広報・シティプロモーション戦略策定業務の外部委託~媒体側・受注側・発注側のすべてを経験した事例から

※2017年2月5日開催の公共コミュニケーション学会の事例交流・研究発表大会で事例発表をした内容(予稿)を一部修正


概要

地方創生にかかる中央官庁の予算的支援があり,多くの自治体で,移住・定住にかかるプロモーション戦略等の戦略策定業務や実務を業務委託している.そこで本稿では,筆者の体験的事例から,広報やシティプロモーションに係る外部リソース活用について,ソリューションベンダ,コンサルテーション,アドバイザーに分けて課題や活用の要点を示し,発注側の専門的知識・技能の有無別に外部リソースの活用の有効と思われる活用形態を,実践知を基に整理した.


1.はじめに

地方創生にかかる中央官庁の予算的支援があり,多くの自治体で,移住・定住にかかるプロモーション戦略等の策定が行われている.戦略策定業務や実務を業務委託する自治体も多く見られる.そこで,本稿では,記者・PR会社・広報実務・コンサルティング業務を経験した筆者が体験した事例の数々から業務委託の体系化・類型化を図り,外部リソース活用を検討する際に参考となる知見を共有したい.

 


2.自治体の人材基盤の課題と本稿の検討範囲

(1)シティプロモーション戦略策定業務委託の現状

地方創生にかかるプロモーション戦略の策定業務を委託した自治体が多く散見される。課題整理を含めた調査分析に主軸を置いた検討・整理を委託するものから,アクションプランを想定していると考えられるもの,動画等の制作物の納品やイベント等の実施までを包括するものなどが混在している.発注形態に法則性は見られず,現実問題としては,申請が通った地方創生にかかる交付金をいかに活用するかという発想が垣間見える例もある.

 


(2)発注側の組織基盤の実態

民間企業と同様に自治体は、事務職はジョブローテーションを中心とした人員配置が一般的である.筆者が事務職の自治体職員を対象に聞き取り調査した結果では,ジョブローテーションが行われていないケースは存在せず,3~4年での異動が一般的という回答が多く見られた.

広報やシティプロモーション関連業務に人事異動で配属されて従事する場合,経験値がない中で専門業者のディレクション業務を行わなければいけない.さらに戦略策定業務やホームページリニューアルなど「プロジェクト型」で行われる場合は、受注側からみると,発注側である自治体関係者がプロジェクト・オーナーに該当するため,発注段階から明確に「QCD」(Quality,Cost,Delivery)を示さなければいけない.これが明確になっていないと本来は受注側は見積を算出できない.一般的に公募の場合は「C」と「D」は明確になっている.ところが「Q」は,背景整理や課題整理を含めて曖昧な状態が多い.このため,「Q」に関連する部分の扱いを睨んだ発注形態のあり方を検討したい.なお,昨今,いくつかの自治体で民間企業出身の広報専門家を期間採用することもあるが,本稿ではこうした外部リソース活用の検討は範囲外とする.

 


3.広報関連実務の外部リソース活用

広報やシティプロモーションにかかる業務では、後述するコンサルティングやアドバイザリーを除く実務業務の委託では,主に以下が発生する.

  • パブリシティ活動(PR会社)
  • 広告活動(広告代理店)
  • ホームページ制作・更新(Web制作会社)
  • 動画制作(動画制作会社)
  • 広報紙誌制作(印刷会社/デザイナー/ライター/カメラマン)
  • イベント実施(イベント会社)

上記を受託する企業はいずれも,労働集約型ないし設備集約型の事業形態の場合が多い.人件費の割合が高く労働力がサービス提供の基盤となるか,保有する広告出稿枠,印刷設備等の「設備資本」がサービス提供の基盤となる形態だ.こうした事業形態では,発注側の課題そのものを見つけ出すのではなく、発注側から示された何らかの課題を、自社のリソースに応じて解決する「ソリューションベンダ」に近くなる.広告会社でコンサルティング事業を強化する例が見られるようになってきたが,コンサルティング事業を別途行っていること自体がコンサルティング業務を得意としていないことの象徴とも言える.この場合の発注側と受注側が持つ情報に非対称性が生じやすい.

ここで言う非対称性とは、発注側は「経営・組織の理解」に対する知識量は多いが、「専門領域の理解」に対する知識量は少ない。一方で、受注側は「経営・組織の理解」に対する知識量は少ないが、「専門領域の理解」は多い。

情報の非対称性が存在するため,受注側は,そもそも何を発信すべきか,現状の広報活動全体を俯瞰した場合に何が課題なのか,といった検討・整理は得意としていないか,「踏み込んでこない」場合が多い.発注側が抱える情報発信のリスクに関しても,必ずしも前に立って責任を負うことはせず,意志決定と責任は常に発注側に委ねる姿勢を貫く.

たとえば,PR会社で言えば、何らかのネタや発表機会があることは前提で,それをどの媒体に向けてどう料理するか,といった検討は得意とするが,ネタづくりから対応できるPR会社は必ずしも多くない.記者のときにPR会社の売り込みを受けた経験や,PR会社の業界に属していた経験から,この実態は断言できる.もちろん,戦略PRを売りにしてネタづくりから対応するPR会社もあるが,必然的に作業負荷が増えるため,発注コストが高くなる.Web制作会社の場合も同様で,クリエイティブの知見は豊富だが,原稿や素材はすべて発注側が提供すべき,という企業は多い.

プロジェクトを成功に導きやすくなる発注側と受注側の役割分担を一般化して図示すると以下のようになる.

発注側には,課題を明確にし,誰に何を発信したいのか等を整理して,受注側の能力を最大限引き出すことが求められる.ところが発注側は,専門知識がないことを理由に,本来発注側が検討すべきことも思考停止してしまいがちで,要件の整理があいまいなままに発注や公募にかけてしてしまうことがある.現に,地方創生にかかる戦略策定では,「何を」に該当する「強み」を,RESAS等を活用のうえ導き出せと丸投げしてしまうことも多い.確かに筆者も,発注サイドにいた時は「そこを考えて提案してこそプロ.まさに腕の見せ所のはず」と考えていた.ただし,あらゆる立場からプロジェクトの成否を見てきた自己観察に基づくと,これは求める「Q」を一切提示しておらずプロジェクト・オーナーとしての責任放棄だ.失敗確率が高くなることも断言できる.筆者自身の過去の反省も踏まえて厳しく言えば,発注側が何も考えていないにも関わらず「何か提案せよ」とおねだりしている状態である.

そもそも,図で示した「発注側が考えるべきこと」こそが「戦略」だが,「どうやって発信・共有するか」という部分を戦略と誤認していることも多い.「どうやって発信・共有するか」は,戦術の戦略性である.日本語ではこれを「戦略的」と表現するため誤認しやすい.たとえば,図で言う本来発注側が考えるべき部分の提案を求める場合は「シティプロモーション戦略」となるが,受注側が考えるべき部分の提案を求める場合は,戦略要件を提示したうえで「戦略的なシティプロモーション活動の計画策定」となる.

こうした整理が十分でないままに公募や発注をすると,受注側は結局どちらを提案すれば良いのか分からなくなる.すると,業者側の提案は,流行や自分たちの過去の成功体験に依拠するものなり,過去の事例等から説得力を高めようとする.必然的に本質的な課題解決との結びつきが弱くなる.さらに発注側は,戦略要件があいまいな状態のため,評価項目はあっても判断軸がはっきりせず,結局「希望的観測」や「好み」で提案の採否を決めてしまう.結果的に,専門業者の能力を最大限に引き出すことができず,投資効果が十分に得られない成果物を世に発信・共有し「取り組んだこと」が成果となる.これこそ広報・シティプロモーション領域での「税金の無駄遣い」である.誰に,何を発信すべきか,という論点整理も含めて専門業者の力を借りたいのであれば,それをはっきり示し,コンサルティング業務がスコープに含まれるものだと受注側が認識できるようにする責務がある.

民間企業では成果に対する評価が厳しいため,Webリニューアルを中心に「上流工程」を切り分けて発注するケースが出てきている.先進事例調査や課題整理をする企画検討業務と,情報整理やマルチデバイス対応の設計をする業務、CMS開発・制作業務はそれぞれスキルが異なるためだ.広報・シティプロモーションの戦略策定でも、制作物を一気通貫で発注する形が見られるが,調査分析や課題整理を別建てにしたり,アドバイザーを登用したりして企画検討業務の支援を受けたうえでソリューションベンダの能力を引き出す公募としていくことも検討すべき段階に来ているのではないか.住民の大半は民間企業で働く者であり,品質と投資効果のせめぎ合いの世界で生きている彼らの評価を得るためには,できる限り発注側で必要な検討・整理をしたうえで,制作・表現のプロに委ねたい.

 


4.コンサルテーションの類型

ソリューションベンダとは異なりコンサルティングという業態がある.昨今は,ソリューションもコンサルティングの一形態と言われ,SEOコンサル,人事コンサル,広報コンサルなど,様々な分野で「コンサルタント」「コンサルティング」「コンサルテーション」と言われるサービスが提供されている.こうした状態に引っ張られがちだが,コンサルティングとは経営戦略の策定のみを指すという指摘もある.コンサルティングは「相談」と翻訳されるが,実務経験上,「相談」は顧問やアドバイザーが請け負うことが多い.本稿におけるコンサルティング業務とは,広報やシティプロモーションに係る,調査分析活動や戦略策定,アクションプラン策定を指すこととし,広報実務やシティプロモーション活動の受託は行わない業務を指すこととする.

そもそもコンサルテーションは,大きく2つのアプローチが存在する。それぞれについて検討していく。

  • アウトプット・コンサルテーション
  • プロセス・コンサルテーション

 


(1)アウトプット・コンサルテーション

この形は、経営戦略・事業戦略に関するコンサルティング企業やシンクタンクでよく実施される.自治体では総合計画の策定にかかる発注ケースで見られる.

発注側から,持ち合わせているデータや文献等をコンサルタントに提供し,コンサルタントが必要に応じてインタビューや追加調査を行いながら,現状把握や課題整理から必要な打ち手の洗い出し,アクション,実行体制など,あるべき姿を立案して,アウトプット(報告書)をまとめあげる.発注側は,コンサルタントがまとめたアウトプットを受け取り,納得できるものであれば,そのアウトプットに基づいて実行したり,意志決定したり,さらに検討を加えていったりする.「調べる」「考える」「まとめる」ことの代行業務と言える.中央官庁を中心に,時間短縮のために調査分析業務部分のみを切り出して,シンクタンクや戦略コンサルタントを活用し,そのアウトプットを基に政策立案をすることも多い.

広報やシティプロモーション戦略でもこうした形態はあり,時に「コンサル丸投げ」と批判もある形だが,このアプローチの最大の特徴は,アウトプットに落とし込むことに慣れたプロの力を借りることができる点にある.たとえば,発注側の担当者やマネジャーが一定程度の経験を蓄積すると,頭の中で課題や取り組むべきことの方向性が見えてくる.ところが,それをうまくアウトプットに落とせない.気合いと根性と情熱はあっても,それが他人にも伝わるように説得力を高めた論理的なストーリーに描いていくことができない.これは,経験を積むことで暗黙知になり,暗黙知になったものを自ら形式知化することは非常に困難なためだ.アウトプット・コンサルテーションは,こうした時に,発注側の情熱を汲み取りながら,ファクトやロジックを整理してもらえるので,大幅に時間を短縮できる.出てきたアウトプットを活用して関係者に納得を得られやすくなる.これが「コンサルのうまい使い方」と言われるものだ.

一方、アウトプット・コンサルテーションの場合,発注側があまり知識や経験を有していない状態では,検討・整理の時間は短縮できたとしても,整理の意味や設計の意図を咀嚼しきれず,報告書が「引き出しの中」にそっとしまい込まれてしまいがちになる.発注側に戦略の「Q」を見る目が求められるが,この自覚がないと,出てきたアウトプットの質を評価できず「目新しさがない」「むしろ手足の具体策を求めている」「現場はもっと生々しい」「似たようなことはやってきた」と評価してしまう.筆者自身も,広報実務経験が浅いときに戦略策定に秀でた広報コンサルティング会社から提出されたアウトプットや提案書をみてこのように感じたが,経験を蓄積していった後に,これらの資料を見直し,その価値を初めて実感できた.

 


(2)プロセス・コンサルテーション

エドガー・H・シャインが提唱した,カウンセリングに近いアプローチである.戦略策定や何らかの問題解決を,コンサルタント側が代行して考えるのではなく,コンサルタント側は,発注側が自ら考えられるように「支援」「ファシリテーション」に徹するものである.問題定義から解決策までを,発注側と受注したコンサルタントが共同歩調で検討していく進め方に最大の特徴がある.

このアプローチを採ると,発注側がコンサルタントと検討プロセスを共有することで,発注側の「固有状況」をコンサルタントも深く理解できるので,情報の非対称性が極限まで少なくなる.このため,固有解を見出しやすくなる.また,発注側は自らが問題解決のあり方を考えていくことになるため,解決策に対して深く納得でき,実行に迷いがなくなる.この結果,中長期的に時間・労力を削減しやすくなる.経験値がない場合や解決策が世の中にあまり存在しない場合に有効な進め方である.

コンサルティング会社は,いずれかのパターンに特化している場合もあれば,両方を実施できて発注側の要望に応じてアプローチを変える企業もある.公募や発注の段階で戦略策定「支援」となっている場合,コンサルティング会社はプロセス・コンサルテーションを求めているものだと認識する.「戦略策定」となっている場合は、アウトプット・コンサルテーションを求められているものだと認識する.発注側がこれを区別できずに,本心では戦略の提案を求めているのに,戦略策定「支援」の提案を求めると提示してしまった結果,提案者から検討プロセスや検討のフレームワークばかりが示されて戸惑うことがある.戦略を求めている発注側からすると提案内容に具体性がないように感じられてしまうからだ.安易に戦略策定「支援」と付けてはいけないし,逆に本気で自分たちが主体となって戦略を考えていきたい,それを手伝ってほしいと考えている場合は,「支援」と付けなければいけない.

 


5.アドバイザーの類型

コンサルティングとは別に「アドバイザリー」「アドバイザー」が存在する.これは「顧問」と訳されるように,言葉としては「相談」に近い.経験則では,アドバイザーに関しても2つの活用形態がある.それぞれ簡単にまとめていく。

  • 常駐型アドバイザー
  • 非常駐型アドバイザー

 


(1)常駐型アドバイザー

庁内に席を設けて,週に2日程度広報関連業務の実務的な助言や関係各所との調整・ヒアリング業務などを行う.コンサルティング業務を委託する場合のような,打ち合わせ資料やアウトプットの提出は求めず,相談記録を残す形で実績管理をしていく場合が多い.発注側は,アドバイザーが席にいる間は「使い倒す」ことができるので心強い.時として,アドバイザーの意見を聞いたうえで進めていきたいがために,アドバイザーがいない週の3日間に業務が止まりがちになることがある.

プロを週に2日程度拘束することになるため,コストは相当額かかってくる.少なくとも「中途採用」よりは高額になる場合が多い.

 


(2)非常駐型アドバイザー

比較的低予算で月額固定費を支払い,月に数件の範囲で電話・メール・訪問時の口頭等の手段で助言を求める形が一般的である.教育・研究機関の研究者をアドバイザーとする場合は,訪問回数で予算が積み上がっていく形もある.

話を聞いてくれる第三者がいると,自らの頭の中の整理が進みやすくなる.また,俯瞰した助言から視点・視座・視野を切り替えやすくなるため有効だ.

 


6.まとめ

以下のように,発注側が専門的知識・技能を有しているか否かで,どのような外部リソース活用が有効と考えられるか,実践知をまとめて共有する.


(1)発注側が専門的知識・技能を有していない場合

・実務よりのソリューションベンダの活用

発注する前に,組織として経験を積むことを優先したい.経験を積み上げないと,何が問題なのか,何が足りないのか,どうしても見えてこない.既述のとおり,経験を積みあげないと,戦略の「Q」を評価する目も養われてこない.短期間での異動が前提になる場合は,OJTをサポートしてくれる外部業者を活用することも一案だ.一般的に専門業者はノウハウをブラックボックス化する必要があるが,顧客へのノウハウ移管をするポジショニングの業者もいる.

・戦略策定でのコンサルタントやアドバイザー活用

アウトプット・コンサルテーションの形であれば確実に成果物は立派なものになるが,ノウハウがないためこれを実践できないか,アウトプット自体を咀嚼できない結果になりがちである.実践も含めてすべて外注するほどの財政的余力がないのであれば,プロセス・コンサルテーションの形が理想だろう.あるいは,アドバイザーを活用したい.専門知識が十分にないからこそ,必ずしも専門知識を必要としない戦略こそ,極力,内部で検討をしていきたい.

 


(2)発注側が専門的知識・技能を有している場合

・実務よりのソリューションベンダの活用

ソリューションベンダの活用では,発注側に専門知識が蓄積されるほど情報の非対称性が解消されていく.すると,ソリューションベンダに対する「物足りなさ」が生まれる.実務担当者の心の中で,専門業者の側が「踏み込んで提案して来ない」という感覚が生まれてきた場合は,情報の非対称性がなくなってきているサインである.この場合,大きく2つの対処がある.

  • 業務標準化を徹底して内製化したうえで,危機管理などより専門的な領域に特化してソリューションを求める
  • より包括的で俯瞰した戦略策定を得意とするコンサルタントやアドバイザーに並行して委託する

上記の①はコスト削減につながる。②の場合は一時的にコスト負荷が増すが,中長期的には全体最適できるので総額コストが削減される.経験則では,②は非常駐型アドバイザーがフィットする.

・戦略策定でのコンサルタントやアドバイザー活用

経験値が積み上がった段階ではアウトプット・コンサルテーションの方が適している場合が多い.多くのことを体得し無意識的に実践できるようになるほど、体得した事柄は言語化しにくくなってくる.職人として道を究めるのであればこれでも良いが,一般的に広報職では人事異動が発生したり周囲と調整したりする業務が必ず発生する.経験値を基にした課題や打ち手の方向性を、外部データ等も活用しながら言語化した整理ができていないと,経験を有さない周囲や上長にとって理解が進まず,結果的に調整がうまく進まないため時間の損失が生じる.


本稿では,筆者の体験的事例から,広報やシティプロモーションに係る外部リソース活用について,ソリューションベンダ,コンサルテーション,アドバイザーで,それぞれ課題や活用の要点を示した.そのうえで,発注側の専門的知識・技能の有無で,どのような外部リソース活用が有効と考えられるか,実践知を基に整理した.今後は,より正確な自己観察や参与観察を行い,研究としてまとめていくこととしたい.

 


参考文献

1) 堀紘一(2011):『コンサルティングとは何か』,PHP研究所.

2) E・H・シャイン(2012),『プロセス・コンサルテーション-援助関係を築くこと』,白桃書房.

 

時限型広報マネジャーに求められる能力要件の試案

人事異動を前提にした広報マネジャー育成に関する考察

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(日本広報学会「第20回 研究発表全国大会」発表予稿)
※2014年に発表した内容です

要旨


ジョブ・ローテーションを行う企業・官公庁・自治体・団体等(以下、組織と総称する。)は、多く存在する。こうした組織で広報の職にあたる場合、数年というわずかな期間だけ業務に従事することになる。いわば「時限型の広報パーソン」が存在すると言えよう。こうしたジョブ・ローテーションがある組織の実態に即して、時限型広報パーソンの人材育成について考察する。なかでも、能力開発設計が十分になされていないと推察されるマネジャー層に焦点を絞って検討し、体系的な能力要件を試案したい。

1.研究の目的


多くの組織はジョブ・ローテーションを実施している。
人事上の施策として、新人から管理職になるまでにジョブ・ローテーションを実施している企業は約半数の50.8%という調査結果もある1)

広報部門もジョブ・ローテーションが多い。
経済広報センターは大手企業51社に対して広報人材育成などの取り組みを調査してまとめている2)
これによれば、大手企業51社の全社でジョブ・ローテーションが行われている。
また、国内上場企業の広報部長、広報担当役員の人材データベースを構築している宮部(2011)は、2009年1月から2010年9月の間に異動があった350件を抽出し、その間のキャリアパスを整理3)
新たに広報部長・担当役員に着任したケースは216件あり、それまでにPR・CSR・IR業務を担当していた例は64件の29.6%にとどまる。
また、この間に広報部長・担当役員から異動があった例は142件で、引き続きPR・CSR・IR業務を担当したケースは18件の12.7%にとどまる。
この2つのデータから、組織内には一定期間のみ広報業務に従事するいわば「時限型」の広報パーソンが存在すると言える。

ところが、時限型の広報パーソンの人材育成に関する研究は見当たらない。
そこで、人事異動を見越したうえで、広報業務に従事している間に、どのような能力を意図的・計画的に付与しうるのかを考える。
とくに、広報マネジャーに関しては、専門的な知識・技能が求められる一方で、いわば汎用的な能力といえる経営課題と紐づけた戦略設計や課題創出、部下指導、成果報告、業務標準化が重要視される。
そこで、本研究では、時限型の広報マネジャーに絞って、求められる能力を試案する。

なお、本研究は、広報職や広報学・広報論の専門性を否定するものではない。
専門研究の深化に加えて、いわば汎用性の視点を加えていくものである。
広報部門で付与しやすい能力を明確にすることができれば、組織はより意図的・計画的に能力開発とジョブ・ローテーションを実施できるようになる。
時限型の広報マネジャーにとっても、異動後の任用部署で広報経験を活かしやすくなる。

 

2.職業能力の構成


職業能力は、ブルームらが教育目標を明確化するモデルとして提唱した「認知領域」「情意領域」「精神運動領域」を基に、現代でも「知識」「技能」「態度」の3要素から考えることが一般的だ4)

能力の3要素のうち「技能」については、テクニカル・スキル、ヒューマン・スキル、コンセプチュアル・スキルに分けたカッツのスキル・モデル5)が依拠される。
カッツの言うテクニカル・スキルは文字どおり専門的技能であり、広報でいえばプレスリリース作成や編集・校正技術等だ。
ヒューマン・スキルは動機づけやリーダーシップなどの対人関係能力を指し、コンセプチュアル・スキルは前後の工程への影響等を考慮できる能力としている。
現代では、コンセプチュアル・スキルはカッツの指摘から拡張され、論理思考やメタ認知、複眼思考など概念化能力と捉えられることが多い。

カッツは、職位に応じて3つのスキルが必要な割合は異なるとし、これは図1のように表現されることが多い。

pr-hrd-skill1

堀(2013)は、能力の構成要素とカッツのスキル・モデルを合わせて図2のように整理している6)

pr-hrd-skill2
専門性の開発ばかりでは、異動後に広報業務の経験を生かしきれないことがイメージできよう。

 

3.広報に関する知識・技能の体系や研修プログラム


ビジネス・コミュニケーターの国際団体・IABCのコミュニケーション・プロフェッショナルに関するコンピテンシー・モデル7)は、①コミュニケーション・スキル、②マネジメント・スキル、③ナレッジエリア・スキルに分けて、スタッフ職からシニアコミュニケーターまで4段階で整理している。
しかし、ここでいう①コミュニケーション・スキルは、カッツモデルでいうテクニカル・スキルに相当するものである。
②マネジメント・スキルは、時間管理や業者管理などのプロジェクト・マネジメントを指し、職場管理は含まれない。③ナレッジエリア・スキルもコミュニケーション領域に絞られる。
コミュニケーション・プロフェッショナルのコンピテンシー・モデルであるため、人事異動は想定されていない。

日本パブリック・リレーションズ協会(以下、日本PR協会。)のPRプランナー資格認定制度8)も、一部で時事知識を扱うことはあるが、広報領域の専門知識やテクニカル・スキルに偏る。コミュニケーション・スキルやコンセプチュアル・スキルの開発に相当するものは見受けられない。

なお、PRプランナー資格認定制度に関連して、真部は、役職上位ほど経営や組織体のマネジメントに関する能力の重要性が高まることを指摘したうえで、知識・技能を「基礎領域」「応用領域」「専門領域」に階層化している9)
ただし、コミュニケーション・スキルやコンセプチュアル・スキルに該当するものが見当たらず、時限型広報マネジャーにはやや適用しづらい。

厚生労働省の職業能力評価基準は、業種別、職種・職務別に、必要な知識や技術、職務行動を整理している。
広報を含め、経営企画や人事など管理部門を事務系職種と位置付け、これら事務系職種に共通して求められる行動や知識、および広報に絞った場合に求められる行動や知識を、役職ごとに整理10)
職務行動として記述されている点と、共通能力として「関係者との協働」や「課題設定と成果追求」、「業務効率化」などが挙げられている点、広報マネジャーとして「人・組織のマネジメント」に言及している点は、他の体系とは異なる。
時限型にも対応し得る形でおおよそ整っていると考えられる。ただし、業務プロセスに沿った整理がされていない点や、Off-JTや自己啓発でどのような教育・研修を受けるべきかイメージが沸きづらい点が難点である。

教育・研修・講座については、日本PR協会11)や経済広報センターのほか12)、民間企業でも広報パーソンを対象にしたサービスもあるが、いずれも専門知識や技術の開発に偏りが見られる。

 

4.広報セクションから別部署への異動を見越した能力開発体系の試案


広報部門の中心的な活動は、報道対応と社内報作成などの社内広報である13)
ただし、時限型広報マネジャーの場合、これらを“極める”ことは期待されない。
そこで、他部門への異動後にも経験を活かせるよう業務プロセスに沿って、かつ能力開発項目がイメージできるように整理を試みた(表1)。

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この整理は汎用性の観点を加味するうえで有効だと思われる。時限型広報マネジャーの場合、広報の専門スキルはほとんど不要であり、むしろ広報を取り巻く経営管理や組織行動、イシューマネジメントといった知識付与や、社会に近い立場上、建設的批判や複眼思考、将来予測等の技能開発をしやすい可能性がある。

 

5.今後の課題


新たな着眼点の研究領域だという自負はあるが、現段階では、提示した内容全般にわたって質の向上が求められる。組織全体の教育・研修と連動させることで汎用性を担保している組織もおそらくあると考えられ、広報人材育成の実態を把握しなければならない。具体的な能力開発設計をするにしても、基本プロセス「ADDIE」に基づいてAnalyze(分析)、Design(設計)、Develop(開発)、Implement(実施)、Evaluate(評価)することが必要だ14)。能力開発体系構築に向けたそもそもの「文献レビュー」も実務書を含める必要があろう。本研究は不十分な点が多々ある。

研究を発展させるものとしては、「具体的な研修プログラム開発と効果測定」、「専門職および時限型の広報パーソンの比較調査」、「思考スタイル等の把握による広報パーソンの適正診断ツールの開発」などが考えられよう。実務家である筆者としては、研究者との協働、企業会員の協力、あるいは各研究者による研究を期待するところである。

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1)  リクルート ワークス研究所『Works 人材マネジメント調査 2013』, 2013.
2)  経済広報センター『主要企業の広報組織と人材 2013年版』, 2013.
3)  Junichiro Miyabe, An Attempt on Quantitative Profiling of PR Practitioners in Japanese Companies Applicability of “Revealed Preference” Approach, 14th International Public Relations Research Conference Pushing the Envelope in Public Relations Theory and Research and Advancing Practice, Marchi9-12,2011, Men,L.R. & Dodd,M.D.(eds.), Miami FL:University of Miami Press, pp.565-574.
4)  例として職業訓練教材研究会『十訂 職業訓練における指導と理論の実際』職業訓練教材研究会, 2012.
5)  Katz, R.L,Skills of an effective administrator,Harvard Business Review,52, 1974, pp.90-102(「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」『DIAMONDハーバード・ビジネス』1982.6, pp.75-91).
6)  堀公俊『ビジネス・フレームワーク』日本経済新聞出版社, 2013.
7)  International Association of Business Communicators, Communicator’s Competency Model,http://www.iabc.com/abc/pdf/CompetencyModel1.pdf (2014/8/16アクセス). IABCの概要はwww.iabc.comで.
8)  日本PR協会「PRプランナー資格認定制度」http://pr-shikaku.prsj.or.jp/(2014/8/16アクセス) ほかに、日本PR協会編『広報・PR概論』同友館, 2010. 同『広報・PR実務』同, 2011.
9)  真部一善「広報・PRの実務者が習得すべき知識と技能に関する一考察」『日本広報学会 第19回研究発表大会予稿集』日本広報学会, 2013, pp.147-150.
10) 厚生労働省「職業能力評価基準」, 中央職業能力開発協会のホームページから確認できる. http://www.hyouka.javada.or.jp/user/dn_standards_a9.html(2014/8/16アクセス).
11) 日本PR協会のセミナー/イベント, http://event.prsj.or.jp/(2014/8/21アクセス).
12)経済広報センターの会合案内, http://www.kkc.or.jp/plaza/meeting/ (2014/8/21アクセス)
13) 経済広報センター「第11回企業の広報活動に関する意識実態調査」, 2012.
14)中原淳他『企業内人材育成入門』ダイヤモンド社, 2006.

文献 (注の引用以外の参照文献)


・   伊吹勇亮「PRエージェンシーにおける広報専門職のキャリア形成に関する探索的研究」『京都産業大学総合学術研究所所報7』京都産業大学, 2012.
・   宮部潤一郎「広報組織・人材論の試み:我が国企業の広報機能(活動)を担う組織と人材に関する考察」『国際広報メディア・観光学ジャーナル』北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院, 2010.
・   岡﨑裕「『経営の仕組み』を形づくることのできる“コーポレート人材”の育成を」『JMAマネジメント』日本能率協会, 2012.10.
・   福澤英弘『人材開発マネジメントブック』日本経済新聞出版社、2009.
・   大久保幸夫『キャリアデザイン入門[Ⅰ](基礎力編)』日本経済新聞出版社、2006.

【推薦本】イメージとレピュテーションの戦略管理


イメージに関するフレームや、レピュテーションに関するフレーム、組織ニーズの階層、PR会社への外注に向けて情報を整理できるワークシートなどを所収しています。

理論的な解説は簡素で、フレームはシンプルなものが多くて使いやすいので、実践の場で照らし合わせたりヒントを得ながら使うとよいです。

組織ニーズを5段階の階層にまとめ、必要条件および典型的なPR活動をまとめている図表は極めて有効です。

手元に置いておいて損はない一冊です。

【推薦本】広報・PRの効果は本当に測れないのか?


もう10年近くも前の本になってしまいました。

広報・PRの効果測定は、一般的なものは「報道件数」や「広告換算」です。
「報道記事分析」をする組織もあるでしょう。
ただ、決して科学的といえるものではありません。

広報効果の各種理論をまとめて紹介しているこの本は実践的です。

米国でも活動の定量化に悩んでいる様子を感じることができます。
活動量やリーチ、行動変化まで積み上げていく形になる理論が多いですが、その行動変化のとらえ方まで踏み込んで解説しなければ、「報道件数」や「広告換算」「報道記事分析」にとどまる日本の広報界では通じないかもしれない。

おそらく、一番参考になるのは「目標設定」の考え方の部分です。
効果測定の各種理論よりも、目標設定の方法が理解できれば、それだけで測定すべきことが見えてきます。

広報担当者としては年に1度か2度はぱらぱらとでも読み直すべき本でしょう。


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