広報スキルアップ講座 まとめ

2019年度に『月刊総務』の「総務の引き出し(広報)」に、広報の基礎知識をご紹介する連載を寄稿しました。
内容を一部加筆・修正して掲載します。

広報の仕事をする際に役立つ想像力、文章力、調べる力、聞く力など「汎用的スキル」を実務と紐づけてご紹介してきました。

あらためて広報の仕事の特徴と紹介してきたスキルを紐づけて、スキルアップ講座をまとめます。

広報は知的体育会系!?

広報の仕事は「知的体育会系」と言えるものです。この要素は大きく2つあります。

ひとつめ。体育会系のような「人」との密な関係性が求められる点。

広報の仕事は、社内報、会社案内、ホームページなどモノをつくることはあります。ただし、モノが仕事の相手になることはありません。直接かかわるのは社内関係者、記者、制作会社などです。

たとえば社内報やホームページコンテンツの取材対象が物理的な製品だったとしても、取材や制作過程で必ず人とのコミュニケーションが発生します。あるいは、ホームページのアクセス解析はモノを対象にした仕事のようですが、データの基になっているのは「人」の行動や感情。このように、常に人を相手にしている仕事です。

ふたつめ。効率よりも効果を考える点。

広報は一般的に本社機能に置かれます。本社機能の中に、単独で広報部門を置く会社もあれば、経営企画、総務、人事、IR、CSRなどの部門の一部または各部門と兼務の形で広報を置く会社もあります。
本社機能は、よく「コストセンター」と言われます。このため、本社機能はできるだけコストを発生させないよう、業務の「効率」を重視する考え方が浸透しています。

一方、広報の仕事は、効率ではなく効果の最大化を考えるものです。
人事異動で広報に配属された方が戸惑うのは、この効率ではない世界。人を相手にしているので何をするにも答えがなく、自ら考えたり、創意工夫したりし続けなければならない。インターネットがインフラとなり、便利かつ効率が求められる世の中で、「昭和」のような泥臭さが求められる仕事なのです。

たとえば、ホームページのテキストリンク(見出し)ひとつとっても、ABテストを繰り返しながら、クリック率を高めていくことがあります。効果を最大化するためには、ありとあらゆる手段を試してみたり、効果が出るまでやり続けたりする。このように、広報は、「効果」の最大化を考える仕事なのです。手探りしながら効果の最大化に近づいたときに、初めて効率があがる性質をもっています。 

成否を分けるポイント①機微をつかむ

 知的体育会系の一点目は「人を相手にする」ことでした。このためには、人の「感情」や「行動」を的確に捉えることが不可欠で、仕事の成否を分ける基盤になっています。

 だからこそ、本連載で扱った文章力の一部や聞く力で、主観を排する「受信」が両方に出てきました。調整をテーマにした想像力においても、人の感情を先回りして想像し、業務を遂行するテクニックをお伝えしました。

たとえば報道対応。

 わたしは記者経験と広報実務経験の両方があるので、その経験談をご紹介します。
 記者は取材のプロであり、業界知識を多少持っていたとしても、企業に取材を依頼する段階では「自分でも何を聞きたいのかよく分からない」場面があります。
 そもそも取材先のことをよく知らないので、広報担当者に「取材したいことをうまく伝えられない」ことがある。様々な企業や専門家に取材をしながら知識・情報を増やしていき、徐々に輪郭をはっきりさせていきます。

 広報担当者は、記者が何を取材したいのかはっきりできない場面で、依頼事項をうまく拾うことが求められます。主観を排して記者の依頼事項を聞いていると、電話越しでも記者の話し方の抑揚など、機微の変化を掴むことができます。
 その変化をとらえて記者の心情を読み解き、記者が困っているであろうこと、本来書きたいであろうこと、これらのために記者が本当は知りたいであろうことを探るヒントを得ていきます。
 このヒントを基に、自社で取材可能なことや業界のトレンドなどを記者に教えて、自社にとって「都合の良い」取材をしてもらえるように誘導していくのです。

広報は、人を相手にする仕事だからこそ、相手の話・反応という機微をとらえて、感情や行動を的確にとらえることが重要です。「客観性」に近いものの、客観性だけでは、機微から仮説の立案に繋がりにくい。広報は、常に機微を捉えて考えることが求められるからこそ、知的体育会系なのです。

成否を分けるポイント②考える材料を集める

 知的体育会系の二点目は「効率より効果を考える」ことでした。効果を最大化するためにありとあらゆる手段を試してみる、効果が出るまでやり続けるといった性質があります。しかも人を相手にしているため、今日に通用した「答え」が、明日も同じ「答え」で効果が出るとは限らない。ケースバイケースしかなく、周辺の様々な変数に影響を受けやすい仕事です。

 答えがないからこそ、調べる力や情報をうまく集めるための聞き方、集めた情報を活用した想像力が求められます。

 答えが分からないなりにも、効果の最大化を手探りで追求するためには、何らかのインプットが必要です。

 調べたり情報を集めたりして初めて考えることができる。自分なりに考えて腑に落ちることで自信を持って行動できる。自信を持って行動できるからこそ、人を相手にしても信用・信頼され、効果も出る。このプロセスを通じて胆識(タンシキ)が蓄積されていきます。

 先ほどと同様に報道対応を例にしましょう。

 記者は必ず「くせ」や「偏り」があります。関心事項の偏りであったり、ポジ・ネガの両論を併記するときのバランスの偏り、取材先の見つけ方のくせなど様々です。

 記者から取材に関する電話依頼があったとき、広報担当者が記者の電話内容から機微を捉えて考えることは上記のとおり不可欠ですが、これに加えて、記者の過去の記事の傾向を把握すると、備えや誘導がうまくできるようになります。
 広報のベテランからすると極めてあたりまえの作業ですが、「取材依頼を受けた時に、記事データベースやネット上で記者名を検索する」という行為を、意外と実施できていない広報担当者がいます。
 どのような業界を担当してきたのか、どのような記事を書いてきたのかを確認することで、取材を受ける際の準備や情報提供の質が変わります。
 仮に自社がエネルギー関係企業だったとして、記者は最近、情報通信・IT関係から異動してきたとわかれば、IT活用やネットワークの多重化などに関心が高いだろうと推測できる。取材が直接的にこのテーマではなかったとしても、取材後の会話で、自社のIT活用やネットワークの多重化の取り組みなどのエッセンスに触れれば、前のめりで「別途話をきかせてください」となる。
 記者が「問題提起」のくせが強いとわかれば、そもそも取材を受けることを避ける、あるいは開示範囲を控えめにするなど判断できます。

 報道対応を例にしましたが、社内広報やWeb/SNS活用でも、機微をつかむこと、考える材料を集めることは非常に重要です。広報は、人を相手にする仕事だからこそコミュニケーション力が重要と言われますが、広報に不可欠なコミュニケーション力を支えているのは実は「思考力」であり、ゆえに「知的体育会系」と言える仕事なのです。

 広報の仕事はたいへんではあります。知的体育会系の楽しさを実感できると、どのようなキャリアを築くとしても基盤になる思考力を習得できます。ぜひ、楽しみながら、スキルアップしていってください。

【推薦本】社内報企画ベストセレクション

社内報制作・社内コミュニケーション支援や、「月刊総務」を発行するウィズワークス株式会社が実施している「社内報アワード」。

このアワードをもとに、社内報の企画をまとめた冊子が毎年刊行されています。

他社の社内報は普段、目にすることができません。

企画の概要だけでもつかむことができますし、事例の数々からは、社内報に限らず、社内コミュニケーションの活動全般にあたっても、参考になるはずです。

1万円を超えてしまいますが、この内容からすれば間違いなく安いです。

躊躇無く買うべきです。

【推薦本】戦略と実行


戦略は実行されなければ意味がないものです。

経営と現場はどうしても考える視点・視座・視野がまったく異なりますので、乖離しやすいものです。

ところが、実際には現場の方が有益な情報を持っていることも多いものです。

本書は、実行を中心に、かつ、組織内コミュニケーションに比重を置いています。

考えなしに走り出すことを嫌う人もいますが、走りながらでなければ見えてこないこともたくさんあります。

結局はコミュニケーションを密にできるまでやるしかないのです。

ここ数年、地方創生を受けて自治体でも戦略の重要性が指摘されています。戦略も大切ですが、実行されないもの、現場と乖離したもの、住民にとってのアウトカムに繋がらないものでは何の意味もありません。

企業だけでなく、自治体職員にとっても参考になる部分はあるかもしれません。

【推薦本】みる わかる 伝える


失敗学の畑村洋太郎さんの本で、文庫なので気軽に手に取ることができます。

気軽に手に取ることができるものの、内容は非常に充実しています。

この本で書かれている内容は非常に実践的で、観察すること、理解すること、共通認識をつくることのポイントを明確に示してくれています。

毎度のように、もう少し見栄えの良い図にすれば・・・と思ってしまうところはありますが、観察する、理解する、共通認識をつくる、の3つは、いつの時代でも不可欠な能力です。

暗黙知をいかに共有するか、引き継ぎをどうしていくべきなのか、といった観点でも得られることが多いです。

 

【推薦本】人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則


名著です。

シャインさんの『プロセス・コンサルテーション』をエッセイ風に読みやすくし、「支援」とは何なのかを様々な事例も紹介しながら理解できます。

人を助けるときは、上下の関係にならないように注意が必要です。

本書では、支援で3つの種類を提示しています。

・情報やサービスを提供する「専門家」
・診断し処方箋を出す「医師」
・プロセス・コンサルタント

このうち、プロセス・コンサルタントに焦点をあてている内容です。

プロセス・コンサルにあこがれて、コンサルタントになったような人間ですが、テーマはなんにせよコンサルテーションを進める際、プロセス・コンサルのアプローチを実践しようとすると、その難しさを強く実感します。

クライアント側は、考えることに悩みを持ち相談しており、コンサルタントに依頼することで時間というコストを大幅に削減しようとしているからです。

このため、プロジェクトの支援を一貫してプロセス・コンサルのアプローチで進めることはとても難しく、まさに上記の3種類を、プロジェクトの中で使い分けるような形になります。

テーマやメンバーによって影響される部分もあるのかもしれません。
支援を徹底できるだけの力量が私にはないのかもしれません。

いずれにしろ、プロセス・コンサルの考え方に触れておくだけでも、その後の人生が良い方向に進んでいくほど、影響力のあるものです。

以下の2冊もオススメです。

【推薦本】サラサラの組織


好きな本の発行年がだんだん古くなっていくことが悲しく、いまではイノベーション・ファシリテーターとして著名になった野村恭彦氏が富士ゼロックスKDIにいらした時代の本です。

物語形式でファシリテーションを通じた組織変革の取り組みを紹介しており、とにかく読みやすい内容です。

9社の事例も紹介され、組織変革を進める過程で、どういった部分に悩み、難しさがあったのか、なにが良かったのか語られていて、組織変革に悩んでいる方には大きな励みになるでしょう。

かといって事例集ではなく、研究者の紺野登さんの解説が効いていて、具象と抽象をいったりきたりしながら、組織変革のイメージが立体化されていく感覚があります。

事例は少し古くなってきてしまっていますが、それでも、人間の行動に大きな変化はありませんので、人事の方や社内コミュニケーションに関わる方、あるいはコンサルタントの方にもヒントがあると思います。

【推薦本】コーポレート・アイデンティティ戦略


日本におけるCIの第一人者であるPAOSの中西元男氏の本です。

ご本人が手がけられた数々の事例が、成功談ばかりではなく紹介されています。

記載されている事例からは置かれている環境の分析がやや足りないのではないか?という気はしますが、当時としては十分だったのでしょうし、洞察は鋭さを感じます。

必ずしもVIに矮小化されることなく、事業開発や社内活性化に通じるCIの原理原則に則した事例の数々は、大変参考になります。

また、VIの部分もしっかりと既述されており、CIの原理原則から落ちてきたVIの意義・重要性に、深く納得ができます。

私はこの本を2013年ごろに読んだと記憶していますが、それ以降、企業ロゴ(シンボル)を見る目が大きく変わりました。

昨今、シンボリックな企業ロゴは少なくなり、キャンペーンロゴのようなストレートで分かりやすいロゴが増えていますが、計算され尽くしたシンボルが持つ意味や価値に、本書でほんの少しでも触れることができると、人生が少し豊かになります。

【推薦本】企業文化ー生き残りの指針


企業文化とは何なのか、深く、丁寧に、事例もひもときながら、理論と実践を兼ね備えた名著です。

企業文化のアセスメントを具体的にどのように進めていくべきなのか、その社内での合意の取り方まで、ヒントは非常に多くあります。

まったく古びることがない内容です。

中小企業にもM&Aが見られるようになっているいま、あらためて、組織変革や企業文化革新に限らず、企業文化の融合を考える際にも、多くの示唆を得られるはずです。

【推薦本】「言葉にできる」は武器になる。


表現をするためには、自分の心の中にある声をいかに言葉にしていくか、それを明瞭にしていくかが大切です。

文章でも会話でもプレゼンテーションでも、伝わるコミュニケーションとは以下の2つで構成されます。

コミュニケーション=内容(意見)+表現方法

つまり、一生懸命、表現方法を学ぶ、聞くことに集中する、といったことも大切なのですが、考え方の深め方・広め方、など、内容(意見)がしっかりしていないと、どうにも薄っぺらいものになってしまうのです。

ある程度、経験を積んで型ができてしまったり、逆に経験が少なすぎたりして、どうしても思考も表現も抽象的になり、具体化できないことは誰にでもあると思います。

抽象的なものを抽象的なままで済ませて満足できるのは、文系の研究者ぐらいです。

実務のなかでは、どうしても具体⇔具体や具体⇔抽象を行ったり来たりさせなければ、考えの整理も企画立案も原因究明もできません。

広報やコミュニケーションに関わる仕事でなくても、「思考」、とくに以下に具体化していくのか、考えていることを明確にしていくのかは、すべてのビジネスパーソンにとって必要なことですので、手元に置いておきたい一冊です。

【推薦本】最前線のリーダーシップ


名著であり、困難な仕事・状況に立ち向かう時に、常に拠り所になる本です。

本当に必要な解決は常に困難であり、困難なことはハシゴを外されやすい、反発を生じやすいものです。

反発を生みださないためにどうしたらよいのか、そのようなことが書かれています。

リーダーシップとは権威ある人が発揮するものではない。

問題を認識した人が発揮すべきものである。

問題には「技術的な問題」と「適応が必要な問題」の2種類が存在する。

外科的治療が「技術的な問題」、体質改善が「適応が必要な問題」と言えます。

この「適応が必要な問題」を、どうやって解決していくのか、事例から読み解いていきます。

組織の変革活動や新しい取り組みを導入しようとするときに、なぜ反対する人がいるのか、反対をコントロールすることはできないのか、そのようなことに悩んでいる方は、ぜひ手にとっていただきたい本です。


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