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広報スキルアップ講座 調べる力

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

前回までに4回にわたって広報で必要な「文章力」をご紹介しました。今回は「調べる力」です。

広報と「調べる」こと

広報の仕事では、「調べる」を日常的にしています。たとえば、社内外の情報発信のネタ探し。日々人脈を拡げたり、イントラネットを確認したり、広報担当者はネタ探しに余念がないことでしょう。ホームページ関しても、ユーザーのアクセス状況を調べて課題を見つけたり、他社の表現方法を調べて参考にしたりしているのではないでしょうか。

このように、広報の仕事では「調べる」ことが成果創出の下支えになっています。

優秀な広報パーソンの調査力

 仕事柄、多くの広報パーソンと接します。記者から信頼されたり、社内でキーマンとの人脈を豊富に持っていたり、自然と情報が集まってくるような優秀な広報パーソンは「調べる力」が備わっていることが特徴です。

 報道対応業務を例にしてご説明しましょう。

 記者は、先輩・上司から「10を取材して1を書け」と教え込まれます。できるだけ多くの取材をして、取材した成果を全部書くのではなく、凝縮して良質な記事にまとめるべき、という心構えです。新聞では、その日に記者全員が書いた記事を全部載せようとすると、新聞のページ数は3倍程度になると言われます。記者が書いた記事の中から載せるべき記事を当番デスクが厳選し、厳選した記事に関しても余計な文章を削ぎ落とす作業をします。記者が10を取材して1を書いた記事は、載らない場合もあるし、1からさらに凝縮された記事になって、新聞に載っています。

 優秀な広報パーソンの調べる力の話に戻りましょう。優秀な広報パーソンは、記者が10を取材して1を書くことを理解しているため、10を取材してもらうための準備をしっかりとします。準備は、広報担当者が100を調べて10の情報を提供できるようにするものです。もちろん、あくまでも心構えの話であり、本当に記者の10倍の労力をかけるべきだという趣旨ではありません。

 たとえば記者から取材依頼があったとき、その記者が過去にどのような記事を書いていたか、取材依頼があったテーマの最近の報道傾向はどうか、国や専門機関で参考になるようなデータがないか、ほかの媒体ですでに事例として取り上げられているような企業はないか、取材テーマに関連する研究者はいないか、周辺情報をきっちりと調べます。当然、社内取材も同様です。誰が取材対応できそうか、過去にどのような取り組みがあったのか、何をどこまで話すことができそうか。

 マクロからミクロまで徹底的に調べて、記者がよい記事を書けるように準備をして、記者に情報提供をします。記者も人間ですので、取材先から親切な対応、貴重な情報をもらえると、その会社のことをできるだけ良く書こう、一行でも多く書いてあげたいという気持ちになります。結果的に良い記事を書いてもらいやすくなるのです。

 取材依頼に限らず、プレスリリースを書く時も調べる力が大事です。プレスリリースのネタについて、記事データベースを使って最近の報道内容や報道量の傾向を確認する。他社で似たような内容のリリースがないかを調べる。学術研究の分野で関連するデータや論文がないかを調べる。こうした作業を徹底することで、自社のネタの特徴(他との違い)が明確になり、訴求すべきポイントや付加すべき情報が見えてきます。主管部から持ち込まれたネタをただ単純にプレスリリースにして発信するようでは、成果は期待できません。

 このように、広報の仕事は、調べることを常に行っています。調べることができない広報担当者は、残念ながら伸びしろがないと言ってもよいぐらいでしょう。

調べる力の磨き方

 では、こうした調べる力は、どのようにして身に付けたらよいのでしょうか。

 一般的に、何かを調べるとき、調査の目的や対象を明確にしたうえで調べはじめます。ところが、広報の仕事での「調べる力」は、何を調べたいのかあいまいなままに走らなければいけない、まるで砂漠の中をさまようような調査をしなければいけないことが多々あります。ある程度調べて情報が集まった段階で初めて、調べたかったことの輪郭が見えてきます。まるで、文系の学術論文の基礎調査のようなものです。

 たとえば、統合報告書の作成担当者となり、昨今話題の「ESG情報開示」を意識したものにしたいと考えていたとしましょう。最初は、他社が統合報告書でどのようなESG情報開示をしているかといった関心のレベルのはずです。この場合は、統合報告書の外部評価が高い企業や、業績ランキングの上位企業から順番に統合報告書の内容をざっと見て、企画の方向性を固めるような調査になるでしょう。インプットの材料を多く得るためには、網羅的に調べるしかないのです。

 制作過程に入り、各ページの情報要素や表現を考える段階になると、もっと粒度の細かい調査が必要になります。たとえばガバナンスの情報開示に絡んで次世代リーダー育成の話を扱いたいと考えていたとします。この場合、そもそもガバナンスの領域で次世代リーダー育成を扱っている企業を探し出さなければいけない。そのうえで、投資家向けにどのような文脈で次世代リーダー育成を訴求しているかを分析する。こうした粒度が細かなものでも、砂漠の中をさまようような調査が必要になります。広報における「調べる」の特徴です。

 時間や労力に対してシビアな考えを持つビジネスパーソンほど、調査の目的や対象を設定して効率的に調査するべきだという思考回路ができあがっています。広報の仕事ではこれとまったく逆の発想が必要です。網羅的かつ大量に調べる感覚をつかむこと、調べた大量の情報の中から法則や傾向を見出すこと、これを何度も繰り返して徐々に考えや企画を深めて整理していくこと。こうした感覚を養うことが、広報の仕事の成果につながっていきます。

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