兼任広報担当者向け広報基礎知識-9 プレスリリースの基本

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第9回プレスリリースの基本

今回から、実務に近いお話をご紹介していきます。今回は、対外広報活動の基本中の基本である「プレスリリース」です。


プレスリリースの原理原則

プレスリリースで一番意識しなければいけない「原理原則」はなんでしょうか。

文字にすると当たり前のことのように見えてしまいますが、「記者が取材・報道を検討するための資料」だということです。
もう少し企業側の目線で表現すると「記者に取材・報道を検討してもらうための提案書」です。この原理原則を意識できれば、プレスリリースの成功確率は格段に良くなります。

プレスリリースは、得てして会社が言いたいこと・取り上げて欲しいことを発信するものになりがちです。
業務・活動の定義としては間違っていませんが、記者が取材・報道する価値があると思わない限りは、何の意味も持ち得ないものです。

最近では、企業サイトで、プレスリリースをそのまま発信することができます。実はここに思わぬ落とし穴があります。


プレスリリースとニュースリリースは違う

ホームページは制約なく情報発信できるので、多くの企業はプレスリリースとニュースリリースを同じものとして扱い、これを掲載しています。
一見すると作業効率が良いようですが、かえって成果が出にくく生産性を悪化させている場合もあります。

ホームページに載せるリリースは、自社のニュースをお知らせするものです。
文字通り「ニュースリリース」として社会やお客様に何でも発信できます。

一方、「プレスリリース」は記者のための提案書。必ずしも「ニュースリリース」と同じにする必要はありませんし、ホームページに載せる必要もありません。
記者に対する提案書ですので、営業活動の提案書と同じように、外部に広く一律的に公開する情報とは性質が異なるのです。

もちろん、最近では記者もホームページから情報を集めますので、必ずプレスリリースとニュースリリースを分けて、プレスリリースはホームページに載せるべきではないという主張ではありません。
ここでは、原理原則を再確認できるよう、2つの違いを際立たせてご説明しています。


段ボール3箱分の提案書

記者が取材・報道したいことは、会社が言いたい・取り上げて欲しいことと異なります。
ある全国紙の経済部長曰く、経済部には毎日「段ボール3箱分」のプレスリリースが届くそうです。見ないで捨てる記者もいるようですが、届いたものはすべて「目だけは通す」記者がほとんど。
段ボール3箱の中からあなたの会社の情報を目に留めてもらうためには、自分たちが発信したいことを自分たち目線でまとめている状態では難しいですね。

幸い、プレスリリースが記者の目にとまり、記者が取材してくれたとしましょう。
記者は取材しても記事すら書かないこともありますし、記事を書いたとしても、たくさんの記者が毎日記事を書いていますので、記事がそのまま載るとは限りません。
記者が書いた記事を全部そのまま載せようとすると、新聞は毎日3倍のページ数になると言います。
記者が書いた記事も、情報価値判断の競争を勝ち抜いて、できるだけ多くの記事を載せるために優先順位が下がる説明や文章が削られて、情報価値が極限まで高められた状態になっているのです。テレビの報道も同じで、テレビの場合は報道番組自体が少なく、さらに「ストレートニュース」と言われる「ニュース」はもっと少ないです。


とにかく新聞・テレビを研究する

プレスリリースの書き方自体は、色々な広報講座がありますし、本もたくさん出ています。
A4一枚にまとめて、タイトルがキャッチーで、概要説明があって、問い合わせ先を明記し、写真を使うべき、というテンプレートの重要性は否定しません。
記者にとって必要な情報・項目はちゃんと載せるべき。それらの学習は別に譲り、ここではより基本的な考え方と作業をご紹介します。

これらの標準フォーマットは、一律に広く発信する際に拠り所にすべきものです。
記者にとっては、必ずしも「標準的プレスリリース」でなくても構いません。
私が広報実務をしていた時、記者の反応が一番良かったのは、リリースした情報をどういう切り口で扱えば情報価値が高まるのかを助言したメモ。
そのネタの業界内での新しさ・珍しさは具体的にどのようなところにあるのか、業界内外での他社動向、記事化するなら単発記事が良いのか他社動向も取材したまとめ記事にした方が良いのか、読者目線ではどのようなまとめ記事だと価値があるのか等々、記者のためにメモ書きを作成していました。

たとえば、あなたが営業される時、営業担当者が自社の良いところばかりを主張して、こちらのニーズも悩みも確認せずに一方的に押し売りをされたら、その会社自体の印象が悪くなりますよね?
記者にとって意味のないプレスリリースは、押し売り営業と一緒。
プレスリリースは、記者が取材・報道を検討するための資料ですので、最低限、どの媒体・番組のどの欄・コーナーでどのような切り口なら取材・報道される可能性があるのかを、ちゃんと研究したうえで、作成に取りかかるべきです。

プレスリリースは、出したい情報を標準的なテンプレートに沿って幅広に発信するという押し売り営業ではなく、媒体を研究し、取材・報道してくれそうな「切り口」を見出したうえで、記者に取材・報道を提案するものです。
兼任広報だからこそ、1回のプレスリリースの成功確率を上げたい。変にラクをしようとして中途半端なニュースリリース兼プレスリリースを出しても、時間も労力もムダになってしまいます。

毎日の新聞・テレビの見方を変えて、なぜこのネタが取り上げられているのかを考える媒体研究をすれば、提案の「切り口」はたくさん見えてきます。単なる情報開示や情報発信とプレスリリースは同義ではありません。原理原則としてこの考え方を起点にできれば、仮に同じ作業をしていてもプレスリリースの掲載確率は必ず上がります。

 

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-8 広報活動の実践にあたり

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第8回広報活動の実践にあたり

これまで、兼任広報の方に向けて、広報業務を効率化するための計画づくりや広報ネタの発掘法をご紹介してきました。あとは「実践あるのみ」。パブリシティ活動(プレスリリース等)やホームページ、社内広報など広報活動の実践にかかわるポイントを今後ご紹介していきますが、今号では、個別の活動をご紹介する前に少し俯瞰して、近年の広報活動の変化をお伝えします。


従来の広報はマスコミ対応中心

経済広報センターが行っている『企業の広報活動に関する意識実態調査』では、広報部門の担当業務を尋ねています。調査対象・回答企業は大手かつ専任部署がほとんどですので、兼任広報の方にとっては少し縁遠く感じるかもしれませんが、近年の変化を読み解く材料としてご紹介します。

この調査の結果では、広報部門の担当業務は、報道対応や社内広報がほとんど。これに危機管理、広告・宣伝活動、社外情報の収集が続いています。


目的が高度化し手段も複雑化

08年と14年の結果を比較してみましょう。報道対応はあまり変動していません。一方、社内広報、危機管理、ブランド戦略の推進、CSR対応は増えています。

同調査で自社ホームページの目的を尋ねた結果では、「自社製品・商品の販売、取引の拡大に役立つ」といった販促支援は減少し、「企業理念やスタンスを伝えること」が増加を続けています。

広報部門の業務が、従来の報道対応(マスメディアとの関係構築)から「企業ブランディング」に高度化していることが分かります。


情報への接触スタイルの変化

広報業務が企業ブランディングに高度化する背景には、ホームページやSNSなどデジタル領域で、自社が独自に情報発信できるツールが登場したことと、この数年でマスメディアの影響力低下が顕著になってきていることの2点があります。後者を補足します。

NHK放送文化研究所の「2015年国民生活時間調査」では、テレビ、新聞に接する人が急激に減り始めていることが確認できます。新聞はとくに顕著で、全回答者のうち、1日のうち新聞に15分以上接する人の割合は、95年には約半数の52%でしたが、2015年には33%に減少。テレビも、新聞より割合が高いものの、92%から85%に低下しています。これは、言わずもがな、スマートフォンの利用者増などインターネット環境の変化によるものです。

この影響で、実は人間の「注意力」も低下しています。米国のナショナル・センター・フォー・バイオテクノロジカル・インフォメーションの調査によると、人間の注意力の平均持続時間は00年には12秒でしたが、13年には8秒に短くなっています。


環境変化にあわせた活動を

広報担当者は、こうした環境変化を意識していく必要があります。

社外広報に関しては、報道対応中心の頃、広報活動の評価者は、実務上は「記者」だけでした。良い記事が出ればそれだけインパクトが大きかったので、良い記事を出すために記者との関係構築に必死でした。時として社内事情より記者対応が優先されることもありました。

一方、いまではブランド訴求のために自社メディアの重要性が増しています。自社メディアでの情報発信の評価者は、記者ではなく「社員」や「お客さま」です。社外に発信するニュースバリューがあるかという判断基準だけでなく、社員のモチベーションアップやお客さまの評価獲得なども判断軸に加えていくべきです。

また、「注意力の平均持続時間の低下」は、社内外のすべての広報活動の変化を求めています。たとえば会社案内やホームページの「ご挨拶」も長文では読みません。インパクトのある写真と、お伝えしたいことをぎゅっと凝縮したコピーにまとめ上げていく必要があります。

プレスリリースでも、説明の要素は極力省き、取材して欲しいのか、告知して欲しいのか、新製品・サービス等の情報なのか、視覚的に数秒で記者に伝わるようにしなければいけません。

社内報も同様。テキスト中心ではなく、図解など目で見て分かるように工夫するビジュアル・コミュニケーションの重要性が増し続けています。

ところが、ビジュアル中心になると、どうしても「表面的」になりがち。だからこそ、社内広報で言えば「対話」などリアルなコミュニケーションの重要性が増し、社外広報でも具体的なストーリーが一方で必要になっています。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-7 広報ネタの発想法②

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第7回PRネタの発想法②

PRネタを見付ける考え方や発掘方法をは、以下の3つがあります。

  1. 発想法を活用する
  2. 埋もれているネタを見つける
  3. ネタをひねり出す

このうち、「1.発想法を活用する」は先月号でご紹介しました。今月は、2と3をご案内します。


埋もれているネタを見つける

埋もれているネタを探す最重要ツールはイントラネットです。

多くの会社で、イントラネットを導入していることでしょう。
イントラネットは、社員が社内の人に知って欲しいと思って多くの情報が掲載されています。
ネタの原石がたくさん。
閲覧権限を有する範囲の情報は、必ず「すべて」に目を通すべきです。
日々の仕事に追われて「時間があるときに見よう」ではなく、毎日、時間を決めてすべてに目を通しましょう。

部門ごとに閲覧権限が限定されていて情報にアクセスしにくい場合は、閲覧権限の付与を該当部門と交渉しましょう。

該当部門には、「社内外のPRネタになるのかを確認したい。勝手に社内外に発信するようなことはしないし、必ず事前に相談する」などと言えば、意外とすんなりとOKをもらえるものです。

情報のアクセス制限は、情報管理を徹底するために行われます。
多くの社員が、必ずしも業務上必要でない情報に接触できる状態は、情報漏えいの可能性が増してしまいます。
逆に言えば、広報の仕事は、多くの情報にアクセスできないと、何も始まりません。
業務上必要なのですから、正々堂々とアクセス権限を要求しましょう(もちろん社内ルールに則って手続きをしたり、理由書のようなものを作成してマネジャーに調整してもらったりする等の工夫は必要です)。

イントラ自体が情報共有ツールとして活用されていない、あるいはイントラを導入していない場合は、稟議や各種会議での審議・決裁事項を確認しましょう。


社内ぶらり歩き

イントラや稟議等の情報から、発信できそうなネタがいくつか見つかったとしましょう。

イントラであれば投稿者、稟議や会議情報であれば起案者や報告者が「情報源」になります。
ところが、実際には「よさそうなネタだな」と思っても、全部のネタを社内取材することは時間・労力を要して困難です。
また、社内取材に「及び腰」になってしまうこともあるでしょう。

そこでおすすめしたいのは、「社内をぶらつく」ことです。

情報源を頭の中に入れておき、食堂や廊下などオフィス内の至る所をぶらぶらします。

担当者とすれ違うたびに、「あの話、ネタになりそうですね。珍しいんですか?」などと話しかけていきます。

反応を見極めながら、相手が社外発信に対して乗り気であれば「詳しく聞かせてください。あとで日程調整のご連絡をします」と、ヒアリングに持ち込みましょう。

社内広報・社外広報問わず確実にネタを拾っていくことができます。
立ち話の際に、相手の反応や話の内容から、ネタになりえるのか取捨選択をしていくこともできます。

いわゆる「足を使う」ことが大切です。


社内アンケートも有効

兼任広報で時間がなく、こうしたネタ掘り活動をできない場合は、社内アンケートをして、「PRネタの有無」を聞いてしまいましょう。

社内広報であれば取り上げてほしいこと、社外広報であれば発信してほしいことをアンケートで尋ねます。
プロの新聞社や専門雑誌でも、企業向けにアンケートを実施して、その回答内容から取材先を固めていくこともあります。
大手企業であれば、働き方改革、ダイバーシティの取り組み等について、媒体からアンケートが来ることも多いことでしょう。
それと同じです。

社内アンケートをすると、数人でも提案してくれる人はいます。

提案してくれた人には、仮に「これはネタにならない・・」という提案内容だったとしても、必ずヒアリングをしましょう。
接点を持っておけば、その人の所属部署や知人などのネットワークを活用しやすくなるからです。

こうした「とりあえず社内アンケート」は、広報兼務者にとって、手っ取り早く情報が集まり社内人脈も拡がるので有効です。


PRネタをひねり出す

社内アンケートを一工夫することで、PRネタを「ひねり出す」こともできます。

とくに、広報に力を入れてこなかった会社の場合、「何かネタありませんか?」と尋ねても、社員の側はいったい何がネタになるのかイメージがわきにくいこともあります。

そこで、競合他社のプレスリリースや露出状況、ホームページコンテンツなどを見てもらいながら、「似たようなネタはありませんか」「もっと進んでいる取り組みはありませんか」という尋ね方をします

すると、より具体的で焦点が絞られたPRネタがたくさん出てきます。

カンの良い人は、競合と自社との違いを踏まえて、ネタの切り口をどうすべきかまで提案してくれます。

経験則では、企画系の部署の人が、切り口も含めた提案をしてくれる傾向があるように感じます。

企画系の人は、企画が実践されて成果が出て評価されますので、広報のためにネタを提供するのではなく、自分の成果創出につなげるために「広報を使う」という発想に結び付きやすいのだろうと思います。

こうしたネタのひねり出しは、丁寧な競合調査が必須。

この競合調査だけでも広報のヒントも多く得られます。

ぜひ実践していただきたいアプローチです。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-6 広報ネタの発想法①

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第6回広報ネタの発想法①

前号までに、広報兼任の方が効率重視の広報戦略を考える方法をご紹介してきました。ところが、「そもそも広報するネタがない」という悩みもありませんか。兼任では時間・労力に限りもあり、ネタの掘り起こしまでなかなか手が回りません。そこで、今号から、広報ネタの考え方や発掘方法をご紹介します。


あなたもネタハンターになれる

私は、ある組織で広報実務を担当していたとき、組織内で「ネタハンター」と呼ばれていました。ネタを嗅ぎつける能力を有しているという意味です。記者の仕事をし、PR会社にもいたので、経験上、その情報が広報ネタになり得るのかどうか、直感的に判断しやすかったのは確かです。

実務を離れ、コンサルテーションや講師を行う立場に変わってから、自分自身がネタハンターと呼ばれるまでに何をしたのかを振り返って整理しました。その結果、こうした「ネタハント」業務は、一定の標準化が可能で、スキルとして獲得可能な技能だと考えています。

ネタハントの方法は、3つあります。

  1. 発想法を活用する=何がネタになり得るのかを習得する
  2. 埋もれているネタを見つける=イントラなどの社内公開情報を基にアタリを付けて足を使って掘り起こす
  3. ネタをひねり出す=競合他社の動向を調べて、同じようなネタがないかを尋ねまわる

今回は「1.発想法」について詳しくご紹介しましょう。


広報ネタの発掘=発想法を活用する


「経営資源」こそが広報ネタになり得るものです。

経営資源は、①ヒト、②モノ、③カネ、④情報の4つを指すことが一般的です。

これに沿ってネタを考えていく「発想法」が、一番、ネタの棚卸が容易です。ネタ発掘のセンスを磨いていくことにもつながりますので、ぜひ実践してみてください。


ヒトをネタにする
~ヒトを起点に切り口を考える


分かりやすいのば「経営トップ」。トップが語ればプライベートでもネタになります。

トップ以外では、社員の属性から考えます。たとえば、職位では新人、中堅、係長層、課長層、部長層、経営層があります。職歴では、3年目、5年目、10年目など。ほかにも年代、所属部署、役割(開発担当者、OJTリーダー)、プライベートの状況(結婚前、子育て中、介護中)等々、様々な属性があります。属性を並べただけでも、何が発信可能かを、考えやすくなります。

たとえば、子育てと仕事を両立している社員がいるなら、そのヒトを中心にして、周囲のサポートや会社の制度などを社内外に発信できます。

課長層に焦点をあてるなら、働き方改革など注目されやすいテーマについて、経営の要求と現場の現実に葛藤しながらも成果を出した人がいるなら、社内広報はもちろん、社外広報でもテレビ取材の働きかけさえ可能でしょう。

ベテラン社員に焦点をあてるのであれば、業界内で卓越した技術を有する人はいませんか? その人が技術を積み上げてきたエピソードも良いですし、技能標準化のためにIoT化も進めているようであれば、社外広報ネタにも発展できるはずです。


モノをネタにする
~情報価値を上げることに注力する


いわゆる新製品・新サービス情報などです。ところが、モノの情報はあふれているだけに、単に「新しい」と訴求しても注目されにくい。情報価値を高めるように加工していくことが必要です。

この場合、以下のような「切り口」を見出していくと情報価値が高まります。

  • 新奇=新しいだけでなく、珍しい部分に焦点をあてる
  • 時流=便乗できる流行があるなら便乗
  • 共同=他社との協力関係(提携等はもちろん、ウィンウィンの取り組みなど)
  • 実績=上市から●年、シェア●%達成等
  • 季節=四季はもちろん、入社、株主総会、異動など
  • 限定=このエリアでは、この業界では、この部門では等
  • 実利=おトク、使える、役立つ
  • ビジュアル=絵になる写真、目で見て分かる 等

上記の切り口の他にも、「モノを訴求しながらヒトを素材とする」ことも可能です。
たとえば開発担当者に焦点をあてる、開発から販売までのサプライチェーンに関わるヒトを紹介する、モノを使用しているお客さまに登場いただく等がすぐに浮かぶのではないでしょうか。


カネをネタにする
~おカネの話を堂々とする


経営計画や事業戦略は社内広報ネタにしやすいです。社外広報でも有効です。ただし、上場していない場合は、どこまで何を出すのかという議論が必要になることでしょう。

おカネ周りで、意外と埋もれがちなのは、生産性向上やコスト削減の取り組み。

専門紙誌の多くはこうしたネタは大好物です。もし、生産性向上の取り組みをしていて、社内報で紹介したことがあるなら、その内容を記者に情報提供するだけでも、取材してくれることでしょう。HPコンテンツとしても訴求力があります。お客さまから見れば「創意工夫ができる会社」「できるだけ安く提供しようと努力している会社」という評価につながりやすいです。おカネの話を堂々としましょう。


情報をネタにする


実は、自社がもっている「情報」もネタにできます。もちろん、保有している顧客情報をそのまま出すべきというような意味ではありません。

たとえば、テレビの特集企画で飲食店や美容などサービス業で「来店客が増えている」というようなデータを目にすることはありませんか? 自社が持つデータを広報ネタにできます。

生産財であれば、地域別・事業別の売上構成の変化など公表データから、自社が属する市場自体の変化など「業界情報」に置き換えて発信することも可能でしょう。

とくに、業界全体を語る・業界動向を解説するような情報を発信すると、リーディングカンパニーという印象づけができます(競合他社の論評は避けます)。大手の持株会社やグループ会社のホームページでは、こうしたコンテンツの発信を進めている会社も出てきています。

このように「情報」も社内外に発信可能なネタにできます。

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ちょっと話を聞いてみたい

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●もう少しどんな会社か知りたい場合

サービス(何をしてくれるの?)

特徴(他とどう違うの?)

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-5 広報の目標設定

2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第5回広報の目標を設定する

前回、特定分野でシェアが1位の製造業の会社を架空のケースとして、【なぜ】【何を】【誰に】【どうやって発信・共有するか】を考える手順をご紹介しました。この会社の強みは「営業担当者に技術の知識・技術があり、顧客接点の最前線で簡単なメンテナンスまでを実現できてしまう」ことにあるとしていました。引き続きこのケースに基づいて、目標設定の方法を考えていきましょう。


いつまで・どれぐらい・どこまで


この架空のケースで言えば、社外広報活動のゴールは、会社の最大の強みをお客さまに認知・評価していただくことです。
お客さまから「この会社の営業担当者は技術に詳しい」「困ったときに声をかけやすい」などと評価されることが定性的な目標となります。
この目標を定量化する場合は、お客さま向けのアンケートを実施し、以下のような設問を入れ込みます。

Q:弊社の営業担当者に対する評価をお聞かせください。

  1. 営業窓口でありながら技術に詳しいと思う(そう思う~そう思わない)
  2. 営業担当者は、困ったときに声をかけやすい印象がある(そう思う~そう思わない)

たとえば、架空のケースの会社では現在、「1.営業窓口でありながら技術に詳しいと思う」の「そう思う」割合が60%だったとしましょう。
現状の評価さえ測定できれば、この値を「70%水準に引き上げる」といった定量的な目標を設定できます。


お客さまの認知・評価を得るためには、顧客接点となる自社の社員が、自社のことを「自社の営業担当者は技術に詳しい」「自社では、お客さまが困っているときはできるだけ営業担当者の力量で簡単なメンテナンスをするように推奨されている」などと認知・評価していることが必要です。
これを捉えるために、社員向けのアンケートをとっても良いでしょう。


目標の「種類」


実際には、数値を基準にして目標を設定できる場合ばかりではありません。
目標は、数値基準を含めて、以下の要素を組み合わせて設定することが一般的です。

  1. 数値基準
  2. スケジュール基準
  3. 達成状態基準

1. 数値基準


数値基準は、先ほどの例のように60%を70%に上げる等の数値で表現するものです。
もう少し実務に近づけた目標にしたい場合は、ホームページコンテンツを6件追加する、プレスリリースや企画の提案などマスコミ向けに20回以上の情報提供をする、といった「アウトプット」で設定することが一般的です。
こうした数値基準は、【どれぐらいの規模でやるのか】を明確にするものです。


2.スケジュール基準


スケジュール基準とは、たとえば「3年間で」「1年間で」「9月までに」など、時間軸で区切ったものです。
スケジュール基準は【いつまでにやるのか】を明確にするものです。


3.達成基準


達成状態基準とは、たとえば「マニュアルが完成した状態」「マニュアルを社内周知した状態」などです。
数値での表現が難しい場合、達成状態を明確にします。
達成基準は【どこまでできれば良しとするのか】、範囲を具体化するものです。


目標は、この3つの組み合わせで輪郭が際だっていきます。
輪郭が際立てば、実務的・具体的で達成可能かつ測定可能な目標になります。
架空のケースで言えば、最終成果を目標とする場合、以下のような目標を設定できます。


架空のケースでの広報の目標の例

「お客さまの『営業担当者が技術に詳しい』という評価を、3年間で、現在の60%から70%に上げる」


進捗管理しやすい目標に


前回、架空のケースの広報戦略を考える過程で、【何を】【誰に】がはっきりすれば、出すべき情報を絞り込んでいるのに【どうやって発信・共有するか】に厚みを持たせることができるようになるとご紹介しました。
以下の活動を例示しました。

  • ホームページでは顧客接点の強みを中心に訴求して具体論として営業担当者育成を紹介しよう
  • 育成アプローチについて営業担当者の生の声を定期的にインタビューしてコンテンツにしょう
  • コンテンツの更新情報をお知らせするお客さま向けのメールマガジンをつくろう
  • 業界専門紙に営業担当者育成の取り組みを取材してもらえないか働きかけてみよう  等々

実務に近づける場合は、以下のような目標が考えられます。

  • 6月末までに、現在の広報活動の課題を整理したうえで、営業担当者育成の取り組みを社外発信する企画を立案し、上長から承認された状態
  • 9月末までに、ホームページに新コンテンツを2本アップした状態
  • 12月末までに、業界紙への情報提供を行い、取材を1回以上受けた状態
  • 3月末までに、HPコンテンツを合計3本以上アップし、メールマガジンを2回以上配信した状態

このように、【いつまで】【どれぐらい】【どこまで】の輪郭を明確にしておくと、進捗を管理しやすくなります。
業績評価で目標管理制度を導入している会社にお勤めの場合は、「兼任広報としてなんらか広報業務の目標を入れなければいけない」ということもあるでしょう。
今回の目標例を参考にしてください。

成果をベースにした目標とするか、実務ベースの目標とするかは、求められる広報活動のレベル感と兼任広報として割り当て可能な時間・労力・コストとのバランスを勘案して決定すると良いでしょう。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-4 広報戦略の考え方


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第4回広報戦略の考え方

これまで、社外広報、社内広報に分けて、課題の整理術をご紹介してきました。
これを「戦略」として体系化していきます。


戦略ってなに?


この「戦略」という言葉が分かりくいですよね。

戦略は、端的にいえば「ある目的を達成するための、中長期的なシナリオ」です。

たとえば目的が「戦に勝つ」であれば、「戦」単体の戦い方は作戦や戦術です。

戦の準備段階から、戦の後を見越して寝返りを働きかけることをしよう、必要な武器や食料を購入しよう、先にお隣の国と同盟を組んでおこう、など、中長期的の視野で複合的な施策をもとに、勝つためのシナリオを描くことが戦略です。

広報戦略については、連載の第一回で、ご理解いただきやすいように、簡略化して以下の枠組みをお示ししました。時間軸を省略しているものと捉えてください。

①なぜ、②誰に、③何を、④どうやって発信・共有するのかを明確にするものです(専門業者が得意なのは④です)。

前回までに、①について、社内・社外の広報活動の課題整理をご紹介しました。②、③、④を明確にできれば、戦略のできあがりです。


先に「何を」を考える


兼任広報の場合、できるだけ効率化しないと仕事がまわりません。

「②誰に」がたくさんあると手が回りません。
そこで、裏ワザとして「③何を」から先に考えるべきです。

図では、「②誰に」から「③何を」に矢印が出ていますが、これを反対にしたり、「②誰に」と「③何を」をいったりきたりさせて考えたりした方がスムーズです。

検討過程をイメージしやすいよう、架空の事例から読み進めていきましょう。


たとえば、あなたの会社は製造業だとします。
ある特定分野で市場シェアが1位。

これは、営業担当者が高度な技術の知識・技能を持っている、だから顧客接点の最前線で自社製品の簡単なメンテナンスができ、導入企業との信頼関係が構築されてリピート購入が多い、という強みがあるとします。

この強みのウラには、営業担当者教育でベテランと若手の徒弟制度があり、年に2回の営業担当者向け技術実習もあるとしましょう。

一方、お客さまと営業担当者、あるいはベテランと若手という結びつきが強いため、社内で若手営業担当者同士のヨコの情報共有が少ないという課題があります。

広報関係では、社外広報は、会社案内やホームページは存在するものの「会社概要」しか載っていない状態。

社内広報では、年に2回、期首の四月と期中の十月に経営幹部のメッセージを載せた社内報を発行しているだけ・・・。


ここからは、上記の架空の事例を基に、簡単に検討を進めてみます。

先に「③何を」を明確にしましょう。

自社の最大の強みである「営業担当者の技術の知識・技能と指導力」を発信・共有する、ことが一例です。

既存のお客さまは、リピート購入が多いため、この強みはよくご存知のはずです。

このため「②誰に」は、「新規開拓の対象となるお客さま」と、少し絞り込むことができます。

本来はより明確なターゲットにしたいところですが、この簡単な絞り込みだけでも、より具体的な「③何を」や「④どうやって」が考えやすくなります。

新規のお客さまは自社のことをほとんど何も知りませんので、単に「弊社の営業担当者は技術の知識があります」と説明しても伝わりません。

なぜ営業担当者が技術の知識と技能があるのか、それが本当なのかを具体的に伝える必要があります。

つまり、「③何を」は、より具体的に言えば「営業担当者育成」となります。

あとは「④どうやって発信・共有するか」です。

たとえば

  • ホームページでは顧客接点の強みを中心に訴求して具体論として営業担当者育成を紹介しよう。
  • 育成アプローチについて営業担当者の生の声を定期的にインタビューしてコンテンツにしょう。
  • とくにベテランと若手との徒弟関係のエピソードを軸にしよう。
  • コンテンツの更新情報をお知らせするお客さま向けのメールマガジンをつくろう。
  • 業界専門紙に営業担当者育成の取り組みを取材してもらえないか働きかけてみよう。 等々。

出すべき情報を絞り込んでいるのに、厚みを持たせた情報発信ができるようになります。
情報発信に一貫性が生まれますので、統一的なイメージが形成されやすくなります。


社外と社内の広報を分けない


兼任広報の場合、できるだけ焦点を絞り込んだ情報の発信・共有に集中させる方が作業を効率化できますし、成果にもつながりやすくなります。社内広報に関しても同様です。

先ほどの例でいえば、社内広報は、若手営業担当者同士のヨコの情報共有が課題でした。

ホームページは、携帯端末さえあれば誰でもいつでもどこでも閲覧できます。

ホームページで色々な営業担当者を紹介していれば、社員は移動中や待機時間に他の営業担当者の考えに触れることができます。

ホームページは社外広報媒体なのに社内広報の役割を担うこともできます。

もう少し踏み込むのであれば、若手営業担当者の何人かをホームページコンテンツ強化の「編集委員」として委嘱し、負担がない範囲で「編集会議」を開けば、ヨコの繋がりを創る契機にもできます。

加えて、年に2回の社内報で、ホームページコンテンツを再掲しても良いでしょう。

社内報はプッシュ型メディアですので、確実に目にしてもらうこともできます。

社外広報と社内広報を分けることなく、絞り込まれたテーマについて手厚く情報発信・共有をする。

広報活動に充てる時間・労力が少ない兼任広報の方こそ、こうした広報の本来のあるべき姿を実現しやすいのです。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-3 社内広報の課題整理術


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第3回社内広報の課題整理術

昨今では、社内広報について、経営理念の浸透、事業戦略の周知、強みやブランドの社内定着、モチベーションアップ、企業文化革新、働き方改革の推進など高度化した目的が設定されることもあります。

打ち手も社内報、イントラ、全社集会、対話形式のワークショップなど多様化しています。

一方、社内広報の目的の高度化や、手段の多様化が進むと、良くも悪くも「何でもあり」状態になりがちです。

経営企画や人事部門が進める組織開発との重複もあり、社内広報実務に携わる方にとって、結局、何をすべきなのか具体化しにくいという悩みも生じやすくなっています


社内広報の基本は情報共有


社内広報は、端的に言えば会社と社員とのコミュニケーション活動です。

会社と社員との間で情報を共有し、信頼関係を構築します。
信頼関係があれば、「考えること」や「行動」が良くなるので、業績向上につながります。

経営の方向性を社員に共有できれば、社員は行動しやすくなり基盤ができます。
逆に、最前線の社員たちが競合の新しい動きを掴んだ場合、その情報を会社に共有できれば、環境変化に迅速に対応できます。
経営理念や事業戦略、あるいは課題、がんばっている社員も「情報」ですよね。
企業理念は共有されなければ飾り物。
がんばっている社員も共有されなければモチベーションアップにつながらない。

社内広報の基本は「情報共有」であり、その成果は信頼関係だと考えるとスッキリします。


知っていること・知らないこと


ここから課題整理です。
以下の観点で考えていくとスムーズです。

  1. 情報共有→誰が何を知っているか
  2. 信頼関係→社員の、会社に対する評価

社内広報の課題整理は、(抽象的な表現になりますが、)「外と内をセットにして検討する」と良いです。
自分自身のことを客観視するのは難しいからです。

まずは①情報共有です。

始めにいわゆるステークホルダーを洗い出します。

十把一絡げで構いませんので、「お客さま」「株主」「近隣の方」「お取引先様」「学生」「社員」などを挙げます。

このステークホルダー別に、「知っていること」「知らないこと」を考えます
本当はどれぐらい何を知っているのかは、調査をしないと分かりませんが、まずは「考える」だけで十分です。

次に、「社員」を細分化します。

役職別、部門別、拠点別・・・といった具合に、属性を設定し、それぞれ「知っていること」「知らないこと」を検討します。
表計算ソフトを使って一人で考えたり、複数人で付箋を使いながら出し合ったりすると良いでしょう。

ステークホルダー分析と言いますが、これだけでも多くの課題を再認識できます。


できていること・できていないこと


この作業をすると、会社と社員とのコミュニケーション活動で「できていること」「できていないこと」が浮かびあがってきます。

たとえば、社員と情報共有できていないものは、多くの場合、社外に対する広報活動もあまりできていません
そもそも広報担当者が、社内にも社外にも広報できるほど十分に情報を収集できていない、現場との関係を築けていない、広報の理解が浸透していない、といった課題が見えてくることもあるでしょう。

課題整理の作業で理想を言えば、経営の方向性や経営課題から知ってもらうべきことを考えていく、という流れになります。
ただ、この流れで発想すると、「コミュニケーション」ではなく会社から社員への一方的な情報「伝達」の課題に限られてしまいがちです。

コミュニケーションは双方向で成り立つもの。

会社から社員への情報「伝達」も必要ではありますが、その情報を社員が理解し、納得し、共感しなければいけません。

「伝達」と「共有」は違うのです。

また、会社から社員への一方通行だけでなく、社員から会社への情報の吸い上げも必要です。
最初から、「何を知ってもらうべきか」を考える場合は、発想が一方通行になりがちなことに注意しましょう。

社員が知っていること・知らないこと、社内広報でできていること・できていないことを検討したアウトプットが、「社員に知ってもらうべきことは何か?」を考えるインプットになります。

ぜひ取り組んでください。


会社をどう評価しているか


情報共有の次は②信頼関係です。

これは社員が、会社をどう評価しているのかを把握していきます。
アンケート調査が必要です。

なお、前回の締めくくりで、「社外広報の優先順位付けをするためにはアンケート調査が有効で、この調査は社内広報の課題整理と関連する」とお伝えしました。

情報共有の課題整理と同じように、「外」と「内」をセットで考えていきます

調査では、「知ってもらうべきこと」は社員がどの程度知っているのか、社員が抱く会社のイメージはどのようなものか、社員は会社が十分に情報を共有してくれていると感じているのか、といった実態を把握します。

社員満足度調査や組織診断を実施している場合は、その結果から確認しても良いでしょう。

単なる実態把握から一歩進めて、より課題を見出しやすくする調査設計のポイントをご紹介します。

ここでは、会社に対するイメージを例にしますが、知っていること(認知)や評価を尋ねる場合も左のように多面的に測定することが大切です。

  • 自分が会社に対して抱くイメージ
  • 外部の人に抱いて欲しいイメージ
  • 外部の人が実際はこう思っているだろうと考えるイメージ

これらは社員を対象にしますが、あわせてお客さま等の外部の方を対象に、

  • 自社に対するイメージ

を調査します。

「思っている以上に知られていないこと」や「思ってもみなかった強みやイメージ」が明確になります。

社外・社内広報の課題をま両方とも明確にでき、活動の優先順位を決めやすくなるわけです。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-2 社外広報の課題整理術


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第2回社外広報の課題整理術

どのような仕事でも目的が大切と言われます。

たしかに、目的が明確なら適した手段を選択できます。
仕事の意義も実感でき、業務に取り組む姿勢が前向きになります。


目的を考えることって難しい


ただ、実際には、手段がある程度固まっている方が目的を考えやすいことってありませんか

たとえば、工場周辺地域の方を対象にイベント企画があるとしましょう。
この場合、イベントの目的は地域の皆様に親近感を持ってもらう等が浮かびます。
地域イベントという手段の「枠組み」があるからこそ目的が考えやすくなる。
考えた目的に応じてイベント内容を具体化していく。

このように、実は、仕事で目的を考えるとき、具体的手段から抽象的な目的を考え、もう一度、手段に落として詳細を詰めていく、という流れが多いのです。

活動全体の目的を、何もない状態から考えることは、難しいものです。
それは、「普段の目的を考える流れ」と異なるからです。

たとえば、社外広報、社内広報の目的は何かと問われて、すぐに回答が浮かぶでしょうか?
広報を総務に置き換えて「総務の目的は?」と問われた場合でも、すぐに返答できるでしょうか?
総務のプロはスムーズに返答できるかもしれませんが、新任担当者にとっては難しいことでしょう。

目的は経営戦略・計画と結び付けていくとよいともよく言われます。
ただ、経営の視座で俯瞰することも実際には難しいことです。
マネジャー層であっても、経営の視座で俯瞰して考えることができる人・できない人に分かれます。

事業部長層でようやく経営の視座で俯瞰できる。

理想論をもとに「最初に広報の目的を、経営的観点から考えていきましょう」とお伝えしても、あまりにも抽象度が高くて「目的自体をどう考えてよいのか分からない」状態になってしまうはずです。

もちろん、目的を考えなくてよいというお話ではありません。

「兼任広報」で時間もなく不安も多いのですから、目的を考えること自体をストレスなく進めましょう。
目的は、手段の枠組みがある方が考えやすくなります。

だからこそ、具体的手段の現状と課題を洗い出していくことが出発点。

今回は「社外広報」に絞って、目的を考えやすくなる課題整理術をご紹介します。


誰かに何かを知ってもらう


社外広報は、「誰かに、何かを知ってもらう」ことが基本です。

その成果として「印象・評価が良くなる」「お客様の購買や口コミ等の行動が増える」を目指すものに大別できます。
前者が信頼形成を目指す「コーポレート・コミュニケーション」、後者が販売促進を目指す「マーケティング・コミュニケーション」といったりすることもあります。

いずれも、業績や企業価値向上が最終目的です。

つまり、業績や企業価値向上という経営の大目的に対して、信頼形成、販促支援といった2つの小目的があり、「誰かに、何かを知ってもらう」ことが達成手段となります。

なんとなくスッキリしたとは思いますが、実務上はまだまだ抽象的ですよね。
もっと手段の枠組みを小さく・細かくしていきましょう。


広報は課題が目的になりやすい


目的を最初から考えるのではなく、まずは現在の広報活動・ツールを棚卸してください。
棚卸した活動・ツールの現状を評価し、課題を整理していくと、小さな目的が見えてきます。

最初は大変ですが、後でラクをするために、この作業はとても有効です。

まずは活動・ツールの棚卸。

主管業務に限定せず他部署の活動・ツールもすべて対象にします。
会社案内、ホームページ、パンフレット、営業ツール、採用ツール、プレスリリース、記者向け勉強会等、社史や社内報も社外に配布しているなら含めます。

棚卸した活動・ツールを、以下の視点で評価します。

  • (主に)誰を対象にしたものか
  • どんなときに使われたり実施されたりしているか
  • 何を発信できているか
  • 何を発信できていないか

表計算ソフトで表にすると良いでしょう。

たとえば、会社案内やホームページは必ずお持ちのはずです。

現状の会社案内やホームページを「誰に、何を知ってもらうことができているのか」「逆に、何を知ってもらうことができていないのか」等を確認していくと、たいていは「強みや魅力を表現できていない」という課題が見えてきます

広報では、こうして見えてきた課題こそ、そのまま目的として設定しやすい。
この例で言えば、「強みや魅力を知ってもらう」ことが、会社案内やホームページの新たな目的となります。
従来の会社案内やホームページは基本情報をお知らせすることが目的だったのではないでしょうか。

広報の専門知識をお持ちでない方は、課題整理を通じて目的が見えてくる場合がとても多いです。

最初から目的を考えるのではなく、具体的な活動・ツールの現状評価と課題整理から、目的を明確にしていく方法をおすすめします

いくつかの細かな目的が見えた段階で、もう一度、手段の内容を検討しましょう。
先ほどの例で言えば、「強み」や「魅力」とは具体的に何でしょうか?
他の媒体や活動では発信できていますか?

どの媒体・活動でも発信できていない、強みや魅力が何かを具体的にできないのであれば、そもそも強みや魅力は何なのかを明確にしないといけない、という直近の作業まで見えてきます。

「誰に」「何を」(ここでは強みや魅力)を特定できたら、専門知識がなくても戦略的な発想ができるようになります

たとえば、会社案内は対面で、ホームページは「マス」に非対面で閲覧されますね。
対面活用が多い会社案内は「人」の魅力が伝わるエピソードを中心にしよう、ホームページは他社と比較されやすいから、他社との違いをもっと訴求しよう。
このように最低限の労力で、ムダがなく、効果を最大化する全体像を考えることができるます。

まずは網羅的に課題を整理することで目的が見えてきます。

目的が見えると優先順位を付けやすくなります。

ここでアンケート調査を実施するとさらに良いです。この調査は、社内広報の課題整理にも関連しますので、次回、ご紹介します。

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兼任広報担当者向け広報基礎知識-1 総務で広報を兼任 要領よくやるには?


2017年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、兼任広報担当者向けに、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。


第1回総務で広報を兼任 要領よくやるには?

企業規模によっては広報の専門部署があります。

一方、総務部のスタッフが「兼任」で広報を務める企業も多いです。広報担当者が明確に決まっていない会社もあります。

いずれにしろ、兼務で広報業務を担う方は、優秀な人材の採用、社員の定着率向上、モチベーションアップ、社内での情報共有、経営理念の浸透、顧客先の開拓、知名度・イメージアップ、新製品・サービスのプロモーションなど、多くの広報課題を、他の業務と並行しながら要領良く解決していく必要があります。

広報兼務者は一般的に、広報と他業務とのバランスについて、組織の要請が「広報最優先」になることはありません。このため、広報課題を自覚していても、時間も少なく、現状より業務負荷が増す懸念もあり、活動強化に躊躇しがちです。これは自然な感情。しっかりと「ラク」をしながら、広報活動を実施しましょう。このコラムでは、「総務で広報を兼務している方」を対象に、要領良く広報業務を強化する方法をご紹介していきます


広報兼務者の悩み


広報の専任部署がある場合、媒体や活動ごとに担当者が決まっています。このため、広報専任者は、個々の広報活動の「方法論」に悩みを持ちやすいです。

一方、広報兼務者は、そもそも何を優先して取り組むべきなのか、という点に悩みが絶えません。ただでさえ忙しい中で、兼務で広報業務を遂行しなければいけないからです。

活動の優先順位付けをしたいと考えた広報兼務者は、本屋で数多ある広報の専門書を手にとってみたり、広報研修を受けたりします。

ところが、情報はプレスリリースの書き方やホームページ活用法など「方法論」が中心。何から手を付けて良いのか分からないのに、いきなり各論の嵐が襲いかかる・・・。すると、「ウチの会社の場合、プレスリリースするほどのネタは滅多に無い。」「ホームページ活用と言っても最低限の予算でリニューアルする方法を知りたいのに。」「そもそも広報の専門家になりたい訳じゃないから、ここまでやらなくても良いよね。」という意識が生じます。

広報専任者にとっては数多ある「方法論」が助けになりますが、広報兼務者にとっては、「方法論」のせいで広報を強化するハードルが高くなってしまっている状況があるのです。


専門業者の得手不得手


実は、広報の世界は、これまで媒体の制作能力や、マスコミとのネットワークなどが専門的ノウハウとして存在してきました。パブリシティに強いPR会社、社内報制作、Web制作、広告デザインなど、細分化されて方法論が磨かれています。

このため専門業者は、自分たちが得意な方法論こそを、本にまとめたり、研修・セミナーを実施したり、ソリューションとして提供したりします

これを逆さにひっくり返してみると、そもそも何を優先して取り組むべきなのかという「戦略」を専門業者が得意にしているとは限らない

このため、広報兼務者が「そもそも論」を勉強できる機会は少なく、そもそも論を一緒に考えてくれる外部パートナーも少ない

私は、媒体側・受注側・発注側のすべてを経験することで、この広報の世界の変わった姿を、客観視できるようになりました。

社内・社外広報を問わず、広報活動の強化で、主要な論点は以下の4つがあります。

  • なぜ強化する必要があるのか
  • 何を発信・共有するのか
  • 誰を対象に発信・共有するのか
  • どうやって発信・共有するのか

図表をご覧ください。

広報の専門業者は④が得意です。④は、社外の知見を活用できます。ここが広報の専門性。換言すると、①~③は社外に答えがありません。落ち着いて考えると、「目的」「何を」「誰に」は経営戦略と重なってくる部分が多く、必ずしも広報の専門知識を必要としません。

ところが、広報の専門知識がない広報兼務者にとっては、①~③の検討は、広報の知識がなければ検討できないと考えてしまいがちです。だからこそせっかく広報について学ぼうとしているのに、④の情報に接するばかりで、優先順位を付けたいというニーズとのギャップが大きい。

結局何からやったら良いのか分からないので迷いが増えてしまい、活動強化に踏み出すことができないのです。

このように広報兼任者にとって、「とりあえず専門書」「とりあえず研修」が成立しにくい現実があります。


優先順位の決定に専門知識は不要


専門業者の得手不得手をご説明したため、「ウチの会社は、まだ専門業者を使う段階ではない」と感じた方もいるでしょう。お伝えしたかったのは、以下の2点です。

・①~③の整理は広報の優先順位付けと同義

・しかも専門知識を必要としない

ラクをするためにも、①~③を考え抜くことが大切です。これが明確になれば、自己啓発や外部研修で学ぶべきものも明確になります。仮に専門業者の力を借りたい状況になっても、必要最低限の発注コストで済むようになります。

予算・時間・労力等のリソースに限界があれば、当然、活動の範囲も限られます。広報兼務者にとっては、(当たり前のことですが)何を優先的に実施すべきかを整理することがすべての出発点。課題整理や問題定義ができれば、あとは「できる範囲」で実践するだけ。業務負荷が劇的に増えることはありません。安心して広報の強化を目指し、広報の仕事をぜひ楽しんでください。

次回から①~③に該当する部分をご紹介していきます。次回は、①なぜ強化する必要があるのか、つまりは、現状の課題をどうやって整理していけば良いのかをご案内します。社外広報と社内広報に分けて、広報兼務者の目線から丁寧に紐解いていきます。

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●ひとまずどんな人たちか会ってみたい場合

ちょっと話を聞いてみたい

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特徴(他とどう違うの?)

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広報・シティプロモーション戦略策定業務の外部委託~媒体側・受注側・発注側のすべてを経験した事例から

※2017年2月5日開催の公共コミュニケーション学会の事例交流・研究発表大会で事例発表をした内容(予稿)を一部修正


概要

地方創生にかかる中央官庁の予算的支援があり,多くの自治体で,移住・定住にかかるプロモーション戦略等の戦略策定業務や実務を業務委託している.そこで本稿では,筆者の体験的事例から,広報やシティプロモーションに係る外部リソース活用について,ソリューションベンダ,コンサルテーション,アドバイザーに分けて課題や活用の要点を示し,発注側の専門的知識・技能の有無別に外部リソースの活用の有効と思われる活用形態を,実践知を基に整理した.


1.はじめに

地方創生にかかる中央官庁の予算的支援があり,多くの自治体で,移住・定住にかかるプロモーション戦略等の策定が行われている.戦略策定業務や実務を業務委託する自治体も多く見られる.そこで,本稿では,記者・PR会社・広報実務・コンサルティング業務を経験した筆者が体験した事例の数々から業務委託の体系化・類型化を図り,外部リソース活用を検討する際に参考となる知見を共有したい.

 


2.自治体の人材基盤の課題と本稿の検討範囲

(1)シティプロモーション戦略策定業務委託の現状

地方創生にかかるプロモーション戦略の策定業務を委託した自治体が多く散見される。課題整理を含めた調査分析に主軸を置いた検討・整理を委託するものから,アクションプランを想定していると考えられるもの,動画等の制作物の納品やイベント等の実施までを包括するものなどが混在している.発注形態に法則性は見られず,現実問題としては,申請が通った地方創生にかかる交付金をいかに活用するかという発想が垣間見える例もある.

 


(2)発注側の組織基盤の実態

民間企業と同様に自治体は、事務職はジョブローテーションを中心とした人員配置が一般的である.筆者が事務職の自治体職員を対象に聞き取り調査した結果では,ジョブローテーションが行われていないケースは存在せず,3~4年での異動が一般的という回答が多く見られた.

広報やシティプロモーション関連業務に人事異動で配属されて従事する場合,経験値がない中で専門業者のディレクション業務を行わなければいけない.さらに戦略策定業務やホームページリニューアルなど「プロジェクト型」で行われる場合は、受注側からみると,発注側である自治体関係者がプロジェクト・オーナーに該当するため,発注段階から明確に「QCD」(Quality,Cost,Delivery)を示さなければいけない.これが明確になっていないと本来は受注側は見積を算出できない.一般的に公募の場合は「C」と「D」は明確になっている.ところが「Q」は,背景整理や課題整理を含めて曖昧な状態が多い.このため,「Q」に関連する部分の扱いを睨んだ発注形態のあり方を検討したい.なお,昨今,いくつかの自治体で民間企業出身の広報専門家を期間採用することもあるが,本稿ではこうした外部リソース活用の検討は範囲外とする.

 


3.広報関連実務の外部リソース活用

広報やシティプロモーションにかかる業務では、後述するコンサルティングやアドバイザリーを除く実務業務の委託では,主に以下が発生する.

  • パブリシティ活動(PR会社)
  • 広告活動(広告代理店)
  • ホームページ制作・更新(Web制作会社)
  • 動画制作(動画制作会社)
  • 広報紙誌制作(印刷会社/デザイナー/ライター/カメラマン)
  • イベント実施(イベント会社)

上記を受託する企業はいずれも,労働集約型ないし設備集約型の事業形態の場合が多い.人件費の割合が高く労働力がサービス提供の基盤となるか,保有する広告出稿枠,印刷設備等の「設備資本」がサービス提供の基盤となる形態だ.こうした事業形態では,発注側の課題そのものを見つけ出すのではなく、発注側から示された何らかの課題を、自社のリソースに応じて解決する「ソリューションベンダ」に近くなる.広告会社でコンサルティング事業を強化する例が見られるようになってきたが,コンサルティング事業を別途行っていること自体がコンサルティング業務を得意としていないことの象徴とも言える.この場合の発注側と受注側が持つ情報に非対称性が生じやすい.

ここで言う非対称性とは、発注側は「経営・組織の理解」に対する知識量は多いが、「専門領域の理解」に対する知識量は少ない。一方で、受注側は「経営・組織の理解」に対する知識量は少ないが、「専門領域の理解」は多い。

情報の非対称性が存在するため,受注側は,そもそも何を発信すべきか,現状の広報活動全体を俯瞰した場合に何が課題なのか,といった検討・整理は得意としていないか,「踏み込んでこない」場合が多い.発注側が抱える情報発信のリスクに関しても,必ずしも前に立って責任を負うことはせず,意志決定と責任は常に発注側に委ねる姿勢を貫く.

たとえば,PR会社で言えば、何らかのネタや発表機会があることは前提で,それをどの媒体に向けてどう料理するか,といった検討は得意とするが,ネタづくりから対応できるPR会社は必ずしも多くない.記者のときにPR会社の売り込みを受けた経験や,PR会社の業界に属していた経験から,この実態は断言できる.もちろん,戦略PRを売りにしてネタづくりから対応するPR会社もあるが,必然的に作業負荷が増えるため,発注コストが高くなる.Web制作会社の場合も同様で,クリエイティブの知見は豊富だが,原稿や素材はすべて発注側が提供すべき,という企業は多い.

プロジェクトを成功に導きやすくなる発注側と受注側の役割分担を一般化して図示すると以下のようになる.

発注側には,課題を明確にし,誰に何を発信したいのか等を整理して,受注側の能力を最大限引き出すことが求められる.ところが発注側は,専門知識がないことを理由に,本来発注側が検討すべきことも思考停止してしまいがちで,要件の整理があいまいなままに発注や公募にかけてしてしまうことがある.現に,地方創生にかかる戦略策定では,「何を」に該当する「強み」を,RESAS等を活用のうえ導き出せと丸投げしてしまうことも多い.確かに筆者も,発注サイドにいた時は「そこを考えて提案してこそプロ.まさに腕の見せ所のはず」と考えていた.ただし,あらゆる立場からプロジェクトの成否を見てきた自己観察に基づくと,これは求める「Q」を一切提示しておらずプロジェクト・オーナーとしての責任放棄だ.失敗確率が高くなることも断言できる.筆者自身の過去の反省も踏まえて厳しく言えば,発注側が何も考えていないにも関わらず「何か提案せよ」とおねだりしている状態である.

そもそも,図で示した「発注側が考えるべきこと」こそが「戦略」だが,「どうやって発信・共有するか」という部分を戦略と誤認していることも多い.「どうやって発信・共有するか」は,戦術の戦略性である.日本語ではこれを「戦略的」と表現するため誤認しやすい.たとえば,図で言う本来発注側が考えるべき部分の提案を求める場合は「シティプロモーション戦略」となるが,受注側が考えるべき部分の提案を求める場合は,戦略要件を提示したうえで「戦略的なシティプロモーション活動の計画策定」となる.

こうした整理が十分でないままに公募や発注をすると,受注側は結局どちらを提案すれば良いのか分からなくなる.すると,業者側の提案は,流行や自分たちの過去の成功体験に依拠するものなり,過去の事例等から説得力を高めようとする.必然的に本質的な課題解決との結びつきが弱くなる.さらに発注側は,戦略要件があいまいな状態のため,評価項目はあっても判断軸がはっきりせず,結局「希望的観測」や「好み」で提案の採否を決めてしまう.結果的に,専門業者の能力を最大限に引き出すことができず,投資効果が十分に得られない成果物を世に発信・共有し「取り組んだこと」が成果となる.これこそ広報・シティプロモーション領域での「税金の無駄遣い」である.誰に,何を発信すべきか,という論点整理も含めて専門業者の力を借りたいのであれば,それをはっきり示し,コンサルティング業務がスコープに含まれるものだと受注側が認識できるようにする責務がある.

民間企業では成果に対する評価が厳しいため,Webリニューアルを中心に「上流工程」を切り分けて発注するケースが出てきている.先進事例調査や課題整理をする企画検討業務と,情報整理やマルチデバイス対応の設計をする業務、CMS開発・制作業務はそれぞれスキルが異なるためだ.広報・シティプロモーションの戦略策定でも、制作物を一気通貫で発注する形が見られるが,調査分析や課題整理を別建てにしたり,アドバイザーを登用したりして企画検討業務の支援を受けたうえでソリューションベンダの能力を引き出す公募としていくことも検討すべき段階に来ているのではないか.住民の大半は民間企業で働く者であり,品質と投資効果のせめぎ合いの世界で生きている彼らの評価を得るためには,できる限り発注側で必要な検討・整理をしたうえで,制作・表現のプロに委ねたい.

 


4.コンサルテーションの類型

ソリューションベンダとは異なりコンサルティングという業態がある.昨今は,ソリューションもコンサルティングの一形態と言われ,SEOコンサル,人事コンサル,広報コンサルなど,様々な分野で「コンサルタント」「コンサルティング」「コンサルテーション」と言われるサービスが提供されている.こうした状態に引っ張られがちだが,コンサルティングとは経営戦略の策定のみを指すという指摘もある.コンサルティングは「相談」と翻訳されるが,実務経験上,「相談」は顧問やアドバイザーが請け負うことが多い.本稿におけるコンサルティング業務とは,広報やシティプロモーションに係る,調査分析活動や戦略策定,アクションプラン策定を指すこととし,広報実務やシティプロモーション活動の受託は行わない業務を指すこととする.

そもそもコンサルテーションは,大きく2つのアプローチが存在する。それぞれについて検討していく。

  • アウトプット・コンサルテーション
  • プロセス・コンサルテーション

 


(1)アウトプット・コンサルテーション

この形は、経営戦略・事業戦略に関するコンサルティング企業やシンクタンクでよく実施される.自治体では総合計画の策定にかかる発注ケースで見られる.

発注側から,持ち合わせているデータや文献等をコンサルタントに提供し,コンサルタントが必要に応じてインタビューや追加調査を行いながら,現状把握や課題整理から必要な打ち手の洗い出し,アクション,実行体制など,あるべき姿を立案して,アウトプット(報告書)をまとめあげる.発注側は,コンサルタントがまとめたアウトプットを受け取り,納得できるものであれば,そのアウトプットに基づいて実行したり,意志決定したり,さらに検討を加えていったりする.「調べる」「考える」「まとめる」ことの代行業務と言える.中央官庁を中心に,時間短縮のために調査分析業務部分のみを切り出して,シンクタンクや戦略コンサルタントを活用し,そのアウトプットを基に政策立案をすることも多い.

広報やシティプロモーション戦略でもこうした形態はあり,時に「コンサル丸投げ」と批判もある形だが,このアプローチの最大の特徴は,アウトプットに落とし込むことに慣れたプロの力を借りることができる点にある.たとえば,発注側の担当者やマネジャーが一定程度の経験を蓄積すると,頭の中で課題や取り組むべきことの方向性が見えてくる.ところが,それをうまくアウトプットに落とせない.気合いと根性と情熱はあっても,それが他人にも伝わるように説得力を高めた論理的なストーリーに描いていくことができない.これは,経験を積むことで暗黙知になり,暗黙知になったものを自ら形式知化することは非常に困難なためだ.アウトプット・コンサルテーションは,こうした時に,発注側の情熱を汲み取りながら,ファクトやロジックを整理してもらえるので,大幅に時間を短縮できる.出てきたアウトプットを活用して関係者に納得を得られやすくなる.これが「コンサルのうまい使い方」と言われるものだ.

一方、アウトプット・コンサルテーションの場合,発注側があまり知識や経験を有していない状態では,検討・整理の時間は短縮できたとしても,整理の意味や設計の意図を咀嚼しきれず,報告書が「引き出しの中」にそっとしまい込まれてしまいがちになる.発注側に戦略の「Q」を見る目が求められるが,この自覚がないと,出てきたアウトプットの質を評価できず「目新しさがない」「むしろ手足の具体策を求めている」「現場はもっと生々しい」「似たようなことはやってきた」と評価してしまう.筆者自身も,広報実務経験が浅いときに戦略策定に秀でた広報コンサルティング会社から提出されたアウトプットや提案書をみてこのように感じたが,経験を蓄積していった後に,これらの資料を見直し,その価値を初めて実感できた.

 


(2)プロセス・コンサルテーション

エドガー・H・シャインが提唱した,カウンセリングに近いアプローチである.戦略策定や何らかの問題解決を,コンサルタント側が代行して考えるのではなく,コンサルタント側は,発注側が自ら考えられるように「支援」「ファシリテーション」に徹するものである.問題定義から解決策までを,発注側と受注したコンサルタントが共同歩調で検討していく進め方に最大の特徴がある.

このアプローチを採ると,発注側がコンサルタントと検討プロセスを共有することで,発注側の「固有状況」をコンサルタントも深く理解できるので,情報の非対称性が極限まで少なくなる.このため,固有解を見出しやすくなる.また,発注側は自らが問題解決のあり方を考えていくことになるため,解決策に対して深く納得でき,実行に迷いがなくなる.この結果,中長期的に時間・労力を削減しやすくなる.経験値がない場合や解決策が世の中にあまり存在しない場合に有効な進め方である.

コンサルティング会社は,いずれかのパターンに特化している場合もあれば,両方を実施できて発注側の要望に応じてアプローチを変える企業もある.公募や発注の段階で戦略策定「支援」となっている場合,コンサルティング会社はプロセス・コンサルテーションを求めているものだと認識する.「戦略策定」となっている場合は、アウトプット・コンサルテーションを求められているものだと認識する.発注側がこれを区別できずに,本心では戦略の提案を求めているのに,戦略策定「支援」の提案を求めると提示してしまった結果,提案者から検討プロセスや検討のフレームワークばかりが示されて戸惑うことがある.戦略を求めている発注側からすると提案内容に具体性がないように感じられてしまうからだ.安易に戦略策定「支援」と付けてはいけないし,逆に本気で自分たちが主体となって戦略を考えていきたい,それを手伝ってほしいと考えている場合は,「支援」と付けなければいけない.

 


5.アドバイザーの類型

コンサルティングとは別に「アドバイザリー」「アドバイザー」が存在する.これは「顧問」と訳されるように,言葉としては「相談」に近い.経験則では,アドバイザーに関しても2つの活用形態がある.それぞれ簡単にまとめていく。

  • 常駐型アドバイザー
  • 非常駐型アドバイザー

 


(1)常駐型アドバイザー

庁内に席を設けて,週に2日程度広報関連業務の実務的な助言や関係各所との調整・ヒアリング業務などを行う.コンサルティング業務を委託する場合のような,打ち合わせ資料やアウトプットの提出は求めず,相談記録を残す形で実績管理をしていく場合が多い.発注側は,アドバイザーが席にいる間は「使い倒す」ことができるので心強い.時として,アドバイザーの意見を聞いたうえで進めていきたいがために,アドバイザーがいない週の3日間に業務が止まりがちになることがある.

プロを週に2日程度拘束することになるため,コストは相当額かかってくる.少なくとも「中途採用」よりは高額になる場合が多い.

 


(2)非常駐型アドバイザー

比較的低予算で月額固定費を支払い,月に数件の範囲で電話・メール・訪問時の口頭等の手段で助言を求める形が一般的である.教育・研究機関の研究者をアドバイザーとする場合は,訪問回数で予算が積み上がっていく形もある.

話を聞いてくれる第三者がいると,自らの頭の中の整理が進みやすくなる.また,俯瞰した助言から視点・視座・視野を切り替えやすくなるため有効だ.

 


6.まとめ

以下のように,発注側が専門的知識・技能を有しているか否かで,どのような外部リソース活用が有効と考えられるか,実践知をまとめて共有する.


(1)発注側が専門的知識・技能を有していない場合

・実務よりのソリューションベンダの活用

発注する前に,組織として経験を積むことを優先したい.経験を積み上げないと,何が問題なのか,何が足りないのか,どうしても見えてこない.既述のとおり,経験を積みあげないと,戦略の「Q」を評価する目も養われてこない.短期間での異動が前提になる場合は,OJTをサポートしてくれる外部業者を活用することも一案だ.一般的に専門業者はノウハウをブラックボックス化する必要があるが,顧客へのノウハウ移管をするポジショニングの業者もいる.

・戦略策定でのコンサルタントやアドバイザー活用

アウトプット・コンサルテーションの形であれば確実に成果物は立派なものになるが,ノウハウがないためこれを実践できないか,アウトプット自体を咀嚼できない結果になりがちである.実践も含めてすべて外注するほどの財政的余力がないのであれば,プロセス・コンサルテーションの形が理想だろう.あるいは,アドバイザーを活用したい.専門知識が十分にないからこそ,必ずしも専門知識を必要としない戦略こそ,極力,内部で検討をしていきたい.

 


(2)発注側が専門的知識・技能を有している場合

・実務よりのソリューションベンダの活用

ソリューションベンダの活用では,発注側に専門知識が蓄積されるほど情報の非対称性が解消されていく.すると,ソリューションベンダに対する「物足りなさ」が生まれる.実務担当者の心の中で,専門業者の側が「踏み込んで提案して来ない」という感覚が生まれてきた場合は,情報の非対称性がなくなってきているサインである.この場合,大きく2つの対処がある.

  • 業務標準化を徹底して内製化したうえで,危機管理などより専門的な領域に特化してソリューションを求める
  • より包括的で俯瞰した戦略策定を得意とするコンサルタントやアドバイザーに並行して委託する

上記の①はコスト削減につながる。②の場合は一時的にコスト負荷が増すが,中長期的には全体最適できるので総額コストが削減される.経験則では,②は非常駐型アドバイザーがフィットする.

・戦略策定でのコンサルタントやアドバイザー活用

経験値が積み上がった段階ではアウトプット・コンサルテーションの方が適している場合が多い.多くのことを体得し無意識的に実践できるようになるほど、体得した事柄は言語化しにくくなってくる.職人として道を究めるのであればこれでも良いが,一般的に広報職では人事異動が発生したり周囲と調整したりする業務が必ず発生する.経験値を基にした課題や打ち手の方向性を、外部データ等も活用しながら言語化した整理ができていないと,経験を有さない周囲や上長にとって理解が進まず,結果的に調整がうまく進まないため時間の損失が生じる.


本稿では,筆者の体験的事例から,広報やシティプロモーションに係る外部リソース活用について,ソリューションベンダ,コンサルテーション,アドバイザーで,それぞれ課題や活用の要点を示した.そのうえで,発注側の専門的知識・技能の有無で,どのような外部リソース活用が有効と考えられるか,実践知を基に整理した.今後は,より正確な自己観察や参与観察を行い,研究としてまとめていくこととしたい.

 


参考文献

1) 堀紘一(2011):『コンサルティングとは何か』,PHP研究所.

2) E・H・シャイン(2012),『プロセス・コンサルテーション-援助関係を築くこと』,白桃書房.