感情的報酬に関する実態調査|エンゲージメント向上には死角がある

感情的報酬の完全充足が生む「心理的呪縛」と、経営・人事・広報にできること

2026/8/18 株式会社タンシキ 経営・広報研究所

社内・社外広報のマネジメント・コンサルティングを行う株式会社タンシキ(本社:神奈川県川崎市、代表取締役:秋山和久)の社内シンクタンク「経営・広報研究所」は、従業員数10人以上の企業・組織に勤務する全国の就労者1,059人を対象に「感情的報酬に関する実態調査」を実施しました。

本調査では、給与・賞与などの金銭的報酬や福利厚生などの非金銭的報酬に加え、仕事の意義、職場の人間関係の良さ、安心感、承認・称賛などによって得られる無形の報酬を「感情的報酬」と捉え、その重視度・充足度、職場環境や仕事意識との関係、さらに社内外の広報活動との関係を分析しました。

本調査では、感情的報酬が非金銭的報酬と同程度に重視されている一方、過剰な充足は「心理的呪縛」(従業員が会社や周囲から期待される理想像に応え続けようとするあまり、失敗や弱みを見せにくくなり、悪い情報を抱え込みやすくなる状態)を生み出し、隠ぺい意識やサイロ化などのガバナンスリスクと関連する可能性が示されました。また、社内広報による「取材」は感情的報酬の健全な充足と関連しており、広報活動には従業員エンゲージメント向上だけでなく、組織の健全性や人的資本経営を支える役割があることが示唆されました。

本調査から得られた主要なファインディングは以下の3点です。

  • 感情的報酬は、非金銭的報酬と同程度に重視される重要な報酬であることが確認されました
  • 感情的報酬は高ければよいとは限らず、完全な充足は隠ぺい意識やサイロ化などのガバナンスリスクと関連する可能性が示されました
  • 社内広報による「取材」は、感情的報酬の最適な充足と関連しており、広報活動には従業員エンゲージメントと組織の健全性を両立させる役割があることが示唆されました

本レポートでは、この「エンゲージメント向上における死角」を読み解くとともに、攻めと守りを両立する組織をつくるため、明日から経営・人事・広報が取り組むべき「6つの提言」を公開しています。

感情的報酬とはなにか|定義と調査内容

本調査においては、金銭的報酬(給与・ボーナス等)と非金銭的報酬(福利厚生等)といった有形の報酬とは別軸の「無形」の報酬として感情的報酬を位置づけ、この感情的報酬を仕事の意義、職場の人間関係の良さ、安心感、充足感、承認・称賛などによって得られるものとしました。さらに、本調査では感情的報酬を「自分が承認・称賛される直接受信」「身近な他者が承認・称賛される間接受信」「自分が他者を承認・称賛する発信」の3つの方向から捉えました。また、組織風土・職場環境、心理的安全性、会社・仕事に対する認識や、社内広報・社外広報など広報活動との関係を分析しました。

調査概要|いつ・誰に対して・どれぐらいの規模感で調査を実施したのか

  • 調査期間:2026年7月13日
  • 調査対象:現在就労中、従業員10人以上の企業・組織等に勤務する常勤役員または正規雇用の従業員・職員
  • 調査方法:インターネット調査
  • 有効回答数:1,059人

調査の実施背景|なぜ感情的報酬に着目したのか

①働く環境の観点

人的資本経営への注目やインフレを背景に、多くの企業が「賃上げ(金銭的報酬)」や「福利厚生の充実(非金銭的報酬)」に取り組んでいます。しかし、企業の財務体力には限界があり、金銭的報酬や非金銭的報酬だけで優秀な人材を引き留めることは困難になりつつあります。

このような背景から、給与や福利厚生ではカバーしきれない「仕事の意義」「職場の居場所」「安心感」といった「感情的報酬」が、これからの組織の体温を保ち、人材定着を促す“キーファクター”になると考え、本調査の実施に至りました。

②広報活動の観点

株式会社タンシキが2026年に実施・発表した「社内広報の接触状況に関する実態調査」において、良質な社内広報は、感情的報酬を付与するシステムとして機能しており、組織のレジリエンス強化の一環になっているという仮説が得られました。具体的には、会社の代表者である社内広報担当者が従業員を取材したり、会社の公式媒体で紹介したりすることは、従業員に「会社はあなたの努力をみている」という感情的報酬を付与するものであり、この存在承認を通じて、心理的安全性に近い「弱みや失敗を見せても攻撃・排除されない感覚」や、重大なトラブルを防ぐ報告文化(声上げ文化)を下支えしていると考えられました。この仮説をもとに、感情的報酬の実態に着目しました。

主な調査結果|感情的報酬とエンゲージメント・ガバナンスの関係

1. 感情的報酬は、非金銭的報酬と同程度に重視されている

仕事をするうえで重視する報酬について尋ねたところ、金銭的報酬の重視度平均は4.50、非金銭的報酬は4.33、感情的報酬は4.27でした。金銭的報酬が最も高い一方で、感情的報酬は非金銭的報酬と近い水準で重視されており、従業員にとって重要な報酬の一つであることが確認されました。

感情的報酬に関する実態調査|感情的報酬は非金銭的報酬(福利厚生等)と同程度に重視されている

2. 感情的報酬は「自分が褒められる」だけではない

感情的報酬は、自分自身が承認・称賛される場合だけでなく、身近な同僚や上司・部下が承認されることを知る場合や、自分が他者を承認・称賛する場合にも生じることが確認されました。つまり、感情的報酬は個人の内側だけで完結するものではなく、組織内で循環し、周囲に波及する性質を持つと考えられます。

3. 感情的報酬は「多いほどよい」とは限らない

感情的報酬の充足レベルが高い層では、エンゲージメント、役割外行動、帰属意識、定着意向などの「攻め」の意識が高い傾向が見られました。一方で、感情的報酬が完全に充足している層では、問題が起きた時に隠したい衝動、バーンアウト、サイロ化、会社・経営層への不信感といった「守り」の指標が低下する傾向が確認されました。

この結果は、エンゲージメントスコアの向上だけを追い求めると、従業員が会社や周囲から期待される理想像に応え続けようとし、「失敗してはいけない」「弱みを見せてはいけない」という心理的呪縛を抱える可能性があることを示唆しています。

感情的報酬に関する実態調査|感情的報酬は高いほどよいが「完全充足」は守りの意識が低くなる

今回の調査結果からは、感情的報酬は最適な状態で満たされると、攻め・守りの推進力を持つ構造があると考えられました。

感情的報酬に関する実態調査|感情的報酬は土台(安心感)・着火(多角的承認感)・推進(効力感)の構造にある

4. 社内広報による「取材」は、感情的報酬の充足と関連する

社内外の公式メディアやマスコミなどから取材された経験がある人ほど、感情的報酬の充足度が高い傾向が見られました。特に、会社の公式社内メディアから取材された層では、感情的報酬の充足度が高い結果となりました。広報担当者が現場の話を聞くこと自体が、承認・称賛の前段階として従業員の心理的充足につながる可能性があります。

5. エース礼賛型の広報は、心理的呪縛を助長する恐れがある

一方で、特定の花形部署やエース社員を過度に礼賛する広報は、本人に「期待を裏切ってはいけない」というプレッシャーを与え、周囲のやっかみやサイロ化、悪い情報を報告しにくい空気を生む恐れがあります。広報活動は、成功譚だけでなく、失敗・葛藤・試行錯誤のプロセスも含めて、幅広い部署の取り組みを客観的に扱うことが重要です。

提言|調査結果から考えられるアクション

感情的報酬に関する実態調査|調査結果から考えられる6つの提言(打ち手)

経営・人事・リスク管理部門向け

  • 測る:感情的報酬の充足状況を、自社の部署・階層・職種ごとに把握する。
  • 気づく:エンゲージメントスコアの最大化だけでなく、スコアがよい部署をあえてリスクの火薬庫という視点からチェックする。
  • やめる:従業員調査、1on1、サンクスカードなどは、機能しなければ逆効果になる可能性があるため、導入数ではなく機能状況を点検する。

広報部門向け

  • もっと取材する:広報担当者が現場の話を丁寧に聞き、幅広い部署の取り組みを客観的に扱う。
  • 考え方を変える(共感から納得へ):「認知→理解→共感→行動」のフレームを、この調査を踏まえてタンシキが独自考案した「認知→理解→納得(倫理的・社会的な判断)→行動」にアップデートする。
  • 測り方を変える(守りのKPI):取材対象の分散度、失敗・葛藤を扱った記事比率、トラブル報告に対する意識、部署間の情報共有などを広報KPIに組み込む。

分析担当者の見解| 株式会社タンシキ 代表取締役 兼 経営・広報研究所長 秋山 和久

企業・組織の不祥事事例では、いわゆる花形部署やサイロ化された環境にある部署が独善的になり、データ偽装や隠ぺい等の不正行為を発生させてしまうケースがしばしばあります。

エンゲージメントの向上は、経営・組織運営上の重要な課題であり、当然ながら向上を目指すべきものです。本調査は、企業経営者や人事・リスク管理担当者にとって、エンゲージメントをガバナンスの強化と両立させる、組織開発・リスクマネジメントの示唆を提供しています。

とくに本調査では、エンゲージメントの数値が高くとも、「攻め」の意識のみが高い状態では、隠ぺい意識やサイロ化など、ガバナンス上の脆弱性が見えにくくなる可能性が示されました。本調査を通じて感情的報酬に着目することで、エンゲージメントを「高める」だけでなく、「健全に高める」という視点を得られたといえます。

広報活動との関係でいえば、広報担当者は「取材の品質」にもっと着目して、従業員の話を聞く技術の習得とその波及効果を認識すべきでしょう。また、社内・社外向け広報活動が「共感の獲得」を不必要に追い求めすぎていないか問い直すことも重要です。社内・社外広報活動によるガバナンス強化(レジリエンス強化)の側面を自覚し、「認知→理解→共感→行動」のフレームを、この調査を踏まえてタンシキが独自に考案した「認知→理解→納得(倫理的・社会的な判断)→行動」というフレームにアップデートしていくことが重要だと考えられます。

このレポートが、「エンゲージメント向上」に悩む多くの企業や広報担当者にとって、何のためのエンゲージメントなのか、企業と従業員との最適な関係・状態とは何なのかを問い直したうえで、施策を再検討し、腑に落ちた胆識(タンシキ)となることの一助になるよう期待しています。

認知・理解・共感・行動のフレームを、認知・理解・納得・行動にアップデートする

参考資料

①本調査をより深く理解するためのQ&A

Q1. 感情的報酬とは何ですか?

感情的報酬とは、給与や福利厚生のような有形の報酬ではなく、仕事の意義、職場の人間関係の良さ、安心感、充足感、承認・称賛などによって得られる無形の報酬です。

Q2. 感情的報酬はなぜ重要なのですか?

感情的報酬は、非金銭的報酬と同程度に重視されており、職場環境や仕事に対する認識の良好さと関連しています。金銭的報酬を満たしきれない場合でも、非金銭的報酬と感情的報酬を充足させることで、従業員の認識や組織風土を支える可能性があります。

Q3. 感情的報酬は多ければ多いほどよいのですか?

感情的報酬の完全な充足は、隠ぺい意識やサイロ化などのガバナンスリスクを高める可能性があるため、多いほどよいとは限りません。【攻め】のエンゲージメントが高まる一方で、バーンアウトや経営層への不信感といった【守り】の指標が低下する危険性を孕んでいます。

Q4. 広報活動は感情的報酬にどう関係しますか?

広報担当者による従業員への「客観的な取材」は、承認・称賛の前段階(話を聞く行為)として機能し、感情的報酬の充足と関連する可能性があります。ただし、特定の花形部署やエース社員を過度に礼賛する広報は、かえって心理的呪縛を助長する恐れがあるため注意が必要です。

Q5. 企業はまず何をすべきですか?

まず、自社の感情的報酬の充足状況に着目し、エンゲージメントとガバナンスのバランスを把握することが重要です。エンゲージメントが高ければよいと単純に考えず、仮にエンゲージメントが高い状態でも、悪い情報を報告できる状態か、部署間の情報共有ができているかといった守りの視点を確認しましょう。

Q6. 広報担当者は感情的報酬を高めるために何をすべきですか?

広報担当者は、特定の花形部署やエース社員だけを取り上げるのではなく、幅広い部署の取り組み、失敗や葛藤、試行錯誤のプロセスを丁寧に取材し、客観的に共有することが重要です。共感を押し付けるのではなく、従業員が納得して判断できる材料を提供する広報が、感情的報酬の健全な充足につながる可能性があります。

②調査結果を読む際の留意点

本調査は一時点の意識調査であり、相関関係を示すものであって因果関係を証明するものではありません。また、感情的報酬の充足レベル別分析のうち、一部の層は標本数が小さいため、確定的な結論ではなく傾向・仮説として提示しています。調査結果を活用する際は、各社の組織規模、業種、職種構成、既存施策の機能状況を踏まえて、自社内の部署間・階層間比較として読み解くことが重要です。

感情的報酬に関する実態調査の調査報告書

本調査の完全版レポート(PDF形式、全81ページ)は、以下で無料ダウンロードいただけます。

感情的報酬に関する実態調査|エンゲージメント向上には死角がある~感情的報酬の完全充足が生む「心理的呪縛」と、経営・人事・広報にできること
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