広報で使えるフレームワーク③|キャメロンとクインによる組織文化の分類

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

今回は、「組織文化」を扱います。社内広報の実務においては、何を訴求点にし、どのような文脈にするかを考える際、組織文化を意識できると良いでしょう

組織文化とは

そもそも「組織文化」とは何でしょうか。多くの研究者が定義を提示しています。おおよそ共通するのは、組織の構成員が共有するものごとの考え方など「価値観」だということです。

この価値観について、ミシガン大学の組織論の研究者であるキム・キャメロンさんとロバート・クインさんは「競合価値観フレームワーク」をまとめています(図表1)。これは、組織に根ざした価値観のタイプを、「家族文化」「イノベーション文化」「官僚文化」「マーケット文化」の4つに整理したものです。

この4タイプは、大きく2つの軸をもとに考えられています。図で言うと、縦軸は「柔軟性と裁量権や独立性」に対して「安定性と統制」が両極にあります。変化や管理に対する考え方と言えるでしょう。横軸は「組織内部に注目する傾向と調和」に対して「組織外部に注目する傾向と差別化」。これは着眼点と言えるでしょうか。

キャメロンとクミンによる競合価値観フレームワーク

この2つの軸は、キャメロンさんとクミンさんが、業績の高い組織に共通する指標を統計的に抽出したものです。いずれの軸も、組織があらゆる事象を判断・意思決定する際に基点になるものですね。一方を重視すれば一方の比重は減らざるを得ない。相反して競合するものなので、「競合価値観フレームワーク」と言います。 この4タイプは、経営者や組織の構成員が、何をどのくらい重視しているかという比重を見るものです。たとえば、一般的なイメージとして「官僚文化」という言葉を聞くと、閉鎖的で内向きでよくないものと思いがちでしょう。ただし、官僚文化は、効率性を重視していたり、品質や考え方に一貫性や画一性が生まれたりする側面もあります。どれも大事であり、どれか一つに偏りすぎてもバランスや多様性を欠くものになります。どれが正しいとか間違っているとか正否で見るものではありません。言葉が持つイメージに引っ張られないようにしてください。

さて、皆さんの組織は、どのタイプに近いでしょうか。

図表2をご覧ください。4タイプについて、志向性、リーダーのタイプ、価値の源泉、パフォーマンス向上の理論(アプローチ)をまとめたものです。4つを見比べて、近いと思うものはどれですか。

キャメロンとクインによる競合価値観フレームワークの内容

掲載要素や切り口の検討に活用する

この4タイプをまとめた図表2は、社内広報で役立ちます。

ここでは、自分の勤め先が「家族文化」に近い組織文化があると考えたとします。

たとえば、社内広報では、経営トップが社員にメッセージを発信することがよくあります。発信のタイミングは、年始や年度初め、あるいは経営計画策定時などが多いでしょう。メッセージを社員の心に響きやすいものにするためには、家族文化であれば、(「リーダーのタイプ」にあるように)社員の自発的活動を後押しすることを意識したり、メンター的なスタンスを意識したりすると良いことがわかります。

経営環境の悪化などで、厳しいメッセージが必要な場合も参考になります。家族文化の比重が大きく、これまで柔軟性を重きに置いてきたものの、なれ合いのような風土が生まれてしまっている。あらためて統制を取ろうとしている状態だとします。この場合は「官僚文化」の要素が必要になるわけです。経営トップのメッセージでは、自らがまとめ役になっていく、調整をしていくことを訴求すると良いことがわかります。

経営メッセージだけでなく、社内報の特集や企画を考えるヒントも得られるはずです。たとえば「価値の源泉」や「パフォーマンスの理論」の欄は、記事の掲載要素を洗い出したり、どこに焦点を当てると社員のモチベーションをアップしやすいかを考えたりしやすくなります。

組織文化そのものを変えていこうとしている場合は、現在はどのタイプに比重があり、目指しているの組織文化はどのような比重なのかを明確にできれば、社内報の切り口をどう変えるべきか考えやすくなります。

なお、キャメロンさんとクインさんは、このフレームワークをもとに診断ツールを作成しています。『組織文化を変える』という訳書の購入者は診断ツールを追加費用なく取得・活用できます。興味のある方は、診断ツールも活用してみましょう。

広報で使えるフレームワーク②|社員の抵抗を管理するチェンジマネジメントモデル

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に活かせる経営・組織分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を毎回、紹介しています。今回は、組織変革(社員の意識改革)で活かせるフレームワークをご紹介します。

近年、増えている社内広報の相談

 近年(連載当時の2020年時点)、社内広報の領域で「社員の意識変革」や「組織変革」のご相談が増えています。前回ご紹介した組織の発展段階モデル(図表1)でいえば、「再活性化の必要性」という踊り場状態です。お客さまからは、社員が自分の仕事に視野狭窄している、現場の最前線の社員にイノベーションのマインドがない・・・などの課題をお伺いします。端的にいえば社内広報で「組織変革を後押ししたい」という内容です。

 組織変革の打ち手は、経営戦略・計画の見直し、組織再編、人事評価制度改訂、行動指針の策定・浸透、分社化・M&Aなど数多あります。一般的に、経営企画や人事部門が中心になって進めます。

こうした組織変革に対して、社内広報が貢献できることは間違いないでしょう。ただし、社内広報が「プロパガンダ」のようにならないように、注意すべきです。

 社内広報は、「情報を武器にした活動」です。変革の取り組みを丁寧に紹介したり、ロールモデルを紹介したりすることで、社員の意識に働きかける効果は期待できます。ただし、現実問題として、社内広報が組織再編や人事評価制度と同じ程度のインパクトを持てるでしょうか? 社内広報はあくまでも情報を武器にした活動なので、情報の受け手である社員が受容することを常に意識する必要があります。単に情報と言う武器を振り回しても、空振りし続ける結果になっては意味がない。「社員の視点を持つ」という社内広報の原理原則を踏まえて、組織変革を後押ししていくことが必要です。

広報活動で使えるフレームワーク|ダウトの組織の発展段階モデル

社内広報で組織変革を後押しするヒント

組織変革は、多くの研究者がフレームワークに整理しています。有名なものは、社会心理学 の父といわれるクルト・レヴィンさんや、ハーバード大名誉教授のジョン・コッターさんの組織変革プロセスです。

レヴィンさんは、変革プロセスを3段階に分けました。変革の必要性(危機意識)を社内に浸透し、そのうえで変革を進め、定着化するという3ステップです。

コッターさんはさらに細かく、危機意識を啓発したうえで、変革を推進するチームを社内につくる、そのチームで変革のビジョンをつくる、ビジョンに基づいて実行し成果を出すなどの8段階に分けています。これらは、企業側の視点から、変革の進め方を整理したものです。

 先ほど、社内広報は情報の受け手となる社員が受容しなければ意味がないとお伝えしました。このため、社内広報で組織変革を後押しするためには、社員の受容についてヒントが得られる枠組みが好都合です。いわば強制的に社員目線を持てる、社員側の視点が加味されたフレームワークがあると良いですよね。

 そこで、『組織を変える基本~変革を成功させるチェンジマネジメント』という本で、ジェフリー・ラッセル&リンダ・ラッセル両氏の枠組みを紹介します(図表2)。上段に会社視点での変革プロセス、下段は各プロセスでの社員の心理状態を示しています。社員の抵抗を管理する視点が加味された組織変革モデルは、ほかに見当たりません。

ラッセルによる社員の抵抗を管理する視点を持ったチェンジマネジメントのモデル

 まず、会社として変革の必要性を啓発する段階。社員の多くはこれまでの実績と成功体験をもとに「快適」な状態にあります。社員の快適状態を考慮して、まずは過去の成功を認めることが大切です。そのうえで、なぜ変革が必要かデータを用いたり、変革できなかった場合のシナリオを提示したりします。得てして、変革のスタートを切る段階に、社内報で変革の必要性をトップが訴える特集を組みがちです。過去の成功事例を紹介すると、社員の快適な感情に寄り添い抵抗をコントロールできます。危機意識(ネガティブな感情)だけではなくポジティブな感情を刺激するのです。

 次に、変革プランを導入(着手)する段階。社員は恐れや怒りなどの「抵抗」を抱きます。ここでは社員の不安感情に耳を傾けたり、怒りを受け入れたりすることが大切です。社内報でアンケートを行っても良いでしょう。

 次は変革プランの進捗管理をする段階。社員は次第に変革を受け入れ始め、自分たちなりに創意工夫するなど「探求」し始めます。変革の具体的な取り組みを共有すると良いでしょう。ここでは、探求を後押しする必要があるので、成功事例だけでなく失敗事例にも焦点を当てましょう。

 変革を安定・維持する段階になれば、社員は「受容」してます。ここでは、社員の努力を労い、具体的データで変革の成果を実感できるようにしたりします。 社内広報がプロパガンダだと思われないように、社員の感情を考慮したフレームワークを活用してみてください。

広報活動、ひたすらがんばる病から脱出

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に必ず活かせる経営学・組織行動分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を取り上げます。

広報は「努力」が評価される仕事?

「広報は、やった分だけ組織がどんどん良くなる仕事である」私が、広報実務に従事していたとき、常に感じていたことです。

たとえば報道対応。新しいサービスが新聞で報道されたら営業支援につながります。
著作権の処理をして販促ツールにできますし、問いあわせがあったり、ホームページの閲覧が増えたり、反響が見えたりすることも。また、記事になれば開発担当者の励みにもなる。
さらに、記事を見て社内で会話がうまれたり、社員が家族に会社のことを説明できる契機になったりする。たったひとつの報道でも、様々な効果や影響が期待できます。

一方で私は、ある時から、この「やった分だけ良くなる」という広報業務の特徴に悩むようになりました。
数年間の実務経験を積み、広報活動全体を俯瞰する立場になったときのことです。広報の仕事は、やればやるだけ良いことがあることは間違いない。だからこそ、何を、何のためにやるのかを設定しにくい。目的や課題を設定しにくいのです。

広報は組織とステークホルダー(人)との間に信頼関係を構築する仕事です。
人の評価や感情を相手にした仕事と言えます。
ところが人間心理や行動はときに非合理的。いまだに学術研究でも説明しきれていません。
問い合わせがあった等の効果がはっきり見えることもあれば、そうでない場合も多い。「家で会話が増えた」「社員間の会話の質が変わった」など、測定しようと思えばできる効果もありますが、それを測定しても改善につながるとは限らない。
記事や広告を見る前後での心象変化(刺激に対する反応)を測定する方法もありますし、定点的に認知度やイメージを測定する方法もあります。ただし、心象変化や認知度に影響を与えるのは広報活動以外にも、(営業担当者の印象など)多様な変数があります。
広報の効果測定は、極端な言い方をすれば、担当者の自己満足でしかない場合すらあります。

こうなると、報道対応でも、社内報やホームページなど社内外のメディア運用でも、何を軸として活動し、具体的にどのように組織に貢献していくのか(貢献しているのか)があいまいになる。結果的に「ひたすら頑張る」ことになりがちです。

デジタル化によって効果を確認しやすくなりました。たとえば、紙の社内報では閲読状況を把握しにくいですが、Web社内報では一目瞭然。どのページがどう読まれているか分かり、改善につなげやすい。ただし、この改善に投じている工数は、組織貢献の観点でみた場合に妥当なのかと問われると、どうでしょうか。冷たい言い方になりますが、社員の一定数は、「前よりも社内報は読みやすくなったけど、一生懸命、管理部門が自分たちの仕事を創っているだけ」、まさに「ひたすら頑張っているだけ」と見ていることもあります。

積み重ねた努力の賜物として広報の仕事の処理能力があがっていくので、何とかしてもっと組織に貢献しようと、新たな仕事(努力)を上乗せする。そして、自分で創りだした仕事に溺れてしまう。役員や他部署、あるいは記者から、「がんばっているね」と評価してもらえるし、時には「ありがとう」と感謝もされる。
ここに、広報のやりがいがあるものの、努力だけが評価されている感覚になる。自分の仕事は本当に組織に貢献できているのか。社内外のステークホルダーとの関係をよくするために、情報の受発信というコミュニケーション活動をする仕事にもかかわらず、自分たちの仕事の意義や成果を説明できないことに悩みが募るのです。

これは私の実体験です。単に私は要領が悪かったのかもしれませんが、広報コンサルタントとして多くのお客さまと接していると、この感覚・悩みを持たない広報担当者は少ない。広報の仕事の楽しさ・やりがいが、一方で組織貢献の実感を見失うことにつながる場合があるのです。

広報の領域ではフレームワークが少ない

 要領が悪かった私は「ひたすら頑張る」に溺れ、他部署から「スタンドプレー」とみられる場面が出てきてしまいました。そこで経営に寄与する仕事であることを明文化したいと思い、ありとあらゆる広報の実務書やセミナーを頼りました。ところが、実務書やセミナーは「テクニック論」ばかり。報道対応で言えば、効果的なプレスリリースの書き方とかTVに取り上げられる方法など。これでは「ひたすら頑張る」に拍車がかかってしまいます。

今度は広報の研究者がまとめた教科書や理論書に対象を拡げました。これらは「広報とは」「メディア・リレーションズとは」「IRとは」といった解説ばかりで実践的でない。私は広報に関連する書籍を、学術書・実務書問わず数百冊単位で読んでいますが、広報の理論書では概念の説明、実務書にはテクニック論はあっても、組織に貢献するために状況・課題を整理したり、優先順位を決めたりする手助けになるフレームワークやツールは極めて少ないと断言できます。

わらにもすがる思いで広報の分野を飛び越えて、経営戦略や組織行動のフレームワークやツールに触れた時、広報の実務に活かせるものがたくさんありました。組織の発展段階を俯瞰した概念図から、社内広報の目的を明確にできました。態度変容の構成要素を整理したモデルから、コンテンツ企画を考えやすくなりました。組織行動の分野から、危機管理広報のヒントを得られました。

次回から、社内外の広報実務に役立つフレームワークやツールをご紹介していきます。