広報に関連する基礎知識【第5回】ブランドってなに?

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


ブランドは非常に分かりにくい概念です。ところが「ブランド」という便利な言葉はビジネスの現場でよく使われており、広報を兼任する、あるいは株主関係管理や危機管理を担当する総務担当者にとっては、しばしば耳にすることでしょう。そこで総務の引き出しのひとつとして、「ブランド」を解説します。


ブランドがある・ないって?

御社では、「ウチの会社にはブランド力がない」といった会話をする・聞くことはありませんか。情報発信がうまくないという問題意識から、社内でこのような声が出ることがあります。「ブランド」とは非常に便利な言葉ですが、いったい何なのでしょうか。

ブランドは、家畜に押した焼き印(生産元を識別するためのもの)が語源です。では、識別する人は誰でしょうか?

識別する人は、ブランディングのターゲットによって異なりますが、多くの場合は「お客さま」です。お客さまが「どのような特徴をもった会社・製品・サービスなのか」を頭の中に想い描くことができるか(識別できるか)が、ブランドのあり・なしを意味します。

たとえば、私は、企業・自治体・研究機関等を訪問して広報活動のアドバイスをしています。複数社でお付き合いをいただいていますので、一日に予定が何件か入ります。どうしても数時間単位で予定が空いてしまうことがあります。このようなときに、私は「充電しながらパソコンを使いたい」「長居したい」「ご訪問先に近い場所にいたい」など、状況に応じて空き時間を過ごすお店を決めます(もちろん、フラッとお店に入ることもあります)。私が「長居したい」状況だったとき、私の頭の中で「長居できるお店」が具体的に浮かぶ場合は、そのお店にブランドがあると言えます。

ところが、私が「長居ができる」と思っていたお店を利用しているとき、店員さんに「お客さま。ご注文から1時間を過ぎており、お待ちのお客さまがいらっしゃいますので・・・」と言われてしまったらどうでしょうか。私が勝手に「長居ができる」と思っていただけなのに、私の中で勝手にお店に対するブランドが失われてしまいます。

このように、ブランドはお客さまの頭の中にあり、目に見えないものです。お客さまが頭の中に創りあげていくものなので、なんともあいまい。概念自体も理解が進みにくいものなのです。


ブランド力って?

お客さまが頭に想い描くことができるすべてのことを「ブランド連想」と言います。このブランド連想と、おしゃれ、かっこいい、かわいい、歴史・伝統がある、などの「ブランドイメージ」を区別できると、ブランドの概念理解が進むはずです。

たとえばディズニーランド。形容詞と結びつけると「楽しい」と表現する方が多いのではないでしょうか。これはブランドイメージです。

ところが、ディズニーランドと聞いたときに、みなさんは「楽しい」という「文字」が頭の中に浮かんでいるわけではないはずです。まるで自分がディズニーランドにいるかのように想像したり、自分が体験したアトラクションを思い出したりしているはずです。あるいはミッキーが手を振っている姿や夜のパレードのきらびやかな様子が浮かぶ人もいるでしょう。こうした頭の中で想い描いているものすべてがブランド連想です。お客さまが多くのことを連想できるほどブランド「力」があると言えます(いわば脳内シェアです)。


ブランドがあると何がよい?

では、ブランドやブランド力があると何が良いのでしょうか。端的にいえば「競争力」が上がります。

お客さまの脳内シェアが高ければ高いほど、お客さまが商品や発注先を選ぶときに優位になります。他の製品・サービスとの違いをお客さま自身がはっきりと認識できるからです。いわゆる「差別化」です。また、お客さまは、頭の中で思い描いていたことを実際に享受できたときに「信頼」をします。信頼があれば、繰り返し消費いただけるようになります。こうした「差別化」と「信頼」が競争力を強固なものにしていきます。

生産財取引や企業間取引でも同じことです。短納期に対応できる、とにかく相談しやすい、客観的な助言をしてくれる、など、お客さまが連想できることがどれほどあるのか。それがブランド力です。多様な連想に加えて、お客さまが「どうせどこかにお願いするなら秋山さんにやって欲しい」と感情移入をしていただけるまでになると、圧倒的に勝つ競争力を得ることができるのです。


「ブランド力がない・・・」

では、最初の「ウチの会社にはブランド力がない」という感覚は何なのでしょうか。

一般論で言えば、たいていの会社は、社会的知名度は高くない。マスコミ報道も決して多くない。それでも良い人財を採用するために積極的にアピールしなければいけない、業界の垣根を越えた競争が始まっており自社のことをもっと市場にアピールしないといけない、といった課題があります。ブランド力がない・・・という議論になったとき、単に見せ方がうまくないことを指しているのか、ターゲットの脳内シェアが足りていないことを指しているのか(ブランドやブランド力がない)、明確にする必要があります。

あるいは、私が「長居ができる」魅力があると感じているお店は、他の人は「十分程度の隙間時間を過ごす時に魅力的なお店」と捉えている場合があります。こうした「揺らぎ」をできるだけ少なくして、多くのお客さまに同じ連想をしていただこうという取り組みが「ブランディング」です。こうしたブランディングが足りていないのでしょうか。

ぜひ概念理解を進めながら、自社の課題を明確にしてみてください。

広報に関連する基礎知識【第4回】危機管理広報の基礎知識

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 前号までに、総務と広報で連携が不可欠なリスク管理の「落とし穴」と、その落とし穴の埋め方を解説しました。今号は、総務担当者が知っておくべき危機管理広報(マスコミ対応)の基本的知識をご紹介します。


危機管理広報の一般論にご注意を

リスク管理を徹底しても、残念ながらリスクの発生可能性をゼロにはできません。実際に問題事象が起きた場合、ステークホルダーに対する影響が大きい場合はマスコミ発表が必要になります。

会社に広報部門がある場合は、マスコミ対応は広報が窓口になることでしょう。ただし、一般的にリスク管理の扇の要となるのは総務。リスク事案の第一報は総務に情報が集まるはずです。

そこで、危機管理広報の一般論では、「リスク管理部署が迅速に広報へ情報を共有すべきだ」とよく言います。ところが、大小様々なリスクに直面している総務にとって、本当にすべてのリスク事案を広報と共有すべきなのか、疑問が生じるはずです。

また、「何か問題が起きたら、包み隠さずすべての情報を出せ」「とにかく迅速に情報公開せよ」と言う危機管理広報の一般論もあります。しかし、こうした対処は、社会的影響が甚大で極めて深刻な場合に限られます。 実は、危機管理広報の一般論は、多数のマスコミ報道があった事例を後から分析し、「問題が起きたら情報をすべて出すべき」「とにかく迅速に公開すべき」と必要な対応を一般化したものです。言い換えると、「極論ケースが一般化されたもの」であり、事案の公表判断全般に適用できるものではありません。


開示・公表の選択肢

もちろん、「極論ケースの一般化」ですので、極論ケースの場合は迅速開示、隠さない等の一般論に沿って対応すべきです。では、極論ケースとはどのようなものなのか、あるいは極論以外のケースではどのような選択肢があるのか。総務担当者がこうした知識を得ておくと、広報への情報共有のセンスがぐっと良くなります。

危機が発生した場合、大きく開示する・開示しないという2つの判断があります(図表1)。ここで言う開示とは、公表(広く世間に発表する)の意味ではありません。お客さまへの口頭開示を含め、そもそも対外的に情報を開示するかという判断があります。

図表1 危機の開示判断の枠組み

この開示判断は、残念ながら一律に基準をお示しできません。法令違反でありながら開示しないケースもあれば、法令違反ではなくても開示するケースもあります。時代や社会の変化に応じて必要な判断も変わります。例えば、一昔前は、ハラスメントは開示しないことが一般的でしたが、いまは迷うぐらいなら開示・公表した方がよいでしょう。開示判断は、ステークホルダーに対する影響の軽重はもちろん、時代・社会背景、法令・ルールでの開示義務の有無、監督官庁や警察等の「助言」、非開示としたものの発覚した場合のレピュテーション低下リスクなど、様々なことを勘案して行います。

開示する場合の選択肢を見ていきましょう。図表1のとおり、まずは開示「姿勢」があります。大きく、能動と受動に分けることができます。受動開示とは、記者やお客さまから問いあわせがあった場合に開示(回答)することを言います。

次に、開示対象があります。広く一般に開示する(これが公表)か、関係者のみに開示するかの2つに大別できます。

開示姿勢と開示対象は、多様な組み合わせがあります。たとえば、何らかの理由で自社が訴えられている場合(非開示判断をしていた)。記者から訴訟に関するコメントを求められ、それが報道されたとします。この場合、必ずしも、自社が訴訟について公表すべきとは限りません。記者に聞かれたら答えるとしても、それを広く一般に公表しないという選択肢もあるわけです。

広く一般に公表する場合は、主にホームページ、お詫び広告、マスコミ発表の3つの方法があります。マスコミ発表の要否の判断は、開示判断と同様に一律に基準を設けにくいものですが、時代・社会背景は強く意識しておきましょう。

マスコミ発表をする場合は、プレスリリースのみ、(担当記者クラブがある場合は)記者クラブでのレク付き資料配布、記者会見を開く、の3つの選択肢があります。

記者会見が必要になるめやす

マスコミ発表をすると決めた場合、一番迷うのは記者会見の要否です。記者会見に関しては、過去に事例が蓄積しており、暗黙的な「めやす」はあります。

図表2のとおり、記者会見も能動・受動に分けることができますが、たとえば自社が起こした事案によって外部ステークホルダーに死者が出ている場合や、悪用の恐れがあるセンシティブ情報を含む個人情報の漏えいなど、注意喚起が必要なケースでは能動的に記者会見を開くべきです。また、行政や監督官庁、マスコミから記者会見を開くように要請があった場合は、開催すべきです。会見を開く場合は、(聞かれたら答える消極的な開示事項を含めて)「すべての情報を出す」覚悟で臨むべきです。

図表2 緊急記者会見開催のめやす

本稿の前半で、「迅速開示が必要」との一般論をご紹介しました。迅速開示が必要なのは、主に、一般の社会・経済活動に影響を与える恐れがある(インフラ企業のみ)場合や、注意喚起が必要な場合(安全・生死に関わる、二次被害の恐れがある)。迅速公表は必要としないまでも、調査に時間がかかる場合(不正等)は「キックオフ」をして複数回(段階)に分けて公表することもあります。

広報に関連する基礎知識【第3回】リスク管理の落とし穴を埋める

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 前回は、総務と広報がリスク管理で連携できないと、思わぬ「落とし穴」ができてしまうとお伝えしました。「落とし穴」とは、不祥事や事故が発生した場合に、マスコミや社会から批判の対象になる「初動の失敗」「隠ぺい体質の疑い」「不誠実な意思決定」の3つです。今回は、この「落とし穴」を埋める方法をご紹介します。


初動対応の失敗を防ぐ

米国同時多発テロなど危機的状況での人間行動を綿密に取材したアマンダ・リプリーさんは、著書『生き残る判断 生き残れない行動』の中で、人は危機に直面すると驚くほど「否認」するとしています。「否認」の次に「思考」「行動」と移行することは、災害時の「逃げ遅れ」など災害心理学の研究でもよく指摘されます。人は、想定外の事態を前にすると、「たいしたことはない」と考えてしまったり、思考自体が停止してしまったりします。いわゆる「真っ白」な状態です。

企業は、緊急時にこうした事態が発生しないよう、危機管理マニュアルに必要な初動対応を書き込むことがあります。さらなる備えとして、シミュレーション訓練を実施する企業もあります。残念ながら、こうした対処をしていても、本当に危機が起きると、行動できない社員は多いのです。

初動対応の失敗は、人為的ミスばかりではなく、「動けなかった」場合があります。この落とし穴を埋めるためには、緊急時の行動心理を、社員全員が学んでおくことが大切です。否認・思考・行動の心理状態が生じやすいことを知っているだけで、緊急時に自分の状態を客観視しやすくなり、この移行スピードを格段に上げることができます。


結果的に隠ぺいが疑われる事態を防ぐ

事故などの緊急事態は現場の第一線で発生することが多いです。このため、現場から情報が上がってこなければ、本社や本部は必要な対策を検討できません。この情報ルートにも思わぬ落とし穴があります。

たとえば、危機管理マニュアルの報告フローが、平時と同じピラミッド型となっている場合があります。第一発見者はまず現場リーダーに報告し、現場リーダーが管理職や役員、リスク担当部署に報告し、必要に応じて対策本部をつくる、といった流れが一般的です。ところが、現場には常に現場リーダーがいるとは限りませんし、管理職・役員がすぐに捕まるとも限りません。忠実な正しい社員ほどマニュアルに沿って報告しようとし、上司がいないときは一生懸命上司に連絡しようとして他への報告が遅くなり、結果として対応が遅れてしまうことがあります。

これに対処するためには、現場と本部の双方で「断片的情報でもよいから早く報告する」、「ライン報告のルールは遵守する必要がない」ことを「バイパスルール」として共通認識にしておくことが必要です。

また、人は「悪い情報を伝えたがらない」ものです。どんなに小さなミスでも、上司に報告するのは気が重いですよね。心理学ではMUM効果(「静かにする」の意味)と言われているもので、緊急時には「そもそも正しい情報が流通するとは限らない」のです。

このため、報告を受ける側の管理職や役員は、正しい情報が伝わってきていない前提で、現場の報告を「健全に疑う」ことが大切です。 平時から、緊急時には「バイパス報告OK」や「現場の報告はちゃんと疑う」といった価値観をつくっておかなければ、対処に遅れたり誤ったりして、結果的に隠ぺい体質を疑われてしまう事態になってしまうことがあります。


不誠実な意思決定を防ぐ

倫理学の研究で、ひとは「倫理的な意識をもっていたとしても、実際にそのとおりに行動できるとは限らない」という研究分野(行動倫理)があります。倫理的で誠実な人ほど、危機に直面すると、社会の常識とはかけ離れた社内にとって「誠実な」意思決定をしてしまうことがあります。

たとえば、様々な失敗から学ぼうとする失敗学の畑村洋太郎さんは、判断者を取り囲む「気」(社会的雰囲気)の影響は無視できないと言います。スペースシャトル「チャレンジャー号」の爆発事故は、不具合が起きており事故は予測できたものでした。ところが、この事故は、米大統領演説の直前でリビア攻撃が準備されていた時期に起きており、畑村さんは誤った判断の背景に、国威発揚という「気」があったと言います。当然、社会的雰囲気だけでなく、「組織的雰囲気」の影響も考慮が必要です。過去の企業不祥事で、有名企業の経営者が「なんでそんな判断をしたのか」と信じられない思いを抱いたことはないでしょうか。どれほど誠実で倫理的な人でも、そのとおりに行動できるとは限らないのです。

この対処には、自分たちの企業文化を自覚することが不可欠です。たとえば、顧客第一主義を謳っている組織でも、実際には売上至上主義で自社都合の判断基準が浸透していることもあります。平常時は、この価値観が会社の業績アップに貢献しているとこともありえるでしょう。ただし、この企業文化に無自覚な状態だと、緊急時に自分たちは顧客第一で判断していると考えがち。無自覚が一番怖いのです。

また、平時から、他社の不祥事事例を「活用」し、ケース討議を積み上げておくと良いでしょう。他社事例を題材にして自社で起きた場合はどのような判断をすべきかを考え、かつ、その判断理由は何かを一件ずつ積み上げておきます。緊急時に、ケース討議で、落ち着いた状態の時に自分たちが判断した結果と理由を参照できるので、「他社はこうだったけどウチは違う」という逃げ道を無くすことができます。

このように、危機発生時の初動、情報流通、意思決定・判断そのものが、実は危機発生時のリスクです。このリスクを顕在化しないように、総務と広報で連携して、こうしたリスクの芽を摘んでおきましょう。

広報に関連する基礎知識【第2回】総務のリスク管理と危機管理広報の違い

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 企業のリスク対応力強化には、総務と広報で密な連携が必要です。ところが、総務と広報では「リスクの捉え方」が異なり、うまく連携が進まないことがあります。総務の引き出しとして、危機管理広報の知識を得ておくと、連携が進みやすくなることでしょう。今号から数回に分けて、総務担当者の目線を意識しながら、危機管理広報について解説します。

広報部門のリスクの捉え方

 総務担当者にとって、「リスク管理」は常に重要なテーマです。総務では、施設などハードのリスク対応が中心になります。総務が全社大のリスク管理委員会等の事務局を主管している場合は、より包括的かつ長期的な視野でリスクを棚卸し、優先順位を決めて、発生を防止する施策を実行します。総務にとって、リスクは「発生させないもの」「管理するもの」です。

 一方、会社に独立した広報部門がある場合は、緊急時のメディア対応判断は広報部門が担います。緊急時に迅速かつ適切な情報開示を行うため、広報部門では平時から記者会見のトレーニングをしたり、他社の危機事例から発表用資料の素案を事前に作成しておいたりします。広報は、マスコミの情報から、他社の不祥事や不正、事故などの情報を毎日のように目にしています。このため、広報はリスクを「発生するもの」と捉えます。

 経営者は、会社や自分の身を守るために、総務と広報で密に連携してリスク対応の強化を図ってほしいと期待していています。ところが、総務と広報は、リスクの捉え方の違いから「すれ違い」が生じがちです。総務からすると、広報はリスクが発生するスタンスで訓練・評価をするので、総務のリスク管理の抜け道を探す「散らかす存在」に見えてしまいがちです。一方、広報から見て総務は、リスク発生後のことを考えていないように見えてしまうので、総務の取り組みを「実効性がない」と評価しがちです。

 経験則では、こうした認識のすれ違いは、大企業よりも中堅規模の企業の方が発生しやすいです。大企業は、そのネームバリューから、リスク発生後の対処(危機管理広報)の重要性を強く認識しています。また、日常的に社内の至るところで大小のリスクが発生しているため、リスクは発生するものという思考回路ができあがっています。一方、中堅規模になると、社内でリスク対応の経験が少ないため、どうしても観念的になりがち。観念的になると、リスク管理を総務が見て、クライシス対応を広報が見るというように、役割分担をハッキリさせる方向で整理をしがちになります。(リスクとクライシスの違いは図表を参照ください。)

時間軸で見た危機の4段階

総務と広報の溝を無くすべき

 総務と広報の取り組みが分断されていると、思わぬ「落とし穴」ができてしまいます。この「落とし穴」とは、不祥事や事故が発生した場合に、しばしばマスコミや社会から批判の対象になる「初動の失敗」「隠ぺい体質の疑い」「不誠実な意思決定」の3つです。

 広報の関心事は「緊急時のメディア対応や情報開示を、いかに迅速かつ適切に行うか」です。このため、広報部門では、緊急記者会見の開催基準や、会見での謝罪の仕方、会見場で悪意のある写真を撮られないようにするレイアウトの工夫、広報担当者の電話取材の対応方法など、テクニックに意識が向きがちです。こうしたテクニックは確かに重要ですが、広報が見ているのはクライシス対応のごく一部でしかない場合が多いのです。極論を言うと、広報の訓練は、事態発生後に初動の対処が適切で、隠ぺい体質が疑われるような情報の流通の不具合がなく、社内で社会目線を考慮した誠実な意思決定が行われる前提で、最後の出口部分を訓練しています。初動で情報が集まっていない段階での「ぶら下がり」の取材対応を訓練することもありますが、一般的にこうした訓練は広報担当者だけに行われることが多いです。

 一方、総務はリスクを発生させない取り組みが中心になります。リスクが発生時の備えとして、連絡ルートを構築したり、マニュアルを策定したりしますが、実態としてはそれで一安心する場合がほとんど。発生させないことを前提にする総務からすると、初動はマニュアルに沿って適切に人が動くだろう、情報流通は連絡網に沿って行われるだろう、そして、集まった情報をもとに経営者が誠実に意思決定するだろう、という希望的観測に立脚せざるを得ない側面があります。

 このように、総務と広報が密に連携できていないと、初動の失敗、社内で情報が流通せずに隠ぺい体質が疑われる、経営層が不誠実な意思決定をする、といった「肝」の部分の対処が行われないままになってしまうのです。これではリスクが発生した後、どれほど会見場のレイアウトもお詫びも適切にできたとしても、説得力がなく、かえってマスコミや世論を敵にまわすような対応になってしまいます。これは、広報の責任でも、総務の責任でもなく、広報と総務の責任なのです。リスク管理の中核をなす総務担当者が、危機管理広報のスコープを知っておくと、リスク対応力強化の落とし穴を埋めていくことができます。

広報に関連する基礎知識【第1回】広報の仕事とは

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 2017年4月号から2018年3月号までの1年間、総務で広報を兼任する方を対象に、効率的に広報業務を進める戦略の策定方法から、広報実務のポイントをご紹介してきました。今年度は、広報の兼務状況を問わず、まさに総務担当者が知っておくと「引き出し」のひとつになる広報分野の知識やトレンドを、ご紹介していきます。


広報って結局、なにしてるの?

 広報に係る部署は、経営企画部門に含まれることも、管理部門にぶら下がることもあります。総務が広報を兼務することも、経営直轄のこともあります。

 広報は、企業・組織のひとつの「業務」でありながら、学術分野で会社の仕事(いわば事業活動)として研究されてきました。たとえば、広報活動は、学術的には「企業とステークホルダーとの間に、良好な関係を構築・維持する活動」などの定義付けがされています。ただ、ステークホルダーとの関係構築は、営業、人事、総務など、ほとんどの経営活動はこれに帰結してしまいます。現に、多くの会社で広報部門は、マスコミや一般社会との関係構築に係る業務は担っていても、顧客は営業、監督官庁は総務、というように関係構築業務は全社で分掌されています。その意味では、「ステークホルダーとの関係構築」は、会社の仕事として「広報」を捉えてはいるものの、広報部門の業務をうまく説明するものにはなっていません。

 こうした曖昧さがあるためか、経営活動をモデル化したフレームワークで、広報活動が含まれることはほとんどありません。たとえば、経営管理活動の種類やプロセスを整理したファヨールや、ポーターの「バリューチェーン」は有名です。総務に関しては、ファヨールは「保全活動」、ポーターは「全般管理(インフラ)」に位置づけていますが、広報活動は一切言及されていません。ファヨールの時代は広報が確立していなかったと見ることもできますが、ポーターにとっては「眼中」にも入っていなかったか、あるいは、経営企画業務と同じように、事業活動というより経営と一体のものだと認識されたのかもしれません。

 広報が大事だというのは肌感覚で誰もが実感します。企業・組織の規模が一定になれば必ず何らかの広報業務が経営活動に組み込まれたり、部署ができたりします。総務が広報と連携したり、総務が広報を兼務したりすることもあるのに、どうにも業務の位置づけが掴みにくい状態では、連携や実務を進めにくいですね。まずは広報の位置づけを、総務の「引き出し」として知っておきましょう。


広報業務の位置づけ

企業不祥事研究を行う井上泉氏は、近著『企業不祥事の研究』で、経営活動のプロセスを大きく「意思決定」「情報伝達」「事業活動」「情報公開」の4つに分解しています。これは、総務、研究開発、営業といった活動の種類を整理するのではなく、経営の実行プロセスを時系列で整理したものと言えるでしょう。経営そのものの流れがとてもシンプルに整理されており、積極的な情報開示が求められる現代にフィットします。広報業務が経営にどう関連付いているのかも、理解しやすい枠組みです(図)。

経営の4つのプロセスで見た広報業務

 経営における意思決定は、株主総会や取締役会、各種委員会などで行われます。広報は、外部情報の収集など広聴も行っています。広聴業務とはまさに「広く聴く」こと。アンケートだったりヒアリングだったりソーシャルメディアの書き込みだったり、一般社会の代弁者としてマスコミの声を聴いたりします。外部から情報を受信し、経営にフィードバックする業務を行っています。

 また、経営が意思決定したことは、組織内部に情報伝達しない限り、実行されません。社内広報業務はここに位置づけることができます。方策としては社内報やイントラ、対面でのワークショップなどが挙げられます。

 事業活動の断面では、成果が最大化するように、いわゆるPR活動やHPでの情報発信など社外広報業務を実施しています。ここでは知名度の向上や信頼獲得などが成果として期待され、各事業活動の実行を側面支援しています。

 情報公開では、(主管部が広報ではなく総務やIRのこともありますが)財務・非財務の報告業務やステークホルダーとのダイアログ、渉外、何か不祥事が起きたときは誠実で適切な情報開示を行っています。


 この枠組みでみると、広報業務は経営活動の全プロセスに密接に関わっていることがイメージできます。広報業務は、経営が企画したことの実行力・実現可能性を上げる仕事をしていると言えます。組織規模が小さければ事業活動の一部として対外的なPRをしているだけで十分かもしれませんが、組織が大きくなるほど意思決定のために収集すべき情報は多くなり、組織内部への密な情報伝達が必要になり、社会的責任を果たすための情報公開も必要になります。

 広報は、目的や目指す活動といったん切り離して、経営の実行プロセスに沿って位置づけていかないと、何をしているのか理解が進みにくいのです。もし総務が広報を兼務している場合は、経営からは、事務業務でなく企画業務に近い期待値があるはずですので、業務遂行で留意しましょう。総務で広報と連携が必要な場面があったら、どのプロセスでの連携が期待されているのかを適切にとらえていきましょう。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-12 社内報のポイント

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


今号は、社内報のポイントをご紹介します。社内報は、紙媒体からイントラネットなど多様な発行形態になっています。社内報の役割・期待効果も、古くは社内の情報共有を中心にした媒体だったものが、たとえば、社内報をきっかけにしてコミュニケーションを誘発させる、社内報を理念・戦略の浸透ツールとする、社内報を通じて日々の業務に直結するノウハウ・メソッドを共有し社員教育をする、など、会社によって活用の仕方も様々になっています。一方、生産性向上で余裕がなくなった現場、ペーパーレス化が進み資源に対する意識が変わった現場から、社内報に対する社員の評価は厳しい目もあります。


社内報はムダ?

昨年(2017年)12月に、ビジネスパーソンの方に、「社内報の意味や効果」について自由回答で尋ねるインターネット調査を行いました(弊社調べ。協力:ミルトーク)。回答が得られた約400件のうち、およそ半数程度が「いらない」「意味ない」「発行にかかる費用の分、給料増やせの世界」「偉い人の自己満足」「本社の仕事をつくるための仕事」など、辛らつで否定的な声がたくさんありました。とくに紙媒体の発行に対する否定的な声が目立ちます。

私が広報実務を担当していたとき、社内報の制作も広報部管轄でしたので、社内報に対する否定的な評価を肌で感じることはありましたが、この匿名アンケートによる辛らつな声の数々を目にしたとき、「これが現実なのか」と悲しい気持ちになりました。


社員から評価される社内報とは

一方、効果があるとする声も半数程度あります。落ち着いて考えると、5割程度も高評価される社内ツールなら、まだまだ存在感・影響力が多大にあると見ることもできるでしょう。社内報を支持する声をいくつか具体的にご紹介しましょう。

  • 社内ニュースやイベント情報などが見られて良いと思う。あと、ウチの会社は毎年新入社員情報を載せているので、どんな新人が入社したのかを予め知るツールとしてもGood
  • 有給の取り方や出張手当の申請方法など直接は聞きづらい制度の説明が載っていてとても助かりました
  • 意外と知らない自社のプロジェクトが紹介されていたり、社員のコラムがあって、自分もこの会社の一員なんだなあって思えるというか、会社の事が好きになれる気がします
  • 他の支店の成功例や会社の今後の対策が分かる。普段あまり接点のない部署のことが分かり、興味をもつきっかけになる

否定・肯定の声を1件1件確認し、集約すると、社内報は紙発行やイントラ活用に限らず、以下の3点が「社員目線」で重要だということが見えてきました。

  1. 「情報源」になる
  2. 日々の業務で役立つ情報を得ることができる
  3. 視点・視野・視座が変わる情報を得ることができる

情報源になる

自由回答の声では、「新人」「社員の冠婚葬祭」「人事異動情報」「他部署の動き」「会社の進む方向性」「福利厚生」「趣味」など、キーワード自体は様々ですが、社内報を評価する声のウラには必ず「情報源」として機能していることが分かりました。逆に言えば、イントラなど他の媒体で得られる情報を単に再録・周知しているような社内報は、発信形態が何であっても情報源として機能せず、評価されないということです。


日々の業務に役立つ情報が得られる

調査では、他部署が紹介されているので何か困ったときに連絡をとるきっかけになる、他部署の事例からどうやっていけば良いか分かる、成功例や失敗例が参考になる、といった回答が見られました。これもひとつの情報源ではありますが、具体的に日々の業務に役立つかどうかが社内報の評価を左右するといっても過言ではありません。換言すると、社内報が社員を支援するツールになり得ていなければ、社員からは評価されないのです。

視点・視野・視座が変わる

社内報を好意的に評価する声では、一体感や求心力の醸成といったキーワードが多く見られました。普段、仕事に取り組んでいると、どうしても自部署や自分の業務に視野が狭窄しがち。硬めのネタでいえば会社全体のことを俯瞰できて愛着がわく、柔らかめのネタでいえば普段接している人の違った一面が分かるなど、視点・視野・視座が変わる情報は印象に残りやすいようです。

自己満足にならないために

発行側にとって社内報の目的は、理念浸透やコミュニケーションの誘発、経営と社員との関係構築など、これまで見てきたような社員評価とは別軸で存在しています。その目的を達成できれば、社員の評価は別問題という見方もできるかもしれません。ところが調査結果からは、社員の評価を得られなければ、社内広報業務そのものへの共感が弱まってしまう、ひいては目的を達成することができない恐れがある、という論理の方が現実に近いと考えられました。

社内報業務は、あらためて社員にとっての情報価値と向き合うべきでしょう。コミュニケーションのきっかけをつくる、理念を浸透するなど、社内報の役割・機能を見出すことも大切ですが、いつの間にか社員のことを考えているようで社員の存在を忘れてしまっていることがないか、常に確認しましょう。

一年間、総務で広報業務を兼任する方を対象に、効率的に広報業務を進める戦略の策定方法から、広報実務のポイントをご紹介してきました。ありがとうございました。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-11 ホームページ活用のポイント

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


ホームページ活用のポイント

今号では、ホームページ活用のポイントをご紹介します。ホームページの利活用は、販売促進が中心になることも多いですが、この連載は総務の方が広報業務を兼任する場合を想定しているため、マーケティングサイトではなく、企業情報を発信するサイトについて扱います。

ホームページのトレンドは、大きく以下の3つがあります。

1 ビジュアル化

2 社内広報とのボーダレス化

3 マネジメント能力の訴求

 それぞれご紹介しましょう。


ビジュアル化はさらに進む

11月号でお知らせしたとおり、情報の受け手は、情報接触環境が激変し集中力の持続時間が短くなっています。一瞬で多くの情報を伝達するために、ホームページのビジュアル化が進んでいます。たとえば従来、「リンク」はテキスト形式(文字リンク)が中心でしたが、画像形式が多くなっています。動画も多用されるようになりました。

ビジュアル対応が必要になる一方、多くの企業が戸惑うのは「手持ちの写真が圧倒的に少ない」ことです。たとえば、ホームページのリニューアルで「使える写真」が少ないと、著作権フリーの写真素材に頼りがち。ところが、業種・業態にフィットする著作権フリーの写真素材は、競合も似た素材を使用していることも。競合とまったく同じ写真を使ってしまうという失敗例も減りません。

世の中の情報量は今後も増え続けますので、人間の集中力の持続時間はさらに短くなっていくことでしょう。ホームページのビジュアル対応がさらに必要になることは間違いありません。普段からオリジナルの写真をストックしておきましょう。カメラマンに依頼する場合は、必ず利用媒体を無制限にして買い取っておきましょう。多少コストが上がりますが、写真は多いほど用途も発想も拡がります。あらゆる顧客接点で自社理解が進みやすくなる投資と考えれば安いものです。


社内広報とのボーダレス化

近年、社員インタビューや開発秘話などを、継続的に「ストーリーコンテンツ」として発信する企業が増えています。これまで企業のホームページは、ニュースリリースや新着情報を更新するだけで、コンテンツが追加されることはめったにありませんでした。ところが、数年前から採用サイトで「プロジェクトストーリー」を発信するアプローチが流行り、この技法が企業サイト全体に拡がってきています。実は、情報の受け手は、経営者や広報よりも「社員が話すこと」を一番信用するという調査結果もあります。「誰が語るか」によって伝わり方が異なるので、社員をメディアとして活用する企業が多いのです。

ところが、こうしたストーリーコンテンツは、総じて閲覧数が伸びにくくなってきています。「ユーザーが飽きた」「ユーザーはその会社の思いや取り組みに興味を持ち続けるほど暇ではない」というのが現実です。労力やコストのわりに「社外広報」としての効果を実感しにくくなってきています。

こうした取り組みを進める企業からは、別軸の評価がよく聞かれます。社員のモチベーションアップにつながるというものです。会社の顔として登場すれば仕事に対する責任感も増す。ホームページの活用が進んでいる企業ほど、ホームページを「社内を意識した社外広報ツール」ととらえるようになってきています。兼任広報にとっては社外広報と社内広報を一体的にできるので有効でしょう。


マネジメント能力の訴求

昨年(2016年)から今年(2017年)にかけて「ESG情報開示」がブームのようになり、上場企業の多くが「統合報告書」の発行に踏み切りました。統合報告書のコンテンツを生かして、ホームページを見直す企業もあります。ESG情報開示は必ずしも上場している大手企業だけの問題ではなく、近い将来、非上場の会社のホームページでの情報発信にも影響が生じることでしょう。

そもそもESG情報開示とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったものです。情報開示の対象は投資家です。投資家が中長期的な時間軸で企業の成長性を見極めるためには、その企業が地球規模の視座で環境のリスクと機会をどう認識し対応しているか、人類社会の視座で社会課題のリスクと機会をどう認識し対応しているか、企業の視座で経営陣が企業経営の能力を持っているかを評価できる材料が必要です。中長期の投資判断に資する情報を開示するものが「ESG情報開示」です。

大手企業がESG情報開示を進めるほど、投資家以外もその情報を活用するようになります。たとえばグローバル企業ほど様々な国での法的規制に沿って、サプライチェーン全体で、外注先を含めた環境や社会問題への対応が問われるようになっています。このため、外注先を比較検討する場合、仮に同じような提案内容だったとき、環境・社会問題への対応状況も重要な後押し材料になります。長期投資を呼び込みたい大手企業だけでなく、大手からの請負が多い中小企業にとっても切実な問題になっていくことでしょう。

もちろん、上場企業と同じレベルでESG情報開示が必要という意味ではありません。ESG情報開示では、ESGに関連したデータと「マネジメント能力」が問われます。マネジメント能力とは、経営環境認識とマネジメントサイクル(PDCA)に集約されます。だからこそ、マネジメントサイクルを回していることが理解できる状態にする必要があります。環境対応、従業員の育成や多様性尊重、調達先とのパートナーシップ、お客さまとのコミュニケーション、あるいはコーポレート・ガバナンス等々、過去から現在に至るまで取り組みをどう発展させてきているのか、時間軸を意識して対応の高度化を訴求すると良いです。 ありがたいことに大手企業の統合報告書でたくさんヒントがあります。大手の情報開示を積極的に「マネ」しましょう。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-10 社内広報の基本

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第10回 社内広報の基本として大切なこと

前号から広報実務の基本をご紹介しています。今号はインターナル・コミュニケーション(社内広報)に関わる基本的な考え方をご案内します。


経営理念の社内浸透が進まない・・・

インターナル・コミュニケーションの目的は、経営理念の浸透、社内コミュニケーションの活性化、社員の定着率向上など、組織が置かれている状況によって様々です。手段に関しては、従来は「社内報」が中核となっていましたが、パンフレット、イントラ、社内テレビ、社内イベント・ワークショップなど多様化しています。

昨今、インターナル・コミュニケーションの領域で非常に多くの方からいただくお悩みが「経営理念やブランドの社内浸透がうまく進まない」ことです。今号ではこれを題材に社内広報の基本として大切なことを考えていきましょう。

経営理念は企業の目指す姿として、あらゆる事業活動の判断基準になるものです。すべての社員の誰にとっても不可欠なもののはずなのに、なぜ社内浸透がうまく進まないのでしょうか。 経営理念の浸透は、社内報を中核にしながら、浸透冊子をつくったり、唱和したり、研修を行ったり、ポスターとして掲出したり、様々なアプローチで実施されます。社内ワークショップをするケースもあるでしょう。社員の人事評価に経営理念に関わる項目を盛り込んだり、経営理念に基づいて社員が相互に褒めあう活動を実施したりする企業もあるようです。何をもって経営理念が浸透したとするのか、定義の問題もありますが、様々な取り組みをしていても、残念ながら経営理念が浸透している実感を持てない社内広報担当者が多いです。


伝達と浸透は違う

経営理念やブランドの社内浸透がうまくいかない場合、「経営理念の『伝達』にとどまっている」または「社員を一律的にマスでとらえてしまっている」のいずれかの解決が突破口になることが多くあります。

まずは「伝達にとどまっている」ことについて考えていきましょう。

伝達と浸透は違います。たとえば「経営理念ができました」と社内周知することは伝達です。伝達とは、事実が誤解無く相手に伝わること。情報の受け手が「余計な」解釈をすることがなく理解できた状態が理想と言えます。分かりやすい例を挙げれば、事務文書・連絡文書です。できるだけ事実だけを書き、誤解されない文書が優れたものとされます。

一方で浸透とは、情報の受け手が共感・共鳴し、自らの解釈を積極的に加えている状態を指します。心が揺さぶられ、自分ならどうするのか等を考えている状態が理想です。

経営理念そのものが共感・共鳴されやすい表現だった場合は、伝達するだけでも浸透の初期段階(共感・共鳴)をクリアできるでしょう。ところが、経営理念は得てして抽象度が高く、人によってはイメージが沸きません。一生懸命、ツールをつくったり、社内報で紹介したりしても伝達にとどまっているケースもあります。浸透するには、自分なりに考えてもらったり、ストーリーテリングと言われる物語形式にして表現したりして、心を揺さぶることを目指す必要があるのです。 まずは「伝達」にとどまっていないか、活動を振り返ってみましょう。もし、伝達アプローチばかりの場合は、社員は経営理念の浸透活動を「押しつけ」だと感じているかもしれませんよ。


共鳴の仕方は人によって違う

共感・共鳴されやすいように工夫しても、共感がなかなか拡がらない場合もあります。この理由は、実はとても単純です。抽象度が高い経営理念やブランドを、抽象度が高いままに共感できる人は、残念ながら非常に少ないのです。経験則では、組織の構成員の5%程度です。

少し概念的になってしまいますが、図表をご覧ください。行動と思考のスタイルを4象限に整理したものです。

図表 行動スタイルと思考スタイルで整理した社員のタイプ

抽象概念に共感でき、かつ能動的に行動できるのは右上の能動ー抽象層です。この層は「未来創造型人材」と言えます。問題意識が高く主体的に行動し、次々に新たな問題自体を創り出して解決していくタイプです。

一方、抽象概念そのものに共感しにくい人もいます。能動的かつ主体的で優秀ではあるものの、具体的な情報を好み、目の前にある問題を解決していくことに優れている右下層「問題解決型人材」もいます。この層には、「組織はいまこういう課題を抱えていて、その問題を解決する手段として経営理念があり、業務上の問題解決等の改善とも結びついている」というように、経営理念を論理的かつ手段とした文脈に「翻訳」をしていかないと、共感・共鳴されにくいのです。

左上の受動―抽象層は「フォロワー型人材」であり、未来創造型人材に憧れてその人たちに共感・共鳴しやすい人。リーダータイプの社員の立ち居振る舞いをあこがれの眼差しで見ますので、リーダー層をロールモデルとして社内PRすると良いでしょう。

左下の受動―具象層は「マニュアル型人材」です。日々の業務マニュアルにまで落とし込むことではじめて経営理念って大事ですねと実感できるタイプです。

このように、経営理念を浸透するためには、浸透対象である社員の共感・共鳴の仕方自体が多様であることを理解し、意図的に文脈やアプローチを変えて「経営理念を使い倒す」必要があるのです。

今回は経営理念を中心に紹介しましたが、他の社内広報活動でも同じです。誤解なく伝達すべき情報なのか、社員の解釈を引き出し浸透すべき情報なのか、浸透すべき情報の場合には社員の共感・共鳴の仕方が異なることを忘れていないか、再確認することで、必ず社内広報の質は上がります。

兼任広報担当者向け広報基礎知識-9 プレスリリースの基本

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第9回プレスリリースの基本

今回から、実務に近いお話をご紹介していきます。今回は、対外広報活動の基本中の基本である「プレスリリース」です。


プレスリリースの原理原則

プレスリリースで一番意識しなければいけない「原理原則」はなんでしょうか。

文字にすると当たり前のことのように見えてしまいますが、「記者が取材・報道を検討するための資料」だということです。
もう少し企業側の目線で表現すると「記者に取材・報道を検討してもらうための提案書」です。この原理原則を意識できれば、プレスリリースの成功確率は格段に良くなります。

プレスリリースは、得てして会社が言いたいこと・取り上げて欲しいことを発信するものになりがちです。
業務・活動の定義としては間違っていませんが、記者が取材・報道する価値があると思わない限りは、何の意味も持ち得ないものです。

最近では、企業サイトで、プレスリリースをそのまま発信することができます。実はここに思わぬ落とし穴があります。


プレスリリースとニュースリリースは違う

ホームページは制約なく情報発信できるので、多くの企業はプレスリリースとニュースリリースを同じものとして扱い、これを掲載しています。
一見すると作業効率が良いようですが、かえって成果が出にくく生産性を悪化させている場合もあります。

ホームページに載せるリリースは、自社のニュースをお知らせするものです。
文字通り「ニュースリリース」として社会やお客様に何でも発信できます。

一方、「プレスリリース」は記者のための提案書。必ずしも「ニュースリリース」と同じにする必要はありませんし、ホームページに載せる必要もありません。
記者に対する提案書ですので、営業活動の提案書と同じように、外部に広く一律的に公開する情報とは性質が異なるのです。

もちろん、最近では記者もホームページから情報を集めますので、必ずプレスリリースとニュースリリースを分けて、プレスリリースはホームページに載せるべきではないという主張ではありません。
ここでは、原理原則を再確認できるよう、2つの違いを際立たせてご説明しています。


段ボール3箱分の提案書

記者が取材・報道したいことは、会社が言いたい・取り上げて欲しいことと異なります。
ある全国紙の経済部長曰く、経済部には毎日「段ボール3箱分」のプレスリリースが届くそうです。見ないで捨てる記者もいるようですが、届いたものはすべて「目だけは通す」記者がほとんど。
段ボール3箱の中からあなたの会社の情報を目に留めてもらうためには、自分たちが発信したいことを自分たち目線でまとめている状態では難しいですね。

幸い、プレスリリースが記者の目にとまり、記者が取材してくれたとしましょう。
記者は取材しても記事すら書かないこともありますし、記事を書いたとしても、たくさんの記者が毎日記事を書いていますので、記事がそのまま載るとは限りません。
記者が書いた記事を全部そのまま載せようとすると、新聞は毎日3倍のページ数になると言います。
記者が書いた記事も、情報価値判断の競争を勝ち抜いて、できるだけ多くの記事を載せるために優先順位が下がる説明や文章が削られて、情報価値が極限まで高められた状態になっているのです。テレビの報道も同じで、テレビの場合は報道番組自体が少なく、さらに「ストレートニュース」と言われる「ニュース」はもっと少ないです。


とにかく新聞・テレビを研究する

プレスリリースの書き方自体は、色々な広報講座がありますし、本もたくさん出ています。
A4一枚にまとめて、タイトルがキャッチーで、概要説明があって、問い合わせ先を明記し、写真を使うべき、というテンプレートの重要性は否定しません。
記者にとって必要な情報・項目はちゃんと載せるべき。それらの学習は別に譲り、ここではより基本的な考え方と作業をご紹介します。

これらの標準フォーマットは、一律に広く発信する際に拠り所にすべきものです。
記者にとっては、必ずしも「標準的プレスリリース」でなくても構いません。
私が広報実務をしていた時、記者の反応が一番良かったのは、リリースした情報をどういう切り口で扱えば情報価値が高まるのかを助言したメモ。
そのネタの業界内での新しさ・珍しさは具体的にどのようなところにあるのか、業界内外での他社動向、記事化するなら単発記事が良いのか他社動向も取材したまとめ記事にした方が良いのか、読者目線ではどのようなまとめ記事だと価値があるのか等々、記者のためにメモ書きを作成していました。

たとえば、あなたが営業される時、営業担当者が自社の良いところばかりを主張して、こちらのニーズも悩みも確認せずに一方的に押し売りをされたら、その会社自体の印象が悪くなりますよね?
記者にとって意味のないプレスリリースは、押し売り営業と一緒。
プレスリリースは、記者が取材・報道を検討するための資料ですので、最低限、どの媒体・番組のどの欄・コーナーでどのような切り口なら取材・報道される可能性があるのかを、ちゃんと研究したうえで、作成に取りかかるべきです。

プレスリリースは、出したい情報を標準的なテンプレートに沿って幅広に発信するという押し売り営業ではなく、媒体を研究し、取材・報道してくれそうな「切り口」を見出したうえで、記者に取材・報道を提案するものです。
兼任広報だからこそ、1回のプレスリリースの成功確率を上げたい。変にラクをしようとして中途半端なニュースリリース兼プレスリリースを出しても、時間も労力もムダになってしまいます。

毎日の新聞・テレビの見方を変えて、なぜこのネタが取り上げられているのかを考える媒体研究をすれば、提案の「切り口」はたくさん見えてきます。単なる情報開示や情報発信とプレスリリースは同義ではありません。原理原則としてこの考え方を起点にできれば、仮に同じ作業をしていてもプレスリリースの掲載確率は必ず上がります。

 

line1

●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

特徴(他とどう違うの?)

会社概要

代表者略歴

代表がオススメする本

兼任広報担当者向け広報基礎知識-8 広報活動の実践にあたり

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第8回広報活動の実践にあたり

これまで、兼任広報の方に向けて、広報業務を効率化するための計画づくりや広報ネタの発掘法をご紹介してきました。あとは「実践あるのみ」。パブリシティ活動(プレスリリース等)やホームページ、社内広報など広報活動の実践にかかわるポイントを今後ご紹介していきますが、今号では、個別の活動をご紹介する前に少し俯瞰して、近年の広報活動の変化をお伝えします。


従来の広報はマスコミ対応中心

経済広報センターが行っている『企業の広報活動に関する意識実態調査』では、広報部門の担当業務を尋ねています。調査対象・回答企業は大手かつ専任部署がほとんどですので、兼任広報の方にとっては少し縁遠く感じるかもしれませんが、近年の変化を読み解く材料としてご紹介します。

この調査の結果では、広報部門の担当業務は、報道対応や社内広報がほとんど。これに危機管理、広告・宣伝活動、社外情報の収集が続いています。


目的が高度化し手段も複雑化

08年と14年の結果を比較してみましょう。報道対応はあまり変動していません。一方、社内広報、危機管理、ブランド戦略の推進、CSR対応は増えています。

同調査で自社ホームページの目的を尋ねた結果では、「自社製品・商品の販売、取引の拡大に役立つ」といった販促支援は減少し、「企業理念やスタンスを伝えること」が増加を続けています。

広報部門の業務が、従来の報道対応(マスメディアとの関係構築)から「企業ブランディング」に高度化していることが分かります。


情報への接触スタイルの変化

広報業務が企業ブランディングに高度化する背景には、ホームページやSNSなどデジタル領域で、自社が独自に情報発信できるツールが登場したことと、この数年でマスメディアの影響力低下が顕著になってきていることの2点があります。後者を補足します。

NHK放送文化研究所の「2015年国民生活時間調査」では、テレビ、新聞に接する人が急激に減り始めていることが確認できます。新聞はとくに顕著で、全回答者のうち、1日のうち新聞に15分以上接する人の割合は、95年には約半数の52%でしたが、2015年には33%に減少。テレビも、新聞より割合が高いものの、92%から85%に低下しています。これは、言わずもがな、スマートフォンの利用者増などインターネット環境の変化によるものです。

この影響で、実は人間の「注意力」も低下しています。米国のナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジカル・インフォメーションの調査によると、人間の注意力の平均持続時間は00年には12秒でしたが、13年には8秒に短くなっています。


環境変化にあわせた活動を

広報担当者は、こうした環境変化を意識していく必要があります。

社外広報に関しては、報道対応中心の頃、広報活動の評価者は、実務上は「記者」だけでした。良い記事が出ればそれだけインパクトが大きかったので、良い記事を出すために記者との関係構築に必死でした。時として社内事情より記者対応が優先されることもありました。

一方、いまではブランド訴求のために自社メディアの重要性が増しています。自社メディアでの情報発信の評価者は、記者ではなく「社員」や「お客さま」です。社外に発信するニュースバリューがあるかという判断基準だけでなく、社員のモチベーションアップやお客さまの評価獲得なども判断軸に加えていくべきです。

また、「注意力の平均持続時間の低下」は、社内外のすべての広報活動の変化を求めています。たとえば会社案内やホームページの「ご挨拶」も長文では読みません。インパクトのある写真と、お伝えしたいことをぎゅっと凝縮したコピーにまとめ上げていく必要があります。

プレスリリースでも、説明の要素は極力省き、取材して欲しいのか、告知して欲しいのか、新製品・サービス等の情報なのか、視覚的に数秒で記者に伝わるようにしなければいけません。

社内報も同様。テキスト中心ではなく、図解など目で見て分かるように工夫するビジュアル・コミュニケーションの重要性が増し続けています。

ところが、ビジュアル中心になると、どうしても「表面的」になりがち。だからこそ、社内広報で言えば「対話」などリアルなコミュニケーションの重要性が増し、社外広報でも具体的なストーリーが一方で必要になっています。

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●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

特徴(他とどう違うの?)

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