兼任広報担当者向け広報基礎知識-5 広報の目標設定

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第5回広報の目標を設定する

前回、特定分野でシェアが1位の製造業の会社を架空のケースとして、【なぜ】【何を】【誰に】【どうやって発信・共有するか】を考える手順をご紹介しました。この会社の強みは「営業担当者に技術の知識・技術があり、顧客接点の最前線で簡単なメンテナンスまでを実現できてしまう」ことにあるとしていました。引き続きこのケースに基づいて、目標設定の方法を考えていきましょう。


いつまで・どれぐらい・どこまで


この架空のケースで言えば、社外広報活動のゴールは、会社の最大の強みをお客さまに認知・評価していただくことです。
お客さまから「この会社の営業担当者は技術に詳しい」「困ったときに声をかけやすい」などと評価されることが定性的な目標となります。
この目標を定量化する場合は、お客さま向けのアンケートを実施し、以下のような設問を入れ込みます。

Q:弊社の営業担当者に対する評価をお聞かせください。

  1. 営業窓口でありながら技術に詳しいと思う(そう思う~そう思わない)
  2. 営業担当者は、困ったときに声をかけやすい印象がある(そう思う~そう思わない)

たとえば、架空のケースの会社では現在、「1.営業窓口でありながら技術に詳しいと思う」の「そう思う」割合が60%だったとしましょう。
現状の評価さえ測定できれば、この値を「70%水準に引き上げる」といった定量的な目標を設定できます。


お客さまの認知・評価を得るためには、顧客接点となる自社の社員が、自社のことを「自社の営業担当者は技術に詳しい」「自社では、お客さまが困っているときはできるだけ営業担当者の力量で簡単なメンテナンスをするように推奨されている」などと認知・評価していることが必要です。
これを捉えるために、社員向けのアンケートをとっても良いでしょう。


目標の「種類」


実際には、数値を基準にして目標を設定できる場合ばかりではありません。
目標は、数値基準を含めて、以下の要素を組み合わせて設定することが一般的です。

  1. 数値基準
  2. スケジュール基準
  3. 達成状態基準

1. 数値基準


数値基準は、先ほどの例のように60%を70%に上げる等の数値で表現するものです。
もう少し実務に近づけた目標にしたい場合は、ホームページコンテンツを6件追加する、プレスリリースや企画の提案などマスコミ向けに20回以上の情報提供をする、といった「アウトプット」で設定することが一般的です。
こうした数値基準は、【どれぐらいの規模でやるのか】を明確にするものです。


2.スケジュール基準


スケジュール基準とは、たとえば「3年間で」「1年間で」「9月までに」など、時間軸で区切ったものです。
スケジュール基準は【いつまでにやるのか】を明確にするものです。


3.達成基準


達成状態基準とは、たとえば「マニュアルが完成した状態」「マニュアルを社内周知した状態」などです。
数値での表現が難しい場合、達成状態を明確にします。
達成基準は【どこまでできれば良しとするのか】、範囲を具体化するものです。


目標は、この3つの組み合わせで輪郭が際だっていきます。
輪郭が際立てば、実務的・具体的で達成可能かつ測定可能な目標になります。
架空のケースで言えば、最終成果を目標とする場合、以下のような目標を設定できます。


架空のケースでの広報の目標の例

「お客さまの『営業担当者が技術に詳しい』という評価を、3年間で、現在の60%から70%に上げる」


進捗管理しやすい目標に


前回、架空のケースの広報戦略を考える過程で、【何を】【誰に】がはっきりすれば、出すべき情報を絞り込んでいるのに【どうやって発信・共有するか】に厚みを持たせることができるようになるとご紹介しました。
以下の活動を例示しました。

  • ホームページでは顧客接点の強みを中心に訴求して具体論として営業担当者育成を紹介しよう
  • 育成アプローチについて営業担当者の生の声を定期的にインタビューしてコンテンツにしょう
  • コンテンツの更新情報をお知らせするお客さま向けのメールマガジンをつくろう
  • 業界専門紙に営業担当者育成の取り組みを取材してもらえないか働きかけてみよう  等々

実務に近づける場合は、以下のような目標が考えられます。

  • 6月末までに、現在の広報活動の課題を整理したうえで、営業担当者育成の取り組みを社外発信する企画を立案し、上長から承認された状態
  • 9月末までに、ホームページに新コンテンツを2本アップした状態
  • 12月末までに、業界紙への情報提供を行い、取材を1回以上受けた状態
  • 3月末までに、HPコンテンツを合計3本以上アップし、メールマガジンを2回以上配信した状態

このように、【いつまで】【どれぐらい】【どこまで】の輪郭を明確にしておくと、進捗を管理しやすくなります。
業績評価で目標管理制度を導入している会社にお勤めの場合は、「兼任広報としてなんらか広報業務の目標を入れなければいけない」ということもあるでしょう。
今回の目標例を参考にしてください。

成果をベースにした目標とするか、実務ベースの目標とするかは、求められる広報活動のレベル感と兼任広報として割り当て可能な時間・労力・コストとのバランスを勘案して決定すると良いでしょう。

line1

●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-4 広報戦略の考え方


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第4回広報戦略の考え方

これまで、社外広報、社内広報に分けて、課題の整理術をご紹介してきました。
これを「戦略」として体系化していきます。


戦略ってなに?


この「戦略」という言葉が分かりくいですよね。

戦略は、端的にいえば「ある目的を達成するための、中長期的なシナリオ」です。

たとえば目的が「戦に勝つ」であれば、「戦」単体の戦い方は作戦や戦術です。

戦の準備段階から、戦の後を見越して寝返りを働きかけることをしよう、必要な武器や食料を購入しよう、先にお隣の国と同盟を組んでおこう、など、中長期的の視野で複合的な施策をもとに、勝つためのシナリオを描くことが戦略です。

広報戦略については、連載の第一回で、ご理解いただきやすいように、簡略化して以下の枠組みをお示ししました。時間軸を省略しているものと捉えてください。

①なぜ、②誰に、③何を、④どうやって発信・共有するのかを明確にするものです(専門業者が得意なのは④です)。

前回までに、①について、社内・社外の広報活動の課題整理をご紹介しました。②、③、④を明確にできれば、戦略のできあがりです。


先に「何を」を考える


兼任広報の場合、できるだけ効率化しないと仕事がまわりません。

「②誰に」がたくさんあると手が回りません。
そこで、裏ワザとして「③何を」から先に考えるべきです。

図では、「②誰に」から「③何を」に矢印が出ていますが、これを反対にしたり、「②誰に」と「③何を」をいったりきたりさせて考えたりした方がスムーズです。

検討過程をイメージしやすいよう、架空の事例から読み進めていきましょう。


たとえば、あなたの会社は製造業だとします。
ある特定分野で市場シェアが1位。

これは、営業担当者が高度な技術の知識・技能を持っている、だから顧客接点の最前線で自社製品の簡単なメンテナンスができ、導入企業との信頼関係が構築されてリピート購入が多い、という強みがあるとします。

この強みのウラには、営業担当者教育でベテランと若手の徒弟制度があり、年に2回の営業担当者向け技術実習もあるとしましょう。

一方、お客さまと営業担当者、あるいはベテランと若手という結びつきが強いため、社内で若手営業担当者同士のヨコの情報共有が少ないという課題があります。

広報関係では、社外広報は、会社案内やホームページは存在するものの「会社概要」しか載っていない状態。

社内広報では、年に2回、期首の四月と期中の十月に経営幹部のメッセージを載せた社内報を発行しているだけ・・・。


ここからは、上記の架空の事例を基に、簡単に検討を進めてみます。

先に「③何を」を明確にしましょう。

自社の最大の強みである「営業担当者の技術の知識・技能と指導力」を発信・共有する、ことが一例です。

既存のお客さまは、リピート購入が多いため、この強みはよくご存知のはずです。

このため「②誰に」は、「新規開拓の対象となるお客さま」と、少し絞り込むことができます。

本来はより明確なターゲットにしたいところですが、この簡単な絞り込みだけでも、より具体的な「③何を」や「④どうやって」が考えやすくなります。

新規のお客さまは自社のことをほとんど何も知りませんので、単に「弊社の営業担当者は技術の知識があります」と説明しても伝わりません。

なぜ営業担当者が技術の知識と技能があるのか、それが本当なのかを具体的に伝える必要があります。

つまり、「③何を」は、より具体的に言えば「営業担当者育成」となります。

あとは「④どうやって発信・共有するか」です。

たとえば

  • ホームページでは顧客接点の強みを中心に訴求して具体論として営業担当者育成を紹介しよう。
  • 育成アプローチについて営業担当者の生の声を定期的にインタビューしてコンテンツにしょう。
  • とくにベテランと若手との徒弟関係のエピソードを軸にしよう。
  • コンテンツの更新情報をお知らせするお客さま向けのメールマガジンをつくろう。
  • 業界専門紙に営業担当者育成の取り組みを取材してもらえないか働きかけてみよう。 等々。

出すべき情報を絞り込んでいるのに、厚みを持たせた情報発信ができるようになります。
情報発信に一貫性が生まれますので、統一的なイメージが形成されやすくなります。


社外と社内の広報を分けない


兼任広報の場合、できるだけ焦点を絞り込んだ情報の発信・共有に集中させる方が作業を効率化できますし、成果にもつながりやすくなります。社内広報に関しても同様です。

先ほどの例でいえば、社内広報は、若手営業担当者同士のヨコの情報共有が課題でした。

ホームページは、携帯端末さえあれば誰でもいつでもどこでも閲覧できます。

ホームページで色々な営業担当者を紹介していれば、社員は移動中や待機時間に他の営業担当者の考えに触れることができます。

ホームページは社外広報媒体なのに社内広報の役割を担うこともできます。

もう少し踏み込むのであれば、若手営業担当者の何人かをホームページコンテンツ強化の「編集委員」として委嘱し、負担がない範囲で「編集会議」を開けば、ヨコの繋がりを創る契機にもできます。

加えて、年に2回の社内報で、ホームページコンテンツを再掲しても良いでしょう。

社内報はプッシュ型メディアですので、確実に目にしてもらうこともできます。

社外広報と社内広報を分けることなく、絞り込まれたテーマについて手厚く情報発信・共有をする。

広報活動に充てる時間・労力が少ない兼任広報の方こそ、こうした広報の本来のあるべき姿を実現しやすいのです。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-3 社内広報の課題整理術


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第3回社内広報の課題整理術

昨今では、社内広報について、経営理念の浸透、事業戦略の周知、強みやブランドの社内定着、モチベーションアップ、企業文化革新、働き方改革の推進など高度化した目的が設定されることもあります。

打ち手も社内報、イントラ、全社集会、対話形式のワークショップなど多様化しています。

一方、社内広報の目的の高度化や、手段の多様化が進むと、良くも悪くも「何でもあり」状態になりがちです。

経営企画や人事部門が進める組織開発との重複もあり、社内広報実務に携わる方にとって、結局、何をすべきなのか具体化しにくいという悩みも生じやすくなっています


社内広報の基本は情報共有


社内広報は、端的に言えば会社と社員とのコミュニケーション活動です。

会社と社員との間で情報を共有し、信頼関係を構築します。
信頼関係があれば、「考えること」や「行動」が良くなるので、業績向上につながります。

経営の方向性を社員に共有できれば、社員は行動しやすくなり基盤ができます。
逆に、最前線の社員たちが競合の新しい動きを掴んだ場合、その情報を会社に共有できれば、環境変化に迅速に対応できます。
経営理念や事業戦略、あるいは課題、がんばっている社員も「情報」ですよね。
企業理念は共有されなければ飾り物。
がんばっている社員も共有されなければモチベーションアップにつながらない。

社内広報の基本は「情報共有」であり、その成果は信頼関係だと考えるとスッキリします。


知っていること・知らないこと


ここから課題整理です。
以下の観点で考えていくとスムーズです。

  1. 情報共有→誰が何を知っているか
  2. 信頼関係→社員の、会社に対する評価

社内広報の課題整理は、(抽象的な表現になりますが、)「外と内をセットにして検討する」と良いです。
自分自身のことを客観視するのは難しいからです。

まずは①情報共有です。

始めにいわゆるステークホルダーを洗い出します。

十把一絡げで構いませんので、「お客さま」「株主」「近隣の方」「お取引先様」「学生」「社員」などを挙げます。

このステークホルダー別に、「知っていること」「知らないこと」を考えます
本当はどれぐらい何を知っているのかは、調査をしないと分かりませんが、まずは「考える」だけで十分です。

次に、「社員」を細分化します。

役職別、部門別、拠点別・・・といった具合に、属性を設定し、それぞれ「知っていること」「知らないこと」を検討します。
表計算ソフトを使って一人で考えたり、複数人で付箋を使いながら出し合ったりすると良いでしょう。

ステークホルダー分析と言いますが、これだけでも多くの課題を再認識できます。


できていること・できていないこと


この作業をすると、会社と社員とのコミュニケーション活動で「できていること」「できていないこと」が浮かびあがってきます。

たとえば、社員と情報共有できていないものは、多くの場合、社外に対する広報活動もあまりできていません
そもそも広報担当者が、社内にも社外にも広報できるほど十分に情報を収集できていない、現場との関係を築けていない、広報の理解が浸透していない、といった課題が見えてくることもあるでしょう。

課題整理の作業で理想を言えば、経営の方向性や経営課題から知ってもらうべきことを考えていく、という流れになります。
ただ、この流れで発想すると、「コミュニケーション」ではなく会社から社員への一方的な情報「伝達」の課題に限られてしまいがちです。

コミュニケーションは双方向で成り立つもの。

会社から社員への情報「伝達」も必要ではありますが、その情報を社員が理解し、納得し、共感しなければいけません。

「伝達」と「共有」は違うのです。

また、会社から社員への一方通行だけでなく、社員から会社への情報の吸い上げも必要です。
最初から、「何を知ってもらうべきか」を考える場合は、発想が一方通行になりがちなことに注意しましょう。

社員が知っていること・知らないこと、社内広報でできていること・できていないことを検討したアウトプットが、「社員に知ってもらうべきことは何か?」を考えるインプットになります。

ぜひ取り組んでください。


会社をどう評価しているか


情報共有の次は②信頼関係です。

これは社員が、会社をどう評価しているのかを把握していきます。
アンケート調査が必要です。

なお、前回の締めくくりで、「社外広報の優先順位付けをするためにはアンケート調査が有効で、この調査は社内広報の課題整理と関連する」とお伝えしました。

情報共有の課題整理と同じように、「外」と「内」をセットで考えていきます

調査では、「知ってもらうべきこと」は社員がどの程度知っているのか、社員が抱く会社のイメージはどのようなものか、社員は会社が十分に情報を共有してくれていると感じているのか、といった実態を把握します。

社員満足度調査や組織診断を実施している場合は、その結果から確認しても良いでしょう。

単なる実態把握から一歩進めて、より課題を見出しやすくする調査設計のポイントをご紹介します。

ここでは、会社に対するイメージを例にしますが、知っていること(認知)や評価を尋ねる場合も左のように多面的に測定することが大切です。

  • 自分が会社に対して抱くイメージ
  • 外部の人に抱いて欲しいイメージ
  • 外部の人が実際はこう思っているだろうと考えるイメージ

これらは社員を対象にしますが、あわせてお客さま等の外部の方を対象に、

  • 自社に対するイメージ

を調査します。

「思っている以上に知られていないこと」や「思ってもみなかった強みやイメージ」が明確になります。

社外・社内広報の課題をま両方とも明確にでき、活動の優先順位を決めやすくなるわけです。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-2 社外広報の課題整理術


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第2回社外広報の課題整理術

どのような仕事でも目的が大切と言われます。

たしかに、目的が明確なら適した手段を選択できます。
仕事の意義も実感でき、業務に取り組む姿勢が前向きになります。


目的を考えることって難しい


ただ、実際には、手段がある程度固まっている方が目的を考えやすいことってありませんか

たとえば、工場周辺地域の方を対象にイベント企画があるとしましょう。
この場合、イベントの目的は地域の皆様に親近感を持ってもらう等が浮かびます。
地域イベントという手段の「枠組み」があるからこそ目的が考えやすくなる。
考えた目的に応じてイベント内容を具体化していく。

このように、実は、仕事で目的を考えるとき、具体的手段から抽象的な目的を考え、もう一度、手段に落として詳細を詰めていく、という流れが多いのです。

活動全体の目的を、何もない状態から考えることは、難しいものです。
それは、「普段の目的を考える流れ」と異なるからです。

たとえば、社外広報、社内広報の目的は何かと問われて、すぐに回答が浮かぶでしょうか?
広報を総務に置き換えて「総務の目的は?」と問われた場合でも、すぐに返答できるでしょうか?
総務のプロはスムーズに返答できるかもしれませんが、新任担当者にとっては難しいことでしょう。

目的は経営戦略・計画と結び付けていくとよいともよく言われます。
ただ、経営の視座で俯瞰することも実際には難しいことです。
マネジャー層であっても、経営の視座で俯瞰して考えることができる人・できない人に分かれます。

事業部長層でようやく経営の視座で俯瞰できる。

理想論をもとに「最初に広報の目的を、経営的観点から考えていきましょう」とお伝えしても、あまりにも抽象度が高くて「目的自体をどう考えてよいのか分からない」状態になってしまうはずです。

もちろん、目的を考えなくてよいというお話ではありません。

「兼任広報」で時間もなく不安も多いのですから、目的を考えること自体をストレスなく進めましょう。
目的は、手段の枠組みがある方が考えやすくなります。

だからこそ、具体的手段の現状と課題を洗い出していくことが出発点。

今回は「社外広報」に絞って、目的を考えやすくなる課題整理術をご紹介します。


誰かに何かを知ってもらう


社外広報は、「誰かに、何かを知ってもらう」ことが基本です。

その成果として「印象・評価が良くなる」「お客様の購買や口コミ等の行動が増える」を目指すものに大別できます。
前者が信頼形成を目指す「コーポレート・コミュニケーション」、後者が販売促進を目指す「マーケティング・コミュニケーション」といったりすることもあります。

いずれも、業績や企業価値向上が最終目的です。

つまり、業績や企業価値向上という経営の大目的に対して、信頼形成、販促支援といった2つの小目的があり、「誰かに、何かを知ってもらう」ことが達成手段となります。

なんとなくスッキリしたとは思いますが、実務上はまだまだ抽象的ですよね。
もっと手段の枠組みを小さく・細かくしていきましょう。


広報は課題が目的になりやすい


目的を最初から考えるのではなく、まずは現在の広報活動・ツールを棚卸してください。
棚卸した活動・ツールの現状を評価し、課題を整理していくと、小さな目的が見えてきます。

最初は大変ですが、後でラクをするために、この作業はとても有効です。

まずは活動・ツールの棚卸。

主管業務に限定せず他部署の活動・ツールもすべて対象にします。
会社案内、ホームページ、パンフレット、営業ツール、採用ツール、プレスリリース、記者向け勉強会等、社史や社内報も社外に配布しているなら含めます。

棚卸した活動・ツールを、以下の視点で評価します。

  • (主に)誰を対象にしたものか
  • どんなときに使われたり実施されたりしているか
  • 何を発信できているか
  • 何を発信できていないか

表計算ソフトで表にすると良いでしょう。

たとえば、会社案内やホームページは必ずお持ちのはずです。

現状の会社案内やホームページを「誰に、何を知ってもらうことができているのか」「逆に、何を知ってもらうことができていないのか」等を確認していくと、たいていは「強みや魅力を表現できていない」という課題が見えてきます

広報では、こうして見えてきた課題こそ、そのまま目的として設定しやすい。
この例で言えば、「強みや魅力を知ってもらう」ことが、会社案内やホームページの新たな目的となります。
従来の会社案内やホームページは基本情報をお知らせすることが目的だったのではないでしょうか。

広報の専門知識をお持ちでない方は、課題整理を通じて目的が見えてくる場合がとても多いです。

最初から目的を考えるのではなく、具体的な活動・ツールの現状評価と課題整理から、目的を明確にしていく方法をおすすめします

いくつかの細かな目的が見えた段階で、もう一度、手段の内容を検討しましょう。
先ほどの例で言えば、「強み」や「魅力」とは具体的に何でしょうか?
他の媒体や活動では発信できていますか?

どの媒体・活動でも発信できていない、強みや魅力が何かを具体的にできないのであれば、そもそも強みや魅力は何なのかを明確にしないといけない、という直近の作業まで見えてきます。

「誰に」「何を」(ここでは強みや魅力)を特定できたら、専門知識がなくても戦略的な発想ができるようになります

たとえば、会社案内は対面で、ホームページは「マス」に非対面で閲覧されますね。
対面活用が多い会社案内は「人」の魅力が伝わるエピソードを中心にしよう、ホームページは他社と比較されやすいから、他社との違いをもっと訴求しよう。
このように最低限の労力で、ムダがなく、効果を最大化する全体像を考えることができるます。

まずは網羅的に課題を整理することで目的が見えてきます。

目的が見えると優先順位を付けやすくなります。

ここでアンケート調査を実施するとさらに良いです。この調査は、社内広報の課題整理にも関連しますので、次回、ご紹介します。

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-1 総務で広報を兼任 要領よくやるには?


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第1回総務で広報を兼任 要領よくやるには?

企業規模によっては広報の専門部署があります。

一方、総務部のスタッフが「兼任」で広報を務める企業も多いです。広報担当者が明確に決まっていない会社もあります。

いずれにしろ、兼務で広報業務を担う方は、優秀な人材の採用、社員の定着率向上、モチベーションアップ、社内での情報共有、経営理念の浸透、顧客先の開拓、知名度・イメージアップ、新製品・サービスのプロモーションなど、多くの広報課題を、他の業務と並行しながら要領良く解決していく必要があります。

広報兼務者は一般的に、広報と他業務とのバランスについて、組織の要請が「広報最優先」になることはありません。このため、広報課題を自覚していても、時間も少なく、現状より業務負荷が増す懸念もあり、活動強化に躊躇しがちです。これは自然な感情。しっかりと「ラク」をしながら、広報活動を実施しましょう。このコラムでは、「総務で広報を兼務している方」を対象に、要領良く広報業務を強化する方法をご紹介していきます


広報兼務者の悩み


広報の専任部署がある場合、媒体や活動ごとに担当者が決まっています。このため、広報専任者は、個々の広報活動の「方法論」に悩みを持ちやすいです。

一方、広報兼務者は、そもそも何を優先して取り組むべきなのか、という点に悩みが絶えません。ただでさえ忙しい中で、兼務で広報業務を遂行しなければいけないからです。

活動の優先順位付けをしたいと考えた広報兼務者は、本屋で数多ある広報の専門書を手にとってみたり、広報研修を受けたりします。

ところが、情報はプレスリリースの書き方やホームページ活用法など「方法論」が中心。何から手を付けて良いのか分からないのに、いきなり各論の嵐が襲いかかる・・・。すると、「ウチの会社の場合、プレスリリースするほどのネタは滅多に無い。」「ホームページ活用と言っても最低限の予算でリニューアルする方法を知りたいのに。」「そもそも広報の専門家になりたい訳じゃないから、ここまでやらなくても良いよね。」という意識が生じます。

広報専任者にとっては数多ある「方法論」が助けになりますが、広報兼務者にとっては、「方法論」のせいで広報を強化するハードルが高くなってしまっている状況があるのです。


専門業者の得手不得手


実は、広報の世界は、これまで媒体の制作能力や、マスコミとのネットワークなどが専門的ノウハウとして存在してきました。パブリシティに強いPR会社、社内報制作、Web制作、広告デザインなど、細分化されて方法論が磨かれています。

このため専門業者は、自分たちが得意な方法論こそを、本にまとめたり、研修・セミナーを実施したり、ソリューションとして提供したりします

これを逆さにひっくり返してみると、そもそも何を優先して取り組むべきなのかという「戦略」を専門業者が得意にしているとは限らない

このため、広報兼務者が「そもそも論」を勉強できる機会は少なく、そもそも論を一緒に考えてくれる外部パートナーも少ない

私は、媒体側・受注側・発注側のすべてを経験することで、この広報の世界の変わった姿を、客観視できるようになりました。

社内・社外広報を問わず、広報活動の強化で、主要な論点は以下の4つがあります。

  • なぜ強化する必要があるのか
  • 何を発信・共有するのか
  • 誰を対象に発信・共有するのか
  • どうやって発信・共有するのか

図表をご覧ください。

広報の専門業者は④が得意です。④は、社外の知見を活用できます。ここが広報の専門性。換言すると、①~③は社外に答えがありません。落ち着いて考えると、「目的」「何を」「誰に」は経営戦略と重なってくる部分が多く、必ずしも広報の専門知識を必要としません。

ところが、広報の専門知識がない広報兼務者にとっては、①~③の検討は、広報の知識がなければ検討できないと考えてしまいがちです。だからこそせっかく広報について学ぼうとしているのに、④の情報に接するばかりで、優先順位を付けたいというニーズとのギャップが大きい。

結局何からやったら良いのか分からないので迷いが増えてしまい、活動強化に踏み出すことができないのです。

このように広報兼任者にとって、「とりあえず専門書」「とりあえず研修」が成立しにくい現実があります。


優先順位の決定に専門知識は不要


専門業者の得手不得手をご説明したため、「ウチの会社は、まだ専門業者を使う段階ではない」と感じた方もいるでしょう。お伝えしたかったのは、以下の2点です。

・①~③の整理は広報の優先順位付けと同義

・しかも専門知識を必要としない

ラクをするためにも、①~③を考え抜くことが大切です。これが明確になれば、自己啓発や外部研修で学ぶべきものも明確になります。仮に専門業者の力を借りたい状況になっても、必要最低限の発注コストで済むようになります。

予算・時間・労力等のリソースに限界があれば、当然、活動の範囲も限られます。広報兼務者にとっては、(当たり前のことですが)何を優先的に実施すべきかを整理することがすべての出発点。課題整理や問題定義ができれば、あとは「できる範囲」で実践するだけ。業務負荷が劇的に増えることはありません。安心して広報の強化を目指し、広報の仕事をぜひ楽しんでください。

次回から①~③に該当する部分をご紹介していきます。次回は、①なぜ強化する必要があるのか、つまりは、現状の課題をどうやって整理していけば良いのかをご案内します。社外広報と社内広報に分けて、広報兼務者の目線から丁寧に紐解いていきます。

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●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

特徴(他とどう違うの?)

会社概要

代表者略歴

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