広報で使えるフレームワーク④|田中による経営理念浸透のメカニズム

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

今回は、経営理念をテーマに、広報実務に生かせるモデルを紹介します。

経営理念は何のためにあるのか

そもそも、経営理念は大きく2つのことに作用します。

  1. 企業内部に対する作用
  2. 社会・環境など企業外部と、企業との間の関係に対する作用

上記「1」は、さらに、
(ア)社員にとって行動・判断の指針となる(コントール機能)、
(イ)会社の一体感を形成する(コミットメント機能)、
(ウ)やる気を引き出す(モチベーション機能)
に細分化できます。

「2」は、会社の社会的意義を経営理念として外部に示すことで、
(エ)自社の経営・事業活動を正当化する機能、
(オ)外部環境との適合を図る際の指針となる機能
があります。

よく、経営理念は「行動・判断のよりどころ」と言われますが、これはアとオ。いわば価値観なので、「損得」ではなく「善悪」が判断軸になるものです。
善悪が判断軸になるからこそ、社内の誰もが納得しやすい判断につながるため一体感を創出し(イ)、内発的な動機付けにもつながる(ウ)。同じように、社外にも事業の正当性(エ)を提示できるのです。

社内広報における理念浸透は、主に「1」が領域となります。

経営理念浸透のプロセス

 経営理念の浸透は、多くの経営・組織学者が研究しています。経営理念の浸透プロセスをモデルはいくつかありますが、今回は、帝塚山大学の田中雅子教授が『経営理念浸透のメカニズム』という本にまとめたモデルを紹介しましょう。

 このモデルは、田中教授がある企業を十年間にわたって追跡調査し、理念の浸透「構造」をまとめたものです。時間軸の要素と浸透の程度が組み込まれている点が特徴。時間軸の要素は役職別の整理に落とし込まれているため、ターゲットとしてイメージしやすい。社内報で経営理念の浸透に挑戦する際、アプローチを考えやすくなるでしょう。

 図表1をご覧ください。きわめて当たり前のことですが、役職によって経営理念に対する浸透の度合いは異なります。影響を受ける人も異なります。

田中による経営理念の浸透メカニズム


 社内報担当者がとくに意識したいのは「若手」の欄。経営理念の浸透を図る中心的な主体になるのは経営者ですが、若手にとって経営者の語りは心に響き、存在はシンボルとなります。一方、職場の上司・先輩の言動の影響が大きいため、経営者の語りや存在は瞬発的に影響を与えることはあっても、継続的に浸透の働きかけに寄与するとは限りません。経営者がどれほどメッセージを発信しても、経営者との距離感や、若手の側の実務経験の少なさから、経営理念に対する実感を伴った深い理解・共感や実践行動への落とし込みはハードルがあるのです。

 田中教授は、こうした浸透構造を捉えたうえで、浸透レベルを図表2のように整理しています。図表1の「浸透の程度」をより細かくしたものと思ってください。

田中の経営理念浸透のメカニズム(経営理念の浸透レベル)

 レベル1は「理念を認識している」。これはシンプルに経営理念そのものを社内報に掲載する、経営理念策定の背景を紹介することなどが考えられます。

 レベル2は「理念を主観的に解釈できる」。経営理念を体現する「ロールモデル」となる社員を紹介したり(③)、入社まもない若手に経営理念の解釈を自分なりにまとめてもらう企画が考えられます(④・⑤)。

 レベル3の「理念を客観的に理解できる」では、入社数年から中堅クラスの社員に、理念と紐づくエピソードを寄稿してもらうと良いでしょう(⑥)。

 レベル4の「理念が納得できる」では、管理職や指導職の社員が、理念の意味を部下にどのように伝えているかを取り上げることが考えられます(⑪)。

 レベル5の「理念が前提になる」やレベル6の「理念が信念になる」では、経営者・役員・管理職クラスの理念に対するこだわりをインタビューで聞いても良いでしょう。

 図表1の「影響を受ける人」も参考になります。若手に対する理念浸透は職場の上司・先輩が肝になる。この上司・先輩たちにアプローチするために、経営者とのこの層の座談会を企画して、経営者の理念に対するこだわりを直接聞いてもらうと良いでしょう。職場での伝播が期待できます。

 経営理念が、行動規範やバリューに落とし込まれている場合は、先ほどのような企画をこれらと関連付けていきます。たとえば、バリューに「顧客に寄り添う」という項目があったとします。「顧客に寄り添う」とはいったいどのようなことかを若手に考えてもらったり(解釈=④・⑤)、「顧客の寄り添う」を実践できたエピソードを寄稿してもらったりできるでしょう(⑥)。

 社内報の企画を通して、浸透機会そのものを作り出すことを目指していきましょう。

広報で使えるフレームワーク③|キャメロンとクインによる組織文化の分類

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

今回は、「組織文化」を扱います。社内広報の実務においては、何を訴求点にし、どのような文脈にするかを考える際、組織文化を意識できると良いでしょう

組織文化とは

そもそも「組織文化」とは何でしょうか。多くの研究者が定義を提示しています。おおよそ共通するのは、組織の構成員が共有するものごとの考え方など「価値観」だということです。

この価値観について、ミシガン大学の組織論の研究者であるキム・キャメロンさんとロバート・クインさんは「競合価値観フレームワーク」をまとめています(図表1)。これは、組織に根ざした価値観のタイプを、「家族文化」「イノベーション文化」「官僚文化」「マーケット文化」の4つに整理したものです。

この4タイプは、大きく2つの軸をもとに考えられています。図で言うと、縦軸は「柔軟性と裁量権や独立性」に対して「安定性と統制」が両極にあります。変化や管理に対する考え方と言えるでしょう。横軸は「組織内部に注目する傾向と調和」に対して「組織外部に注目する傾向と差別化」。これは着眼点と言えるでしょうか。

キャメロンとクミンによる競合価値観フレームワーク

この2つの軸は、キャメロンさんとクミンさんが、業績の高い組織に共通する指標を統計的に抽出したものです。いずれの軸も、組織があらゆる事象を判断・意思決定する際に基点になるものですね。一方を重視すれば一方の比重は減らざるを得ない。相反して競合するものなので、「競合価値観フレームワーク」と言います。 この4タイプは、経営者や組織の構成員が、何をどのくらい重視しているかという比重を見るものです。たとえば、一般的なイメージとして「官僚文化」という言葉を聞くと、閉鎖的で内向きでよくないものと思いがちでしょう。ただし、官僚文化は、効率性を重視していたり、品質や考え方に一貫性や画一性が生まれたりする側面もあります。どれも大事であり、どれか一つに偏りすぎてもバランスや多様性を欠くものになります。どれが正しいとか間違っているとか正否で見るものではありません。言葉が持つイメージに引っ張られないようにしてください。

さて、皆さんの組織は、どのタイプに近いでしょうか。

図表2をご覧ください。4タイプについて、志向性、リーダーのタイプ、価値の源泉、パフォーマンス向上の理論(アプローチ)をまとめたものです。4つを見比べて、近いと思うものはどれですか。

キャメロンとクインによる競合価値観フレームワークの内容

掲載要素や切り口の検討に活用する

この4タイプをまとめた図表2は、社内広報で役立ちます。

ここでは、自分の勤め先が「家族文化」に近い組織文化があると考えたとします。

たとえば、社内広報では、経営トップが社員にメッセージを発信することがよくあります。発信のタイミングは、年始や年度初め、あるいは経営計画策定時などが多いでしょう。メッセージを社員の心に響きやすいものにするためには、家族文化であれば、(「リーダーのタイプ」にあるように)社員の自発的活動を後押しすることを意識したり、メンター的なスタンスを意識したりすると良いことがわかります。

経営環境の悪化などで、厳しいメッセージが必要な場合も参考になります。家族文化の比重が大きく、これまで柔軟性を重きに置いてきたものの、なれ合いのような風土が生まれてしまっている。あらためて統制を取ろうとしている状態だとします。この場合は「官僚文化」の要素が必要になるわけです。経営トップのメッセージでは、自らがまとめ役になっていく、調整をしていくことを訴求すると良いことがわかります。

経営メッセージだけでなく、社内報の特集や企画を考えるヒントも得られるはずです。たとえば「価値の源泉」や「パフォーマンスの理論」の欄は、記事の掲載要素を洗い出したり、どこに焦点を当てると社員のモチベーションをアップしやすいかを考えたりしやすくなります。

組織文化そのものを変えていこうとしている場合は、現在はどのタイプに比重があり、目指しているの組織文化はどのような比重なのかを明確にできれば、社内報の切り口をどう変えるべきか考えやすくなります。

なお、キャメロンさんとクインさんは、このフレームワークをもとに診断ツールを作成しています。『組織文化を変える』という訳書の購入者は診断ツールを追加費用なく取得・活用できます。興味のある方は、診断ツールも活用してみましょう。

広報で使えるフレームワーク②|社員の抵抗を管理するチェンジマネジメントモデル

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に活かせる経営・組織分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を毎回、紹介しています。今回は、組織変革(社員の意識改革)で活かせるフレームワークをご紹介します。

近年、増えている社内広報の相談

 近年(連載当時の2020年時点)、社内広報の領域で「社員の意識変革」や「組織変革」のご相談が増えています。前回ご紹介した組織の発展段階モデル(図表1)でいえば、「再活性化の必要性」という踊り場状態です。お客さまからは、社員が自分の仕事に視野狭窄している、現場の最前線の社員にイノベーションのマインドがない・・・などの課題をお伺いします。端的にいえば社内広報で「組織変革を後押ししたい」という内容です。

 組織変革の打ち手は、経営戦略・計画の見直し、組織再編、人事評価制度改訂、行動指針の策定・浸透、分社化・M&Aなど数多あります。一般的に、経営企画や人事部門が中心になって進めます。

こうした組織変革に対して、社内広報が貢献できることは間違いないでしょう。ただし、社内広報が「プロパガンダ」のようにならないように、注意すべきです。

 社内広報は、「情報を武器にした活動」です。変革の取り組みを丁寧に紹介したり、ロールモデルを紹介したりすることで、社員の意識に働きかける効果は期待できます。ただし、現実問題として、社内広報が組織再編や人事評価制度と同じ程度のインパクトを持てるでしょうか? 社内広報はあくまでも情報を武器にした活動なので、情報の受け手である社員が受容することを常に意識する必要があります。単に情報と言う武器を振り回しても、空振りし続ける結果になっては意味がない。「社員の視点を持つ」という社内広報の原理原則を踏まえて、組織変革を後押ししていくことが必要です。

広報活動で使えるフレームワーク|ダウトの組織の発展段階モデル

社内広報で組織変革を後押しするヒント

組織変革は、多くの研究者がフレームワークに整理しています。有名なものは、社会心理学 の父といわれるクルト・レヴィンさんや、ハーバード大名誉教授のジョン・コッターさんの組織変革プロセスです。

レヴィンさんは、変革プロセスを3段階に分けました。変革の必要性(危機意識)を社内に浸透し、そのうえで変革を進め、定着化するという3ステップです。

コッターさんはさらに細かく、危機意識を啓発したうえで、変革を推進するチームを社内につくる、そのチームで変革のビジョンをつくる、ビジョンに基づいて実行し成果を出すなどの8段階に分けています。これらは、企業側の視点から、変革の進め方を整理したものです。

 先ほど、社内広報は情報の受け手となる社員が受容しなければ意味がないとお伝えしました。このため、社内広報で組織変革を後押しするためには、社員の受容についてヒントが得られる枠組みが好都合です。いわば強制的に社員目線を持てる、社員側の視点が加味されたフレームワークがあると良いですよね。

 そこで、『組織を変える基本~変革を成功させるチェンジマネジメント』という本で、ジェフリー・ラッセル&リンダ・ラッセル両氏の枠組みを紹介します(図表2)。上段に会社視点での変革プロセス、下段は各プロセスでの社員の心理状態を示しています。社員の抵抗を管理する視点が加味された組織変革モデルは、ほかに見当たりません。

ラッセルによる社員の抵抗を管理する視点を持ったチェンジマネジメントのモデル

 まず、会社として変革の必要性を啓発する段階。社員の多くはこれまでの実績と成功体験をもとに「快適」な状態にあります。社員の快適状態を考慮して、まずは過去の成功を認めることが大切です。そのうえで、なぜ変革が必要かデータを用いたり、変革できなかった場合のシナリオを提示したりします。得てして、変革のスタートを切る段階に、社内報で変革の必要性をトップが訴える特集を組みがちです。過去の成功事例を紹介すると、社員の快適な感情に寄り添い抵抗をコントロールできます。危機意識(ネガティブな感情)だけではなくポジティブな感情を刺激するのです。

 次に、変革プランを導入(着手)する段階。社員は恐れや怒りなどの「抵抗」を抱きます。ここでは社員の不安感情に耳を傾けたり、怒りを受け入れたりすることが大切です。社内報でアンケートを行っても良いでしょう。

 次は変革プランの進捗管理をする段階。社員は次第に変革を受け入れ始め、自分たちなりに創意工夫するなど「探求」し始めます。変革の具体的な取り組みを共有すると良いでしょう。ここでは、探求を後押しする必要があるので、成功事例だけでなく失敗事例にも焦点を当てましょう。

 変革を安定・維持する段階になれば、社員は「受容」してます。ここでは、社員の努力を労い、具体的データで変革の成果を実感できるようにしたりします。 社内広報がプロパガンダだと思われないように、社員の感情を考慮したフレームワークを活用してみてください。

広報で使えるフレームワーク①|ダフトの組織の発展段階モデル

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に活かせる経営・組織分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を紹介する連載です。今回は、社内広報の企画に活かせる「組織の発展段階モデル」です。

社内広報担当者の悩み

私は広報のマネジメント分野のコンサルティングを行っていますが、社内広報活動全体の見直しや調査のご相談が増えています。ご相談をいただくと、まず社内広報の目的や課題をお伺いします。ほとんどのお客さまは、社内報など個別の媒体の発行目的は設定しています。ところが、会社としての組織課題が何か、換言すると(社内報といった個別の媒体ではなく)社内広報活動全体の目的がはっきりしていない場合が多いです。

 たとえば、社内報の発行目的として多いのは・・・

  • 社員に会社の動きを知ってもらう
  • 社員のモチベーションアップを図る
  • コミュニケーションの活性化につなげる

―など。

これらは、会社と社員との間に信頼関係を構築するためにも、とても重要なことです。

 ところが、本来、社内報などの媒体は、何らかの課題を解決したり、目的を達成したりする手段です。だからこそ・・・

  • なぜ、社員に会社の動きを知ってもらう必要があるのか?
  • なぜ、社員のモチベーションアップを図る必要があるのか?
  • なぜ、コミュニケーションの活性化が必要なのか?

と問い直しをする必要があります。

組織の発展段階モデルを活用しよう

では、「組織課題が何か?」を考えて問い直してみましょう!・・・と、言われても、自分自身の感覚に頼った答えは浮かんでも、その答えに妥当性があるのか自信が持てない。私も、実務担当者だった時、この不安がありました。社員に対する意識調査をしていれば、それを材料に検討しやすい。でも、こうした調査をしていない場合もあります。何か、方向性を掴める材料があると良いですよね。

そのような時におすすめしたいものが「組織の発展段階モデル」です。

組織は人間と同じように段階的に成長(発展)します。この発展段階に応じて、直面しやすい組織課題と解決方策を整理したものが「組織の発展段階モデル」です。様々な研究者がモデルを提唱していますが、ここでは複数の論者の視点を採用したリチャード・ダフトさんのモデルを見てみましょう(図1)。図の「踊り場」の時が、組織に変化が必要な時期。組織課題と言えます。踊り場を脱した右肩あがりのところに記載しているものが組織課題の解決方策です。

広報活動で使えるフレームワーク|ダウトの組織の発展段階モデル

組織は、起業から間もない段階は、創業者や創業メンバーの独自技能を活かして発展します。属人的な技能で成長していくので、「創造性による解決」と言えます。

成長が続くと何人か採用して、一定人数の「共同体」になります。社員が増えれば当然、会社に対する期待や仕事に対する考え方が異なる人も出てくる。創業者や創業メンバーは、独自価値を創造・提供するだけでなく、組織をまとめる必要に迫られます。これがリーダーシップの必要性であり、明確な方向性の提示による解決が図られます。もし、十数人単位のベンチャー起業で社内広報を強化する場合、まずは経営トップの考えを浸透することが必要だと言えます。

さらに組織が大きくなると、創業メンバーだけでマネジメントできなくなります。管理スパンを小さくするために、中間管理職を配置します。すると、権限移譲の必要性が生まれる。これに対応するために、稟議や会議などの「内部システム」が増えるわけです。権限移譲の必要性に直面している組織であれば、内部システムの必要性を丁寧に解説したり、権限移譲が進み活躍している管理職や職場を紹介したりすることが考えられます。

次に、稟議や会議が定着すると組織が「公式化」します。考え方や判断が官僚的になっていく、いわゆる「大企業病」です。よく言えば、役割分担が機能して円滑に組織を運営できているのですが、縦割りがひどくなると考え方が硬直化して変化に対応できなくなる。そこで、全社横断のプロジェクト制度を導入するなど、チームワークを発達させようとします。この段階では、部門連携の取り組みを紹介したり、各部署の取り組みや課題を紹介したり、現場の情報を吸い上げたりするなどチームワークの発揮を後押しすることが考えられます。

ところが組織は次第に、チームワークの取り組みにも「新鮮味」がなくなる。プロジェクト制度が形骸化することもよくあるでしょう。そこで再活性化の必要性に迫られます。組織は分社化・グループ化をしたり(整理統合)、さらなる規模拡大を目指したり、変化に対応できず衰退していったりします。整理統合やさらなる規模拡大であれば、変革の趣旨・取り組みを丁寧に発信したり、不安を払拭したりする社内広報が必要になります。 組織の発展段階モデルは、広報の実務書や教科書には載っていない、実務に役立つツールです。これを使えば、たとえばなぜ会社の動きを知ってもらう必要があり、知ってもらうべき会社の動きとは何かを明確にしやすいはず。モチベーションやコミュニケーション活性も切り口を明確にできるでしょう。

広報に関連する基礎知識【第6回】ブランディングのポイント

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


前回、「ブランド」について解説しました。ブランドはお客さまの頭の中にある脳内シェアのようなもの。このシェアが高ければ、差別化や競争優位につながります。ところが、お客さまが何を頭の中で思い浮かべるかはお客さま次第。お客さまによって、自社やサービスについて思い浮かべる内容がバラバラだと、差別化や競争優位につながりにくくなってしまいます。そこで、たくさんのお客さまに、自社、事業、サービスのことを同じように連想していただくための取り組みが「ブランディング」です。


ブランディングは広告宣伝だけ?

ブランディングという言葉を聞いたとき、その方法として何が浮かびますか。おそらく、「広告・宣伝」が浮かぶ人が多いことでしょう。確かに、広告・宣伝はお客さまとの接点になりやすいです。広告枠を買って自分たちがお客さまに発信したいことを自由に表現できる(もちろん制約はあります)。お客さまとの接点を作りやすい、お客さまの頭の中に入っていきやすいことは確かです。

 ところが、マスメディアの影響力が徐々に落ちています。新聞の購読数は下落傾向が続いており、閲読時間も年代層によっては減るなど「読まれ方」が変化しています。テレビについても、「テレビの情報だけを鵜呑みにして人が動く」という現象は昔ほど目立たなくなりました。お客さまは、マスメディアで触れた情報について詳しく知りたいとインターネットで調べたり、自分の興味・関心に応じた検索から情報を得たり、友人・知人の口コミから新たな情報を得たりしています。インターネット上の広告も、閲覧者が多いサイトへのバナー掲出から、ユーザーごとの興味関心に応じた広告を表示させる技術革新が進んでいます。「マス」ではなく「パーソナル」な媒体の存在感が増しています。

広告・宣伝はブランディングの基本施策ではありつつも、あくまでも接点のひとつです。リーチできる量は依然として他メディアより圧倒的に多いので「知ってもらう」という部分では有効ですが、従来ほど「動かす」「脳内シェアを上げる」力は総じて弱まっています。広告・宣伝だけでブランディングを完結できる時代ではないのです。


社員への浸透が大事

ブランドを大切にしている企業は、店舗の空間デザインなどハードを強く意識するだけでなく、接客・接遇などソフトもブランディング施策と捉えます。例えば入店時の声かけまで落とし込みます。「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」や「ようこそ」の方が良いのではないか。一つ一つの接点を大切にして、お客さまの脳内シェアを上げていこうとしています。このように、メディアの変化を受けて、お客さまとのあらゆる接点で共通のブランド体験ができるようにする考え方やアプローチが拡がっています。

生産財取引などBtoB企業でも、形は違うとしても同じこと。HPでの情報発信、非財務情報の開示、お客さまに対する提供資料の品質、営業アプローチやフォローの仕方、お取引先さまへの対応姿勢など、あらゆる接点で「〇〇な会社だ」という認識ができていきます。消費財取引よりも生産財取引の方が人的販売の比重が高い(図表)ので、消費財よりも社員の言動など「ソフト」が大切と言えます。

認知や購買などい影響を与える活動の比重

ひとつ興味深い調査結果をご紹介しましょう。エデルマン・ジャパンが毎年発表している「トラストバロメーター」という調査では、「学者」、企業の「CEO」、「ジャーナリスト」など各スポークスパーソンの信頼度を尋ねています。近年、信頼度がもっとも高いのは「企業内技術者」。「学者」や「CEO」よりも信頼されているのです。2017年は、「CEO」よりも「一般社員」の信頼度が高いという結果が出ていました。経営トップが自分たちのブランドに信念を持ち、メッセージを発信することは大切です。ところが世間は、時にはCEOや学者よりも、技術者や一般社員の言葉を信じることがあるのです。もちろん、すべての情報の発信主体を企業内技術者や一般社員に置き換えるべきだという話ではありません。お伝えしたいことは、消費財・生産財を問わず(むしろ生産財の方が)お客さまが頭の中でブランドを形作っていくとき、社員の言動が重要な接点になっているという事実です。 その意味で、社員を対象にしたブランディングが不可欠です。この10年ほど、「企業理念」「Way」「バリュー(行動規範)」の重要性が色々な学者・専門家や経営者から発せられていますが、社員に対するブランド浸透とほぼ同じ考え方だと捉えて良いでしょう。


社員に対するブランドサーベイ

前回ご紹介したようにブランドというのはお客さまの頭の中にあるものです。このため、ブランドに関する調査をする時、一般的にはお客さまを対象にします。自社について自由発想で答えていただいたり、「技術力がある」などイメージ項目を列記して、自分が持っているイメージと合致するかお尋ねしたりします。こうしたお客さまのイメージとあわせて、社員に意識調査を実施しましょう。社員の働きはすべてお客さまとの接点につながります。社員が「うちの会社は外面ばかり良い」と感じるようなブランディングは、ブランディングとは言えないのです。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-3 社内広報の課題整理術


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第3回社内広報の課題整理術

昨今では、社内広報について、経営理念の浸透、事業戦略の周知、強みやブランドの社内定着、モチベーションアップ、企業文化革新、働き方改革の推進など高度化した目的が設定されることもあります。

打ち手も社内報、イントラ、全社集会、対話形式のワークショップなど多様化しています。

一方、社内広報の目的の高度化や、手段の多様化が進むと、良くも悪くも「何でもあり」状態になりがちです。

経営企画や人事部門が進める組織開発との重複もあり、社内広報実務に携わる方にとって、結局、何をすべきなのか具体化しにくいという悩みも生じやすくなっています


社内広報の基本は情報共有


社内広報は、端的に言えば会社と社員とのコミュニケーション活動です。

会社と社員との間で情報を共有し、信頼関係を構築します。
信頼関係があれば、「考えること」や「行動」が良くなるので、業績向上につながります。

経営の方向性を社員に共有できれば、社員は行動しやすくなり基盤ができます。
逆に、最前線の社員たちが競合の新しい動きを掴んだ場合、その情報を会社に共有できれば、環境変化に迅速に対応できます。
経営理念や事業戦略、あるいは課題、がんばっている社員も「情報」ですよね。
企業理念は共有されなければ飾り物。
がんばっている社員も共有されなければモチベーションアップにつながらない。

社内広報の基本は「情報共有」であり、その成果は信頼関係だと考えるとスッキリします。


知っていること・知らないこと


ここから課題整理です。
以下の観点で考えていくとスムーズです。

  1. 情報共有→誰が何を知っているか
  2. 信頼関係→社員の、会社に対する評価

社内広報の課題整理は、(抽象的な表現になりますが、)「外と内をセットにして検討する」と良いです。
自分自身のことを客観視するのは難しいからです。

まずは①情報共有です。

始めにいわゆるステークホルダーを洗い出します。

十把一絡げで構いませんので、「お客さま」「株主」「近隣の方」「お取引先様」「学生」「社員」などを挙げます。

このステークホルダー別に、「知っていること」「知らないこと」を考えます
本当はどれぐらい何を知っているのかは、調査をしないと分かりませんが、まずは「考える」だけで十分です。

次に、「社員」を細分化します。

役職別、部門別、拠点別・・・といった具合に、属性を設定し、それぞれ「知っていること」「知らないこと」を検討します。
表計算ソフトを使って一人で考えたり、複数人で付箋を使いながら出し合ったりすると良いでしょう。

ステークホルダー分析と言いますが、これだけでも多くの課題を再認識できます。


できていること・できていないこと


この作業をすると、会社と社員とのコミュニケーション活動で「できていること」「できていないこと」が浮かびあがってきます。

たとえば、社員と情報共有できていないものは、多くの場合、社外に対する広報活動もあまりできていません
そもそも広報担当者が、社内にも社外にも広報できるほど十分に情報を収集できていない、現場との関係を築けていない、広報の理解が浸透していない、といった課題が見えてくることもあるでしょう。

課題整理の作業で理想を言えば、経営の方向性や経営課題から知ってもらうべきことを考えていく、という流れになります。
ただ、この流れで発想すると、「コミュニケーション」ではなく会社から社員への一方的な情報「伝達」の課題に限られてしまいがちです。

コミュニケーションは双方向で成り立つもの。

会社から社員への情報「伝達」も必要ではありますが、その情報を社員が理解し、納得し、共感しなければいけません。

「伝達」と「共有」は違うのです。

また、会社から社員への一方通行だけでなく、社員から会社への情報の吸い上げも必要です。
最初から、「何を知ってもらうべきか」を考える場合は、発想が一方通行になりがちなことに注意しましょう。

社員が知っていること・知らないこと、社内広報でできていること・できていないことを検討したアウトプットが、「社員に知ってもらうべきことは何か?」を考えるインプットになります。

ぜひ取り組んでください。


会社をどう評価しているか


情報共有の次は②信頼関係です。

これは社員が、会社をどう評価しているのかを把握していきます。
アンケート調査が必要です。

なお、前回の締めくくりで、「社外広報の優先順位付けをするためにはアンケート調査が有効で、この調査は社内広報の課題整理と関連する」とお伝えしました。

情報共有の課題整理と同じように、「外」と「内」をセットで考えていきます

調査では、「知ってもらうべきこと」は社員がどの程度知っているのか、社員が抱く会社のイメージはどのようなものか、社員は会社が十分に情報を共有してくれていると感じているのか、といった実態を把握します。

社員満足度調査や組織診断を実施している場合は、その結果から確認しても良いでしょう。

単なる実態把握から一歩進めて、より課題を見出しやすくする調査設計のポイントをご紹介します。

ここでは、会社に対するイメージを例にしますが、知っていること(認知)や評価を尋ねる場合も左のように多面的に測定することが大切です。

  • 自分が会社に対して抱くイメージ
  • 外部の人に抱いて欲しいイメージ
  • 外部の人が実際はこう思っているだろうと考えるイメージ

これらは社員を対象にしますが、あわせてお客さま等の外部の方を対象に、

  • 自社に対するイメージ

を調査します。

「思っている以上に知られていないこと」や「思ってもみなかった強みやイメージ」が明確になります。

社外・社内広報の課題をま両方とも明確にでき、活動の優先順位を決めやすくなるわけです。

line1

●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

line1

●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

特徴(他とどう違うの?)

会社概要

代表者略歴

代表がオススメする本

【推薦本】社内報企画ベストセレクション

社内報制作・社内コミュニケーション支援や、「月刊総務」を発行するウィズワークス株式会社が実施している「社内報アワード」。

このアワードをもとに、社内報の企画をまとめた冊子が毎年刊行されています。

他社の社内報は普段、目にすることができません。

企画の概要だけでもつかむことができますし、事例の数々からは、社内報に限らず、社内コミュニケーションの活動全般にあたっても、参考になるはずです。

1万円を超えてしまいますが、この内容からすれば間違いなく安いです。

躊躇無く買うべきです。

【推薦本】サラサラの組織


好きな本の発行年がだんだん古くなっていくことが悲しく、いまではイノベーション・ファシリテーターとして著名になった野村恭彦氏が富士ゼロックスKDIにいらした時代の本です。

物語形式でファシリテーションを通じた組織変革の取り組みを紹介しており、とにかく読みやすい内容です。

9社の事例も紹介され、組織変革を進める過程で、どういった部分に悩み、難しさがあったのか、なにが良かったのか語られていて、組織変革に悩んでいる方には大きな励みになるでしょう。

かといって事例集ではなく、研究者の紺野登さんの解説が効いていて、具象と抽象をいったりきたりしながら、組織変革のイメージが立体化されていく感覚があります。

事例は少し古くなってきてしまっていますが、それでも、人間の行動に大きな変化はありませんので、人事の方や社内コミュニケーションに関わる方、あるいはコンサルタントの方にもヒントがあると思います。

【推薦本】コーポレート・アイデンティティ戦略


日本におけるCIの第一人者であるPAOSの中西元男氏の本です。

ご本人が手がけられた数々の事例が、成功談ばかりではなく紹介されています。

記載されている事例からは置かれている環境の分析がやや足りないのではないか?という気はしますが、当時としては十分だったのでしょうし、洞察は鋭さを感じます。

必ずしもVIに矮小化されることなく、事業開発や社内活性化に通じるCIの原理原則に則した事例の数々は、大変参考になります。

また、VIの部分もしっかりと既述されており、CIの原理原則から落ちてきたVIの意義・重要性に、深く納得ができます。

私はこの本を2013年ごろに読んだと記憶していますが、それ以降、企業ロゴ(シンボル)を見る目が大きく変わりました。

昨今、シンボリックな企業ロゴは少なくなり、キャンペーンロゴのようなストレートで分かりやすいロゴが増えていますが、計算され尽くしたシンボルが持つ意味や価値に、本書でほんの少しでも触れることができると、人生が少し豊かになります。

【推薦本】企業文化ー生き残りの指針


企業文化とは何なのか、深く、丁寧に、事例もひもときながら、理論と実践を兼ね備えた名著です。

企業文化のアセスメントを具体的にどのように進めていくべきなのか、その社内での合意の取り方まで、ヒントは非常に多くあります。

まったく古びることがない内容です。

中小企業にもM&Aが見られるようになっているいま、あらためて、組織変革や企業文化革新に限らず、企業文化の融合を考える際にも、多くの示唆を得られるはずです。


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