広報で使えるフレームワーク④|田中による経営理念浸透のメカニズム

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

今回は、経営理念をテーマに、広報実務に生かせるモデルを紹介します。

経営理念は何のためにあるのか

そもそも、経営理念は大きく2つのことに作用します。

  1. 企業内部に対する作用
  2. 社会・環境など企業外部と、企業との間の関係に対する作用

上記「1」は、さらに、
(ア)社員にとって行動・判断の指針となる(コントロール機能)、
(イ)会社の一体感を形成する(コミットメント機能)、
(ウ)やる気を引き出す(モチベーション機能)
に細分化できます。

「2」は、会社の社会的意義を経営理念として外部に示すことで、
(エ)自社の経営・事業活動を正当化する機能、
(オ)外部環境との適合を図る際の指針となる機能
があります。

よく、経営理念は「行動・判断のよりどころ」と言われますが、これはアとオ。いわば価値観なので、「損得」ではなく「善悪」が判断軸になるものです。
善悪が判断軸になるからこそ、社内の誰もが納得しやすい判断につながるため一体感を創出し(イ)、内発的な動機付けにもつながる(ウ)。同じように、社外にも事業の正当性(エ)を提示できるのです。

社内広報における理念浸透は、主に「1」が領域となります。

経営理念浸透のプロセス

 経営理念の浸透は、多くの経営・組織学者が研究しています。経営理念の浸透プロセスをモデルはいくつかありますが、今回は、帝塚山大学の田中雅子教授が『経営理念浸透のメカニズム』という本にまとめたモデルを紹介しましょう。

 このモデルは、田中教授がある企業を十年間にわたって追跡調査し、理念の浸透「構造」をまとめたものです。時間軸の要素と浸透の程度が組み込まれている点が特徴。時間軸の要素は役職別の整理に落とし込まれているため、ターゲットとしてイメージしやすい。社内報で経営理念の浸透に挑戦する際、アプローチを考えやすくなるでしょう。

 図表1をご覧ください。きわめて当たり前のことですが、役職によって経営理念に対する浸透の度合いは異なります。影響を受ける人も異なります。

田中による経営理念の浸透メカニズム


 社内報担当者がとくに意識したいのは「若手」の欄。経営理念の浸透を図る中心的な主体になるのは経営者ですが、若手にとって経営者の語りは心に響き、存在はシンボルとなります。一方、職場の上司・先輩の言動の影響が大きいため、経営者の語りや存在は瞬発的に影響を与えることはあっても、継続的に浸透の働きかけに寄与するとは限りません。経営者がどれほどメッセージを発信しても、経営者との距離感や、若手の側の実務経験の少なさから、経営理念に対する実感を伴った深い理解・共感や実践行動への落とし込みにはハードルがあるのです。

 田中教授は、こうした浸透構造を捉えたうえで、浸透レベルを図表2のように整理しています。図表1の「浸透の程度」をより細かくしたものと思ってください。

田中の経営理念浸透のメカニズム(経営理念の浸透レベル)

 レベル1は「理念を認識している」。これはシンプルに経営理念そのものを社内報に掲載する、経営理念策定の背景を紹介することなどが考えられます。

 レベル2は「理念を主観的に解釈できる」。経営理念を体現する「ロールモデル」となる社員を紹介したり(③)、入社まもない若手に経営理念の解釈を自分なりにまとめてもらう企画が考えられます(④・⑤)。

 レベル3の「理念を客観的に理解できる」では、入社数年から中堅クラスの社員に、理念と紐づくエピソードを寄稿してもらうと良いでしょう(⑥)。

 レベル4の「理念が納得できる」では、管理職や指導職の社員が、理念の意味を部下にどのように伝えているかを取り上げることが考えられます(⑪)。

 レベル5の「理念が前提になる」やレベル6の「理念が信念になる」では、経営者・役員・管理職クラスの理念に対するこだわりをインタビューで聞いても良いでしょう。

 図表1の「影響を受ける人」も参考になります。若手に対する理念浸透は職場の上司・先輩が肝になる。この上司・先輩たちにアプローチするために、経営者とのこの層の座談会を企画して、経営者の理念に対するこだわりを直接聞いてもらうと良いでしょう。職場での伝播が期待できます。

 経営理念が、行動規範やバリューに落とし込まれている場合は、先ほどのような企画をこれらと関連付けていきます。たとえば、バリューに「顧客に寄り添う」という項目があったとします。「顧客に寄り添う」とはいったいどのようなことかを若手に考えてもらったり(解釈=④・⑤)、「顧客の寄り添う」を実践できたエピソードを寄稿してもらったりできるでしょう(⑥)。

 社内報の企画を通して、浸透機会そのものを作り出すことを目指していきましょう。

広報で使えるフレームワーク③|キャメロンとクインによる組織文化の分類

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

今回は、「組織文化」を扱います。社内広報の実務においては、何を訴求点にし、どのような文脈にするかを考える際、組織文化を意識できると良いでしょう。

組織文化とは

そもそも「組織文化」とは何でしょうか。多くの研究者が定義を提示しています。おおよそ共通するのは、組織の構成員が共有するものごとの考え方など「価値観」だということです。

この価値観について、ミシガン大学の組織論の研究者であるキム・キャメロンさんとロバート・クインさんは「競合価値観フレームワーク」をまとめています(図表1)。これは、組織に根ざした価値観のタイプを、「家族文化」「イノベーション文化」「官僚文化」「マーケット文化」の4つに整理したものです。

この4タイプは、大きく2つの軸をもとに考えられています。図で言うと、縦軸は「柔軟性と裁量権や独立性」に対して「安定性と統制」が両極にあります。変化や管理に対する考え方と言えるでしょう。横軸は「組織内部に注目する傾向と調和」に対して「組織外部に注目する傾向と差別化」。これは着眼点と言えるでしょうか。

キャメロンとクミンによる競合価値観フレームワーク

この2つの軸は、キャメロンさんとクインさんが、業績の高い組織に共通する指標を統計的に抽出したものです。いずれの軸も、組織があらゆる事象を判断・意思決定する際に基点になるものですね。一方を重視すれば一方の比重は減らざるを得ない。相反して競合するものなので、「競合価値観フレームワーク」と言います。 この4タイプは、経営者や組織の構成員が、何をどのくらい重視しているかという比重を見るものです。たとえば、一般的なイメージとして「官僚文化」という言葉を聞くと、閉鎖的で内向きで良くないものと思いがちでしょう。ただし、官僚文化は、効率性を重視していたり、品質や考え方に一貫性や画一性が生まれたりする側面もあります。どれも大事であり、どれか一つに偏りすぎてもバランスや多様性を欠くものになります。どれが正しいとか間違っているとか正否で見るものではありません。言葉が持つイメージに引っ張られないようにしてください。

さて、皆さんの組織は、どのタイプに近いでしょうか。

図表2をご覧ください。4タイプについて、志向性、リーダーのタイプ、価値の源泉、パフォーマンス向上の理論(アプローチ)をまとめたものです。4つを見比べて、近いと思うものはどれですか。

キャメロンとクインによる競合価値観フレームワークの内容

掲載要素や切り口の検討に活用する

この4タイプをまとめた図表2は、社内広報で役立ちます。

ここでは、自分の勤め先が「家族文化」に近い組織文化があると考えたとします。

たとえば、社内広報では、経営トップが社員にメッセージを発信することがよくあります。発信のタイミングは、年始や年度初め、あるいは経営計画策定時などが多いでしょう。メッセージを社員の心に響きやすいものにするためには、家族文化であれば、(「リーダーのタイプ」にあるように)社員の自発的活動を後押しすることを意識したり、メンター的なスタンスを意識したりすると良いことがわかります。

経営環境の悪化などで、厳しいメッセージが必要な場合も参考になります。家族文化の比重が大きく、これまで柔軟性を重きに置いてきたものの、なれ合いのような風土が生まれてしまっている。あらためて統制を取ろうとしている状態だとします。この場合は「官僚文化」の要素が必要になるわけです。経営トップのメッセージでは、自らがまとめ役になっていく、調整をしていくことを訴求すると良いことがわかります。

経営メッセージだけでなく、社内報の特集や企画を考えるヒントも得られるはずです。たとえば「価値の源泉」や「パフォーマンスの理論」の欄は、記事の掲載要素を洗い出したり、どこに焦点を当てると社員のモチベーションをアップしやすいかを考えたりしやすくなります。

組織文化そのものを変えていこうとしている場合は、現在はどのタイプに比重があり、目指している組織文化はどのような比重なのかを明確にできれば、社内報の切り口をどう変えるべきか考えやすくなります。

なお、キャメロンさんとクインさんは、このフレームワークをもとに診断ツールを作成しています。『組織文化を変える』という訳書の購入者は診断ツールを追加費用なく取得・活用できます。興味のある方は、診断ツールも活用してみましょう。

広報で使えるフレームワーク②|社員の抵抗を管理するチェンジマネジメントモデル

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に活かせる経営・組織分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を毎回、紹介しています。今回は、組織変革(社員の意識改革)で活かせるフレームワークをご紹介します。

近年、増えている社内広報の相談

 近年(連載当時の2020年時点)、社内広報の領域で「社員の意識変革」や「組織変革」のご相談が増えています。前回ご紹介した組織の発展段階モデル(図表1)でいえば、「再活性化の必要性」という踊り場状態です。お客さまからは、社員が自分の仕事に視野狭窄している、現場の最前線の社員にイノベーションのマインドがない・・・などの課題をお伺いします。端的にいえば社内広報で「組織変革を後押ししたい」という内容です。

 組織変革の打ち手は、経営戦略・計画の見直し、組織再編、人事評価制度改訂、行動指針の策定・浸透、分社化・M&Aなど数多あります。一般的に、経営企画や人事部門が中心になって進めます。

こうした組織変革に対して、社内広報が貢献できることは間違いないでしょう。ただし、社内広報が「プロパガンダ」のようにならないように、注意すべきです。

 社内広報は、「情報を武器にした活動」です。変革の取り組みを丁寧に紹介したり、ロールモデルを紹介したりすることで、社員の意識に働きかける効果は期待できます。ただし、現実問題として、社内広報が組織再編や人事評価制度と同じ程度のインパクトを持てるでしょうか? 社内広報はあくまでも情報を武器にした活動なので、情報の受け手である社員が受容することを常に意識する必要があります。単に情報という武器を振り回しても、空振りし続ける結果になっては意味がない。「社員の視点を持つ」という社内広報の原理原則を踏まえて、組織変革を後押ししていくことが必要です。

広報活動で使えるフレームワーク|ダウトの組織の発展段階モデル

社内広報で組織変革を後押しするヒント

組織変革は、多くの研究者がフレームワークに整理しています。有名なものは、社会心理学の父といわれるクルト・レヴィンさんや、ハーバード大名誉教授のジョン・コッターさんの組織変革プロセスです。

レヴィンさんは、変革プロセスを3段階に分けました。変革の必要性(危機意識)を社内に浸透し、そのうえで変革を進め、定着化するという3ステップです。

コッターさんはさらに細かく、危機意識を啓発したうえで、変革を推進するチームを社内につくる、そのチームで変革のビジョンをつくる、ビジョンに基づいて実行し成果を出すなどの8段階に分けています。これらは、企業側の視点から、変革の進め方を整理したものです。

 先ほど、社内広報は情報の受け手となる社員が受容しなければ意味がないとお伝えしました。このため、社内広報で組織変革を後押しするためには、社員の受容についてヒントが得られる枠組みが好都合です。いわば強制的に社員目線を持てる、社員側の視点が加味されたフレームワークがあると良いですよね。

 そこで、『組織を変える基本~変革を成功させるチェンジマネジメント』という本で、ジェフリー・ラッセル&リンダ・ラッセル両氏の枠組みを紹介します(図表2)。上段に会社視点での変革プロセス、下段は各プロセスでの社員の心理状態を示しています。社員の抵抗を管理する視点が加味された組織変革モデルは、ほかに見当たりません。

ラッセルによる社員の抵抗を管理する視点を持ったチェンジマネジメントのモデル

 まず、会社として変革の必要性を啓発する段階。社員の多くはこれまでの実績と成功体験をもとに「快適」な状態にあります。社員の快適状態を考慮して、まずは過去の成功を認めることが大切です。そのうえで、なぜ変革が必要かデータを用いたり、変革できなかった場合のシナリオを提示したりします。得てして、変革のスタートを切る段階に、社内報で変革の必要性をトップが訴える特集を組みがちです。しかしここで、過去の成功事例を紹介すると、社員の快適な感情に寄り添い抵抗をコントロールできます。危機意識(ネガティブな感情)だけではなくポジティブな感情を刺激するのです。

 次に、変革プランを導入(着手)する段階。社員は恐れや怒りなどの「抵抗」を抱きます。ここでは社員の不安感情に耳を傾けたり、怒りを受け入れたりすることが大切です。社内報でアンケートを行っても良いでしょう。

 次は変革プランの進捗管理をする段階。社員は次第に変革を受け入れ始め、自分たちなりに創意工夫するなど「探求」し始めます。変革の具体的な取り組みを共有すると良いでしょう。ここでは、探求を後押しする必要があるので、成功事例だけでなく失敗事例にも焦点を当てましょう。

 変革を安定・維持する段階になれば、社員は「受容」しています。ここでは、社員の努力を労い、具体的データで変革の成果を実感できるようにしたりします。 社内広報がプロパガンダだと思われないように、社員の感情を考慮したフレームワークを活用してみてください。

広報で使えるフレームワーク①|ダフトの組織の発展段階モデル

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に活かせる経営・組織分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を紹介する連載です。今回は、社内広報の企画に活かせる「組織の発展段階モデル」です。

社内広報担当者の悩み

私は広報のマネジメント分野のコンサルティングを行っていますが、社内広報活動全体の見直しや調査のご相談が増えています。ご相談をいただくと、まず社内広報の目的や課題をお伺いします。ほとんどのお客さまは、社内報など個別の媒体の発行目的は設定しています。ところが、会社としての組織課題が何か、換言すると(社内報といった個別の媒体ではなく)社内広報活動全体の目的がはっきりしていない場合が多いです。

 たとえば、社内報の発行目的として多いのは・・・

  • 社員に会社の動きを知ってもらう
  • 社員のモチベーションアップを図る
  • コミュニケーションの活性化につなげる

―など。

これらは、会社と社員との間に信頼関係を構築するためにも、とても重要なことです。

 ところが、本来、社内報などの媒体は、何らかの課題を解決したり、目的を達成したりする手段です。だからこそ・・・

  • なぜ、社員に会社の動きを知ってもらう必要があるのか?
  • なぜ、社員のモチベーションアップを図る必要があるのか?
  • なぜ、コミュニケーションの活性化が必要なのか?

と問い直しをする必要があります。

組織の発展段階モデルを活用しよう

では、「組織課題が何か?」を考えて問い直してみましょう!・・・と、言われても、自分自身の感覚に頼った答えは浮かんでも、その答えに妥当性があるのか自信が持てない。私も、実務担当者だった時、この不安がありました。社員に対する意識調査をしていれば、それを材料に検討しやすい。でも、こうした調査をしていない場合もあります。何か、方向性を掴める材料があると良いですよね。

そのような時におすすめしたいものが「組織の発展段階モデル」です。

組織は人間と同じように段階的に成長(発展)します。この発展段階に応じて、直面しやすい組織課題と解決方策を整理したものが「組織の発展段階モデル」です。様々な研究者がモデルを提唱していますが、ここでは複数の論者の視点を採用したリチャード・ダフトさんのモデルを見てみましょう(図1)。図の「踊り場」の時が、組織に変化が必要な時期。組織課題と言えます。踊り場を脱した右肩あがりのところに記載しているものが組織課題の解決方策です。

広報活動で使えるフレームワーク|ダウトの組織の発展段階モデル

組織は、起業から間もない段階は、創業者や創業メンバーの独自技能を活かして発展します。属人的な技能で成長していくので、「創造性による解決」と言えます。

成長が続くと何人か採用して、一定人数の「共同体」になります。社員が増えれば当然、会社に対する期待や仕事に対する考え方が異なる人も出てくる。創業者や創業メンバーは、独自価値を創造・提供するだけでなく、組織をまとめる必要に迫られます。これがリーダーシップの必要性であり、明確な方向性の提示による解決が図られます。もし、十数人単位のベンチャー起業で社内広報を強化する場合、まずは経営トップの考えを浸透することが必要だと言えます。

さらに組織が大きくなると、創業メンバーだけでマネジメントできなくなります。管理スパンを小さくするために、中間管理職を配置します。すると、権限移譲の必要性が生まれる。これに対応するために、稟議や会議などの「内部システム」が増えるわけです。権限移譲の必要性に直面している組織であれば、内部システムの必要性を丁寧に解説したり、権限移譲が進み活躍している管理職や職場を紹介したりすることが考えられます。

次に、稟議や会議が定着すると組織が「公式化」します。考え方や判断が官僚的になっていく、いわゆる「大企業病」です。よく言えば、役割分担が機能して円滑に組織を運営できているのですが、縦割りがひどくなると考え方が硬直化して変化に対応できなくなる。そこで、全社横断のプロジェクト制度を導入するなど、チームワークを発達させようとします。この段階では、部門連携の取り組みを紹介したり、各部署の取り組みや課題を紹介したり、現場の情報を吸い上げたりするなどチームワークの発揮を後押しすることが考えられます。

ところが組織は次第に、チームワークの取り組みにも「新鮮味」がなくなる。プロジェクト制度が形骸化することもよくあるでしょう。そこで再活性化の必要性に迫られます。組織は分社化・グループ化をしたり(整理統合)、さらなる規模拡大を目指したり、変化に対応できず衰退していったりします。整理統合やさらなる規模拡大であれば、変革の趣旨・取り組みを丁寧に発信したり、不安を払拭したりする社内広報が必要になります。 組織の発展段階モデルは、広報の実務書や教科書には載っていない、実務に役立つツールです。これを使えば、たとえばなぜ会社の動きを知ってもらう必要があり、知ってもらうべき会社の動きとは何かを明確にしやすいはず。モチベーションやコミュニケーション活性も切り口を明確にできるでしょう。

広報活動、ひたすらがんばる病から脱出

2020年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の実務に必ず活かせる経営学・組織行動分野のフレームワークやチェックリストなどの「ツール」を取り上げます。

広報は「努力」が評価される仕事?

「広報は、やった分だけ組織がどんどん良くなる仕事である」私が、広報実務に従事していたとき、常に感じていたことです。

たとえば報道対応。新しいサービスが新聞で報道されたら営業支援につながります。
著作権の処理をして販促ツールにできますし、問い合わせがあったり、ホームページの閲覧が増えたり、反響が見えたりすることも。また、記事になれば開発担当者の励みにもなる。
さらに、記事を見て社内で会話がうまれたり、社員が家族に会社のことを説明できる契機になったりする。たったひとつの報道でも、様々な効果や影響が期待できます。

一方で私は、ある時から、この「やった分だけ良くなる」という広報業務の特徴に悩むようになりました。
数年間の実務経験を積み、広報活動全体を俯瞰する立場になったときのことです。広報の仕事は、やればやるだけ良いことがあることは間違いない。だからこそ、何を、何のためにやるのかを設定しにくい。目的や課題を設定しにくいのです。

広報は組織とステークホルダー(人)との間に信頼関係を構築する仕事です。
人の評価や感情を相手にした仕事と言えます。
ところが人間心理や行動はときに非合理的。いまだに学術研究でも説明しきれていません。
問い合わせがあった等の効果がはっきり見えることもあれば、そうでない場合も多い。「家で会話が増えた」「社員間の会話の質が変わった」など、測定しようと思えばできる効果もありますが、それを測定しても改善につながるとは限らない。
記事や広告を見る前後での心象変化(刺激に対する反応)を測定する方法もありますし、定点的に認知度やイメージを測定する方法もあります。ただし、心象変化や認知度に影響を与えるのは広報活動以外にも、(営業担当者の印象など)多様な変数があります。
広報の効果測定は、極端な言い方をすれば、担当者の自己満足でしかない場合すらあります。

こうなると、報道対応でも、社内報やホームページなど社内外のメディア運用でも、何を軸として活動し、具体的にどのように組織に貢献していくのか(貢献しているのか)があいまいになる。結果的に「ひたすら頑張る」ことになりがちです。

デジタル化によって効果を確認しやすくなりました。たとえば、紙の社内報では閲読状況を把握しにくいですが、Web社内報では一目瞭然。どのページがどう読まれているか分かり、改善につなげやすい。ただし、この改善に投じている工数は、組織貢献の観点でみた場合に妥当なのかと問われると、どうでしょうか。冷たい言い方になりますが、社員の一定数は、「前よりも社内報は読みやすくなったけど、一生懸命、管理部門が自分たちの仕事を創っているだけ」、まさに「ひたすら頑張っているだけ」と見ていることもあります。

積み重ねた努力の賜物として広報の仕事の処理能力があがっていくので、何とかしてもっと組織に貢献しようと、新たな仕事(努力)を上乗せする。そして、自分で創りだした仕事に溺れてしまう。役員や他部署、あるいは記者から、「がんばっているね」と評価してもらえるし、時には「ありがとう」と感謝もされる。
ここに、広報のやりがいがあるものの、努力だけが評価されている感覚になる。自分の仕事は本当に組織に貢献できているのか。社内外のステークホルダーとの関係を良くするために、情報の受発信というコミュニケーション活動をする仕事にもかかわらず、自分たちの仕事の意義や成果を説明できないことに悩みが募るのです。

これは私の実体験です。単に私は要領が悪かったのかもしれませんが、広報コンサルタントとして多くのお客さまと接していると、この感覚・悩みを持たない広報担当者は少ない。広報の仕事の楽しさ・やりがいが、一方で組織貢献の実感を見失うことにつながる場合があるのです。

広報の領域ではフレームワークが少ない

 要領が悪かった私は「ひたすらがんばる」に溺れ、他部署から「スタンドプレー」とみられる場面が出てきてしまいました。そこで経営に寄与する仕事であることを明文化したいと思い、ありとあらゆる広報の実務書やセミナーを頼りました。ところが、実務書やセミナーは「テクニック論」ばかり。報道対応で言えば、効果的なプレスリリースの書き方とかTVに取り上げられる方法など。これでは「ひたすらがんばる」に拍車がかかってしまいます。

今度は広報の研究者がまとめた教科書や理論書に対象を拡げました。これらは「広報とは」「メディア・リレーションズとは」「IRとは」といった解説ばかりで実践的でない。私は広報に関連する書籍を、学術書・実務書問わず数百冊単位で読んでいますが、広報の理論書では概念の説明、実務書にはテクニック論はあっても、組織に貢献するために状況・課題を整理したり、優先順位を決めたりする手助けになるフレームワークやツールは極めて少ないと断言できます。

わらにもすがる思いで広報の分野を飛び越えて、経営戦略や組織行動のフレームワークやツールに触れた時、広報の実務に活かせるものがたくさんありました。組織の発展段階を俯瞰した概念図から、社内広報の目的を明確にできました。態度変容の構成要素を整理したモデルから、コンテンツ企画を考えやすくなりました。組織行動の分野から、危機管理広報のヒントを得られました。

次回から、社内外の広報実務に役立つフレームワークやツールをご紹介していきます。

広報スキルアップ講座 まとめ

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の仕事をする際に役立つ想像力、文章力、調べる力、聞く力など「汎用的スキル」を実務と紐づけてご紹介してきました。

あらためて広報の仕事の特徴と紹介してきたスキルを紐づけて、スキルアップ講座をまとめます。

広報は知的体育会系!?

広報の仕事は「知的体育会系」と言えるものです。この要素は大きく2つあります。

ひとつめ。体育会系のような「人」との密な関係性が求められる点。

広報の仕事は、社内報、会社案内、ホームページなどモノをつくることはあります。ただし、モノが仕事の相手になることはありません。直接かかわるのは社内関係者、記者、制作会社などです。

たとえば社内報やホームページコンテンツの取材対象が物理的な製品だったとしても、取材や制作過程で必ず人とのコミュニケーションが発生します。あるいは、ホームページのアクセス解析はモノを対象にした仕事のようですが、データの基になっているのは「人」の行動や感情。このように、常に人を相手にしている仕事です。

ふたつめ。効率よりも効果を考える点。

広報は一般的に本社機能に置かれます。本社機能の中に、単独で広報部門を置く会社もあれば、経営企画、総務、人事、IR、CSRなどの部門の一部または各部門と兼務の形で広報を置く会社もあります。
本社機能は、よく「コストセンター」と言われます。このため、本社機能はできるだけコストを発生させないよう、業務の「効率」を重視する考え方が浸透しています。

一方、広報の仕事は、効率ではなく効果の最大化を考えるものです。
人事異動で広報に配属された方が戸惑うのは、この効率ではない世界。人を相手にしているので何をするにも答えがなく、自ら考えたり、創意工夫したりし続けなければならない。インターネットがインフラとなり、便利かつ効率が求められる世の中で、「昭和」のような泥臭さが求められる仕事なのです。

たとえば、ホームページのテキストリンク(見出し)ひとつとっても、ABテストを繰り返しながら、クリック率を高めていくことがあります。効果を最大化するためには、ありとあらゆる手段を試してみたり、効果が出るまでやり続けたりする。このように、広報は、「効果」の最大化を考える仕事なのです。手探りしながら効果の最大化に近づいたときに、初めて効率があがる性質をもっています。 

成否を分けるポイント①機微をつかむ

 知的体育会系の一点目は「人を相手にする」ことでした。このためには、人の「感情」や「行動」を的確に捉えることが不可欠で、仕事の成否を分ける基盤になっています。

 だからこそ、本連載で扱った文章力の一部や聞く力で、主観を排する「受信」が両方に出てきました。調整をテーマにした想像力においても、人の感情を先回りして想像し、業務を遂行するテクニックをお伝えしました。

たとえば報道対応。

 わたしは記者経験と広報実務経験の両方があるので、その経験談をご紹介します。
 記者は取材のプロであり、業界知識を多少持っていたとしても、企業に取材を依頼する段階では「自分でも何を聞きたいのかよく分からない」場面があります。
 そもそも取材先のことをよく知らないので、広報担当者に「取材したいことをうまく伝えられない」ことがある。様々な企業や専門家に取材をしながら知識・情報を増やしていき、徐々に輪郭をはっきりさせていきます。

 広報担当者は、記者が何を取材したいのかはっきりできない場面で、依頼事項をうまく拾うことが求められます。主観を排して記者の依頼事項を聞いていると、電話越しでも記者の話し方の抑揚など、機微の変化を掴むことができます。
 その変化をとらえて記者の心情を読み解き、記者が困っているであろうこと、本来書きたいであろうこと、これらのために記者が本当は知りたいであろうことを探るヒントを得ていきます。
 このヒントを基に、自社で取材可能なことや業界のトレンドなどを記者に教えて、自社にとって「都合の良い」取材をしてもらえるように誘導していくのです。

広報は、人を相手にする仕事だからこそ、相手の話・反応という機微をとらえて、感情や行動を的確にとらえることが重要です。「客観性」に近いものの、客観性だけでは、機微から仮説の立案に繋がりにくい。広報は、常に機微を捉えて考えることが求められるからこそ、知的体育会系なのです。

成否を分けるポイント②考える材料を集める

 知的体育会系の二点目は「効率より効果を考える」ことでした。効果を最大化するためにありとあらゆる手段を試してみる、効果が出るまでやり続けるといった性質があります。しかも人を相手にしているため、今日に通用した「答え」が、明日も同じ「答え」で効果が出るとは限らない。ケースバイケースしかなく、周辺の様々な変数に影響を受けやすい仕事です。

 答えがないからこそ、調べる力や情報をうまく集めるための聞き方、集めた情報を活用した想像力が求められます。

 答えが分からないなりにも、効果の最大化を手探りで追求するためには、何らかのインプットが必要です。

 調べたり情報を集めたりして初めて考えることができる。自分なりに考えて腑に落ちることで自信を持って行動できる。自信を持って行動できるからこそ、人を相手にしても信用・信頼され、効果も出る。このプロセスを通じて胆識(タンシキ)が蓄積されていきます。

 先ほどと同様に報道対応を例にしましょう。

 記者は必ず「くせ」や「偏り」があります。関心事項の偏りであったり、ポジ・ネガの両論を併記するときのバランスの偏り、取材先の見つけ方のくせなど様々です。

 記者から取材に関する電話依頼があったとき、広報担当者が記者の電話内容から機微を捉えて考えることは上記のとおり不可欠ですが、これに加えて、記者の過去の記事の傾向を把握すると、備えや誘導がうまくできるようになります。
 広報のベテランからすると極めてあたりまえの作業ですが、「取材依頼を受けた時に、記事データベースやネット上で記者名を検索する」という行為を、意外と実施できていない広報担当者がいます。
 どのような業界を担当してきたのか、どのような記事を書いてきたのかを確認することで、取材を受ける際の準備や情報提供の質が変わります。
 仮に自社がエネルギー関係企業だったとして、記者は最近、情報通信・IT関係から異動してきたとわかれば、IT活用やネットワークの多重化などに関心が高いだろうと推測できる。取材が直接的にこのテーマではなかったとしても、取材後の会話で、自社のIT活用やネットワークの多重化の取り組みなどのエッセンスに触れれば、前のめりで「別途話をきかせてください」となる。
 記者が「問題提起」のくせが強いとわかれば、そもそも取材を受けることを避ける、あるいは開示範囲を控えめにするなど判断できます。

 報道対応を例にしましたが、社内広報やWeb/SNS活用でも、機微をつかむこと、考える材料を集めることは非常に重要です。広報は、人を相手にする仕事だからこそコミュニケーション力が重要と言われますが、広報に不可欠なコミュニケーション力を支えているのは実は「思考力」であり、ゆえに「知的体育会系」と言える仕事なのです。

 広報の仕事はたいへんではあります。知的体育会系の楽しさを実感できると、どのようなキャリアを築くとしても基盤になる思考力を習得できます。ぜひ、楽しみながら、スキルアップしていってください。

広報スキルアップ講座 想像力③(調整力)

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

評価が高い広報パーソンは「調整力」があります。この調整力を支えているものが「想像力」です。広報の仕事を円滑に仕事を進めるために、調整場面で想像力を発揮しましょう。今号でポイントをご紹介します。

調整が得意な人の特徴

調整が得意な人は、調整時の「ラリー」のような連絡回数が少ないです。
身の回りで調整力がある人を思い浮かべてみてください。物事を決めにいくことができたり、落としどころを的確に見出したり、相手にうまくボールを預けたりできるのではないでしょうか。
端的に言えば「まるく収める」ことがうまい。調整に伴う連絡回数が少なければ、調整相手の手間も少なくなります。結果的に信頼関係が醸成されていきます。

調整上手さんの想像力発揮ポイント

調整のラリーを少なくするために、主に3つのことを意識しましょう。

  • 決めるべきこと・やるべきことを洗い出し、仕事の全体像を俯瞰すること
  • 仕事が円滑に進むように、相手の反応を先回りして予想しながら、決めるべきこと・やるべきことを相手に事前に提示すること
  • 相手の反応を踏まえて調整すること

具体的なイメージがわくように「社内報の原稿依頼」のシチュエーションで考えてみましょう。

編集部が取材・執筆するのではなく、他部署に原稿を依頼するものがあったとします。

企画趣旨、依頼範囲(原稿だけか写真撮影までお願いしたいのか)、原稿の型式(一般的な記事が良いのか、エピソードを紹介するようなものが良いのか)、撮影してほしい写真、提出期日等の基本的な項目は提示できている場合が多いでしょう。

調整上手さんは、これに加えて、原稿を依頼する段階から、初校・二校等の作業範囲を提示しておきます。
たとえば初校はレイアウト、原稿、写真、キャプションなどすべての修正希望をフィードバックするもの、二校は修正箇所を反映できているかを確認するものと定義しておきます。このようにすると、三校、四校、五校・・・といつまでも決まらなくなり修正を重ね続けるという事態を避けることができます。

一般的な原稿依頼は、「素材あつめ」にとどまっていることが多いです。一方の調整上手さんは、「できあがりまで」の時間軸で決めるべきこと・やるべきことを考えて、相手に対する依頼事項をもれなく提示します。

3つのポイントを振り返ってみましょう。決めるべきこと・やるべきことなどの全体像を洗い出すことは、仕事のたくさんの「点」(タスク)を出し切ることだと思ってください。必ず、仕事が完結するまでの「点」(タスク)を出し切りましょう。

調整を円滑に進めるためには、点のつながりや流れをイメージしたり、相手の反応を予想したりして、調整負荷がかからない「線」を設定する必要があります(この「線」が、調整や交渉におけるシナリオと言われるものです)。
この線に沿って、相手に情報を提示します。先ほどの社内報の原稿依頼の事例でいえば、三校、四校、五校といつまでも修正を繰り返してしまう事態を避けたいので、原稿の依頼段階から初校・二校の作業範囲を明確に提示しておく、とした箇所です。仕事が完結するまでの線を描き、その線は調整負荷がかからないようにするようにイメージするのです。

もちろん、現実には、設定した線のとおりに進まないこともある。これがポイントの3点目。たとえば初校後に、依頼した担当者から「初校で全部戻さないといけないことは理解しています。ただし、このままでは上司に確認できません。修正した二校を上司に見せて了解を得るので、二校で修正依頼がいくつか発生する可能性があります」という反応が出てくることも多いでしょう。
こちらからは「二校できっちりと上司と共有し修正希望箇所を全部出していただき、三校以上にならないようにしてほしい」と堂々と言うことができます。相手の事情をくみ取りつつも、依頼段階で完成までの作業の流れを明確に提示していたので、事態を丸く収めやすくなります。調整のラリーを少なくできるのです。

このように、最終的に調整負荷がかからないよう、必要な仕事、仕事の進め方、相手の反応を想像して、先回りして動けるようにすることが広報業務では不可欠です。調整力の基盤に想像力があることをご理解いただけたのではないでしょうか。

調整下手さんの注意点

一方、調整を苦手とする人は、自分で考えたり決めたりすることを嫌がる傾向があります。厳しい言い方をしてしまえば、主体性や責任感がない方が多いです

たとえば上司や記者、外部業者などから指示や依頼があったとしても、自分の責任範囲を小さくすることしか頭にない。
依頼の範囲内であれば相手の責任にできるので、自分の責任を回避できるため、相手の指示や依頼の範囲でしか物事をとらえないようにします。
指示や依頼の背景、仕事が完結する状態までを自分で思い描くことをせず、指示や依頼事項の小さな点だけを右から左に持ってまわるばかりになる。
せっかく、「できるだけラクをしたい」という効率的発想を持っている強みがあるのに、結果的に調整負荷が増してラクができない状態になってしまうのです。

自分がやるとなぜかいつも仕事がうまく進まないという感覚を持っている方は、仕事をラクなものにするためにも、調整負荷を軽減する想像力の3つの発揮ポイントを実践してみてください。役職の低さや自信のなさから責任範囲を小さくしようとすることの気持ちは理解しますが、実はその気持ちのせいで仕事がたいへんになっている場合があるので、勇気を出してみましょう。

広報スキルアップ講座 想像力(企画力)②

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の仕事で不可欠な「想像力(企画力)」。想像力(企画力)の発揮場面は、①表現の前段階(攻めの広報/守りの広報)と②調整の前段階の大きく2つ。前号は表現場面のうち「攻めの広報」を扱いました。今号は、同じく表現場面のうち「守りの広報」で必要な想像力を紹介します。

守りの広報とは

守りの広報とは、不祥事や事故などのトラブル発生時の広報対応のことです。「緊急記者会見」がイメージしやすいでしょう。

たとえば、企業経営者や担当者がお詫びをしている映像を思い返してみてください。近年では、不正アクセス、個人情報の大量流出、役員の犯罪行為、品質データの偽装、従業員のパワハラ自殺、不適切会計、食中毒、通信トラブル、工場・倉庫の大規模火災などが浮かぶことでしょう。

官公庁・自治体、公的機関、教育機関、医療機関での不正・事故や職員の個人的犯罪の話題は日々、報道されています。個人的な犯罪でも警察発表で所属・名前が公開される場合があるため、警察発表で情報を得た記者が勤務先にアポイントメントなしで訪問してくることもあります。記者会見に限らず、このように個別の取材対応をすることもあれば、プレスリリースや新聞等での公告、HPでの情報開示、などで「守りの広報」を実践する場合もあります。

守りの広報で必要な想像力

(1)情報収集の段階

「守りの広報」では、時系列でみて大きく3つの段階で「想像力」が必要です。1つ目は、組織の中で情報収集する段階です。

守りの広報を適切に行うためには、社内の情報を正確に把握することが不可欠。ところが社内の情報流通は、トラブルの発生時には不全になりがちです。

人間は、何か問題が起きたとき、「問題が小さなものだと思いたい」心理が働きます。これを正常性バイアスと言います。自分にとって都合が悪いことは無視したり過小評価したりしてしまう。トラブルは必組織内のどこかの部署が関与して発生しますが、その最前線の部署で、トラブルをありのままに認めることができないのです。

また、対人コミュニケーションにおいては、相手にとって不利な情報、不快な情報の伝達を避けようとしがちになります。トラブルをありのままに認めることができても、社内で問題を報告・共有するときに、無意識に「大きな問題ではありますが、早急に対処できる見通しです」などとしがち。問題を認定できても、その問題が正しく流通するとは限らないのです。これは「MUM効果」と言います。

さらに、正しい情報が社内で流通したとしても、組織は得てして「組織の論理」で判断しがちです。本来、法的責任はもちろん、社会的・道義的責任を含めて客観的な視点でトラブルを評価し、必要な対応を意思決定するべきです。

広報担当者は、情報収集の段階で「そもそも問題が矮小化されているのではないか」「正しい情報が流通していないのではないか」「意思決定が組織都合になっているのではないか」などと想像することが大切です。
正しい情報を集めることができなければ、適切な広報対応はできません。広報担当者が「真実」を知らずに広報対応をし、あとから社内の隠ぺいされた事実が明るみになり、結果的に評判を落とすことになる、という不祥事はこれまでにも沢山ありました。広報が組織を守るためには、広報担当者が想像力を発揮して組織を健全に疑うようにしましょう。

(2)トラブルを評価する段階

正しい情報を集めることができたとしましょう。

集めた情報をもとに、広報担当者には「社会」や「被害者」などありとあらゆる立場のステークホルダーの視点から、問題がどのように見えるのか、どのような影響があるのかを想像することが求められます。組織の中で、社会と近い感覚を持てるのは広報です。

広報は、トラブル発生時には、組織全体で問題を客観的に捉え、誠実な意思決定ができるように、「誰にどのような影響があるのか」「誰がどのような感情を持つのか」を想像し、提言・助言する役割があります。

(3)開示準備の段階

一般的に、守りの広報では、「すべての情報を包み隠さずに開示せよ」と言われます。

ところが、大小さまざまな「守りの広報」のケースを見てきた経験則でいえば、すべての情報を「何も考えずに」開示してしまうことは決して良い対応と言えません。本質的な問題や影響への対処ではなく、枝葉の部分に記者や世間の関心事が集中してしまうことが多々あります(もちろん、組織側が問題の認識を誤り、記者や世間が関心を持った枝葉の部分が本質的な問題という場合もあります)。

情報は、単純に出せばよいというものではありません。ひとつひとつの情報を取捨選択し、かつ優先順位付けして、幹になる部分が伝わるようにする。組織として問題の本質を客観的に認識できているか、誰にどのような影響を与えているか、その人たちの感情を認識できているのか、トラブルにはどう対処し、どのように原因を調べて再発を防ごうとしているのか。これらが的確に伝わらなければ、結果的に守りの広報が失敗することになってしまいます。

守りの広報は、「お詫びの仕方」や「記者会見の開き方」など「ハウツー」ではありません。問題を矮小化するものでも、何も考えずに開示をすればよいものでもありません。

守りの広報は、負の影響を与えてしまった相手に必要な情報が伝わるようにするコミュニケーション活動なのです。相手の立場から情報の幹と枝葉の違いを想像し、真に誠実な情報開示をしましょう。

広報スキルアップ講座 想像力(企画力)①

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

今回から、広報の仕事をするうえで不可欠な「想像力」を取り上げます。

広報で必要な想像力(企画力)とは

想像力は、一般的に「目の前にないものを思い浮かべる能力」を指します。たとえば、「相手の立場から考える」「箱の中がどうなっているのかを考える」など、目の当たりにできないものを考えるときに「想像」という言葉を使いますよね。

広報で「想像力(企画力)」が必要な場面は、①表現をする前段階、②調整をする前段階―の2つの場面です。

①の表現については、想像力(企画力)の必要性をイメージしやすいでしょう。この連載でも、広報の仕事は表現と密接にかかわっているとお伝えしてきました。表現する際に、相手の立場になって伝わるかどうかを考える、情報価値の所在を考えることは不可欠です。

ただし、この①については、売り込みをしたり魅力を発信したりする「攻めの広報」の領域と、不祥事等が発生した場合に迅速かつ適切に情報開示する「守りの広報」で必要な想像力が異なります。追ってご紹介します。

②の調整場面は、広報の仕事に従事している方はイメージが湧くと思いますが、広報の仕事の大半は調整業務です。
たとえば、マスコミからの取材依頼。記者から取材の要望と期限を聞き、社内の誰が何をどこまで応えるかをすり合わせたうえで、記者の日程と取材対応者の日程を調整し、会議室の空きを確認し・・・。
社内広報でいえば、たとえば役員に対するインタビュー企画。役員に内容を伝えて了解をもらい、取材や撮影を外注する場合は、役員の都合とライターやカメラマンの日程を調整しインタビューを実施。実施後は、原稿と写真の確認でキャッチボールをして・・・。
このように、広報の仕事の多くは調整業務です。

調整が多い広報の仕事では、文字どおり調整するだけ(右から左に持って回っているだけ)だと、いつまでも中身が決まらずに進んでいきません。調整が煩雑になるばかりです。こうした事態を防ぐためにも、調整をする前段階から合意形成や調整の進め方のパターンをいくつか想像して、円滑に業務を進めることが大切です。

攻めの広報で必要な「想像力(企画力)」

 今号では、表現場面のうち、攻めの広報で必要な想像力を取り上げます。この想像力は、まさに企画や仮説構築に近いものです。

 攻めの広報とは、パブリシティ(報道)でいえば、打ち出したいネタ(自社が知ってほしいこと)、ターゲットの興味(ターゲットが知りたいこと)、メディアの論調や露出状況(広報環境)の3つを精査しながら、できるだけ大きくかつ多数の報道になるように能動的に働きかけるものです。ただ単にプレスリリースするだけでなく、取材を働きかけたり、他社のネタやデータなども含めて情報を整理し企画として提案したりします。

 「報道」ではなく、SNSでの拡散を狙う場合も基本的に同じ構造です。自社が知ってほしいこと、ターゲットの興味、SNS上のクチコミの傾向などを確認します。

 報道・SNSのいずれも、環境分析とターゲットの興味をベースに、機会が最大化する「切り口」を考えます。この切り口の「想像」が求められるものです。決して、何もない状態から考える「空想」ではいけません。

 イメージが湧きにくいと思いますので、具体例をもとに考えてみましょう。

 私は東京都の武蔵野市と小金井市に住んでいました。両市にまたがるように位置する「東京都立小金井公園」によく行っていました。小金井公園は桜の名所として、また公園内にある江戸東京たてもの園がスタジオジブリ「千と千尋の神隠し」のモデルとして有名です。
有名と言っても来園者は近隣住民が多いので、仮に「来園者をもっと増やしたい!」と考えていたとします。

環境分析とターゲットの興味を探るために、来園者の属性や行動を丁寧に観察したとします。
小金井公園は子ども連れの家族が非常に多い。駐車場が多く(それでもは入れないことはありますが)、幼児から小学校高学年まで楽しめる多種多様な遊具があるためです。
興味深いのは、園内の広大な芝生と様々な遊具が絶妙なバランスで配置されていることです。
よく観察すると、子どもたちを「放牧」して、芝生に敷いたレジャーシートのうえで心置きなくおしゃべりしている親が多いことに気づきます。場所によっては視界を遮るものが少ないので、子どもの様子を目の届く範囲で確認しながら、ゆっくりと時間を過ごすことができるのです。

ここまで材料が得られれば、あとは来園者の増加に繋がる「切り口」を想像するだけです。
単なる「お出かけスポット」ではインパクトに欠ける。
子どもがいる親をターゲットにする場合は、「子どもが遊具で喜び、親は子どもの様子を視界に入れながら心置きなくおしゃべりできる、気持ちのいい芝生が多い場所」という切り口が考えられます。
このような切り口にすると、複数組の子連れ家族による来園が期待できるため、来場者増につながることでしょう。おしゃべりの楽しい時間を考えれば多少の遠出も許容しやすくなるため、「商圏」も拡張できるはずです。

あるいは、ターゲットを子連れに限定せず、友だちと心置きなくおしゃべりできる場所とする切り口も考えられます。一般的に、リラックスしておしゃべりしたくなる場所は、居酒屋やカフェなどの飲食店か誰かの自宅ではないでしょうか。しかし、飲食店は滞在時間と周囲の目が気になります。一方で、自宅は招いてくれた人に負担をかけてしまうことが気になる。公園は両方をクリアできます。
時間も周囲の目も気にせず、誰かに負担をかけることもなく、おしゃべりできる新しい選択肢として小金井公園を提案できるはずです。

攻めの広報では、このような切り口の想像が求められます。切り口を想像するためには、案件・ネタをしっかりと広報担当者が理解している必要があります。考えるための材料がない状態では、単なる思いつき。それは企画ではありません。攻めの広報における「想像力」とは、表現の前段階に行うものであり、材料集めをしたうえで切り口を検討する企画力を指すものとイメージできると良いでしょう。
とくに、攻めの広報をあまり積極的に実施していない会社の場合、この切り口自体を考えるという発想を持っていない場合が多いです。想像力(企画力)を発揮せず、広報の仕事の楽しさを実感できないなんて、とてももったいない。

ぜひチャレンジしてみてください。

広報スキルアップ講座 聞く力(取材力)②

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

前回に続いて「聞く力」を取り上げます。前回は、広報の仕事における「聞く」ことの特徴を解説したうえで、スキルアップ法として話を聞きながら要約することが有効だとご紹介しました。今回は、社内報やホームページコンテンツで社員インタビューがあるという想定で、実践的な「聞き方」のテクニックをご紹介します。

聞き方(取材)のポイント

 インタビュー(聞き方)の基本は、①徹底した事前準備、②インタビューでは答えやすい質問から始める、の2つです。それぞれ詳しく解説していきます。

準備段階

  • 下調べ

準備段階では、ありとあらゆる方法で下調べをしましょう。インタビューのテーマに関連する過去の報道記事、論文・書籍、社内報、稟議など「文物」に目を通すことはあたりまえ。これに加えて、インタビュー対象者の人柄や考え方などをつかむために、対象者とつながりがある同期・上司・部下などに必ず接触をしましょう。本人にしかわからないことが多い場合は、インタビューの前に本人にヒアリングをしましょう。

  • 必要な要素を考え抜く

インタビューの最終的な仕上がりを想定して、必要な要素を事前に考えておきましょう。背景、失敗・成功のポイント、助けてくれた人など、インタビューのテーマ・内容によって、必要な要素は異なります。要素を洗い出しておけば、聞くべき質問を考えやすくなります。必要な情報を集めることが取材でありインタビューです。必要な情報が何か定まっていないと、「聞き洩らし」が出てしまい、インタビューの後にもう一度、本人に話を聞く必要が生じます。

インタビュー場面(聞き方)

 インタビュー場面では、聞き方に留意しましょう。事前段階で下調べをしたり、必要な要素を考えたりすると、聞きたいこと・引き出したい発言内容が頭に浮かぶことがあります。起承転結の「結」ができあがってしまう状態です。こうした「結」が頭の中にあると、インタビューで「結」を早く聞きたくなってしまいますし、「結」に誘導するような聞き方になってしまうことがあります。頭の中にストーリーを描いておくこと自体は悪くないのですが、結論ありきの聞き方をしないようにしましょう。

 具体的にどうすればよいのか。基本として徹底したいのは「答えやすい簡単な質問から始める」ことです。

 まずは、どのようなインタビューであっても、「過去」→「現在」→「未来」の順番に聞くようにしましょう。過去に関する質問は、記憶に残っていることを話せばよいだけなので、だれもが答えやすい。まずは答えやすい過去の質問から聞き始めて、インタビュー対象者とキャッチボールをして、信頼関係を構築することが不可欠です。
 現在のことは客観視しにくく、未来のことは「考え」や「想像」を尋ねることになりがちです。唐突に現在や未来のことを聞かれても、饒舌で話好きな人でない限り答えに窮することが多い。インタビューにリズムが生まれません。

 たとえば、社内報で新規事業の担当者にインタビューする機会があったとしましょう。インタビューで、最初から「新規事業は現在、どのような状況ですか。課題はありますか」と聞いてしまうと、インタビュー対象者は、圧迫感や尋問を受けているような印象を持ちやすいです。また、最初から未来について「下調べしたところ新規事業は●●と●●がうまくいっているようですが、これからどのように展開したいと思っていますか」と聞いてしまうと、その質問ですべてが完結してしまう。インタビューが3分で終わってしまうのです。

必ず過去の質問から始めて、現在、未来の質問の流れをつくりましょう。たとえば、以下のような順番です。

  • 新規事業のアイデアはいつから浮かんでいたのですか。
  • 当時はどのようなアイデアでしたか。
  • 最終的に事業のコンセプトはどのようなものにしたのですか。
  • コンセプトができあがるまでにどのようなステップがあったのですか。
  • 事業を開始する段階で苦労した点は。
  • 現在はどのような課題がありますか。あるいは、うまくいっている点は。
  • 今後は、どのように展開したいと思っていますか。

 このように、過去→現在→未来の順番で話を聞いていくと、現在や未来の話に移行した後も、「そういえば過去にこんなこともあった」というエピソードがどんどん出てくるようになります。本人も忘れてしまっているようなエピソードが、実は「肝」や「起点」になっていたというケースはよくあります。

 聞き方の順番さえ気をつければ、インタビューの失敗を防ぐことができます。

インタビュー場面(関係づくり)

 最後に、話を聞きながら信頼関係をつくる一番良い方法をご紹介します。インタビューでは、必ず自分が「分からないこと」や、相手の話の意味を理解しきれないことがあります。
 このような場面では、気遣いのできる人ほど「相手の話を止めないようにしよう」「気を悪くしないようにしよう」と考えがち。これは気遣いではなく、単なる遠慮、または自分が恥をかきたくないだけの保身です。遠慮と配慮は違いますし、遠慮は時として単なる身勝手な保身になるのです。
 正直かつ素直に聞く方が、必要な情報を得られます。必ず「この点が分からなかったのですが」と、インタビュー中に聞きましょう。人は「話したい」生き物ですから、堂々と聞けば相手は必ず教えてくれます。