例え話の再掲
別のページで広報・IRの効果測定に悩みを抱きやすい原因として、以下の例え話をしました。
たとえば、A地点からB地点まで100人を移動させなければいけないとします。
従来は、100人を4グループに分けて、徒歩、自転車、車、バスの4つの手段を採用していたとします。
それぞれの手段の部分最適の成果を最大化しようと、徒歩グループには歩き方講座を、自転車グループには自転車の乗り方講座を、車グループには渋滞回避ルートの講座を、バスのグループには時刻表や乗り継ぎの知識をインプットしたとしましょう。
それぞれのインプットによって、各グループはどれぐらい速度が上がったのかを確認するものが、部分最適の成果の把握です。
ところが、A地点からB地点まで100人を移動させるためには、貸切バスを4台借りてしまった方が、費用はかかりますが、一番安全で早い。確実に効率も良い。全員の時間を考えると生産性も高い。
改善・活動強化のための測定(アウトプット評価)、成果の達成状況を把握するための測定(アウトカム評価)、報告のための測定の3つの整理ができていない
では、個々の活動の成果把握にまったく意味がないのかというと、そうではありません。
コストの問題で、貸切バスを4台借りるという手段を採用できない場合もあります。
この場合は、確かに、徒歩、自転車、車、バスの4つの手段をとり、この速度を上げていく必要があります。
ここで必要なのは、たとえば上記の例で言うと、歩き方講座をした結果どれぐらい速度が上がったのか、といった部分的活動の成果把握ではありません。
100人の移動を迅速化する中間アウトカムとして「歩く速度を上げる」必要がある。
では、この中間アウトカムを達成するためには、歩き方講座が必要なのか、一部のメンバーを自転車グループと徒歩グループで入れ替えた方が良いのか、徒歩グループの人数を限界まで減らした方が良いのか、改善の打ち手を明確にできる効果測定がまず必要です。
歩き方講座で速度が上がる効果は確かにあるのかもしれませんが、最終アウトカムや中間アウトカムの達成に資するものになっていない可能性があるのです。
たとえば徒歩グループをパブリシティ業務に置き換えると、プレスリリースを改善して掲載確率を上げることは確かに重要なことです。
ところが、小さな会社であれば、プレスリリースの改善よりも、ニュースレターを開発して、記者への配布に加えて、営業部にも提供して顧客フォローツールにしたり、社内報代わりにしたりする、といった方がよいのかもしれません。
あるいは、掲載確率が上がったとしても、内容認知がまったく底上げされていないのであれば、労力がすべてムダになってしまいます。
この把握のためには、一般・お客さま・社員の報道認知を測定する必要があります。
あるいは、自転車グループをコーポレートサイトに置き換えると、PV数の把握は必須ではありますが、PV数がどれほど上がっても事業理解や強みなどのブランド認知につながらなければ、生産性はどんどん悪化していくことになってしまいます。
ホームページについても閲覧効果を測定していくことが不可欠です。
IRの場合も同様です。IRサイトの強化や個人投資家向けの情報開示の充実、ESG情報開示、投資家向けコーポレートストーリーの開発が昨今の重要な課題ですが、ここでも、個人投資家がIRサイトで内容認知できているのかを把握しなければ、改善・活動強化の打ち手が見えてきません。
個々の活動レベルの成果を測定しようとするときは、歩き方講座の効果測定という落とし穴にはまっていないのか、振り返らなければいけません。
全体の「費用」削減の考え方を踏まえて、パブリシティで言えばやはりプレスリリースの掲載確率を上げることが重要だと判断するのであれば、プレスリリースの改善を徹底してやっていく必要があります。ここでは、報道資料の第三者評価や報道分析が有効です。
こうした改善・活動強化のための測定以外にも、報告のための測定もあります。これは、パブリシティでいえば広告換算が極めてシンプルで有効です。広告換算を全面的に否定する方もいますが、すべてを網羅できる理想的な測定技法など存在しませんので、適した使い方をしていけばよいのです。
そもそも現状を把握できていないために、
明確な目標がない。
だから効果も測定できない。
成果の達成状況を把握するための測定の話が残っています。
A地点からB地点まで100人を移動させなければいけないとして、いったい、いま何人を移動できているのかを把握できていないことがあります。
これは、そもそも現状を把握できていない状態です。
測定対象を棚卸しできていないことが多いです。
あるいは、A地点からB地点まで人を移動させなければいけないという課題があったとしても、「100人」という数値が設定されていないこともあります。
これは、現状を把握できていないときに生じがちな現象で、目標設定ができていない状態です。
いずれの状態でも、いったいどうやって効果を測定したら良いのでしょうか。
広報・IRの効果測定の悩みの大半は、実はこの部分にあります。
外部が実施する企業イメージ調査の結果を購入している企業や大学は、大手を中心に多くあります。
これをもとに「目標」は設定できたとしても、現状を十分に把握できないこともあります。
企業のイメージや評価を尋ねた結果は得られても、より具体的な自社固有の認知状況までは把握できないため、いま何が知られていて、何を知られていないのか、非常にあいまいなのです。
自治体でも、ほとんどの自治体が、市民向けのアンケート調査を定期・不定期に実施していますが、調査の設計が十分ではない場合も多くあり、結局何を知られていて何を知られていないのか、把握できていないことがあります。
効果測定に悩む原因の多くは、実は着眼点を変えれば解決の筋道が見えてくるのです。
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