兼任広報担当者向け広報基礎知識-10 社内広報の基本

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第10回 社内広報の基本として大切なこと

前号から広報実務の基本をご紹介しています。今号はインターナル・コミュニケーション(社内広報)に関わる基本的な考え方をご案内します。


経営理念の社内浸透が進まない・・・

インターナル・コミュニケーションの目的は、経営理念の浸透、社内コミュニケーションの活性化、社員の定着率向上など、組織が置かれている状況によって様々です。手段に関しては、従来は「社内報」が中核となっていましたが、パンフレット、イントラ、社内テレビ、社内イベント・ワークショップなど多様化しています。

昨今、インターナル・コミュニケーションの領域で非常に多くの方からいただくお悩みが「経営理念やブランドの社内浸透がうまく進まない」ことです。今号ではこれを題材に社内広報の基本として大切なことを考えていきましょう。

経営理念は企業の目指す姿として、あらゆる事業活動の判断基準になるものです。すべての社員の誰にとっても不可欠なもののはずなのに、なぜ社内浸透がうまく進まないのでしょうか。 経営理念の浸透は、社内報を中核にしながら、浸透冊子をつくったり、唱和したり、研修を行ったり、ポスターとして掲出したり、様々なアプローチで実施されます。社内ワークショップをするケースもあるでしょう。社員の人事評価に経営理念に関わる項目を盛り込んだり、経営理念に基づいて社員が相互に褒めあう活動を実施したりする企業もあるようです。何をもって経営理念が浸透したとするのか、定義の問題もありますが、様々な取り組みをしていても、残念ながら経営理念が浸透している実感を持てない社内広報担当者が多いです。


伝達と浸透は違う

経営理念やブランドの社内浸透がうまくいかない場合、「経営理念の『伝達』にとどまっている」または「社員を一律的にマスでとらえてしまっている」のいずれかの解決が突破口になることが多くあります。

まずは「伝達にとどまっている」ことについて考えていきましょう。

伝達と浸透は違います。たとえば「経営理念ができました」と社内周知することは伝達です。伝達とは、事実が誤解無く相手に伝わること。情報の受け手が「余計な」解釈をすることがなく理解できた状態が理想と言えます。分かりやすい例を挙げれば、事務文書・連絡文書です。できるだけ事実だけを書き、誤解されない文書が優れたものとされます。

一方で浸透とは、情報の受け手が共感・共鳴し、自らの解釈を積極的に加えている状態を指します。心が揺さぶられ、自分ならどうするのか等を考えている状態が理想です。

経営理念そのものが共感・共鳴されやすい表現だった場合は、伝達するだけでも浸透の初期段階(共感・共鳴)をクリアできるでしょう。ところが、経営理念は得てして抽象度が高く、人によってはイメージが沸きません。一生懸命、ツールをつくったり、社内報で紹介したりしても伝達にとどまっているケースもあります。浸透するには、自分なりに考えてもらったり、ストーリーテリングと言われる物語形式にして表現したりして、心を揺さぶることを目指す必要があるのです。 まずは「伝達」にとどまっていないか、活動を振り返ってみましょう。もし、伝達アプローチばかりの場合は、社員は経営理念の浸透活動を「押しつけ」だと感じているかもしれませんよ。


共鳴の仕方は人によって違う

共感・共鳴されやすいように工夫しても、共感がなかなか拡がらない場合もあります。この理由は、実はとても単純です。抽象度が高い経営理念やブランドを、抽象度が高いままに共感できる人は、残念ながら非常に少ないのです。経験則では、組織の構成員の5%程度です。

少し概念的になってしまいますが、図表をご覧ください。行動と思考のスタイルを4象限に整理したものです。

図表 行動スタイルと思考スタイルで整理した社員のタイプ

抽象概念に共感でき、かつ能動的に行動できるのは右上の能動ー抽象層です。この層は「未来創造型人材」と言えます。問題意識が高く主体的に行動し、次々に新たな問題自体を創り出して解決していくタイプです。

一方、抽象概念そのものに共感しにくい人もいます。能動的かつ主体的で優秀ではあるものの、具体的な情報を好み、目の前にある問題を解決していくことに優れている右下層「問題解決型人材」もいます。この層には、「組織はいまこういう課題を抱えていて、その問題を解決する手段として経営理念があり、業務上の問題解決等の改善とも結びついている」というように、経営理念を論理的かつ手段とした文脈に「翻訳」をしていかないと、共感・共鳴されにくいのです。

左上の受動―抽象層は「フォロワー型人材」であり、未来創造型人材に憧れてその人たちに共感・共鳴しやすい人。リーダータイプの社員の立ち居振る舞いをあこがれの眼差しで見ますので、リーダー層をロールモデルとして社内PRすると良いでしょう。

左下の受動―具象層は「マニュアル型人材」です。日々の業務マニュアルにまで落とし込むことではじめて経営理念って大事ですねと実感できるタイプです。

このように、経営理念を浸透するためには、浸透対象である社員の共感・共鳴の仕方自体が多様であることを理解し、意図的に文脈やアプローチを変えて「経営理念を使い倒す」必要があるのです。

今回は経営理念を中心に紹介しましたが、他の社内広報活動でも同じです。誤解なく伝達すべき情報なのか、社員の解釈を引き出し浸透すべき情報なのか、浸透すべき情報の場合には社員の共感・共鳴の仕方が異なることを忘れていないか、再確認することで、必ず社内広報の質は上がります。