広報活動、ひたすらがんばる病から脱出

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に必ず活かせる経営学・組織行動分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を取り上げます。

広報は「努力」が評価される仕事?

「広報は、やった分だけ組織がどんどん良くなる仕事である」私が、広報実務に従事していたとき、常に感じていたことです。

たとえば報道対応。新しいサービスが新聞で報道されたら営業支援につながります。
著作権の処理をして販促ツールにできますし、問いあわせがあったり、ホームページの閲覧が増えたり、反響が見えたりすることも。また、記事になれば開発担当者の励みにもなる。
さらに、記事を見て社内で会話がうまれたり、社員が家族に会社のことを説明できる契機になったりする。たったひとつの報道でも、様々な効果や影響が期待できます。

一方で私は、ある時から、この「やった分だけ良くなる」という広報業務の特徴に悩むようになりました。
数年間の実務経験を積み、広報活動全体を俯瞰する立場になったときのことです。広報の仕事は、やればやるだけ良いことがあることは間違いない。だからこそ、何を、何のためにやるのかを設定しにくい。目的や課題を設定しにくいのです。

広報は組織とステークホルダー(人)との間に信頼関係を構築する仕事です。
人の評価や感情を相手にした仕事と言えます。
ところが人間心理や行動はときに非合理的。いまだに学術研究でも説明しきれていません。
問い合わせがあった等の効果がはっきり見えることもあれば、そうでない場合も多い。「家で会話が増えた」「社員間の会話の質が変わった」など、測定しようと思えばできる効果もありますが、それを測定しても改善につながるとは限らない。
記事や広告を見る前後での心象変化(刺激に対する反応)を測定する方法もありますし、定点的に認知度やイメージを測定する方法もあります。ただし、心象変化や認知度に影響を与えるのは広報活動以外にも、(営業担当者の印象など)多様な変数があります。
広報の効果測定は、極端な言い方をすれば、担当者の自己満足でしかない場合すらあります。

こうなると、報道対応でも、社内報やホームページなど社内外のメディア運用でも、何を軸として活動し、具体的にどのように組織に貢献していくのか(貢献しているのか)があいまいになる。結果的に「ひたすら頑張る」ことになりがちです。

デジタル化によって効果を確認しやすくなりました。たとえば、紙の社内報では閲読状況を把握しにくいですが、Web社内報では一目瞭然。どのページがどう読まれているか分かり、改善につなげやすい。ただし、この改善に投じている工数は、組織貢献の観点でみた場合に妥当なのかと問われると、どうでしょうか。冷たい言い方になりますが、社員の一定数は、「前よりも社内報は読みやすくなったけど、一生懸命、管理部門が自分たちの仕事を創っているだけ」、まさに「ひたすら頑張っているだけ」と見ていることもあります。

積み重ねた努力の賜物として広報の仕事の処理能力があがっていくので、何とかしてもっと組織に貢献しようと、新たな仕事(努力)を上乗せする。そして、自分で創りだした仕事に溺れてしまう。役員や他部署、あるいは記者から、「がんばっているね」と評価してもらえるし、時には「ありがとう」と感謝もされる。
ここに、広報のやりがいがあるものの、努力だけが評価されている感覚になる。自分の仕事は本当に組織に貢献できているのか。社内外のステークホルダーとの関係をよくするために、情報の受発信というコミュニケーション活動をする仕事にもかかわらず、自分たちの仕事の意義や成果を説明できないことに悩みが募るのです。

これは私の実体験です。単に私は要領が悪かったのかもしれませんが、広報コンサルタントとして多くのお客さまと接していると、この感覚・悩みを持たない広報担当者は少ない。広報の仕事の楽しさ・やりがいが、一方で組織貢献の実感を見失うことにつながる場合があるのです。

広報の領域ではフレームワークが少ない

 要領が悪かった私は「ひたすら頑張る」に溺れ、他部署から「スタンドプレー」とみられる場面が出てきてしまいました。そこで経営に寄与する仕事であることを明文化したいと思い、ありとあらゆる広報の実務書やセミナーを頼りました。ところが、実務書やセミナーは「テクニック論」ばかり。報道対応で言えば、効果的なプレスリリースの書き方とかTVに取り上げられる方法など。これでは「ひたすら頑張る」に拍車がかかってしまいます。

今度は広報の研究者がまとめた教科書や理論書に対象を拡げました。これらは「広報とは」「メディア・リレーションズとは」「IRとは」といった解説ばかりで実践的でない。私は広報に関連する書籍を、学術書・実務書問わず数百冊単位で読んでいますが、広報の理論書では概念の説明、実務書にはテクニック論はあっても、組織に貢献するために状況・課題を整理したり、優先順位を決めたりする手助けになるフレームワークやツールは極めて少ないと断言できます。

わらにもすがる思いで広報の分野を飛び越えて、経営戦略や組織行動のフレームワークやツールに触れた時、広報の実務に活かせるものがたくさんありました。組織の発展段階を俯瞰した概念図から、社内広報の目的を明確にできました。態度変容の構成要素を整理したモデルから、コンテンツ企画を考えやすくなりました。組織行動の分野から、危機管理広報のヒントを得られました。

次回から、社内外の広報実務に役立つフレームワークやツールをご紹介していきます。