兼任広報担当者向け広報基礎知識-4 広報戦略の考え方


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第4回広報戦略の考え方

これまで、社外広報、社内広報に分けて、課題の整理術をご紹介してきました。
これを「戦略」として体系化していきます。


戦略ってなに?


この「戦略」という言葉が分かりくいですよね。

戦略は、端的にいえば「ある目的を達成するための、中長期的なシナリオ」です。

たとえば目的が「戦に勝つ」であれば、「戦」単体の戦い方は作戦や戦術です。

戦の準備段階から、戦の後を見越して寝返りを働きかけることをしよう、必要な武器や食料を購入しよう、先にお隣の国と同盟を組んでおこう、など、中長期的の視野で複合的な施策をもとに、勝つためのシナリオを描くことが戦略です。

広報戦略については、連載の第一回で、ご理解いただきやすいように、簡略化して以下の枠組みをお示ししました。時間軸を省略しているものと捉えてください。

①なぜ、②誰に、③何を、④どうやって発信・共有するのかを明確にするものです(専門業者が得意なのは④です)。

前回までに、①について、社内・社外の広報活動の課題整理をご紹介しました。②、③、④を明確にできれば、戦略のできあがりです。


先に「何を」を考える


兼任広報の場合、できるだけ効率化しないと仕事がまわりません。

「②誰に」がたくさんあると手が回りません。
そこで、裏ワザとして「③何を」から先に考えるべきです。

図では、「②誰に」から「③何を」に矢印が出ていますが、これを反対にしたり、「②誰に」と「③何を」をいったりきたりさせて考えたりした方がスムーズです。

検討過程をイメージしやすいよう、架空の事例から読み進めていきましょう。


たとえば、あなたの会社は製造業だとします。
ある特定分野で市場シェアが1位。

これは、営業担当者が高度な技術の知識・技能を持っている、だから顧客接点の最前線で自社製品の簡単なメンテナンスができ、導入企業との信頼関係が構築されてリピート購入が多い、という強みがあるとします。

この強みのウラには、営業担当者教育でベテランと若手の徒弟制度があり、年に2回の営業担当者向け技術実習もあるとしましょう。

一方、お客さまと営業担当者、あるいはベテランと若手という結びつきが強いため、社内で若手営業担当者同士のヨコの情報共有が少ないという課題があります。

広報関係では、社外広報は、会社案内やホームページは存在するものの「会社概要」しか載っていない状態。

社内広報では、年に2回、期首の四月と期中の十月に経営幹部のメッセージを載せた社内報を発行しているだけ・・・。


ここからは、上記の架空の事例を基に、簡単に検討を進めてみます。

先に「③何を」を明確にしましょう。

自社の最大の強みである「営業担当者の技術の知識・技能と指導力」を発信・共有する、ことが一例です。

既存のお客さまは、リピート購入が多いため、この強みはよくご存知のはずです。

このため「②誰に」は、「新規開拓の対象となるお客さま」と、少し絞り込むことができます。

本来はより明確なターゲットにしたいところですが、この簡単な絞り込みだけでも、より具体的な「③何を」や「④どうやって」が考えやすくなります。

新規のお客さまは自社のことをほとんど何も知りませんので、単に「弊社の営業担当者は技術の知識があります」と説明しても伝わりません。

なぜ営業担当者が技術の知識と技能があるのか、それが本当なのかを具体的に伝える必要があります。

つまり、「③何を」は、より具体的に言えば「営業担当者育成」となります。

あとは「④どうやって発信・共有するか」です。

たとえば

  • ホームページでは顧客接点の強みを中心に訴求して具体論として営業担当者育成を紹介しよう。
  • 育成アプローチについて営業担当者の生の声を定期的にインタビューしてコンテンツにしょう。
  • とくにベテランと若手との徒弟関係のエピソードを軸にしよう。
  • コンテンツの更新情報をお知らせするお客さま向けのメールマガジンをつくろう。
  • 業界専門紙に営業担当者育成の取り組みを取材してもらえないか働きかけてみよう。 等々。

出すべき情報を絞り込んでいるのに、厚みを持たせた情報発信ができるようになります。
情報発信に一貫性が生まれますので、統一的なイメージが形成されやすくなります。


社外と社内の広報を分けない


兼任広報の場合、できるだけ焦点を絞り込んだ情報の発信・共有に集中させる方が作業を効率化できますし、成果にもつながりやすくなります。社内広報に関しても同様です。

先ほどの例でいえば、社内広報は、若手営業担当者同士のヨコの情報共有が課題でした。

ホームページは、携帯端末さえあれば誰でもいつでもどこでも閲覧できます。

ホームページで色々な営業担当者を紹介していれば、社員は移動中や待機時間に他の営業担当者の考えに触れることができます。

ホームページは社外広報媒体なのに社内広報の役割を担うこともできます。

もう少し踏み込むのであれば、若手営業担当者の何人かをホームページコンテンツ強化の「編集委員」として委嘱し、負担がない範囲で「編集会議」を開けば、ヨコの繋がりを創る契機にもできます。

加えて、年に2回の社内報で、ホームページコンテンツを再掲しても良いでしょう。

社内報はプッシュ型メディアですので、確実に目にしてもらうこともできます。

社外広報と社内広報を分けることなく、絞り込まれたテーマについて手厚く情報発信・共有をする。

広報活動に充てる時間・労力が少ない兼任広報の方こそ、こうした広報の本来のあるべき姿を実現しやすいのです。

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