広報に関連する基礎知識【第9回】ESG情報開示

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


総務で株主関係管理や投資家向け広報(IR)を担当されている方は多いことでしょう。自社が未上場の場合は、IRの実務に従事することはないでしょうが、親会社が上場している場合はIRに関わる窓口業務は発生することがあります。IRに関するトレンドの知識は習得しておきたいところです。総務の引き出しのひとつとして「ESG情報開示」について学んでおきましょう。


ESGは投資家向け情報開示

数年前からよく目にするキーワード「ESG」。環境・社会・ガバナンスの頭文字をとったものです。今回はESGがどのようなものか概要をおさえましょう。

ESG情報開示についてある企業内で講演した際、「ESGはかつてのCSRブームのように一時的なものではないか」と質問をいただきました。報道などで見聞きするESGの「語られ方」をとても素直に受け止めている質問です。ESGとCSRの違いをはっきりと認識できている読者の方は決して多くないでしょう。

日本では2000年代半ば頃から「CSR」がブームになりました。環境に関わるデータ・取り組みの開示に加えて、社会貢献活動を積極的に行い、企業広告・CMなどでCSRを訴求していました。批判を恐れずに言えば、CSRは企業イメージの向上に繋がるものとして、広告会社主導でブームが作られたといっても良いでしょう。

かつてブームとなったCSRは、一般社会を対象に「社会性のある良い会社」と思われることを目指していたものと言えます。環境であれば、自社がいかに環境保護に取り組んでいるか。社会であれば、いかに社会貢献をしているか。悪しきことはしていない、良いことをしているという文脈がもっとも大切でした。

一方、ESGは、あくまでも投資家を対象にした情報開示です。投資家が中長期的な時間軸での投資の判断材料にできる情報を開示するもの。投資家からすると、企業が環境保護に取り組むこと自体は結構なことですが、自社のビジネスと関係がない植林活動やボランティアを推進していてもそれは「時間もお金もムダ」なもの。投資家にとって関心があるのは、単なる環境保護ではなく、企業を取り巻く「自然資本」をどう活用しているのか。中長期的な時間軸で自然環境の変化にどう対応していくつもりなのか。本社だけでなく関係会社や取引先まで視野を広げた場合、自然資本の活用を戦略的に活用できる仕組みがあるのか。このような、企業として自然資本をどう戦略的に活用できているかに関心があります。

社会の場合はどうでしょうか。たとえば企業がメセナをしている場合、一般社会は「文化・芸術活動を支援する良い会社」と評価することでしょう。ところが投資家は、そのメセナが企業価値向上につながっているのかを知りたい。自然資本の活用と同じように、企業を取り巻く「社会関係資本」をどう活用しているかに関心があります。たとえば、進出したばかりの海外市場でメセナを行い自社の商材を知るきっかけを拡げている、文化・芸術の支援を通じて市場規模そのものを拡張しているなど。投資家にとっては社会的に良い会社かという評価ではなく、社会との関係をひとつの資本としてどう活用しているのか、企業としての経営能力を評価したいのです。

分かりやすさのためにCSRとESGを対比すると、CSRに係る開示は「社会に対して良い会社と評価される」ためのものであり、ESG情報開示は「投資家に対して中長期的に存続・成長し続ける強い会社と評価される」ためのものと言えるでしょう。


なぜESGが注目されているのか

なぜESGの情報開示がこれだけ注目されているのでしょうか。還元すると、なぜ投資家がESGの観点を投資に組み込むようになったのでしょうか。これには大きく2つの動きが影響しています。

1)機関投資家に対する国連の働きかけ

企業の活動範囲・規模はもはや国家を超えています。1900年代後半から、先進国の企業とそれ以外の国の労働格差・労働搾取など人権問題が顕在化しました。環境に関しても、先進国企業による後発国の環境破壊が問題視されるようになりました。国境を越えた企業に対して、国単位で制約を課すことは困難。そこで、国家を超えた枠組みの国連が、企業に対して強い影響力を持つ「機関投資家」に対して、ESGを組み込んだ投資判断・意思決定をするように求めました。これが2006年の「責任投資原則」です。

2)投資家自身の変化

 投資家自身の意識も変化しています。投資家の影響が増すことで企業は短期で利益を出そうとし、設備投資や研究開発投資を抑制する傾向が出てきました。企業が短期志向になる一方、中長期で資産運用する年金の運用総額が増え続けており、「長期投資」の重要性が増しています。投資家にとって、短期的にリターンを求める意思決定ではなく、企業の長期的・持続的な成長能力を評価したうえで投資するという環境変化があったのです。

また、2000年代初頭には不正会計が相次ぎました。監査機関や経営者に対する疑念から、企業の経営を担う経営者の能力を評価し、経営者が正しい判断をできる仕組みの有無など、「ガバナンス」を厳しく評価したうえで投資をする動きが生まれました。 ESGはCSRの延長ではなく、まったく性質が異なるものなのです。

広報に関連する基礎知識【第8回】CIの進め方

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


前回、CI(コーポレート・アイデンティティ)の概念についてご紹介しました。CIは一般的にロゴ管理のことを指すことが多いですが、ロゴ管理はCIの一部です。CIは、MI(ミッション・アイデンティティ)、VI(ビジュアル・アイデンティティ)、BI(ビヘイビア・アイデンティティ)の3つで構成されます(ロゴはVI)。今回は、CIの進め方です。


CIが必要になる時期

CIは創業当初から必要不可欠なものです。ただし、創業者の求心力が強い時や成長が著しい時など、「問題が表面化していない時」にアイデンティティを問い直すことは少ないでしょう。

CIは、一般的に以下の背景・きっかけで検討する場合が多いです。

  • 組織が大きくなり一体感が失われてきた
  • 事業領域が拡大し、全体を束ねるブランドがあいまいになった
  • 事業統合や合併などがあった
  • 周年など記念となるタイミングがある

ひと言で表すと、「組織に変化が必要な時期」でしょうか。

 組織は環境に適応する「生き物」です。人間と同じように段階的に成長(発展)します。様々な研究者が組織の発展段階をモデル化していますが、複数の論者の視点を採用したリチャード・ダフトさんのモデルを見てみましょう(図1)。図の「踊り場」の時が、組織に変化が必要な時期。アイデンティティを確認するひとつのタイミングと言えます。


CIの検討プロセス

Step1 自己客観視

CIは「自分(自社)は何者か」を明確にすることです。まずは自社のことを客観視しなければいけません。

自己客観視のためには、定量・定性データが必要です。最低限実施したいのは「組織文化の診断」。意思決定の傾向、社員に対する評価や期待の傾向などを、「経営理念や方針等で標榜するもの」(表向き言っていること)と「ありのままの姿」(実際にやっていること)の2つの軸で社員にアンケートをすると良いでしょう。定性データは、社史、トップメッセージなどの「文物」や、お客さまのご意見等を網羅的に参照して集めます。

Step2 自己規定

自己客観視の次は自己規定。「自分とは何者か」の定義付けです。

まずは、自社の固有の能力や強みが何かを考えてみましょう。「ビジネスモデル」「風土」「技術・知識」「製品・サービス」などの枠組みで自社の強みを洗い出します。

次に組織文化に焦点を絞り、過去―現在を比較して思い浮かぶ「変わったもの」「変わらないもの」を洗い出します。出てきたものにはポジティブ・ネガティブ両方あるはずです。ポジティブなものに絞り、自分たちが大切にしてきた価値観を確認します。

Step3 自己変革

自己規定はあくまでも「現在」の姿です。変化に対応するためにCIを検討する場合が多いので、どう変化させるかを考える必要があります。

集めたデータや洗い出した材料をもとに「マインド・アイデンティティ」を明文化します。他社のコーポレートスローガンや経営理念を見ながら考えましょう。社員全員で組織文化をどう変えたいかを考えるため、社員アンケートを再度実施することもあります。現在の組織文化の評価と、未来に向けて変わりたい姿の2軸で尋ねると有効です。

Step4 自己表現

ここまで来てようやく、ロゴなどのいわゆる「CI」(VI)になります。自己変革の象徴として自己表現をします。MIを視覚化したロゴの開発やビジュアルルールの制定(VI)、MIを体現する行動の実践・評価(BI)などです。 自己表現の結果、社員やお客さまの自社に対する評価・ブランドが変化したのかを確認し、手段を適宜見直しながら自己表現を続けていきます。組織が次の発展ステージになり、手段の見直しレベルでは耐えられなくなった段階で、再度、自己客観視、自己規定、自己変革、自己表現のサイクルを回す必要が生じます。


CIの方法

CIは理論的に言えば、理念の浸透・視覚化・体現行動の3つで確立できます。ところが、現実にはこれだけでは足りません。そもそもCIがなぜ必要になったのか、CIの目的や組織ニーズが異なるためです。なんのために自己表現するのか、優先すべきターゲットはあるのか、と言い換えることもできるでしょう。理念の浸透・視覚化・体現行動の3つは当然意識しながらも、組織ニーズに応じた社内外の広報活動を実践し、アイデンティティを確たるものにしましょう(図2)。

広報に関連する基礎知識【第7回】CI(コーポレート・アイデンティティ)

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


総務では、社用車、看板、ユニフォームなど施設や備品を管理していることでしょう。その際に、「ロゴ」を適切に使用するように気を遣っているはずです。一般的にロゴは「CI」と言われますが、総務の引き出しのひとつとして、このCIについて知っておきましょう。


CI=ロゴは間違い?

CIとは「コーポレート・アイデンティティ」の略語です。読んで字のごとく、企業のアイデンティティです。

アイデンティティとは、端的にいえば「自分は何者か」「他との違い」という自己認識です。個人単位でのアイデンティティもあれば、国民としてのアイデンティティもあります。企業(コーポレート)という組織に対してアイデンティティの概念を当てはめたものが「コーポレート・アイデンティティ」です。

一般的に、CIはロゴのことを指します。ところが、ロゴはCIの一部でしかありません。まず、CIの概念を正しく理解しましょう。

CIは、図表1のとおり、「MI」「VI」「BI」の3つで構成されます。それぞれ見ていきましょう。

図表1 CIの構成

MIは、マインド・アイデンティティの略です。企業としての信念と言えるでしょう。経営理念や経営ビジョン、ブランドコンセプトなどがこれに相当します。

VIは、ビジュアル・アイデンティティ。これが一般的にCIと言われているものです。企業の信念をビジュアル化したものです。ロゴやロゴタイプ(文字のデザイン)、社用車やユニフォームなどのデザインルールなど、馴染みがあることでしょう。 BIは、ビヘイビア・アイデンティティと言います。社員の言動、接遇、行動規範など。ビジュアルデザイン以外の対面コミュニケーションの要素です。


ロゴは、会社として大切にしていること(MI)を一瞬で伝えるために、シンボル化したものです。おそらく皆さまの会社のロゴには「このロゴでは、先進性を表しています」など説明があるはずです。会社としての大切な想いをシンボルにしているからこそ、一般的にロゴは厳しい使用ルールがあります。こうした「CIルール」(正しくはVIルール)は厳格なので、社員にとっては面倒くさいと感じがち。MIを感じるもののはずが、単なるルールとして受け止められている場合があります。読者の皆さんの会社ではいかがですか?

いまでは誰もがワープロソフトやプレゼンテーションソフトにロゴのデータをはることができます。社員がロゴの大きさを適当に変えてしまったり、形を変えてしまったりすることがよくあります。正しくないことですが、これが現実でしょう。社員にとって、MIとVIが結びついていないのです。

CIは本来、社員に対してロゴの使用ルールの徹底を求めるだけのものではありません。ロゴの背景にある「MI」の再確認や「BI」の実践を求める必要があります。この意味では、大半の会社はCIのうちのごく一部しか意識できていません。残念ながら、これではコーポレート・アイデンティティの確立につながりにくいです。


CIの再考

CIは1990年代初頭にブームになりました。ブームの当初は、組織文化の革新やコミュニケーション戦略全体の見直しなど、「CI」の本来的な意味に沿って重要性が指摘されCI概念が拡がっていきました。民間企業だけでなく、自治体、大学など幅広くCIの考え方が普及・浸透しました。

ところが、CIの受託は広告会社やデザイン会社を中心に進みました。このことも含めて、発注側にとってアウトプットが目に見えやすい「ロゴ」に、CI概念が矮小化されていったという経緯があります。 近年、経営理念の重要性がたびたび指摘されています。これはまさしく「MI」です。また、経営理念の一環としての行動規範(バリュー)にも注目が集まっています。あるいは、お客さまに対するブランド体験のひとつとして、接客・接遇の重要性が増しています。これはまさしく「BI」です。この意味では、実はCIブームから30年あまりを経て、ようやくCIの3要素が三位一体となってきていると言えるでしょう。


ブランディングの出発点はCI

CIは「アイデンティティ」ですので、「他社との違い」を明確にするものです。前号までに「ブランド」について解説しましたが、ブランドと同じように「差別化」を意味します。そこで、ブランドとCIの概念を簡単に整理しておきましょう(図表2)。 ブランドはお客さまの頭の中にあるものです。この意味で、ブランドの主体は「お客さま」です。一方、CIの主体は「企業」です。ブランドとCIは、主体は異なりますが、「自社を差別化するもの」という意味では共通しています。ところが、自分たちで他社との違いを自己認識できていない場合、お客さまに他社との違いをどう感じていただくかを明確にできません。「ブランディング」の出発点は常にCIなのです。

図表2 ブランドとCIの関係

広報に関連する基礎知識【第1回】広報の仕事とは

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 2017年4月号から2018年3月号までの1年間、総務で広報を兼任する方を対象に、効率的に広報業務を進める戦略の策定方法から、広報実務のポイントをご紹介してきました。今年度は、広報の兼務状況を問わず、まさに総務担当者が知っておくと「引き出し」のひとつになる広報分野の知識やトレンドを、ご紹介していきます。


広報って結局、なにしてるの?

 広報に係る部署は、経営企画部門に含まれることも、管理部門にぶら下がることもあります。総務が広報を兼務することも、経営直轄のこともあります。

 広報は、企業・組織のひとつの「業務」でありながら、学術分野で会社の仕事(いわば事業活動)として研究されてきました。たとえば、広報活動は、学術的には「企業とステークホルダーとの間に、良好な関係を構築・維持する活動」などの定義付けがされています。ただ、ステークホルダーとの関係構築は、営業、人事、総務など、ほとんどの経営活動はこれに帰結してしまいます。現に、多くの会社で広報部門は、マスコミや一般社会との関係構築に係る業務は担っていても、顧客は営業、監督官庁は総務、というように関係構築業務は全社で分掌されています。その意味では、「ステークホルダーとの関係構築」は、会社の仕事として「広報」を捉えてはいるものの、広報部門の業務をうまく説明するものにはなっていません。

 こうした曖昧さがあるためか、経営活動をモデル化したフレームワークで、広報活動が含まれることはほとんどありません。たとえば、経営管理活動の種類やプロセスを整理したファヨールや、ポーターの「バリューチェーン」は有名です。総務に関しては、ファヨールは「保全活動」、ポーターは「全般管理(インフラ)」に位置づけていますが、広報活動は一切言及されていません。ファヨールの時代は広報が確立していなかったと見ることもできますが、ポーターにとっては「眼中」にも入っていなかったか、あるいは、経営企画業務と同じように、事業活動というより経営と一体のものだと認識されたのかもしれません。

 広報が大事だというのは肌感覚で誰もが実感します。企業・組織の規模が一定になれば必ず何らかの広報業務が経営活動に組み込まれたり、部署ができたりします。総務が広報と連携したり、総務が広報を兼務したりすることもあるのに、どうにも業務の位置づけが掴みにくい状態では、連携や実務を進めにくいですね。まずは広報の位置づけを、総務の「引き出し」として知っておきましょう。


広報業務の位置づけ

企業不祥事研究を行う井上泉氏は、近著『企業不祥事の研究』で、経営活動のプロセスを大きく「意思決定」「情報伝達」「事業活動」「情報公開」の4つに分解しています。これは、総務、研究開発、営業といった活動の種類を整理するのではなく、経営の実行プロセスを時系列で整理したものと言えるでしょう。経営そのものの流れがとてもシンプルに整理されており、積極的な情報開示が求められる現代にフィットします。広報業務が経営にどう関連付いているのかも、理解しやすい枠組みです(図)。

経営の4つのプロセスで見た広報業務

 経営における意思決定は、株主総会や取締役会、各種委員会などで行われます。広報は、外部情報の収集など広聴も行っています。広聴業務とはまさに「広く聴く」こと。アンケートだったりヒアリングだったりソーシャルメディアの書き込みだったり、一般社会の代弁者としてマスコミの声を聴いたりします。外部から情報を受信し、経営にフィードバックする業務を行っています。

 また、経営が意思決定したことは、組織内部に情報伝達しない限り、実行されません。社内広報業務はここに位置づけることができます。方策としては社内報やイントラ、対面でのワークショップなどが挙げられます。

 事業活動の断面では、成果が最大化するように、いわゆるPR活動やHPでの情報発信など社外広報業務を実施しています。ここでは知名度の向上や信頼獲得などが成果として期待され、各事業活動の実行を側面支援しています。

 情報公開では、(主管部が広報ではなく総務やIRのこともありますが)財務・非財務の報告業務やステークホルダーとのダイアログ、渉外、何か不祥事が起きたときは誠実で適切な情報開示を行っています。


 この枠組みでみると、広報業務は経営活動の全プロセスに密接に関わっていることがイメージできます。広報業務は、経営が企画したことの実行力・実現可能性を上げる仕事をしていると言えます。組織規模が小さければ事業活動の一部として対外的なPRをしているだけで十分かもしれませんが、組織が大きくなるほど意思決定のために収集すべき情報は多くなり、組織内部への密な情報伝達が必要になり、社会的責任を果たすための情報公開も必要になります。

 広報は、目的や目指す活動といったん切り離して、経営の実行プロセスに沿って位置づけていかないと、何をしているのか理解が進みにくいのです。もし総務が広報を兼務している場合は、経営からは、事務業務でなく企画業務に近い期待値があるはずですので、業務遂行で留意しましょう。総務で広報と連携が必要な場面があったら、どのプロセスでの連携が期待されているのかを適切にとらえていきましょう。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-11 ホームページ活用のポイント

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


ホームページ活用のポイント

今号では、ホームページ活用のポイントをご紹介します。ホームページの利活用は、販売促進が中心になることも多いですが、この連載は総務の方が広報業務を兼任する場合を想定しているため、マーケティングサイトではなく、企業情報を発信するサイトについて扱います。

ホームページのトレンドは、大きく以下の3つがあります。

1 ビジュアル化

2 社内広報とのボーダレス化

3 マネジメント能力の訴求

 それぞれご紹介しましょう。


ビジュアル化はさらに進む

11月号でお知らせしたとおり、情報の受け手は、情報接触環境が激変し集中力の持続時間が短くなっています。一瞬で多くの情報を伝達するために、ホームページのビジュアル化が進んでいます。たとえば従来、「リンク」はテキスト形式(文字リンク)が中心でしたが、画像形式が多くなっています。動画も多用されるようになりました。

ビジュアル対応が必要になる一方、多くの企業が戸惑うのは「手持ちの写真が圧倒的に少ない」ことです。たとえば、ホームページのリニューアルで「使える写真」が少ないと、著作権フリーの写真素材に頼りがち。ところが、業種・業態にフィットする著作権フリーの写真素材は、競合も似た素材を使用していることも。競合とまったく同じ写真を使ってしまうという失敗例も減りません。

世の中の情報量は今後も増え続けますので、人間の集中力の持続時間はさらに短くなっていくことでしょう。ホームページのビジュアル対応がさらに必要になることは間違いありません。普段からオリジナルの写真をストックしておきましょう。カメラマンに依頼する場合は、必ず利用媒体を無制限にして買い取っておきましょう。多少コストが上がりますが、写真は多いほど用途も発想も拡がります。あらゆる顧客接点で自社理解が進みやすくなる投資と考えれば安いものです。


社内広報とのボーダレス化

近年、社員インタビューや開発秘話などを、継続的に「ストーリーコンテンツ」として発信する企業が増えています。これまで企業のホームページは、ニュースリリースや新着情報を更新するだけで、コンテンツが追加されることはめったにありませんでした。ところが、数年前から採用サイトで「プロジェクトストーリー」を発信するアプローチが流行り、この技法が企業サイト全体に拡がってきています。実は、情報の受け手は、経営者や広報よりも「社員が話すこと」を一番信用するという調査結果もあります。「誰が語るか」によって伝わり方が異なるので、社員をメディアとして活用する企業が多いのです。

ところが、こうしたストーリーコンテンツは、総じて閲覧数が伸びにくくなってきています。「ユーザーが飽きた」「ユーザーはその会社の思いや取り組みに興味を持ち続けるほど暇ではない」というのが現実です。労力やコストのわりに「社外広報」としての効果を実感しにくくなってきています。

こうした取り組みを進める企業からは、別軸の評価がよく聞かれます。社員のモチベーションアップにつながるというものです。会社の顔として登場すれば仕事に対する責任感も増す。ホームページの活用が進んでいる企業ほど、ホームページを「社内を意識した社外広報ツール」ととらえるようになってきています。兼任広報にとっては社外広報と社内広報を一体的にできるので有効でしょう。


マネジメント能力の訴求

昨年(2016年)から今年(2017年)にかけて「ESG情報開示」がブームのようになり、上場企業の多くが「統合報告書」の発行に踏み切りました。統合報告書のコンテンツを生かして、ホームページを見直す企業もあります。ESG情報開示は必ずしも上場している大手企業だけの問題ではなく、近い将来、非上場の会社のホームページでの情報発信にも影響が生じることでしょう。

そもそもESG情報開示とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったものです。情報開示の対象は投資家です。投資家が中長期的な時間軸で企業の成長性を見極めるためには、その企業が地球規模の視座で環境のリスクと機会をどう認識し対応しているか、人類社会の視座で社会課題のリスクと機会をどう認識し対応しているか、企業の視座で経営陣が企業経営の能力を持っているかを評価できる材料が必要です。中長期の投資判断に資する情報を開示するものが「ESG情報開示」です。

大手企業がESG情報開示を進めるほど、投資家以外もその情報を活用するようになります。たとえばグローバル企業ほど様々な国での法的規制に沿って、サプライチェーン全体で、外注先を含めた環境や社会問題への対応が問われるようになっています。このため、外注先を比較検討する場合、仮に同じような提案内容だったとき、環境・社会問題への対応状況も重要な後押し材料になります。長期投資を呼び込みたい大手企業だけでなく、大手からの請負が多い中小企業にとっても切実な問題になっていくことでしょう。

もちろん、上場企業と同じレベルでESG情報開示が必要という意味ではありません。ESG情報開示では、ESGに関連したデータと「マネジメント能力」が問われます。マネジメント能力とは、経営環境認識とマネジメントサイクル(PDCA)に集約されます。だからこそ、マネジメントサイクルを回していることが理解できる状態にする必要があります。環境対応、従業員の育成や多様性尊重、調達先とのパートナーシップ、お客さまとのコミュニケーション、あるいはコーポレート・ガバナンス等々、過去から現在に至るまで取り組みをどう発展させてきているのか、時間軸を意識して対応の高度化を訴求すると良いです。 ありがたいことに大手企業の統合報告書でたくさんヒントがあります。大手の情報開示を積極的に「マネ」しましょう。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-10 社内広報の基本

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第10回 社内広報の基本として大切なこと

前号から広報実務の基本をご紹介しています。今号はインターナル・コミュニケーション(社内広報)に関わる基本的な考え方をご案内します。


経営理念の社内浸透が進まない・・・

インターナル・コミュニケーションの目的は、経営理念の浸透、社内コミュニケーションの活性化、社員の定着率向上など、組織が置かれている状況によって様々です。手段に関しては、従来は「社内報」が中核となっていましたが、パンフレット、イントラ、社内テレビ、社内イベント・ワークショップなど多様化しています。

昨今、インターナル・コミュニケーションの領域で非常に多くの方からいただくお悩みが「経営理念やブランドの社内浸透がうまく進まない」ことです。今号ではこれを題材に社内広報の基本として大切なことを考えていきましょう。

経営理念は企業の目指す姿として、あらゆる事業活動の判断基準になるものです。すべての社員の誰にとっても不可欠なもののはずなのに、なぜ社内浸透がうまく進まないのでしょうか。 経営理念の浸透は、社内報を中核にしながら、浸透冊子をつくったり、唱和したり、研修を行ったり、ポスターとして掲出したり、様々なアプローチで実施されます。社内ワークショップをするケースもあるでしょう。社員の人事評価に経営理念に関わる項目を盛り込んだり、経営理念に基づいて社員が相互に褒めあう活動を実施したりする企業もあるようです。何をもって経営理念が浸透したとするのか、定義の問題もありますが、様々な取り組みをしていても、残念ながら経営理念が浸透している実感を持てない社内広報担当者が多いです。


伝達と浸透は違う

経営理念やブランドの社内浸透がうまくいかない場合、「経営理念の『伝達』にとどまっている」または「社員を一律的にマスでとらえてしまっている」のいずれかの解決が突破口になることが多くあります。

まずは「伝達にとどまっている」ことについて考えていきましょう。

伝達と浸透は違います。たとえば「経営理念ができました」と社内周知することは伝達です。伝達とは、事実が誤解無く相手に伝わること。情報の受け手が「余計な」解釈をすることがなく理解できた状態が理想と言えます。分かりやすい例を挙げれば、事務文書・連絡文書です。できるだけ事実だけを書き、誤解されない文書が優れたものとされます。

一方で浸透とは、情報の受け手が共感・共鳴し、自らの解釈を積極的に加えている状態を指します。心が揺さぶられ、自分ならどうするのか等を考えている状態が理想です。

経営理念そのものが共感・共鳴されやすい表現だった場合は、伝達するだけでも浸透の初期段階(共感・共鳴)をクリアできるでしょう。ところが、経営理念は得てして抽象度が高く、人によってはイメージが沸きません。一生懸命、ツールをつくったり、社内報で紹介したりしても伝達にとどまっているケースもあります。浸透するには、自分なりに考えてもらったり、ストーリーテリングと言われる物語形式にして表現したりして、心を揺さぶることを目指す必要があるのです。 まずは「伝達」にとどまっていないか、活動を振り返ってみましょう。もし、伝達アプローチばかりの場合は、社員は経営理念の浸透活動を「押しつけ」だと感じているかもしれませんよ。


共鳴の仕方は人によって違う

共感・共鳴されやすいように工夫しても、共感がなかなか拡がらない場合もあります。この理由は、実はとても単純です。抽象度が高い経営理念やブランドを、抽象度が高いままに共感できる人は、残念ながら非常に少ないのです。経験則では、組織の構成員の5%程度です。

少し概念的になってしまいますが、図表をご覧ください。行動と思考のスタイルを4象限に整理したものです。

図表 行動スタイルと思考スタイルで整理した社員のタイプ

抽象概念に共感でき、かつ能動的に行動できるのは右上の能動ー抽象層です。この層は「未来創造型人材」と言えます。問題意識が高く主体的に行動し、次々に新たな問題自体を創り出して解決していくタイプです。

一方、抽象概念そのものに共感しにくい人もいます。能動的かつ主体的で優秀ではあるものの、具体的な情報を好み、目の前にある問題を解決していくことに優れている右下層「問題解決型人材」もいます。この層には、「組織はいまこういう課題を抱えていて、その問題を解決する手段として経営理念があり、業務上の問題解決等の改善とも結びついている」というように、経営理念を論理的かつ手段とした文脈に「翻訳」をしていかないと、共感・共鳴されにくいのです。

左上の受動―抽象層は「フォロワー型人材」であり、未来創造型人材に憧れてその人たちに共感・共鳴しやすい人。リーダータイプの社員の立ち居振る舞いをあこがれの眼差しで見ますので、リーダー層をロールモデルとして社内PRすると良いでしょう。

左下の受動―具象層は「マニュアル型人材」です。日々の業務マニュアルにまで落とし込むことではじめて経営理念って大事ですねと実感できるタイプです。

このように、経営理念を浸透するためには、浸透対象である社員の共感・共鳴の仕方自体が多様であることを理解し、意図的に文脈やアプローチを変えて「経営理念を使い倒す」必要があるのです。

今回は経営理念を中心に紹介しましたが、他の社内広報活動でも同じです。誤解なく伝達すべき情報なのか、社員の解釈を引き出し浸透すべき情報なのか、浸透すべき情報の場合には社員の共感・共鳴の仕方が異なることを忘れていないか、再確認することで、必ず社内広報の質は上がります。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-9 プレスリリースの基本

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第9回プレスリリースの基本

今回から、実務に近いお話をご紹介していきます。今回は、対外広報活動の基本中の基本である「プレスリリース」です。


プレスリリースの原理原則

プレスリリースで一番意識しなければいけない「原理原則」はなんでしょうか。

文字にすると当たり前のことのように見えてしまいますが、「記者が取材・報道を検討するための資料」だということです。
もう少し企業側の目線で表現すると「記者に取材・報道を検討してもらうための提案書」です。この原理原則を意識できれば、プレスリリースの成功確率は格段に良くなります。

プレスリリースは、得てして会社が言いたいこと・取り上げて欲しいことを発信するものになりがちです。
業務・活動の定義としては間違っていませんが、記者が取材・報道する価値があると思わない限りは、何の意味も持ち得ないものです。

最近では、企業サイトで、プレスリリースをそのまま発信することができます。実はここに思わぬ落とし穴があります。


プレスリリースとニュースリリースは違う

ホームページは制約なく情報発信できるので、多くの企業はプレスリリースとニュースリリースを同じものとして扱い、これを掲載しています。
一見すると作業効率が良いようですが、かえって成果が出にくく生産性を悪化させている場合もあります。

ホームページに載せるリリースは、自社のニュースをお知らせするものです。
文字通り「ニュースリリース」として社会やお客様に何でも発信できます。

一方、「プレスリリース」は記者のための提案書。必ずしも「ニュースリリース」と同じにする必要はありませんし、ホームページに載せる必要もありません。
記者に対する提案書ですので、営業活動の提案書と同じように、外部に広く一律的に公開する情報とは性質が異なるのです。

もちろん、最近では記者もホームページから情報を集めますので、必ずプレスリリースとニュースリリースを分けて、プレスリリースはホームページに載せるべきではないという主張ではありません。
ここでは、原理原則を再確認できるよう、2つの違いを際立たせてご説明しています。


段ボール3箱分の提案書

記者が取材・報道したいことは、会社が言いたい・取り上げて欲しいことと異なります。
ある全国紙の経済部長曰く、経済部には毎日「段ボール3箱分」のプレスリリースが届くそうです。見ないで捨てる記者もいるようですが、届いたものはすべて「目だけは通す」記者がほとんど。
段ボール3箱の中からあなたの会社の情報を目に留めてもらうためには、自分たちが発信したいことを自分たち目線でまとめている状態では難しいですね。

幸い、プレスリリースが記者の目にとまり、記者が取材してくれたとしましょう。
記者は取材しても記事すら書かないこともありますし、記事を書いたとしても、たくさんの記者が毎日記事を書いていますので、記事がそのまま載るとは限りません。
記者が書いた記事を全部そのまま載せようとすると、新聞は毎日3倍のページ数になると言います。
記者が書いた記事も、情報価値判断の競争を勝ち抜いて、できるだけ多くの記事を載せるために優先順位が下がる説明や文章が削られて、情報価値が極限まで高められた状態になっているのです。テレビの報道も同じで、テレビの場合は報道番組自体が少なく、さらに「ストレートニュース」と言われる「ニュース」はもっと少ないです。


とにかく新聞・テレビを研究する

プレスリリースの書き方自体は、色々な広報講座がありますし、本もたくさん出ています。
A4一枚にまとめて、タイトルがキャッチーで、概要説明があって、問い合わせ先を明記し、写真を使うべき、というテンプレートの重要性は否定しません。
記者にとって必要な情報・項目はちゃんと載せるべき。それらの学習は別に譲り、ここではより基本的な考え方と作業をご紹介します。

これらの標準フォーマットは、一律に広く発信する際に拠り所にすべきものです。
記者にとっては、必ずしも「標準的プレスリリース」でなくても構いません。
私が広報実務をしていた時、記者の反応が一番良かったのは、リリースした情報をどういう切り口で扱えば情報価値が高まるのかを助言したメモ。
そのネタの業界内での新しさ・珍しさは具体的にどのようなところにあるのか、業界内外での他社動向、記事化するなら単発記事が良いのか他社動向も取材したまとめ記事にした方が良いのか、読者目線ではどのようなまとめ記事だと価値があるのか等々、記者のためにメモ書きを作成していました。

たとえば、あなたが営業される時、営業担当者が自社の良いところばかりを主張して、こちらのニーズも悩みも確認せずに一方的に押し売りをされたら、その会社自体の印象が悪くなりますよね?
記者にとって意味のないプレスリリースは、押し売り営業と一緒。
プレスリリースは、記者が取材・報道を検討するための資料ですので、最低限、どの媒体・番組のどの欄・コーナーでどのような切り口なら取材・報道される可能性があるのかを、ちゃんと研究したうえで、作成に取りかかるべきです。

プレスリリースは、出したい情報を標準的なテンプレートに沿って幅広に発信するという押し売り営業ではなく、媒体を研究し、取材・報道してくれそうな「切り口」を見出したうえで、記者に取材・報道を提案するものです。
兼任広報だからこそ、1回のプレスリリースの成功確率を上げたい。変にラクをしようとして中途半端なニュースリリース兼プレスリリースを出しても、時間も労力もムダになってしまいます。

毎日の新聞・テレビの見方を変えて、なぜこのネタが取り上げられているのかを考える媒体研究をすれば、提案の「切り口」はたくさん見えてきます。単なる情報開示や情報発信とプレスリリースは同義ではありません。原理原則としてこの考え方を起点にできれば、仮に同じ作業をしていてもプレスリリースの掲載確率は必ず上がります。

 

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-8 広報活動の実践にあたり

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第8回広報活動の実践にあたり

これまで、兼任広報の方に向けて、広報業務を効率化するための計画づくりや広報ネタの発掘法をご紹介してきました。あとは「実践あるのみ」。パブリシティ活動(プレスリリース等)やホームページ、社内広報など広報活動の実践にかかわるポイントを今後ご紹介していきますが、今号では、個別の活動をご紹介する前に少し俯瞰して、近年の広報活動の変化をお伝えします。


従来の広報はマスコミ対応中心

経済広報センターが行っている『企業の広報活動に関する意識実態調査』では、広報部門の担当業務を尋ねています。調査対象・回答企業は大手かつ専任部署がほとんどですので、兼任広報の方にとっては少し縁遠く感じるかもしれませんが、近年の変化を読み解く材料としてご紹介します。

この調査の結果では、広報部門の担当業務は、報道対応や社内広報がほとんど。これに危機管理、広告・宣伝活動、社外情報の収集が続いています。


目的が高度化し手段も複雑化

08年と14年の結果を比較してみましょう。報道対応はあまり変動していません。一方、社内広報、危機管理、ブランド戦略の推進、CSR対応は増えています。

同調査で自社ホームページの目的を尋ねた結果では、「自社製品・商品の販売、取引の拡大に役立つ」といった販促支援は減少し、「企業理念やスタンスを伝えること」が増加を続けています。

広報部門の業務が、従来の報道対応(マスメディアとの関係構築)から「企業ブランディング」に高度化していることが分かります。


情報への接触スタイルの変化

広報業務が企業ブランディングに高度化する背景には、ホームページやSNSなどデジタル領域で、自社が独自に情報発信できるツールが登場したことと、この数年でマスメディアの影響力低下が顕著になってきていることの2点があります。後者を補足します。

NHK放送文化研究所の「2015年国民生活時間調査」では、テレビ、新聞に接する人が急激に減り始めていることが確認できます。新聞はとくに顕著で、全回答者のうち、1日のうち新聞に15分以上接する人の割合は、95年には約半数の52%でしたが、2015年には33%に減少。テレビも、新聞より割合が高いものの、92%から85%に低下しています。これは、言わずもがな、スマートフォンの利用者増などインターネット環境の変化によるものです。

この影響で、実は人間の「注意力」も低下しています。米国のナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジカル・インフォメーションの調査によると、人間の注意力の平均持続時間は00年には12秒でしたが、13年には8秒に短くなっています。


環境変化にあわせた活動を

広報担当者は、こうした環境変化を意識していく必要があります。

社外広報に関しては、報道対応中心の頃、広報活動の評価者は、実務上は「記者」だけでした。良い記事が出ればそれだけインパクトが大きかったので、良い記事を出すために記者との関係構築に必死でした。時として社内事情より記者対応が優先されることもありました。

一方、いまではブランド訴求のために自社メディアの重要性が増しています。自社メディアでの情報発信の評価者は、記者ではなく「社員」や「お客さま」です。社外に発信するニュースバリューがあるかという判断基準だけでなく、社員のモチベーションアップやお客さまの評価獲得なども判断軸に加えていくべきです。

また、「注意力の平均持続時間の低下」は、社内外のすべての広報活動の変化を求めています。たとえば会社案内やホームページの「ご挨拶」も長文では読みません。インパクトのある写真と、お伝えしたいことをぎゅっと凝縮したコピーにまとめ上げていく必要があります。

プレスリリースでも、説明の要素は極力省き、取材して欲しいのか、告知して欲しいのか、新製品・サービス等の情報なのか、視覚的に数秒で記者に伝わるようにしなければいけません。

社内報も同様。テキスト中心ではなく、図解など目で見て分かるように工夫するビジュアル・コミュニケーションの重要性が増し続けています。

ところが、ビジュアル中心になると、どうしても「表面的」になりがち。だからこそ、社内広報で言えば「対話」などリアルなコミュニケーションの重要性が増し、社外広報でも具体的なストーリーが一方で必要になっています。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-7 広報ネタの発想法②

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第7回PRネタの発想法②

PRネタを見付ける考え方や発掘方法をは、以下の3つがあります。

  1. 発想法を活用する
  2. 埋もれているネタを見つける
  3. ネタをひねり出す

このうち、「1.発想法を活用する」は先月号でご紹介しました。今月は、2と3をご案内します。


埋もれているネタを見つける

埋もれているネタを探す最重要ツールはイントラネットです。

多くの会社で、イントラネットを導入していることでしょう。
イントラネットは、社員が社内の人に知って欲しいと思って多くの情報が掲載されています。
ネタの原石がたくさん。
閲覧権限を有する範囲の情報は、必ず「すべて」に目を通すべきです。
日々の仕事に追われて「時間があるときに見よう」ではなく、毎日、時間を決めてすべてに目を通しましょう。

部門ごとに閲覧権限が限定されていて情報にアクセスしにくい場合は、閲覧権限の付与を該当部門と交渉しましょう。

該当部門には、「社内外のPRネタになるのかを確認したい。勝手に社内外に発信するようなことはしないし、必ず事前に相談する」などと言えば、意外とすんなりとOKをもらえるものです。

情報のアクセス制限は、情報管理を徹底するために行われます。
多くの社員が、必ずしも業務上必要でない情報に接触できる状態は、情報漏えいの可能性が増してしまいます。
逆に言えば、広報の仕事は、多くの情報にアクセスできないと、何も始まりません。
業務上必要なのですから、正々堂々とアクセス権限を要求しましょう(もちろん社内ルールに則って手続きをしたり、理由書のようなものを作成してマネジャーに調整してもらったりする等の工夫は必要です)。

イントラ自体が情報共有ツールとして活用されていない、あるいはイントラを導入していない場合は、稟議や各種会議での審議・決裁事項を確認しましょう。


社内ぶらり歩き

イントラや稟議等の情報から、発信できそうなネタがいくつか見つかったとしましょう。

イントラであれば投稿者、稟議や会議情報であれば起案者や報告者が「情報源」になります。
ところが、実際には「よさそうなネタだな」と思っても、全部のネタを社内取材することは時間・労力を要して困難です。
また、社内取材に「及び腰」になってしまうこともあるでしょう。

そこでおすすめしたいのは、「社内をぶらつく」ことです。

情報源を頭の中に入れておき、食堂や廊下などオフィス内の至る所をぶらぶらします。

担当者とすれ違うたびに、「あの話、ネタになりそうですね。珍しいんですか?」などと話しかけていきます。

反応を見極めながら、相手が社外発信に対して乗り気であれば「詳しく聞かせてください。あとで日程調整のご連絡をします」と、ヒアリングに持ち込みましょう。

社内広報・社外広報問わず確実にネタを拾っていくことができます。
立ち話の際に、相手の反応や話の内容から、ネタになりえるのか取捨選択をしていくこともできます。

いわゆる「足を使う」ことが大切です。


社内アンケートも有効

兼任広報で時間がなく、こうしたネタ掘り活動をできない場合は、社内アンケートをして、「PRネタの有無」を聞いてしまいましょう。

社内広報であれば取り上げてほしいこと、社外広報であれば発信してほしいことをアンケートで尋ねます。
プロの新聞社や専門雑誌でも、企業向けにアンケートを実施して、その回答内容から取材先を固めていくこともあります。
大手企業であれば、働き方改革、ダイバーシティの取り組み等について、媒体からアンケートが来ることも多いことでしょう。
それと同じです。

社内アンケートをすると、数人でも提案してくれる人はいます。

提案してくれた人には、仮に「これはネタにならない・・」という提案内容だったとしても、必ずヒアリングをしましょう。
接点を持っておけば、その人の所属部署や知人などのネットワークを活用しやすくなるからです。

こうした「とりあえず社内アンケート」は、広報兼務者にとって、手っ取り早く情報が集まり社内人脈も拡がるので有効です。


PRネタをひねり出す

社内アンケートを一工夫することで、PRネタを「ひねり出す」こともできます。

とくに、広報に力を入れてこなかった会社の場合、「何かネタありませんか?」と尋ねても、社員の側はいったい何がネタになるのかイメージがわきにくいこともあります。

そこで、競合他社のプレスリリースや露出状況、ホームページコンテンツなどを見てもらいながら、「似たようなネタはありませんか」「もっと進んでいる取り組みはありませんか」という尋ね方をします

すると、より具体的で焦点が絞られたPRネタがたくさん出てきます。

カンの良い人は、競合と自社との違いを踏まえて、ネタの切り口をどうすべきかまで提案してくれます。

経験則では、企画系の部署の人が、切り口も含めた提案をしてくれる傾向があるように感じます。

企画系の人は、企画が実践されて成果が出て評価されますので、広報のためにネタを提供するのではなく、自分の成果創出につなげるために「広報を使う」という発想に結び付きやすいのだろうと思います。

こうしたネタのひねり出しは、丁寧な競合調査が必須。

この競合調査だけでも広報のヒントも多く得られます。

ぜひ実践していただきたいアプローチです。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-6 広報ネタの発想法①

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第6回広報ネタの発想法①

前号までに、広報兼任の方が効率重視の広報戦略を考える方法をご紹介してきました。ところが、「そもそも広報するネタがない」という悩みもありませんか。兼任では時間・労力に限りもあり、ネタの掘り起こしまでなかなか手が回りません。そこで、今号から、広報ネタの考え方や発掘方法をご紹介します。


あなたもネタハンターになれる

私は、ある組織で広報実務を担当していたとき、組織内で「ネタハンター」と呼ばれていました。ネタを嗅ぎつける能力を有しているという意味です。記者の仕事をし、PR会社にもいたので、経験上、その情報が広報ネタになり得るのかどうか、直感的に判断しやすかったのは確かです。

実務を離れ、コンサルテーションや講師を行う立場に変わってから、自分自身がネタハンターと呼ばれるまでに何をしたのかを振り返って整理しました。その結果、こうした「ネタハント」業務は、一定の標準化が可能で、スキルとして獲得可能な技能だと考えています。

ネタハントの方法は、3つあります。

  1. 発想法を活用する=何がネタになり得るのかを習得する
  2. 埋もれているネタを見つける=イントラなどの社内公開情報を基にアタリを付けて足を使って掘り起こす
  3. ネタをひねり出す=競合他社の動向を調べて、同じようなネタがないかを尋ねまわる

今回は「1.発想法」について詳しくご紹介しましょう。


広報ネタの発掘=発想法を活用する


「経営資源」こそが広報ネタになり得るものです。

経営資源は、①ヒト、②モノ、③カネ、④情報の4つを指すことが一般的です。

これに沿ってネタを考えていく「発想法」が、一番、ネタの棚卸が容易です。ネタ発掘のセンスを磨いていくことにもつながりますので、ぜひ実践してみてください。


ヒトをネタにする
~ヒトを起点に切り口を考える


分かりやすいのば「経営トップ」。トップが語ればプライベートでもネタになります。

トップ以外では、社員の属性から考えます。たとえば、職位では新人、中堅、係長層、課長層、部長層、経営層があります。職歴では、3年目、5年目、10年目など。ほかにも年代、所属部署、役割(開発担当者、OJTリーダー)、プライベートの状況(結婚前、子育て中、介護中)等々、様々な属性があります。属性を並べただけでも、何が発信可能かを、考えやすくなります。

たとえば、子育てと仕事を両立している社員がいるなら、そのヒトを中心にして、周囲のサポートや会社の制度などを社内外に発信できます。

課長層に焦点をあてるなら、働き方改革など注目されやすいテーマについて、経営の要求と現場の現実に葛藤しながらも成果を出した人がいるなら、社内広報はもちろん、社外広報でもテレビ取材の働きかけさえ可能でしょう。

ベテラン社員に焦点をあてるのであれば、業界内で卓越した技術を有する人はいませんか? その人が技術を積み上げてきたエピソードも良いですし、技能標準化のためにIoT化も進めているようであれば、社外広報ネタにも発展できるはずです。


モノをネタにする
~情報価値を上げることに注力する


いわゆる新製品・新サービス情報などです。ところが、モノの情報はあふれているだけに、単に「新しい」と訴求しても注目されにくい。情報価値を高めるように加工していくことが必要です。

この場合、以下のような「切り口」を見出していくと情報価値が高まります。

  • 新奇=新しいだけでなく、珍しい部分に焦点をあてる
  • 時流=便乗できる流行があるなら便乗
  • 共同=他社との協力関係(提携等はもちろん、ウィンウィンの取り組みなど)
  • 実績=上市から●年、シェア●%達成等
  • 季節=四季はもちろん、入社、株主総会、異動など
  • 限定=このエリアでは、この業界では、この部門では等
  • 実利=おトク、使える、役立つ
  • ビジュアル=絵になる写真、目で見て分かる 等

上記の切り口の他にも、「モノを訴求しながらヒトを素材とする」ことも可能です。
たとえば開発担当者に焦点をあてる、開発から販売までのサプライチェーンに関わるヒトを紹介する、モノを使用しているお客さまに登場いただく等がすぐに浮かぶのではないでしょうか。


カネをネタにする
~おカネの話を堂々とする


経営計画や事業戦略は社内広報ネタにしやすいです。社外広報でも有効です。ただし、上場していない場合は、どこまで何を出すのかという議論が必要になることでしょう。

おカネ周りで、意外と埋もれがちなのは、生産性向上やコスト削減の取り組み。

専門紙誌の多くはこうしたネタは大好物です。もし、生産性向上の取り組みをしていて、社内報で紹介したことがあるなら、その内容を記者に情報提供するだけでも、取材してくれることでしょう。HPコンテンツとしても訴求力があります。お客さまから見れば「創意工夫ができる会社」「できるだけ安く提供しようと努力している会社」という評価につながりやすいです。おカネの話を堂々としましょう。


情報をネタにする


実は、自社がもっている「情報」もネタにできます。もちろん、保有している顧客情報をそのまま出すべきというような意味ではありません。

たとえば、テレビの特集企画で飲食店や美容などサービス業で「来店客が増えている」というようなデータを目にすることはありませんか? 自社が持つデータを広報ネタにできます。

生産財であれば、地域別・事業別の売上構成の変化など公表データから、自社が属する市場自体の変化など「業界情報」に置き換えて発信することも可能でしょう。

とくに、業界全体を語る・業界動向を解説するような情報を発信すると、リーディングカンパニーという印象づけができます(競合他社の論評は避けます)。大手の持株会社やグループ会社のホームページでは、こうしたコンテンツの発信を進めている会社も出てきています。

このように「情報」も社内外に発信可能なネタにできます。

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