広報スキルアップ講座 聞く力(取材力)①

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報に関するスキルアップの誌上講座。これまで、「書く力(文章力)」と「調べる力」を取り上げました。今回は「聞く力」(取材力)です。

広報では常に「聞く」

 広報の仕事では、常に人に話を「聞く」ことをしています。たとえばネタを集めるために社内の担当者に話を聞きに行く。あるいは記者から取材依頼を受けた際に何を取材したいのかを聞きに行く。社内報やWebのコンテンツでインタビューするときは、話の引き出し方という意味の「聞く」もしています。常に聞く行為をしています。広報パーソンにとって、聞く力はとても重要です。

「聞く」とは

 「話を聞ける人」は信頼されます。人はだれでも自分の話をしたい。自分のつらかった気持ちを誰かに話して、「うんうん。そうだったのですね。たいへんでしたね。あなたが、どれほどがんばっていたのか分かりますよ」と聞いてくれたら、どれほど心が落ち着くことでしょう。

 広報での「聞く」は、こうした話の聞き上手のことではありません。

 広報では、「聞くだけで完結する」ことが基本的にありません。たとえば、社内のネタ集めであれば、聞いた話を起点にどう発信するかを考えます。記者の取材依頼であれば、記者が何を聞きたいのかをよく聞いたうえで、対応方法を考えます。インタビューであれば、話をうまく引き出しながら、最終的にインタビュー記事を書きます。

 広報では、聞くというインプットの後にはアウトプットが発生します。話を聞いている最中は聞き上手のようなテクニックはありますが、それ以上に、アウトプットするために、「聞く」という行為をしている。このため、聞いたうえで「わかる」、聞いた内容を「記憶」しておく(レコーダー等への記録を含む)、聞いた材料を活かして「考える」ことが不可欠。逆に言えば、これらができない「聞く」は、聞いていることになりません。

 広報における聞くは、以下の3つで構成されます。

  • 認知する
  • 記憶する
  • 考える

 書く力(文章力)を取り上げた際に、文章を書くためには大前提として客観的に情報を受信することが大切だとお伝えしました。聞くことについても同様です。

 人は、日常会話で人の話を聞いているとき、聞きながら頭の中で「あー、わかる。わたしもこんな経験があった」などのように考えています。会話はキャッチボールで成立しますので、相手が話した内容に対する次の話題を考えながら、会話をしています。

 広報の仕事で、相手の話を聞きながらこのような「考え事」をしてしまうと、相手の話を要約したり、相手のトーンの強弱や行間を記憶したりできません。つまり、認知も記憶もできなくなってしまい、結果的に、考える材料が得られなくなってしまいます。日常会話と同じような円滑なキャッチボールを意識しながらも、頭の中で考え事などのお散歩をせずに、文字どおり「じっと話を聞く」「ひたすら情報を受け止める」ことが必要です。相手の発言をただそのまま認知することで、主観を排した状態で相手の発言を記憶ができ、良質な考えができるようになるのです。

認知・記憶を高めるトレーニング

 とにかく大切なことは、相手の話を聞いている時に頭の中で考え事をしないようにしないこと。そして、重要な情報を記憶できるように、話を聞きながら情報をそぎ落とすことです。頭を真っ白にして話を聞いていると、情報の強弱や凹凸など、「動き」に気が付くようになります。

 こうしたスキルを身に付けるためには、まずは「話を聞きながら要約する」訓練を積むとよいでしょう。

 以下のやりとりを例示します。職場で、朝または昼休みによくある会話だとイメージしてください。

話し相手:「昨日、久しぶりに小学校の同級生と飲みに行きました。ずいぶんと深酒をしてしまい、途中で記憶がなくなってしまいました。気が付いた時には家にいてびっくり・・・。以前はお酒に強かったので、記憶が飛ぶようなことは無かったのですが。たくさん飲んだつもりもないのに。飲み過ぎには気を付けなければと反省しています。」

 日常会話では、このような話をされたあなたはきっと、過去に自分がお酒で記憶をなくしたことがある・ないといったキャッチボールをするでしょう。たとえば「私も最近記憶をなくしました」とか「私は記憶をなくしたことがないんですが、どんな感覚ですか?」とか。

 広報の聞く力のスキルアップでは、以下のように要約をして返答します。いわば復唱です。

自分:深酒で記憶をなくし、反省しているのですね。

 広報の仕事での社内取材等のときにこの要約を実践してみましょう。いざやってみると、要約をせずに「会話」をしたくなってしまいます。取材は会話ではありません。必ず、しっかりと要約をしてください。ひたすら相手の話を聞く、主観を排して聞く、あとで考えるための材料を得るためには、この要約ができないといけません。

 これを自然にできるようになると、話の流れも読み取ることができるようになります。脱線しているな、あるテーマに話が偏っているな、等々を把握できるようになるので、社内取材、電話対応、インタビュー等で「聞き洩らし」が少なくなります。

 聞く力が備わってくると、徐々に、自分の考え(興味関心)を排した状態で相手の発言を受けとめることができるので、話を聞きながら論点を細かくしたり、要約をした返答の切り口や角度を少し変えることができるようになります。これが取材の深掘りです。たとえば、先ほどの「話し相手」の例で言えば、以下のように論点を細かくできます。

・小学校の同級生以外とはよく飲みに行くのか
・深酒をすること自体はよくあるのか、お酒はどれぐらいの量をよく飲むのか
・記憶がないのはいつからいつまでか
・飲み過ぎに気を付けなければというのは何か反省すべきことがあったのか

相手の話を、自分の興味関心で聞いてしまうと、確実にどこかに偏りが生まれます。

返答の切り口や角度を変えることとは、以下のようなイメージです。

・それだけ楽しかったのですか?(「反省モード」の思考を変えて飲み会の内容の話を引き出す)
・お友達に迷惑をかけてしまうようなことがあったのですか?(「反省」の意味を深掘りして確認する)

広報スキルアップ講座 調べる力

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

前回までに4回にわたって広報で必要な「文章力」をご紹介しました。今回は「調べる力」です。

広報と「調べる」こと

広報の仕事では、「調べる」を日常的にしています。たとえば、社内外の情報発信のネタ探し。日々人脈を拡げたり、イントラネットを確認したり、広報担当者はネタ探しに余念がないことでしょう。ホームページ関しても、ユーザーのアクセス状況を調べて課題を見つけたり、他社の表現方法を調べて参考にしたりしているのではないでしょうか。

このように、広報の仕事では「調べる」ことが成果創出の下支えになっています。

優秀な広報パーソンの調査力

 仕事柄、多くの広報パーソンと接します。記者から信頼されたり、社内でキーマンとの人脈を豊富に持っていたり、自然と情報が集まってくるような優秀な広報パーソンは「調べる力」が備わっていることが特徴です。

 報道対応業務を例にしてご説明しましょう。

 記者は、先輩・上司から「10を取材して1を書け」と教え込まれます。できるだけ多くの取材をして、取材した成果を全部書くのではなく、凝縮して良質な記事にまとめるべき、という心構えです。新聞では、その日に記者全員が書いた記事を全部載せようとすると、新聞のページ数は3倍程度になると言われます。記者が書いた記事の中から載せるべき記事を当番デスクが厳選し、厳選した記事に関しても余計な文章を削ぎ落とす作業をします。記者が10を取材して1を書いた記事は、載らない場合もあるし、1からさらに凝縮された記事になって、新聞に載っています。

 優秀な広報パーソンの調べる力の話に戻りましょう。優秀な広報パーソンは、記者が10を取材して1を書くことを理解しているため、10を取材してもらうための準備をしっかりとします。準備は、広報担当者が100を調べて10の情報を提供できるようにするものです。もちろん、あくまでも心構えの話であり、本当に記者の10倍の労力をかけるべきだという趣旨ではありません。

 たとえば記者から取材依頼があったとき、その記者が過去にどのような記事を書いていたか、取材依頼があったテーマの最近の報道傾向はどうか、国や専門機関で参考になるようなデータがないか、ほかの媒体ですでに事例として取り上げられているような企業はないか、取材テーマに関連する研究者はいないか、周辺情報をきっちりと調べます。当然、社内取材も同様です。誰が取材対応できそうか、過去にどのような取り組みがあったのか、何をどこまで話すことができそうか。

 マクロからミクロまで徹底的に調べて、記者がよい記事を書けるように準備をして、記者に情報提供をします。記者も人間ですので、取材先から親切な対応、貴重な情報をもらえると、その会社のことをできるだけ良く書こう、一行でも多く書いてあげたいという気持ちになります。結果的に良い記事を書いてもらいやすくなるのです。

 取材依頼に限らず、プレスリリースを書く時も調べる力が大事です。プレスリリースのネタについて、記事データベースを使って最近の報道内容や報道量の傾向を確認する。他社で似たような内容のリリースがないかを調べる。学術研究の分野で関連するデータや論文がないかを調べる。こうした作業を徹底することで、自社のネタの特徴(他との違い)が明確になり、訴求すべきポイントや付加すべき情報が見えてきます。主管部から持ち込まれたネタをただ単純にプレスリリースにして発信するようでは、成果は期待できません。

 このように、広報の仕事は、調べることを常に行っています。調べることができない広報担当者は、残念ながら伸びしろがないと言ってもよいぐらいでしょう。

調べる力の磨き方

 では、こうした調べる力は、どのようにして身に付けたらよいのでしょうか。

 一般的に、何かを調べるとき、調査の目的や対象を明確にしたうえで調べはじめます。ところが、広報の仕事での「調べる力」は、何を調べたいのかあいまいなままに走らなければいけない、まるで砂漠の中をさまようような調査をしなければいけないことが多々あります。ある程度調べて情報が集まった段階で初めて、調べたかったことの輪郭が見えてきます。まるで、文系の学術論文の基礎調査のようなものです。

 たとえば、統合報告書の作成担当者となり、昨今話題の「ESG情報開示」を意識したものにしたいと考えていたとしましょう。最初は、他社が統合報告書でどのようなESG情報開示をしているかといった関心のレベルのはずです。この場合は、統合報告書の外部評価が高い企業や、業績ランキングの上位企業から順番に統合報告書の内容をざっと見て、企画の方向性を固めるような調査になるでしょう。インプットの材料を多く得るためには、網羅的に調べるしかないのです。

 制作過程に入り、各ページの情報要素や表現を考える段階になると、もっと粒度の細かい調査が必要になります。たとえばガバナンスの情報開示に絡んで次世代リーダー育成の話を扱いたいと考えていたとします。この場合、そもそもガバナンスの領域で次世代リーダー育成を扱っている企業を探し出さなければいけない。そのうえで、投資家向けにどのような文脈で次世代リーダー育成を訴求しているかを分析する。こうした粒度が細かなものでも、砂漠の中をさまようような調査が必要になります。広報における「調べる」の特徴です。

 時間や労力に対してシビアな考えを持つビジネスパーソンほど、調査の目的や対象を設定して効率的に調査するべきだという思考回路ができあがっています。広報の仕事ではこれとまったく逆の発想が必要です。網羅的かつ大量に調べる感覚をつかむこと、調べた大量の情報の中から法則や傾向を見出すこと、これを何度も繰り返して徐々に考えや企画を深めて整理していくこと。こうした感覚を養うことが、広報の仕事の成果につながっていきます。

広報スキルアップ講座 文章力④

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報業務で必要な文章力の構成(図)に沿って、スキルアップの方法をご紹介しています。前回までは、情報を受信する段階では常に客観性が必要、次に、受信した頭の中にある情報を相手に伝わるように「翻訳」することが大切といった内容でした。一般的な「文章力」のイメージとは異なるものだったはずです。

みなさんは学校教育で文章を作成する機会は多くあったはずです。ところが、学校教育の文章作成は生活指導の要素を多分に含んでいます。文章作成の段階を意識して習った人は少ないでしょう。その意味では、社会に出るまで文章作成をしっかりと習った人は少なく、魅力的な文章は書けなくて当たり前のことなのです。

広報業務で必要な文章力は、決して「スラスラと書ける」ことを目指すものではありません。「スラスラ信仰」はやめましょう。表現したいことと向き合い、文章と向き合う。正しく情報が伝わるように(情報の受け手と共通認識ができるように)、細部までこだわりぬいて文章を書く。今号では、細部までこだわりぬくための表現技法のポイントを押さえておきましょう。

広報で必要な文章力~表現技法

いよいよアウトプットの段階です。この最終段階では、大きく3つのフェーズがあります。

  1. 文章を書くときに意識したいこと
  2. 文章を磨きこむときに意識したいこと
  3. 校正のときに意識したいこと

それぞれ確認していきましょう。

文章を書くときに意識したいこと

一般的に「文章の書き方」と言われるものです。この基本を徹底しましょう。文章力に関する本は数多ありますので、詳細は本に譲ることとし、ここでは広報の仕事でとくに意識したい3つに絞ってポイントをご紹介します。

  • 一文を短くする

一文が長くなると、読み手が混乱しやすくなります。いつのまにか主語と述語が呼応しなくなっていたり、情報量が多くなって言いたいことが埋もれてしまったりします。一文はできるだけ短くしましょう。

  • 事実と意見を分ける

広報業務では、魅力を表現しようと思うあまり、事実と意見が混ざった文章を書いてしまいがちです。注意しましょう。事実と意見が混ざった文章は、読み手が共感しにくくなったり、魅力が伝わりにくくなったりします。

たとえば、「多くの研究者が推薦しているこの教科書は五千円と安かった」という文章があったとします。教科書が五千円だったという事実と、自分にとっては安いと思ったという意見が混ざっています。内容を問わず本が五千円すること自体を「高い」と思う人もいるでしょう。その人にとっては、共感できません。

事実と意見を分けてみましょう。「この教科書は多くの研究者が推薦している。値段は五千円だった。内容が充実していて参考になったので安いと思った」という表現にするといかがでしょうか。多くの研究者が推薦しているという事実。5千円したという事実。自分にとっては内容が充実していて値段以上だったという意見。事実と意見を分けることで、魅力が伝わりやすくなるのです。

  • 修飾語の並べ方

 商品やサービスの魅力を表現する場合、修飾語が複数になることがあります。この場合、修飾語の並べ方を工夫しましょう。具体的には、長い修飾語から短い修飾語にすると、読み手が情報を受け取りやすくなります。

たとえば「新しい会員向けのA社でデザインされたスーツです」という表現があったとします。「新しい」が「会員」と「スーツ」のどちらのことを指しているのか分かりにくいですね。このような場合、長い修飾語から短い修飾語の順番に変えてみましょう。「A社でデザインされた会員向けの新しいスーツです」。このように修飾語の並べ方を意識すると、特長が伝わりやすくなります。

文章の磨き込み

 文章は、一部を削ったり、文章の構造そのものを組み立て直したり、磨き込む作業をしましょう。一般的に編集や推敲と言われる作業です。ここでは、印を付けながら文章全体をしっかりと読み直す方法をおすすめします。具体的には、文章を読みながら主語、述語などに以下の印を付けます。

・主語=〇で囲む

・述語=線を引く

・接続=□で囲む

・名詞・もの・こと=< >で囲む

・強調=~を付ける

印を付けながら読むと、強調すべきポイントを強調できているか、文章全体の構造に違和感がないか、文章と文章の接続で論理破綻がないか等を確認できます。

校正するとき

 誤字・脱字を確認する校正は、「読み直し」ではなく「間違い探し」をするものです。誤字・脱字の漏れが多い人は、「流し読み」で満足してしまっている場合が多いです。読み直すことと誤字・脱字がないかをチェックすることは姿勢が大きく異なります。最低でも「黙読」(声を出さずに読むこと)、できれば「音読」(声に出して読み上げること)をしましょう。音読すると、誤字・脱字のチェック漏れを減らすことができます。一文字一文字読み上げながら、校正しましょう。

広報スキルアップ講座 文章力③

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報で必要な文章力~翻訳段階

広報業務で必要な文章力は、単に文章の表現技法を磨けばよいものではありません。大前提として情報を受信する「インプット」の段階があります。前回、この段階で必要となる受信スキル向上のために、新聞の1面アタマ記事を使ったトレーニング方法をご紹介しました。今号では、「スループット」の段階を確認していきましょう。

翻訳作業の必要性(伝わるとは?)

広報の世界では、オウンドメディアという言葉が使われ出した十年ほど前に、「伝える」と「伝わる」という2つの言葉の使い分けが流行りました。

「伝える」は、自社が発信したいことをまるで一方通行のように発信すること。読み手に伝わったのかどうかを考慮できていない状態を指しています。

人間に例えてみましょう。大声で「自分は気遣いができることが魅力です!」と叫んでいるような人がいたとします。そもそも必死すぎて余裕がなく魅力的ではないですが、内容面で言えば「どのような気遣いを指しているのか」が読み手にとっては分かりません。気遣いができるという評価自体も主観なので読み手は到底、納得できませんね。

一方の「伝わる」。読み手に情報がしっかりと伝わった状態を指します。書き手と読み手に共通認識ができた状態です。

先ほどの必死なアピール例でいえば、まず、「気遣いができる」が何を指しているのか分かりませんでした。気遣いと言った場合に、悩んでいる人に対して相手がアドバイスを受け止めやすいように自分の経験談を通じて助言をすることが得意だと言いたいのか、逆に相手が聞かれたくないようなミスをした場合にはあえて声をかけないようにしてあげたりすることをできることを言いたいのか。「気遣い」の要素を明示しなければ、読み手と共通認識はできません。結果的に、読み手に気遣いがあるとは思ってもらえないのです。こうした翻訳作業が必要です。

口頭での会話と文章の違いはこの翻訳作業にあると言っても過言ではありません。会話の場面であれば、「私は気遣いができます!」とアピールしたとしても、相手が「どういうこと?」「たとえば?」などと聞いて会話のキャッチボールができます。情報の要素が徐々に集まるので、次第に共通認識ができあがります。

ところが、文章ではこうしたキャッチボールはできません。読み手に伝わるようにするためには、情報の要素を的確に捉えて言葉にしなければいけないのです。このような「アタマの中にある情報を、他人に伝えるために書き言葉に翻訳する作業」が大切なのです。これが文章作成のスループットです。

翻訳力の向上方法

では、翻訳力の向上方法をご紹介しましょう。翻訳力を上げるためには、大きく2つのアプローチが有効です。

  • 分析的に表現する
  • 客観的に表現する

まずは「①分析的に表現する」です。先ほどの「気遣い」の例がちょうど良いでしょう。気遣いという言葉には多様な要素が含まれています。気遣いの要素を分解したうえで、書き手が読み手に伝えたい「気遣い」が何なのかを明確にしましょう。ここでは、気遣いの要素を色々と考えたうえで、最終的に「悩んでいる人に対して相手がアドバイスを受け止めやすいように自分の経験談を通じて助言をすることが得意」だと伝えたい、ことにしましょう。

つぎに「②客観的に表現する」です。先ほどの「悩んでいる人に対して相手がアドバイスを受け止めやすいように自分の経験談を通じて助言をすることが得意」は、単に自分が得意だと思っているだけかもしれませんよね。周りからは気遣いがない人だと評価されているかもしれません(必死な自己アピールをしてしまう人だけにその可能性もあります)。客観性を担保するためには、たとえば他人から気遣いがあると言われた経験がある、それが複数人である、などの情報を付加します。たとえば、「仲の良い同僚や友人から過去に3~4回、気遣いができる、アドバイスが押しつけがましくなくて良いと言われたことがあります。他人に相談されたときに、自分なりに意識していることは、自分自身の似たような経験談をしながら、自分の教訓を伝えることです」という文章になっていれば、気遣いができる魅力的な人だと伝わりますね。書き手と読み手の間で共通認識をつくるためには、1つの要素で完結させるのではなく、客観性を担保しながら情報を付加して「パッケージ」を創りあげるのです。

繰り返しになりますが、広報における文章力とは、文章作成上のテクニックだけでは足りません。アタマの中のことは、言葉にしない限り誰にも伝わりません。会社や商品の魅力を伝えるためには、広報担当者が考え抜いて書き言葉に翻訳しなければいけません。受信段階で捉えた情報価値を、相手に伝わるように加工することが広報担当者の大事な役割です。

経験則で言えば、広報のうまい・へたは、広報担当者がこの翻訳作業に向き合っているかどうかに集約されます。広報がうまくない会社は、広報担当者がこの翻訳作業を避けているか、外部に丸投げしている場合が多いです。あなたの会社の魅力(アタマの中のこと)は、自分たちで書き言葉にするしかありません。ぜひチャレンジしてみてください。

広報スキルアップ誌上講座【第3回】文章力②

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


広報で必要な文章力~受信段階

広報の仕事は、会社や商品の魅力を社内外に発信することです。文章力は必須のスキル。前回ご紹介したように、広報で必要な文章力は、「文章の表現技法」だけを指すものではありません(図)。広報では文章表現の前段として「受信」がとても大切です。

 報道対応であれば、ネタは、主管部が持ち込んで来ることが多いでしょう。広報担当者は、主管部の求めるままに対外発信するのではなく、どこに特徴があるのかを見極めなければいけません。社会や記者にとって価値のある情報なのか、客観的に判断できなければいけません。自社にとっての価値判断では「ひとりよがり」になってしまいます。社内報やHPコンテンツでも同じ。社内報で言えば本当に社員にとって情報価値があるのか。HPコンテンツで言えばユーザーにとって価値があるのか。広報では、常にこのような「ネタの判断」を行っているはずです。

 ネタの判断のポイントは客観性です。広報担当者は、文章を書くために、とにかく主観を排して受信することが大切です。

客観的事実の受信力向上法

 受信の段階で主観を排して、客観的事実を「とらえる」スキルの磨き方として、オススメの方法をご紹介します。

  • 新聞記事の事実に線を引く

 広報担当者が毎日読む新聞は、教材として最適です。毎日のルーティンの中でスキルアップができるなら、おトクですよね。毎日の積み重ねがスキルアップにつながります。

 そもそもマスメディアは客観的事実を社会に伝える役割を担っています。だからこそ、事実を「掴む」訓練をするにはちょうどよい。では、新聞を教材として活用する方法をご紹介しましょう。

 新聞記事は、よく読むと客観的事実だけで成り立っているわけではありません。新聞社としての問題意識が混在していたり、記者が主張したいことを専門家のコメントによって代替的に伝えたりしていることがあります。

 実際に、これを読んでいただいている日の朝刊1面のアタマ記事に目を通してみてください。記事を読みながら、客観的事実だけを抜き出し、そこに線を引いてみましょう。

 たとえば、記事に「〇〇の問題に対して、官房長官は〇日夕方、記者団に『今後、対応を検討したい』と話した」という一文があったとします。この場合、線を引く対象(客観的事実)は「官房長官は〇日夕方、記者団に『今後、対応を検討したい』と話した」です。前段に「〇〇の問題に対して」がありますが、官房長官が本当にその問題に対して「今後、検討したい」と話したのか、読み手は判断できません。

 この記事が、「官房長官は〇日夕方、記者団に『〇〇の問題に関しては、今後、対応を検討したい』と話した」となっていた場合は、カギ括弧の中はすべて客観的事実と言えます。

 ぜひ、毎日、1面のアタマ記事を対象に、客観的事実だけに線を引くトレーニングをしてみてください。人の話を聞く、文章を読むなど情報を受信する際に、主観を排することができるようになります。

  • なぜ1面アタマなのかを考える

 もう一つ、受信力アップのトレーニング方法をご紹介しましょう。こちらも「新聞の1面アタマ記事」を活用します。

 既述のとおり、広報の仕事では常に情報価値を判断します。受信の段階で情報の価値判断ができなければ、良質なアウトプットに繋がりません。1面のアタマ記事は、新聞社がもっともニュースバリューがあると判断した情報です。読者の属性や政治・経済・国際など分野を問わず、もっとも価値がある情報が載っています。その価値を考えるトレーニングをしましょう。

 先ほど客観的事実に線を引いていただいた1面のアタマ記事を、もう一度手にとってみてください。その記事は、「なぜ1面アタマ記事なのか?」を考えてみましょう。

 たとえば、自動車メーカーと通信会社の2社が業務提携する話が1面アタマ記事だったとしましょう。この場合、以下のような理由が考えられます。

  • 大手の2社が提携したこと自体に情報価値がある
  • 提携の内容が業界の垣根や収益構造を変える可能性がある
  • 収益構造が変わる場合、下請けなどにも幅広く影響が出て、国内の産業全体に変化を与える可能性がある
  • 国の経済政策や研究開発の方向性と合致している

 1面アタマ記事が事故や自然災害だった場合も理由として様々なことが考えられるはずです。人的被害が多いからなのか、世の中全体に対策の必要性を喚起する必要があるからなのか。このように分析的に情報に接する作業を繰り返すと、客観性を養うことができます。

 ぜひ、広報担当者の皆さんは、1面アタマ記事を使い、「客観的事実に線を引くこと」と「掲載理由を考えること」の2つを、毎日、繰り返してください。「文章力」の基盤となる受信力を磨くことができます。

広報スキルアップ誌上講座【第2回】文章力①

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


文章力は、ビジネスパーソンの基盤となるスキルです。広報の仕事では、とくに文章力が必要です。今号から複数回に分けた文章力の「誌上講座」で強化を図りましょう。


広報の仕事で文章を作成する機会

みなさんは「広報」というと、どのような文章を作成するイメージが浮かぶでしょうか。おそらく、社内・社外への情報発信ツールの作成にあたり、興味を引いたり、魅力が伝わるようにしたりする文章作成を思い浮かべるのではないかと思います。

右記のような広報ツール作成時の文章作成を含めて、広報における文章作成は大きく3つの機会があります。

①広報ツール作成時の文章作成

②社内外の人との連絡・調整時の文章作成

③取材等の記録を速やかに社内共有する文章作成

「①」は、いわば「広報専門スキル」と言えるでしょう。プレスリリースの作成、社内報の記事作成、会社案内、ホームページ、SNSなどのライティングなど、広報の仕事は文章作成の機会が多いです。

一方、「②」や「③」は、必ずしも広報に限ったものではなく「汎用スキル」ですがこの2つはとても大切です。

広報の仕事は、外から見ると華やかなイメージがありますが、実際は地味。根回しや調整ばかりです。社内報作成で言えば、社内の人に原稿執筆を依頼する。報道対応で言えば、記者の取材依頼を踏まえて、社内の主管部に協力依頼をする。かつては電話が連絡手段の中心でしたが、メールによる連絡が多くなっています。相手に何をして欲しいのかを明確にし、相手を動かす・協力を得るための文章を書く機会が頻繁にあります。

「③」については、記者会見や取材対応が多い広報組織では頻度が多いでしょう。会見や取材の説明内容・質問をメモにして、迅速に社内の関係各所に共有します。一言一句を拾う速記ではなく、やりとりの中から枝葉の説明を除外して「幹」のメモをつくり、速やかに情報共有することが求められます。

どのような「文章力」が必要か

一般的に「文章力」というと、表現方法や書き方を想起することでしょう。たとえば一文を短くする、助詞に気をつける、興味を惹きつけるキャッチをつくる等です。「①」「②」「③」は目的が異なるので、求められる表現方法や書き方が異なります。「②」で例を挙げれば、社内報の企画として社員に寄稿を依頼する場合、その人にお願いをした理由・背景や読者にとって価値ある情報になることなどを書くと円滑に進みます。このように、文章力という言葉から連想しやすいのは、「アウトプット」段階のテクニックです。こうしたテクニックの習得は大事ですが、テクニックを学ぶだけでは、広報の仕事で文章を「書ける」ようにはなりません。

プレスリリースを例にしてみましょう。例えば、プレスリリースのリード文の書き方や箇条書きが良い等のテクニックを学んだとします。ところが、そもそもネタを客観的にとらえ、どこにニュースバリューがあるのかを認識できなければ、プレスリリースを書けません。書こう・書きたいと思っても、物理的に「固まってしまう」ことでしょう。仮に、自分の頭の中で「ニュースバリューはこれだ」と認識できたとしても、相手である記者にニュースバリューが伝わらなければ「書ける」とは言えません。データや時流などの要素を加えたり、競合の情報を付与したりすることもあるでしょう。 プレスリリース(①)を例にしましたが、②や③でも同様です。広報で文章を書く際には、文章を書くテクニックとは別の要素が不可欠なのです。(文章を書くテクニックについても次号以降で扱いますので、安心してください)

広報の仕事で文章を書くために

そもそも文章とは、伝わることが必須要件です。ここで言う「伝わる」とは、読み手が頭の中で何らかのことをイメージできるかどうか。プレスリリースで言えば記者が「記事を書けそうだ」と思い浮かばなければ意味がないものになってしまいます。広告やチラシ等であれば、読み手が買ったら楽しそう・便利に使えそう・かわいくなれそうなどのイメージが生まれるか。取材メモであれば取材時のやりとりの様子が浮かぶか。広報では、こうした文章の質が求められます。

記者・広報実務・広報支援の3つの立場を経験した私なりに、広報の「文章力」を図に整理しました。広報における「文章力」はアウトプット段階の表現技法を指すものだけではないと考えた方がよいでしょう。

そもそも情報を受信する「インプット」の段階があります。先ほどのプレスリリースの例で言えば、自社目線という主観を排してネタを社会目線から客観的に認識し、特徴がどこにあるのかを捉えることが必要です。受信した情報は自分の頭の中にしかないので、書き言葉にしたり情報要素を付加したり、相手がイメージできるように翻訳する作業が必要になります(これがスループット)。最後に、文章表現や書き方のテクニック。ここで初めてリード文の書き方や箇条書きが良いといったテクニックに価値が生まれるのです。

次号以降で、段階別のスキルアップ法や、アウトプットの段階でのテクニックをご紹介します。

広報スキルアップ誌上講座【第1回】広報の仕事の特徴とは

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


 弊社では、2018年3月から4月にかけて、広報を経験したビジネスパーソンを対象に、「広報の仕事の特徴」を尋ねる調査を実施しました。他の部署ではできない経験、広報の仕事の良いところ、広報の仕事だから身に付けやすい能力など、広報の仕事の特徴として思いつくことを自由記述形式で挙げていただきました。調査では、244件の有効回答がありました。

 調査結果は自由記述ですので、1件ずつ読みながら記述内容をコード化する「アフターコーディング」をしました。たとえば「会社の顔なので、全信用に関わります」といった回答であれば「会社の顔」というコード名を付し、似たような回答があればこれをカウントしていきます。自由記述は「定性」データですが、これを「定量」データに置き換える作業です。この「アフターコーディング」をすると全体的な傾向が見えます。

 アフターコーディングの結果、もっとも多かったのは「受け手目線」というキーワードで27.9%でした。これに「簡潔に説明」(26.2%)、「特徴や要点を抽出」(21.7%)が続きました。ほかにも、「視点・視野・客観性」(17.2%)、「自社理解」(16.4%)といったキーワードが多く見られました。

この結果は、あくまでも自由記述の回答結果を件数に置き換えてボリューム感を確認するためのものです。広報の仕事の特徴を見極めるためには、回答内容を似たものでまとめて「分類」する必要があります。この作業をした結果、回答内容を大きく5つに分類できました。

  1. 会社の顔になる
  2. 高い視座・広い視野・多様な視点が求められる
  3. 表現・方法を考え抜く
  4. 危機管理・危機察知
  5. 人脈が拡がる

特徴1 会社の顔になる

広報は、年齢・役職にかかわらず、会社を代表する立場として、記者や専門業者、お客さまなど外部の利害関係者と関わることが多いという回答が目立ちました。報道対応をしていると、会社の顔として記者の質問に対応します。ホームページや会社案内などの広報ツールを制作する場合も、ひとつひとつのメッセージや表現は会社の顔となるでしょう。

広報業務は会社の顔になることが多いため、「責任感が醸成される」、「他人に説明できるまで事案を理解する癖が身に付く」といったメリットがあるという回答がありました。

特徴2 高い視座・広い視野・多様な視点

「経営に近い」「経営層の考え方や動き方を知ることができる」といった回答が目立ちます。本社機能はいずれも経営に近いですが、広報は、人事、経理など個別機能とは異なり、機能・部門を超越して、統合的・包括的に社内外の情報に触れます。広報の経験を通じて「会社のことを俯瞰できて視座が上がる」のです。 また、「他部署・業界・社会への影響などを想像できるようになる」など視野の広がり、「疑問点や影響範囲を常に洗い出す」「建設的批判や視点を切り替えた発想ができるようになる」といった視点の切り替えに関する回答が見られます。高い視座・広い視野・多様な視点が必要になる(身に付けやすい)仕事と言えるでしょう。

特徴3 表現・方法を考え抜く

広報は、社内外に情報を発信することが主な業務です。「会社の魅力やサービスの特徴を伝えるために表現を考え抜く」「あらゆる方法で効果を最大化しようとする」「創意工夫し続ける思考回路ができる」「調べる、聞く、話す、企画する、文章にする、まとめる、伝える、すべての能力の総合体」といった回答が目立ちます。「情報の受け手目線で考える客観思考が身に付く」「日々接するメディアから、表現方法を学び取ろうとするなど情報感度が上がる」「本社機能でありながら営業センスを養うことができる」といった声は、広報ならではと言えるでしょう。

特徴4 危機管理・危機察知

企業価値を守るためにダメージ・コントロールをすることが広報の特徴だという回答も目立ちました。「昼夜を問わず、会社に関係のある情報やニュースをいち早く察知する」「嘘偽り無く本当の姿だけをわかりやすく伝えることが仕事なので、無いことをいってはいけないが、あることを言わないのはかまわない。腹黒くなれる」のような回答です。広報は危機管理の中でも危機が発生した後の対応が担当領域となります。そのため、「会社に属しながら、半分社外に身を乗り出して仕事をするというか、客観的に自社を見ながら仕事しなければならないところが面白くて難しいところ」というように、バランス感覚が身に付く仕事と言えるでしょう。

特徴5 人脈が拡がる

制作会社など「社外の人脈が拡がる」「記者とのネットワークができる」、「社内人脈が増える」といった回答が目立ちました。短期間で社内外の人脈を幅広く形成できる部署は他にはないと言えるでしょう。関係調整や折衝能力が求められる仕事です。

広報に関連する基礎知識【第12回】報道対応のいま

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


前号で、マス・メディアの経営環境が厳しくなっていること、この影響で記事(コンテンツ)の差別化が進んでいることをご紹介しました。具体的には、動向解説を含めた物理的に大きな記事が増えている、あるいは社説以外の記事でも論調が入るようになってきたとお伝えしました。今号は、この変化に対応する広報活動のポイントをご紹介します。

まとめ記事を狙う

新聞は、紙面の大半が大きな記事で埋まるので、記事の本数が減っています。記者から見れば、1本のプレスリリースや1回の記者会見等に対して1本の記事を書くだけではなく、複数社のプレスリリースや記者会見を踏まえて、1本の記事を書く(まとめ記事と言われます)ことが必要になっています。従来はスクープをとる記者が評価されていましたが、分かりやすく情報価値がある大きな記事を書ける「紙面を埋められる記者」も重宝されるようになっているのです。これを企業側から見ると、プレスリリースを出しても記事が載る確率は低下していると言えます。

TVに関しては、報道番組をじっとみると、そもそも「ストレートニュース」と言われる事実情報のみを報じるニュースが極めて少ないことに気が付くことでしょう。ぜひ報道番組を見ながら、特集や企画コーナーなどを除き、アナウンサーが原稿を読みながら伝えているニュースの本数を数えてみてください。多い日でも、新聞の1面・総合面・政治面・国際面・経済面・社会面のそれぞれから1~2本ずつでしょう。報道番組は、放送時間の大半を特集や企画などが占めています。もともと新聞で言う「大きな記事」が多いのです。

 このように報道対応では、記者が複数箇所を取材して大きな記事を書くという前提でアプローチすることが必要になっています。自社の情報だけをプレスリリースで発信するのではなく、他社の動向を含めて「企画」として記者に提案をすることが大切です。

イメージが沸きにくいと思いますので、例示します。近年は「AI」や「働き方改革」が話題でした。たとえば、自社でAIを使って業務効率化を実現できるサービスを開発した、それをマスコミで取り上げて欲しいと考えているとします。この場合、一般的には「AIを使って働き方改革を実現するサービスの提供開始~社内実証では業務効率が●%アップ」などとしてプレスリリースをします。時流(AI、働き方改革)や実績(業務効率●%アップ)といった要素をフックにして記事化を狙います。ところが、記事やニュースの本数は少ないので、取り上げてもらうハードルは高いです。

そこで、「企画」を提案します。自社の情報だけでなく、同業他社の似たサービスをまとめて「AIを使った業務効率化のサービスが続々と上市~●年には●億円規模の市場に」という企画、あるいは「業務効率化」を核にしながら、AI(自社の情報)、新しい研修(他社の情報)、新しい人事制度(他社の情報)などをパッケージにして提案します。自社が単体で乗る記事を目指すのではなく、自社が報道の一部になる前提でアプローチをします。 こうした企画提案のアプローチは、広報専門会社(PR会社)の一部が得意としていますが、企業の広報活動でもぜひ実践しましょう。記者は短期間で担当が変わることが多いので基本は「素人」。複数の取材候補先を例示してあげながら、最終的にどのような記事に仕上がるのかイメージを沸かせてあげることが大切です。なによりも、記者からすれば、一方的に情報提供してくる押し売り型の広報よりも、記者と同じ目線で考えて情報提供してくれる提案型の広報のことを信頼します。信頼の積み重ねがあってはじめて、報道の機会を増やしていくことができます。

基本を徹底する

企画提案のアプローチをするためには、「新聞をよく読む、TVをよく見る」ことがもっとも大切です。報道対応の仕事の質の良否は、この作業の積み重ねに左右されます。仕事柄、多くの企業・大学・自治体の広報担当者と会いますが、新聞をまったく読まない、TVニュースを見ない人が増えています。野球選手がプロになっても毎日「素振り」を繰り返すように、新聞を読む・TVを見るという行為は広報担当者にとって徹底すべき基本です。

 もちろん、何も考えずに新聞をめくり、TVのニュースを眺めるだけでは意味がありません。新聞で言えば、その日の新聞に載っている情報がそもそも何か(新聞にはどのような記事が載っているのか)、記事の扱い(なぜこの記事がこれだけ大きい・小さい扱いなのか、各面のアタマ記事なのか)、記者の署名の有無、新聞の読み比べ(なぜA新聞には載っている記事がB新聞では出ていないのか)などはもちろん、最近よく名前が出ている企業があれば、その会社のHPを見てどのようなプレスリリースを出しているのかを確認したり、ニュース検索をして報道内容を確認したりしながら、広報がどのようなアプローチをしているのかを考えてみましょう。動向をまとめた記事があれば、企画提案のアプローチを考えるヒントとして活用しましょう。自社のビジネスに関わる官公庁の調査報告書や、市場調査会社のレポートなどがあれば、ストックをしておきましょう。

 TVで言えば、報道番組の大半を占める特集や企画の内容・構成を読み解きましょう。多くはテーマを設定し、複数の企業を取材したりしています。テーマ自体の切り口を読み解いたり、記者がなぜその企業に取材にいったのかを考えたりしましょう。  こうした「素振り」があってはじめて、報道の変化に対応できる広報活動を実現できます。報道が変わっているからこそ、プレスリリースを出すだけの押し売りスタイルで満足せず、記者と同じ目線で企画を考えましょう。

広報に関連する基礎知識【第11回】マス・メディアの変化

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


今号と次号では、総務の引き出しのひとつとして、報道対応について取り上げます。今号でマス・メディアの変化、次号でその変化に対応する広報活動のポイントをご紹介します。

マス・メディアってなに?

そもそもマス・メディアとは、なんでしょうか。「マス」は大衆や集団という意味です。メディアは「媒体」ですね。この2つをくっつけた「マス・メディア」とは、マスを対象にコミュニケーションする媒体のことです。端的に言えば広告や広報の世界で「4マス」と言われるTV・ラジオ・新聞・雑誌の4つ。最近はこれに「ネット」が加わり、4マス+ネットをマス・メディアと言うことが多いです。 似たような言葉で「マスコミ」があります。これは「マス・コミュニケーション」を略したものです。「マス・コミュニケーション」はマス・メディアを用いた情報伝達のこと。実際には、「マスコミ」は、「マス・メディアの報道活動」を指すニュアンスで使われることが多いです。

マス・メディアの影響力低下

近年、皆さんは「マス・メディア」の影響力が低下していると見聞きしませんか。これは、①4マスのリーチが減っていること、②受信側がマス・メディアの情報に接しても動かなくなったことーの2つの変化から影響力が落ちたと言われているものです。

リーチの減少に関しては、たとえば新聞の総発行部数(日本新聞協会加盟社)は2000年に約5370万部ありましたが、2017年には約4212万部。1000万部以上減少しています。 受信側が動かなくなったことについては、広報の実務担当者だったときの経験談を例にします。2000年代後半までは新聞でイベント情報等が取り上げられると、午前中は電話が殺到していました。ところが、2010年代に入った頃からこうした反響はなくなりました。広報の効果測定として、年に数回、媒体読者に対してインターネット調査で「記事を読んだか」「記事を読んでHPにアクセスしたか」等を聞いていました。記事を読んだという人の割合に大きな変化はなかったのですが、「HPにアクセスした」等の動きは徐々に減っていました。情報は届いているものの動かなくなったということは、私の経験則で言えば間違いがないことです。

マスコミの変化

部数の減少と受信側が動かなくなるという2つの課題に直面し、マス・メディアを持つ各社は収支が悪化しています。販売収入はもちろんのこと、広告収入が減るためです。

この変化は「マスコミ」(報道)にも影響しています。新聞を題材にして考えてみましょう。

購読が減り続ける新聞各社は、読者の「囲い込み」に必死になっています。これは販売競争だけではなく、記事等のコンテンツや紙面づくりなど報道活動にも派生しています。ジャーナリズムとしての公平性・客観性の担保は必要ですが、営利企業として生き抜くために、新聞の商品である「コンテンツ」の差別化が進んでいます。

新聞各社は、継続して購読してもらえるように、解説記事を増やしたり、記事そのものに主張を入れて読者ターゲットに響きやすくしたり、記事そのものに特色を出すようになっています。元々、新聞は「社説」の論調で保守系などの色はありました。論調の持たせ方が社説にとどまらなくなっています。 皆さんは、昔の新聞は小さな文字でたくさんの記事が載っていたように記憶していませんか。事実だけを端的に伝える報道を「ストレートニュース」と言いますが、こうした記事が減っています。一方で、ひとつのテーマを詳しく解説した記事や、数社に取材して動向をまとめた「まとめ記事」など、物理的に大きな記事が増えています。文字サイズの拡大に伴って載せられる記事の本数が減っているうえ、コンテンツの差別化のために記事そのものが大きくなっている。こうした変化が起きています。

マスコミの質が低下?

最近は「マスコミ」の質の低下が言われます。ただし、数十年前の新聞を読むと、社説は一般論しか書いていないような浅い内容、記事も企業の発表文をそのまま載せたようなものばかりです。落ち着いて今昔を比較すると、コンテンツの「質」が落ちているとは思えません。ぜひ皆さんも図書館に行く機会があったら、数十年前の新聞の縮刷版をめくってみてください。

既述のとおり、新聞に掲載される記事の量が減ったことは確かです。ただし、各紙のWeb版を含めて考えると記事やニュースなどコンテンツの「量」は増えています。

「取材」に関しても、確かに一部芸能報道で一般常識からズレた盗み撮りのような報道はありますが、2000年代初頭と比較して集団で過熱してエスカレートする取材は少なくなりました。業界内でのルールが制定され、過熱した取材が発生した場合は報道各社が自発的に節度ある取材をするようになっています。

つまり、質が低下しているとは言い切れません。昔は、記事は事実の伝達が中心だったので読者が良し悪しを評価する要素がなかった。記事に特色が加わるようになって、読者が評価する要素が生まれた。さらにポータルサイトのニュースのコメント欄で、記事そのものを評価するコメントを目にするようになった。こうした変化で、質が低下しているような印象を持つことが増えたと言えるでしょう。 マス・メディアが生き抜くためにコンテンツに特色を出すようになったいま、どのようにマスコミと付き合っていけば良いのか、実務的なポイントは次回ご紹介します。

広報に関連する基礎知識【第10回】ESG情報開示のポイント

2018年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


前回は、ESG情報開示がどのようなものか、なぜ投資家がESG情報を求めるようになったのかをご紹介しました。今回は、投資家の関心事に答えるために、どのような情報開示が必要かを考えていきます。

中長期の投資判断に資する情報を開示

前回、ESG情報開示は「投資家に対して中長期的に存続・成長し続ける強い会社と評価される」ためのものだとお伝えしました。大事なポイントは「中長期の評価」です。

一般的に投資活動は、財務情報を軸に判断します。ところが、財務情報は過去から現在に至る成果を現すものです。数年先までは予測できても、年金運用に耐えうるだけの中長期的な投資判断の材料にはしづらい。そこで投資家は、経営者がリスク・機会をどう認識し、それに対処するための仕組み・取り組みがあるのかなど「非財務情報」を参照して、中長期的に存続・成長し続けることが期待できるかを定性的に評価します。

この非財務情報は、企業によって開示内容がバラバラなので、全企業が何らかの形で必ずかかわる環境・社会・ガバナンスに絞って評価をするものがESGと言えます。 投資家に対する情報開示を適切に行うために、投資家がどのようなポイントを見て「中長期的に存続・成長し続ける」と評価しているのかを知りましょう。

ポイント①企業の考える力

一つ目のポイントは企業の考える力。いわゆる「環境認識」です。投資家の一番の関心事はリターンにつながるかどうか。だからこそ、環境・社会という大きな括りであれ、水、気候変動、人権等の細分化されたESGテーマであれ、企業が自分たちの市場環境や強み・弱みをどう自覚し、どう利益を創出しようとしているのかを知りたい。

投資家は頭の中で、企業の情報に接しながら、図表のような定性評価をします。縦軸に利益創出の機会とリスク、横軸に売上向上とコスト削減の2つを置いたものです。左上と右上は分かりやすいですね。左上は売上向上の機会の最大化、右上はコスト削減の機会最大化です。左下・右下は少し分かりにくくなりますが、左下は売上が上がらない(売上が減少する)リスクの低減、右下はコストが下がらない(コストが増大する)リスクの低減です。いずれも利益創出につながります。

例えば、業界独自のルール整備や啓発活動等の社会貢献活動を行っているとしましょう。これを単に社会的責任のひとつとして訴求するだけでは投資家に対する説得力は弱い。投資家に対しては、利益創出の一手段として、「法規制等でコストが増大することがないよう、業界独自のルール整備を主導して行い、消費者への啓発活動を積極的に行っている」という文脈をつくって説明することが必要です。 投資家は、あらゆる企業活動を利益創出と結びつけることができているのか、考え方の「質」を探ります。企業の考える力を評価しているのです。

ポイント②良くしていく力

投資家は、企業が発行するアニュアルレポートや統合報告書など各種報告書を、必ず数年分まとめて熟読します。各年度の記載内容を「読み比べ」るためです。各年度の読み比べによって、財務情報では分からない経営改革や環境変化への対応状況、個別具体的な取り組み内容の進化・発展を読み解くのです。

たとえば、この1~2年で「ガバナンス強化の変遷」や「ダイバーシティの取り組みの進化」を紹介する企業が増えました。投資家にとっては取り組み内容の変化を理解しやすく助かることでしょう。このように、時間軸を意識して取り組みの進化・発展を見せていくことが大切です。

中長期の投資判断に対応するためには、施策を検証・改善して育てていくことができる会社だと評価される必要があります。時折、毎年、まったく同じ情報が、同じ文言で載っている報告書があります。これは「本気度がない」「施策を検証・改善する力がない」と評価されてしまうので、絶対に避けるべきことです。

投資家は、企業の中長期的な発展性を見極めるために、企業に「良くしていく力」が備わっているかを見たいのです。

ポイント③真似できない仕組みをつくる力

投資家にとって中長期の投資判断で決め手になるのは、他社が簡単には真似できない「差別化要因」の存在です。

 たとえば、「S」のサプライヤーとの関係性について、多くの企業は調達方針や調達委員会の構成等を開示しています。こうした基礎的な情報はもちろん必要ですが、これだけでは他社との違いが分かりません。たとえば自社だけでなくグループ会社全体、取引先を巻き込んだ形で調達改革を進めている、ある提供サービスがお客さまや地域社会をも巻き込んだサプライチェーン全体でメリットがある仕組みになっているなど、他社が簡単には真似できないポイントを見せなければいけません。

象徴となるようなひとつの製品・サービス・取り組み事例に絞り込んでも良いので、競争力の源泉を具体的に掘り下げて見せることが大切です。

このようにESG情報開示は、扱うテーマが何であっても、企業の考える力、良くしていく力、真似できない仕組みをつくる力が評価されます。環境・社会・ガバナンスという扱うべき項目に引っ張られすぎず、扱うべき内容をしっかりと考えていきましょう。