2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。
今回は、経営理念をテーマに、広報実務に生かせるモデルを紹介します。
経営理念は何のためにあるのか
そもそも、経営理念は大きく2つのことに作用します。
- 企業内部に対する作用
- 社会・環境など企業外部と、企業との間の関係に対する作用
上記「1」は、さらに、
(ア)社員にとって行動・判断の指針となる(コントール機能)、
(イ)会社の一体感を形成する(コミットメント機能)、
(ウ)やる気を引き出す(モチベーション機能)
に細分化できます。
「2」は、会社の社会的意義を経営理念として外部に示すことで、
(エ)自社の経営・事業活動を正当化する機能、
(オ)外部環境との適合を図る際の指針となる機能
があります。
よく、経営理念は「行動・判断のよりどころ」と言われますが、これはアとオ。いわば価値観なので、「損得」ではなく「善悪」が判断軸になるものです。
善悪が判断軸になるからこそ、社内の誰もが納得しやすい判断につながるため一体感を創出し(イ)、内発的な動機付けにもつながる(ウ)。同じように、社外にも事業の正当性(エ)を提示できるのです。
社内広報における理念浸透は、主に「1」が領域となります。
経営理念浸透のプロセス
経営理念の浸透は、多くの経営・組織学者が研究しています。経営理念の浸透プロセスをモデルはいくつかありますが、今回は、帝塚山大学の田中雅子教授が『経営理念浸透のメカニズム』という本にまとめたモデルを紹介しましょう。
このモデルは、田中教授がある企業を十年間にわたって追跡調査し、理念の浸透「構造」をまとめたものです。時間軸の要素と浸透の程度が組み込まれている点が特徴。時間軸の要素は役職別の整理に落とし込まれているため、ターゲットとしてイメージしやすい。社内報で経営理念の浸透に挑戦する際、アプローチを考えやすくなるでしょう。
図表1をご覧ください。きわめて当たり前のことですが、役職によって経営理念に対する浸透の度合いは異なります。影響を受ける人も異なります。

社内報担当者がとくに意識したいのは「若手」の欄。経営理念の浸透を図る中心的な主体になるのは経営者ですが、若手にとって経営者の語りは心に響き、存在はシンボルとなります。一方、職場の上司・先輩の言動の影響が大きいため、経営者の語りや存在は瞬発的に影響を与えることはあっても、継続的に浸透の働きかけに寄与するとは限りません。経営者がどれほどメッセージを発信しても、経営者との距離感や、若手の側の実務経験の少なさから、経営理念に対する実感を伴った深い理解・共感や実践行動への落とし込みはハードルがあるのです。
田中教授は、こうした浸透構造を捉えたうえで、浸透レベルを図表2のように整理しています。図表1の「浸透の程度」をより細かくしたものと思ってください。

レベル1は「理念を認識している」。これはシンプルに経営理念そのものを社内報に掲載する、経営理念策定の背景を紹介することなどが考えられます。
レベル2は「理念を主観的に解釈できる」。経営理念を体現する「ロールモデル」となる社員を紹介したり(③)、入社まもない若手に経営理念の解釈を自分なりにまとめてもらう企画が考えられます(④・⑤)。
レベル3の「理念を客観的に理解できる」では、入社数年から中堅クラスの社員に、理念と紐づくエピソードを寄稿してもらうと良いでしょう(⑥)。
レベル4の「理念が納得できる」では、管理職や指導職の社員が、理念の意味を部下にどのように伝えているかを取り上げることが考えられます(⑪)。
レベル5の「理念が前提になる」やレベル6の「理念が信念になる」では、経営者・役員・管理職クラスの理念に対するこだわりをインタビューで聞いても良いでしょう。
図表1の「影響を受ける人」も参考になります。若手に対する理念浸透は職場の上司・先輩が肝になる。この上司・先輩たちにアプローチするために、経営者とのこの層の座談会を企画して、経営者の理念に対するこだわりを直接聞いてもらうと良いでしょう。職場での伝播が期待できます。
経営理念が、行動規範やバリューに落とし込まれている場合は、先ほどのような企画をこれらと関連付けていきます。たとえば、バリューに「顧客に寄り添う」という項目があったとします。「顧客に寄り添う」とはいったいどのようなことかを若手に考えてもらったり(解釈=④・⑤)、「顧客の寄り添う」を実践できたエピソードを寄稿してもらったりできるでしょう(⑥)。
社内報の企画を通して、浸透機会そのものを作り出すことを目指していきましょう。