2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。
広報に関するスキルアップの誌上講座。これまで、「書く力(文章力)」と「調べる力」を取り上げました。今回は「聞く力」(取材力)です。
広報では常に「聞く」
広報の仕事では、常に人に話を「聞く」ことをしています。たとえばネタを集めるために社内の担当者に話を聞きに行く。あるいは記者から取材依頼を受けた際に何を取材したいのかを聞きに行く。社内報やWebのコンテンツでインタビューするときは、話の引き出し方という意味の「聞く」もしています。常に聞く行為をしています。広報パーソンにとって、聞く力はとても重要です。
「聞く」とは
「話を聞ける人」は信頼されます。人はだれでも自分の話をしたい。自分のつらかった気持ちを誰かに話して、「うんうん。そうだったのですね。たいへんでしたね。あなたが、どれほどがんばっていたのか分かりますよ」と聞いてくれたら、どれほど心が落ち着くことでしょう。
広報での「聞く」は、こうした話の聞き上手のことではありません。
広報では、「聞くだけで完結する」ことが基本的にありません。たとえば、社内のネタ集めであれば、聞いた話を起点にどう発信するかを考えます。記者の取材依頼であれば、記者が何を聞きたいのかをよく聞いたうえで、対応方法を考えます。インタビューであれば、話をうまく引き出しながら、最終的にインタビュー記事を書きます。
広報では、聞くというインプットの後にはアウトプットが発生します。話を聞いている最中は聞き上手のようなテクニックはありますが、それ以上に、アウトプットするために、「聞く」という行為をしている。このため、聞いたうえで「わかる」、聞いた内容を「記憶」しておく(レコーダー等への記録を含む)、聞いた材料を活かして「考える」ことが不可欠。逆に言えば、これらができない「聞く」は、聞いていることになりません。
広報における聞くは、以下の3つで構成されます。
- 認知する
- 記憶する
- 考える
書く力(文章力)を取り上げた際に、文章を書くためには大前提として客観的に情報を受信することが大切だとお伝えしました。聞くことについても同様です。
人は、日常会話で人の話を聞いているとき、聞きながら頭の中で「あー、わかる。わたしもこんな経験があった」などのように考えています。会話はキャッチボールで成立しますので、相手が話した内容に対する次の話題を考えながら、会話をしています。
広報の仕事で、相手の話を聞きながらこのような「考え事」をしてしまうと、相手の話を要約したり、相手のトーンの強弱や行間を記憶したりできません。つまり、認知も記憶もできなくなってしまい、結果的に、考える材料が得られなくなってしまいます。日常会話と同じような円滑なキャッチボールを意識しながらも、頭の中で考え事などのお散歩をせずに、文字どおり「じっと話を聞く」「ひたすら情報を受け止める」ことが必要です。相手の発言をただそのまま認知することで、主観を排した状態で相手の発言を記憶ができ、良質な考えができるようになるのです。
認知・記憶を高めるトレーニング
とにかく大切なことは、相手の話を聞いている時に頭の中で考え事をしないようにしないこと。そして、重要な情報を記憶できるように、話を聞きながら情報をそぎ落とすことです。頭を真っ白にして話を聞いていると、情報の強弱や凹凸など、「動き」に気が付くようになります。
こうしたスキルを身に付けるためには、まずは「話を聞きながら要約する」訓練を積むとよいでしょう。
以下のやりとりを例示します。職場で、朝または昼休みによくある会話だとイメージしてください。
話し相手:「昨日、久しぶりに小学校の同級生と飲みに行きました。ずいぶんと深酒をしてしまい、途中で記憶がなくなってしまいました。気が付いた時には家にいてびっくり・・・。以前はお酒に強かったので、記憶が飛ぶようなことは無かったのですが。たくさん飲んだつもりもないのに。飲み過ぎには気を付けなければと反省しています。」
日常会話では、このような話をされたあなたはきっと、過去に自分がお酒で記憶をなくしたことがある・ないといったキャッチボールをするでしょう。たとえば「私も最近記憶をなくしました」とか「私は記憶をなくしたことがないんですが、どんな感覚ですか?」とか。
広報の聞く力のスキルアップでは、以下のように要約をして返答します。いわば復唱です。
自分:深酒で記憶をなくし、反省しているのですね。
広報の仕事での社内取材等のときにこの要約を実践してみましょう。いざやってみると、要約をせずに「会話」をしたくなってしまいます。取材は会話ではありません。必ず、しっかりと要約をしてください。ひたすら相手の話を聞く、主観を排して聞く、あとで考えるための材料を得るためには、この要約ができないといけません。
これを自然にできるようになると、話の流れも読み取ることができるようになります。脱線しているな、あるテーマに話が偏っているな、等々を把握できるようになるので、社内取材、電話対応、インタビュー等で「聞き洩らし」が少なくなります。
聞く力が備わってくると、徐々に、自分の考え(興味関心)を排した状態で相手の発言を受けとめることができるので、話を聞きながら論点を細かくしたり、要約をした返答の切り口や角度を少し変えることができるようになります。これが取材の深掘りです。たとえば、先ほどの「話し相手」の例で言えば、以下のように論点を細かくできます。
・小学校の同級生以外とはよく飲みに行くのか
・深酒をすること自体はよくあるのか、お酒はどれぐらいの量をよく飲むのか
・記憶がないのはいつからいつまでか
・飲み過ぎに気を付けなければというのは何か反省すべきことがあったのか
相手の話を、自分の興味関心で聞いてしまうと、確実にどこかに偏りが生まれます。
返答の切り口や角度を変えることとは、以下のようなイメージです。
・それだけ楽しかったのですか?(「反省モード」の思考を変えて飲み会の内容の話を引き出す)
・お友達に迷惑をかけてしまうようなことがあったのですか?(「反省」の意味を深掘りして確認する)