広報スキルアップ講座 想像力(企画力)②

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の仕事で不可欠な「想像力(企画力)」。想像力(企画力)の発揮場面は、①表現の前段階(攻めの広報/守りの広報)と②調整の前段階の大きく2つ。前号は表現場面のうち「攻めの広報」を扱いました。今号は、同じく表現場面のうち「守りの広報」で必要な想像力を紹介します。

守りの広報とは

守りの広報とは、不祥事や事故などのトラブル発生時の広報対応のことです。「緊急記者会見」がイメージしやすいでしょう。

たとえば、企業経営者や担当者がお詫びをしている映像を思い返してみてください。近年では、不正アクセス、個人情報の大量流出、役員の犯罪行為、品質データの偽装、従業員のパワハラ自殺、不適切会計、食中毒、通信トラブル、工場・倉庫の大規模火災などが浮かぶことでしょう。

官公庁・自治体、公的機関、教育機関、医療機関での不正・事故や職員の個人的犯罪の話題は日々、報道されています。個人的な犯罪でも警察発表で所属・名前が公開される場合があるため、警察発表で情報を得た記者が勤務先にアポイントメントなしで訪問してくることもあります。記者会見に限らず、このように個別の取材対応をすることもあれば、プレスリリースや新聞等での公告、HPでの情報開示、などで「守りの広報」を実践する場合もあります。

守りの広報で必要な想像力

(1)情報収集の段階

「守りの広報」では、時系列でみて大きく3つの段階で「想像力」が必要です。1つ目は、組織の中で情報収集する段階です。

守りの広報を適切に行うためには、社内の情報を正確に把握することが不可欠。ところが社内の情報流通は、トラブルの発生時には不全になりがちです。

人間は、何か問題が起きたとき、「問題が小さなものだと思いたい」心理が働きます。これを正常性バイアスと言います。自分にとって都合が悪いことは無視したり過小評価したりしてしまう。トラブルは必組織内のどこかの部署が関与して発生しますが、その最前線の部署で、トラブルをありのままに認めることができないのです。

また、対人コミュニケーションにおいては、相手にとって不利な情報、不快な情報の伝達を避けようとしがちになります。トラブルをありのままに認めることができても、社内で問題を報告・共有するときに、無意識に「大きな問題ではありますが、早急に対処できる見通しです」などとしがち。問題を認定できても、その問題が正しく流通するとは限らないのです。これは「MUM効果」と言います。

さらに、正しい情報が社内で流通したとしても、組織は得てして「組織の論理」で判断しがちです。本来、法的責任はもちろん、社会的・道義的責任を含めて客観的な視点でトラブルを評価し、必要な対応を意思決定するべきです。

広報担当者は、情報収集の段階で「そもそも問題が矮小化されているのではないか」「正しい情報が流通していないのではないか」「意思決定が組織都合になっているのではないか」などと想像することが大切です。
正しい情報を集めることができなければ、適切な広報対応はできません。広報担当者が「真実」を知らずに広報対応をし、あとから社内の隠ぺいされた事実が明るみになり、結果的に評判を落とすことになる、という不祥事はこれまでにも沢山ありました。広報が組織を守るためには、広報担当者が想像力を発揮して組織を健全に疑うようにしましょう。

(2)トラブルを評価する段階

正しい情報を集めることができたとしましょう。

集めた情報をもとに、広報担当者には「社会」や「被害者」などありとあらゆる立場のステークホルダーの視点から、問題がどのように見えるのか、どのような影響があるのかを想像することが求められます。組織の中で、社会と近い感覚を持てるのは広報です。

広報は、トラブル発生時には、組織全体で問題を客観的に捉え、誠実な意思決定ができるように、「誰にどのような影響があるのか」「誰がどのような感情を持つのか」を想像し、提言・助言する役割があります。

(3)開示準備の段階

一般的に、守りの広報では、「すべての情報を包み隠さずに開示せよ」と言われます。

ところが、大小さまざまな「守りの広報」のケースを見てきた経験則でいえば、すべての情報を「何も考えずに」開示してしまうことは決して良い対応と言えません。本質的な問題や影響への対処ではなく、枝葉の部分に記者や世間の関心事が集中してしまうことが多々あります(もちろん、組織側が問題の認識を誤り、記者や世間が関心を持った枝葉の部分が本質的な問題という場合もあります)。

情報は、単純に出せばよいというものではありません。ひとつひとつの情報を取捨選択し、かつ優先順位付けして、幹になる部分が伝わるようにする。組織として問題の本質を客観的に認識できているか、誰にどのような影響を与えているか、その人たちの感情を認識できているのか、トラブルにはどう対処し、どのように原因を調べて再発を防ごうとしているのか。これらが的確に伝わらなければ、結果的に守りの広報が失敗することになってしまいます。

守りの広報は、「お詫びの仕方」や「記者会見の開き方」など「ハウツー」ではありません。問題を矮小化するものでも、何も考えずに開示をすればよいものでもありません。

守りの広報は、負の影響を与えてしまった相手に必要な情報が伝わるようにするコミュニケーション活動なのです。相手の立場から情報の幹と枝葉の違いを想像し、真に誠実な情報開示をしましょう。