2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。
弊社では、2018年3月から4月にかけて、広報を経験したビジネスパーソンを対象に、「広報の仕事の特徴」を尋ねる調査を実施しました。他の部署ではできない経験、広報の仕事の良いところ、広報の仕事だから身に付けやすい能力など、広報の仕事の特徴として思いつくことを自由記述形式で挙げていただきました。調査では、244件の有効回答がありました。
調査結果は自由記述ですので、1件ずつ読みながら記述内容をコード化する「アフターコーディング」をしました。たとえば「会社の顔なので、全信用に関わります」といった回答であれば「会社の顔」というコード名を付し、似たような回答があればこれをカウントしていきます。自由記述は「定性」データですが、これを「定量」データに置き換える作業です。この「アフターコーディング」をすると全体的な傾向が見えます。
アフターコーディングの結果、もっとも多かったのは「受け手目線」というキーワードで27.9%でした。これに「簡潔に説明」(26.2%)、「特徴や要点を抽出」(21.7%)が続きました。ほかにも、「視点・視野・客観性」(17.2%)、「自社理解」(16.4%)といったキーワードが多く見られました。
この結果は、あくまでも自由記述の回答結果を件数に置き換えてボリューム感を確認するためのものです。広報の仕事の特徴を見極めるためには、回答内容を似たものでまとめて「分類」する必要があります。この作業をした結果、回答内容を大きく5つに分類できました。
- 会社の顔になる
- 高い視座・広い視野・多様な視点が求められる
- 表現・方法を考え抜く
- 危機管理・危機察知
- 人脈が拡がる
特徴1 会社の顔になる
広報は、年齢・役職にかかわらず、会社を代表する立場として、記者や専門業者、お客さまなど外部の利害関係者と関わることが多いという回答が目立ちました。報道対応をしていると、会社の顔として記者の質問に対応します。ホームページや会社案内などの広報ツールを制作する場合も、ひとつひとつのメッセージや表現は会社の顔となるでしょう。
広報業務は会社の顔になることが多いため、「責任感が醸成される」、「他人に説明できるまで事案を理解する癖が身に付く」といったメリットがあるという回答がありました。
特徴2 高い視座・広い視野・多様な視点
「経営に近い」「経営層の考え方や動き方を知ることができる」といった回答が目立ちます。本社機能はいずれも経営に近いですが、広報は、人事、経理など個別機能とは異なり、機能・部門を超越して、統合的・包括的に社内外の情報に触れます。広報の経験を通じて「会社のことを俯瞰できて視座が上がる」のです。 また、「他部署・業界・社会への影響などを想像できるようになる」など視野の広がり、「疑問点や影響範囲を常に洗い出す」「建設的批判や視点を切り替えた発想ができるようになる」といった視点の切り替えに関する回答が見られます。高い視座・広い視野・多様な視点が必要になる(身に付けやすい)仕事と言えるでしょう。
特徴3 表現・方法を考え抜く
広報は、社内外に情報を発信することが主な業務です。「会社の魅力やサービスの特徴を伝えるために表現を考え抜く」「あらゆる方法で効果を最大化しようとする」「創意工夫し続ける思考回路ができる」「調べる、聞く、話す、企画する、文章にする、まとめる、伝える、すべての能力の総合体」といった回答が目立ちます。「情報の受け手目線で考える客観思考が身に付く」「日々接するメディアから、表現方法を学び取ろうとするなど情報感度が上がる」「本社機能でありながら営業センスを養うことができる」といった声は、広報ならではと言えるでしょう。
特徴4 危機管理・危機察知
企業価値を守るためにダメージ・コントロールをすることが広報の特徴だという回答も目立ちました。「昼夜を問わず、会社に関係のある情報やニュースをいち早く察知する」「嘘偽り無く本当の姿だけをわかりやすく伝えることが仕事なので、無いことをいってはいけないが、あることを言わないのはかまわない。腹黒くなれる」のような回答です。広報は危機管理の中でも危機が発生した後の対応が担当領域となります。そのため、「会社に属しながら、半分社外に身を乗り出して仕事をするというか、客観的に自社を見ながら仕事しなければならないところが面白くて難しいところ」というように、バランス感覚が身に付く仕事と言えるでしょう。
特徴5 人脈が拡がる
制作会社など「社外の人脈が拡がる」「記者とのネットワークができる」、「社内人脈が増える」といった回答が目立ちました。短期間で社内外の人脈を幅広く形成できる部署は他にはないと言えるでしょう。関係調整や折衝能力が求められる仕事です。