広報に関連する基礎知識【第2回】総務のリスク管理と危機管理広報の違い

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 企業のリスク対応力強化には、総務と広報で密な連携が必要です。ところが、総務と広報では「リスクの捉え方」が異なり、うまく連携が進まないことがあります。総務の引き出しとして、危機管理広報の知識を得ておくと、連携が進みやすくなることでしょう。今号から数回に分けて、総務担当者の目線を意識しながら、危機管理広報について解説します。

広報部門のリスクの捉え方

 総務担当者にとって、「リスク管理」は常に重要なテーマです。総務では、施設などハードのリスク対応が中心になります。総務が全社大のリスク管理委員会等の事務局を主管している場合は、より包括的かつ長期的な視野でリスクを棚卸し、優先順位を決めて、発生を防止する施策を実行します。総務にとって、リスクは「発生させないもの」「管理するもの」です。

 一方、会社に独立した広報部門がある場合は、緊急時のメディア対応判断は広報部門が担います。緊急時に迅速かつ適切な情報開示を行うため、広報部門では平時から記者会見のトレーニングをしたり、他社の危機事例から発表用資料の素案を事前に作成しておいたりします。広報は、マスコミの情報から、他社の不祥事や不正、事故などの情報を毎日のように目にしています。このため、広報はリスクを「発生するもの」と捉えます。

 経営者は、会社や自分の身を守るために、総務と広報で密に連携してリスク対応の強化を図ってほしいと期待していています。ところが、総務と広報は、リスクの捉え方の違いから「すれ違い」が生じがちです。総務からすると、広報はリスクが発生するスタンスで訓練・評価をするので、総務のリスク管理の抜け道を探す「散らかす存在」に見えてしまいがちです。一方、広報から見て総務は、リスク発生後のことを考えていないように見えてしまうので、総務の取り組みを「実効性がない」と評価しがちです。

 経験則では、こうした認識のすれ違いは、大企業よりも中堅規模の企業の方が発生しやすいです。大企業は、そのネームバリューから、リスク発生後の対処(危機管理広報)の重要性を強く認識しています。また、日常的に社内の至るところで大小のリスクが発生しているため、リスクは発生するものという思考回路ができあがっています。一方、中堅規模になると、社内でリスク対応の経験が少ないため、どうしても観念的になりがち。観念的になると、リスク管理を総務が見て、クライシス対応を広報が見るというように、役割分担をハッキリさせる方向で整理をしがちになります。(リスクとクライシスの違いは図表を参照ください。)

時間軸で見た危機の4段階

総務と広報の溝を無くすべき

 総務と広報の取り組みが分断されていると、思わぬ「落とし穴」ができてしまいます。この「落とし穴」とは、不祥事や事故が発生した場合に、しばしばマスコミや社会から批判の対象になる「初動の失敗」「隠ぺい体質の疑い」「不誠実な意思決定」の3つです。

 広報の関心事は「緊急時のメディア対応や情報開示を、いかに迅速かつ適切に行うか」です。このため、広報部門では、緊急記者会見の開催基準や、会見での謝罪の仕方、会見場で悪意のある写真を撮られないようにするレイアウトの工夫、広報担当者の電話取材の対応方法など、テクニックに意識が向きがちです。こうしたテクニックは確かに重要ですが、広報が見ているのはクライシス対応のごく一部でしかない場合が多いのです。極論を言うと、広報の訓練は、事態発生後に初動の対処が適切で、隠ぺい体質が疑われるような情報の流通の不具合がなく、社内で社会目線を考慮した誠実な意思決定が行われる前提で、最後の出口部分を訓練しています。初動で情報が集まっていない段階での「ぶら下がり」の取材対応を訓練することもありますが、一般的にこうした訓練は広報担当者だけに行われることが多いです。

 一方、総務はリスクを発生させない取り組みが中心になります。リスクが発生時の備えとして、連絡ルートを構築したり、マニュアルを策定したりしますが、実態としてはそれで一安心する場合がほとんど。発生させないことを前提にする総務からすると、初動はマニュアルに沿って適切に人が動くだろう、情報流通は連絡網に沿って行われるだろう、そして、集まった情報をもとに経営者が誠実に意思決定するだろう、という希望的観測に立脚せざるを得ない側面があります。

 このように、総務と広報が密に連携できていないと、初動の失敗、社内で情報が流通せずに隠ぺい体質が疑われる、経営層が不誠実な意思決定をする、といった「肝」の部分の対処が行われないままになってしまうのです。これではリスクが発生した後、どれほど会見場のレイアウトもお詫びも適切にできたとしても、説得力がなく、かえってマスコミや世論を敵にまわすような対応になってしまいます。これは、広報の責任でも、総務の責任でもなく、広報と総務の責任なのです。リスク管理の中核をなす総務担当者が、危機管理広報のスコープを知っておくと、リスク対応力強化の落とし穴を埋めていくことができます。