネタの発想法①

前号までに、広報兼任の方が効率重視の広報戦略を考える方法をご紹介してきました。ところが、「そもそも広報するネタがない」という悩みもありませんか。兼任では時間・労力に限りもあり、ネタの掘り起こしまでなかなか手が回りません。そこで、今号から、広報ネタの考え方や発掘方法をご紹介します。


あなたもネタハンターになれる

私は、ある組織で広報実務を担当していたとき、組織内で「ネタハンター」と呼ばれていました。ネタを嗅ぎつける能力を有しているという意味です。記者の仕事をし、PR会社にもいたので、経験上、その情報が広報ネタになり得るのかどうか、直感的に判断しやすかったのは確かです。

実務を離れ、コンサルテーションや講師を行う立場に変わってから、自分自身がネタハンターと呼ばれるまでに何をしたのかを振り返って整理しました。その結果、こうした「ネタハント」業務は、一定の標準化が可能で、スキルとして獲得可能な技能だと考えています。

ネタハントの方法は、3つあります。

  1. 発想法を活用する=何がネタになり得るのかを習得する
  2. 埋もれているネタを見つける=イントラなどの社内公開情報を基にアタリを付けて足を使って掘り起こす
  3. ネタをひねり出す=競合他社の動向を調べて、同じようなネタがないかを尋ねまわる

今回は「1.発想法」について詳しくご紹介しましょう。


広報ネタの発掘=発想法を活用する


「経営資源」こそが広報ネタになり得るものです。

経営資源は、①ヒト、②モノ、③カネ、④情報の4つを指すことが一般的です。

これに沿ってネタを考えていく「発想法」が、一番、ネタの棚卸が容易です。ネタ発掘のセンスを磨いていくことにもつながりますので、ぜひ実践してみてください。


ヒトをネタにする
~ヒトを起点に切り口を考える


分かりやすいのば「経営トップ」。トップが語ればプライベートでもネタになります。

トップ以外では、社員の属性から考えます。たとえば、職位では新人、中堅、係長層、課長層、部長層、経営層があります。職歴では、3年目、5年目、10年目など。ほかにも年代、所属部署、役割(開発担当者、OJTリーダー)、プライベートの状況(結婚前、子育て中、介護中)等々、様々な属性があります。属性を並べただけでも、何が発信可能かを、考えやすくなります。

たとえば、子育てと仕事を両立している社員がいるなら、そのヒトを中心にして、周囲のサポートや会社の制度などを社内外に発信できます。

課長層に焦点をあてるなら、働き方改革など注目されやすいテーマについて、経営の要求と現場の現実に葛藤しながらも成果を出した人がいるなら、社内広報はもちろん、社外広報でもテレビ取材の働きかけさえ可能でしょう。

ベテラン社員に焦点をあてるのであれば、業界内で卓越した技術を有する人はいませんか? その人が技術を積み上げてきたエピソードも良いですし、技能標準化のためにIoT化も進めているようであれば、社外広報ネタにも発展できるはずです。


モノをネタにする
~情報価値を上げることに注力する


いわゆる新製品・新サービス情報などです。ところが、モノの情報はあふれているだけに、単に「新しい」と訴求しても注目されにくい。情報価値を高めるように加工していくことが必要です。

この場合、以下のような「切り口」を見出していくと情報価値が高まります。

  • 新奇=新しいだけでなく、珍しい部分に焦点をあてる
  • 時流=便乗できる流行があるなら便乗
  • 共同=他社との協力関係(提携等はもちろん、ウィンウィンの取り組みなど)
  • 実績=上市から●年、シェア●%達成等
  • 季節=四季はもちろん、入社、株主総会、異動など
  • 限定=このエリアでは、この業界では、この部門では等
  • 実利=おトク、使える、役立つ
  • ビジュアル=絵になる写真、目で見て分かる 等

上記の切り口の他にも、「モノを訴求しながらヒトを素材とする」ことも可能です。
たとえば開発担当者に焦点をあてる、開発から販売までのサプライチェーンに関わるヒトを紹介する、モノを使用しているお客さまに登場いただく等がすぐに浮かぶのではないでしょうか。


カネをネタにする
~おカネの話を堂々とする


経営計画や事業戦略は社内広報ネタにしやすいです。社外広報でも有効です。ただし、上場していない場合は、どこまで何を出すのかという議論が必要になることでしょう。

おカネ周りで、意外と埋もれがちなのは、生産性向上やコスト削減の取り組み。

専門紙誌の多くはこうしたネタは大好物です。もし、生産性向上の取り組みをしていて、社内報で紹介したことがあるなら、その内容を記者に情報提供するだけでも、取材してくれることでしょう。HPコンテンツとしても訴求力があります。お客さまから見れば「創意工夫ができる会社」「できるだけ安く提供しようと努力している会社」という評価につながりやすいです。おカネの話を堂々としましょう。


情報をネタにする


実は、自社がもっている「情報」もネタにできます。もちろん、保有している顧客情報をそのまま出すべきというような意味ではありません。

たとえば、テレビの特集企画で飲食店や美容などサービス業で「来店客が増えている」というようなデータを目にすることはありませんか? 自社が持つデータを広報ネタにできます。

生産財であれば、地域別・事業別の売上構成の変化など公表データから、自社が属する市場自体の変化など「業界情報」に置き換えて発信することも可能でしょう。

とくに、業界全体を語る・業界動向を解説するような情報を発信すると、リーディングカンパニーという印象づけができます(競合他社の論評は避けます)。大手の持株会社やグループ会社のホームページでは、こうしたコンテンツの発信を進めている会社も出てきています。

このように「情報」も社内外に発信可能なネタにできます。

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●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

特徴(他とどう違うの?)

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